[文書名] 太平洋・島サミット(PALM8)首脳会合における安倍総理の冒頭発言
皆様、おはようございます。PALM8首脳会合が、ここに始まります。 ニューカレドニアと仏領ポリネシアの方々、おいででしょうか。PALMは皆様の参加を拍手をもって歓迎いたします。
そしてトゥイラエパ首相、議事を一緒にできて大変光栄に思います。
首相の国サモアで、先頃会議を開いた太平洋諸島フォーラムが、青の大陸という言葉を打ち出しました。その意味は、太平洋。青く、そして広大な海への敬意に満ちた言葉ではありませんか。緑を守れ、と言うのと同じ情熱を込め、私たちはもっと、青を守れ、と申しましょう。海が、悲鳴をあげているからです。
1万メートルの深海に棲む生き物から、PCBが高濃度で出てきます。媒介物は、一説によればマイクロ・プラスチック。
プランクトンや貝が減りました。原因は、海水のアルカリ性が弱くなったことで、人類が二酸化炭素を途方もない量、海に吸わせたせいだといいます。
違法に乱獲されている海洋水産資源も、たった40年の間で、3倍に増えてしまいました。公海のみならず、皆様各国のEEZ(排他的経済水域)がその舞台になって、無法者の外国漁船が乱獲を続けています。
それから深海底の資源。その開発で海のエコシステムが壊れたら取り返しがつかないというのに、各国の行動を律する仕組みは、なお不十分です。
海の酸化、海面上昇は、PALM諸国を直撃します。海が無法の場となれば、PALM諸国は深刻な打撃を受けます。
私は改めて、皆様に呼びかけます。PALMのプロセスを、これらに対する解決策を見出す場にいたしましょう。海が劣化し、法の支配が踏みにじられるのを阻むため、行動へと一歩を踏み出そうではありませんか。
3年前、ここ福島、いわきで、私はお約束しました。総額550億円以上の支援、4,000人に上る人づくりと、人的交流を実施するというお約束です。
サモアに本拠を置くスプレップ(SPREP)のキャンパスに、気候変動に備える専門家育成のため、新たに太平洋気候変動センターを建設することは、PALM7でお約束した事業の1つでした。先週、その起工式があったことを皆様に御報告し、共に喜びたいと存じます。気候変動に目を配る拠点として、世界でも重要な場となるでしょう。
気候変動は、太平洋島しょ国にとって最も重要な問題ですから、タラノア対話を含め、協力してまいります。
これからも、海を守ることは地球と人類を守ることだと思いを定め、努力を皆様と続けてまいります。
これから力を入れたいのは、第一に、海の秩序に法の支配を打ち立てることです。古来、私たちの海の恵みをもたらしてくれた太平洋。その太平洋で我々が昔から持っている権利を、国の大小に関わりなく守ってくれるのが法の支配です。各国の法執行能力を含む、海を守る能力の向上に、日本は助力を惜しみません。皆様には、日本の漁業活動に、格別の配慮をお願いしたいと思います。他方、皆様自身の警備力、資源保存の能力を高める力添えは、日本が、自信と誇りをもって担える役割であると思っています。
第二に、自立的で、持続可能な繁栄が実現できるよう、ハード、ソフトの質の高いインフラ整備に努めることです。
そして第三に、人と人との交流を一層盛り上げ、PALMの未来を背負って立つリーダーたちを、皆様と一緒に育てることです。向こう3年、次なる集まりまでの間に、5,000人以上の育成、交流に取り組もうと思っています。
皆様、太平洋と言い、インド洋と呼んで区別する習わしは、あくまで人為的、便宜的なものです。2つはもとより、一体です。はるかな昔、交易によって2つの海の交わりをもたらしたのは、PALMの父祖たちでした。hutiというタンザニアの言葉は、ポリネシア語のpuntiが語源だとする説があります。どちらもバナナのことです。太平洋からアフリカ東海岸へと、バナナは渡りました。運んだのはPALMの父祖たち、人類史に現れた、最も偉大な航海者たちでした。
私たちが生きる青の太平洋は、青のインド洋と一体です。機会と可能性は2つの海に共存し、解くべき問いと、募る危機も、両洋をまたいで不可分なのです。この際、2つを巨視的に見る拡大海洋アイデンティティを、私たちひとりひとり、身につけようではありませんか。それは私たちの視野を、地理的に広げます。超長期の時間軸で、広い海洋のシステムを見る視座を与えてくれます。
PALMプロセスは、始まって21年。長い距離、バトンをつないで走るリレー競技さながら、私たちはここまできました。PALMのプロセスは、日本で、太平洋諸国で、草の根の人たち、ビジネス界、学界の人々を含め、無数の人たちが努力してつないだ流れです。私たちは、先人たちの苦労に心からなるお礼を申し上げ、挨拶を閉じようと思います。ありがとうございました。