データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] STSフォーラム第15回年次総会における安倍総理スピーチ

[場所] 
[年月日] 2018年10月7日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 尾身議長、先生がおいでにならなければ、私は本席におりませんでした。本会場にいる誰一人、ここにはいなかったわけであります。お集まりの皆様、どうか私と一緒に尾身議長に拍手を、盛大な拍手をお願いします。

 これからの3年間、私は、イノベーションの振興に最大限の努力をいたします。なぜかと申しますに、我々の成長にとって、重要なものは3つしかないからです。それはイノベーション、イノベーション、そしてイノベーションです。

 6年前、皆様は日本に、諦めムードを感じたと思います。「何をやっても仕方がない。成長なんか無理」と、そう言っていた人がたくさんいました。これを「諦めの高い壁」と呼びますか。私が挑んだのが、この壁です。イノベーションを盛り上げることによってでありました。

 私の指導の下、内閣府は、一つの新機軸、彼ら自身のイノベーションに乗り出して、「加速型オープン・イノベーション・プラットフォーム」と呼ぶべきものをいくつも始めました。名づけてImPACT(革新的研究開発推進プログラム)といいます。御説明しましょう。

 ImPACTマネージャーと称する男女、16人を選びました。みんな、それぞれの科学分野でトップの業績を挙げた人たちです。大学から来た人があれば、実業界出身の方もある。かなり若い人がいれば、まだ気持ちは大いに若いという方もいます。

 そういう方たちを、プログラム・マネージャーにしました。その一人一人に、各々独自のプロジェクトを回してもらい、誰も夢に見ることさえなかったイノベーションを生み出していただくわけです。

 彼、または彼女は、マネージャーとして、選り抜きの専門家を結集させます。PMの --- とここで言うのは「プログラム・マネージャー」で、「プライム・ミニスター」ではありませんが --- 指導の下、専門家たちは自分の「タコ壺(つぼ)」から出てきます。

 つまり、「オープン」イノベーションです。そして知識を持ち寄り、目に見える結果を創出する。その結果は、繰り返しますと、誰も聞いたことのないようなものとなる、とこういうわけです。

 一つの例に、次のようなものがあります。大地震が起きたと思ってください。電力がない、交通は杜絶(とぜつ)、豪雨が降っていて、孤立集落にどうやって行ったらいいかわからない、という状況です。

 そこに、この衛星。宅配便の箱ほどに小さく、コストは通常の10パーセントで、必要に応じ「オンデマンド」で軌道に投入できる。

 打ち上げからわずか10時間以内に、地上の情報がレーダーから送られてきます。精度はというと、1メートルの分解能。それも晴雨に関わらず、昼夜を問わず、です。言ってしまえばこの衛星は、従来不可能だったことを可能にしています。ちょっとこちらを御覧ください。

 この計画のプログラム・マネージャーは、白坂成功教授という方。三菱電機に務める、いわば会社員でした。でも今慶應義塾大学にいながら、衛星づくりを手掛ける人に加え、災害モニタリングの専門家や、ゼネコンの社員など幅広い人たちの集団を率いています。

 ImPACTは、加速型オープン・イノベーションだと申しました。どれだけ「オープン」かは、既にお伝えしました。ではどう「加速型」なのでしょう。我々、国民の税金を使います。ですからImPACTのマネージャーたちは、その分、責任を負います。おまけに、16人のマネージャーたちは、同じ時系列の下、競争をしあいます。仲間うちの圧力も、大切なわけです。

 このImPACTプロジェクトで重要な役割を果たした幅広い分野の専門家たちは、将来恐らくは、一つ、また一つと、次なるイノベーションのプロジェクトを手掛けてくれるでしょう。この人たちが、日本のこれからのイノベーション・エコシステムで核になってくれると確信しています。

 皆様私は、大いに喜んでおります。と言いますのも、日本の若い人たちが、ようやく、彼らの未来についてこれまで以上にポジティブになり、楽天的にさえなっています。

 就活する大学生100人のうち98人以上が、雇用されておりますが、理由の一半はそこにあるでしょう。もっとうれしいのは、30代、40代の男女のなかで、リカレント教育を受けイノベーションを目指そうという人が、数を増やしていることです。

 4IRすなわち第4次産業革命の激流の中、乗り切れるよう私たちを引っ張ってくれるのは、彼らイノベーションを成し遂げ、予想もつかない革新的ビジネスを生み出す人たちでしょう。

 そんな人たちの成長を後押しするのに、政府には果たすべき役割があります。今ある制度と、イノベーションを促す制度。その間にあるギャップ――ガバナンス・ギャップを埋めることです。古くなってしまった規制や制度を変えたり、時にはスクラップすることです。

 日本で今、規制のサンドボックスができています。そこはありとあらゆる種類のアイデアや、イノベーションのテスト・グラウンド。私たちの規制自体も、4IRに合わせて変わっていきます。どうぞこの砂場に来て、遊んでみてください。

 私の信じるところ、強い日本は、世界の利益に最もかないます。この信念をもって、私はこれまで6年、日本経済活性化のため懸命に働いてまいりました。これからの3年、お約束します、更なる成長を追い求め、イノベーションを力あるものとするべく、なお一層力を尽くします。すべては、繰り返します、世界の利益のために、であります。

 ありがとうございました。