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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成30年度自衛隊記念日観閲式 安倍内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2018年10月14日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 この朝霞の地で、私自身3度目となる観閲式に臨み、士気旺盛な隊員諸君の勇姿に接することができ、大変うれしく思います。

 冒頭、この夏に相次いだ自然災害によりお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈りします。被災された全ての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

 現場には、必ず、諸君たちの姿がありました。

 民家が土砂に押し潰されている。土砂崩れの一報に、隊員たちは、倒木を乗り越え、ぬかるみに足をとられながらも、休むことなく歩き続けました。体力の限界が近づく中、立ち尽くす御家族を前に、最後の気力を振り絞り、全員を救出した。

 さすが自衛隊。被災者の方々にそう言っていただける能力、そして、何よりも、その志の高さを、改めて証明してくれました。

 自衛隊の災害派遣実績は、実に4万回を超えています。

 自然災害だけではありません。悪天候で交通手段が断たれてしまう離島において、患者の命を救うには、一刻の猶予もない。こうした中での緊急輸送は、正に、国民の命綱です。

 「緊急搬送要請あり。直ちに出動せよ。」

 11年前。一人の女性の容態が急変し、危険な状態に陥っているとの一報が、那覇駐屯地に入電しました。建村善知(たてむら よしとも)一等陸佐率いる4人のクルーは、躊躇(ちゅうちょ)なくヘリに飛び乗り、鹿児島県徳之島に向けて、漆黒の闇が広がる空へと飛び立っていきました。

 現地は、一面の濃霧が広がり、着地目標のグラウンドは、視界不良。垂れ込めた雲が進入を阻みました。

 「あと一度、進入を試みる。」

 容態は一刻を争う状況の下で、建村一等陸佐は、これまでの4,800時間を超える飛行経験と自衛官人生の全てを傾け、着陸に挑み続けました。地上の管制官に、近くの徳之島空港への着陸調整を依頼するなど、最後まで決して諦めませんでした。これに応え、地上にいる隊員たちも、最善を尽くしました。

 「ありがとう」

 管制官への感謝の言葉が最後となりました。4人が再び基地に戻ることはなかった。建村一等陸佐は、かつて、部下の隊員たちに、こう語っていたそうであります。

 「自分たちがやらなければ、誰がやる。」

 全国25万人の隊員一人一人の、高い使命感、強い責任感によって、日本は、日本国民は、守られている。

 事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応える。諸君の崇高なる覚悟に、改めて、心から敬意を表します。

 24時間、365日。国民の命と平和を守るため、極度の緊張感の中、最前線で警戒監視にあたり、スクランブル発進を行う隊員たちが、今、この瞬間も日本の広大な海と空を守っています。

 我が国の平和を守り、アジア・太平洋の平和と繁栄の礎を築く。北朝鮮に関する国連安保理決議の完全な履行を果たしていくために、米国、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドといった同志国と手を携え、瀬取り防止のための警戒監視活動に当たっています。

 自らの意思でこの困難な道に進んでくれた諸君。ただひたすら国民のため、献身的に職務を遂行する諸君は、日本の誇りであります。

 領土・領海・領空、そして国民の生命・財産を守り抜く。政府の最も重要な責務です。安全保障政策の根幹は、自らが行う継続的な努力であり、立ち止まることは許されません。

 この5年余りの間に、我が国を取り巻く安全保障環境は、格段に速いスピードで不確実性を増し、厳しいものとなりました。

 今や、安全保障のパラダイムは大きく転換しつつあります。宇宙、サイバー、電磁波といった新たな分野で競争優位を確立できなければ、これからこの国を守り抜くことはできない。

 この冬に策定する新たな防衛大綱では、これまでの延長線上ではない、数十年先の未来の礎となる、防衛力の在るべき姿を示します。

 日々刻々と変化する、国際情勢や技術の動向に目を凝らし、これまでのやり方や考え方に安住せず、それぞれの持ち場で、在るべき姿に向かって、不断の努力を重ねていってください。

 私は、自衛隊の最高指揮官として、諸君と共に、国民の命と平和な暮らしを守り抜き、次の世代に引き継いでいく。そのために全力を尽くす覚悟です。

 我が国の平和は、一国で守りきれるものではありません。積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄に、日本ならではのやり方で、これまで以上に貢献していく決意であります。

 マグニチュード7.4の大地震と津波の被害を受けたインドネシアでは、C-130輸送機で現地に駆け付けた49名の隊員たちが、今も、被災された方々の命をつなぐ活動を行っています。

 ソマリア沖・アデン湾では、国際社会の平和と繁栄のため、他国の部隊と力を合わせ、全力で、シーレーンの安全確保に当たっています。

 灼(しゃく)熱のケニアでは、アフリカ各国のPKO派遣部隊の訓練に汗を流す隊員たちがいます。

 シエラレオネから参加した女性もいます。今は、アフリカの他の国々の国づくりの支援に積極的なこの国も、少し前までは、同じ国民同士が戦う激しい内戦が続いていました。その最前線にあって、彼女は銃を取る他なかった。兵士として戦いに参加してきました。

 ケニアにやってきた彼女は、自衛隊の指導の下、まず、文字の読み書きから始めました。様々なことを学ぶ中で、クレーンの重機操作も上達しました。いよいよ母国へと戻るその日、彼女はこう語ったそうであります。

 「平和に貢献できることが、本当にうれしい。」

 彼女を始め参加者たちが、日本から学んだ技術を基に、道路や橋を築く。やがて、通りには多くの人が行き交い、子供たちの笑顔があふれるでしょう。

 自衛隊がアフリカの大地に植えた平和の苗は、やがて大輪の花を咲かせるに違いありません。彼らは、アフリカの平和な未来を背負って(しょって)立ち、共に、世界の平和と繁栄を守ってくれるはずです。

 その大きな誇りを胸に、諸君には、国際社会の平和と安定に向けて、これからも、一層、力を尽くしてほしい。大いに、期待しています。

 今や、国民の9割は、敬意をもって、自衛隊を認めています。60年を超える歩みの中で、自衛隊の存在は、かつては、厳しい目で見られた時もありました。それでも、歯を食いしばり、ただひたすらに、その職務を全うしてきた。

 正に、諸君自身の手で、信頼を勝ち得たのであります。

 次は、政治がその役割をしっかり果たしていかなければならない。

 全ての自衛隊員が、強い誇りを持って任務を全うできる環境を整える。これは、今を生きる政治家の責任であります。私はその責任をしっかり果たしていく決意です。

 御家族の皆様。

 日々の訓練はもとより、厳しい状況の下でも、勇気を奮い立たせ、高い使命感を持って任務を遂行していく。その拠(よ)り所は、御家族の皆様方にほかなりません。

 大切な伴侶やお子様、お父さん、お母さんを、隊員として送り出してくださっていることに、最高指揮官として、心から感謝申し上げます。

 隊員諸君。

 私と日本国民は、常に、自衛隊と共にある。その誇りを胸に、自衛隊の果たすべき役割を全うしてください。

 自らの職責の重要性に思いを致し、気骨を持って、日本と世界の平和と安定のために、ますます精励されることを切に望み、私の訓示といたします。

平成30年10月14日

自衛隊最高指揮官

内閣総理大臣

安倍晋三