[文書名] 共同通信加盟社編集局長会議 安倍総理スピーチ
一昨日、ヨーロッパから帰国いたしました。東京からニューヨーク、そしてブリュッセルを経由して東京。一説によれば、東回りでの移動は、体内時計との関係で、西回りに比べて時差ぼけがひどいそうであります。それでも、本日はせっかくの機会ですので、時差ぼけによる眠気も吹き飛ばして、やってまいりました。というよりも、吹き飛ばしに、やって来たと言った方が正解かもしれません。ちょうどこの昼下がり、時差ぼけがなくても、うつら、うつら、シエスタになりがちですので、そういう時間帯ですので、あまり話が長いと時差ぼけを皆さんにうつしてしまいそうですが、今年は、共同通信さんに御配慮いただきまして、例年より短めの講演でございますので、どうか最後までお付き合いいただきたいと思います。
2次政権発足後、今回で国連総会は7回目の参加となりましたが、実はブリュッセル訪問はそれを上回る8回目でありまして、総理大臣として間違いなく最も多いと思います。何度も会談を重ねたEU(欧州連合)のユンカー委員長が、5年間の任期を終えて、間もなく退任されます。彼が最もレガシーとしたかったのが、EUとアジアとの連結です。その第1回のサミットの主催は、安倍さん以外には考えられない。日程は晋三に合わせるよ。このように口説かれたら断ることはできないということで、面と向かってそのように要請されましたのでこの5月。トランプ大統領を国賓としてお迎えした3週間前のことでありました。今、日本とEUとの関係はかつてないほど近いものとなっています。最大のきっかけは、欧州とEUとのEPA(経済連携協定)、SPA(戦略的パートナーシップ協定)の締結でありました。既に大きな成果が生まれています。ヨーロッパのワイン、チーズが、日本の消費者に、より身近なものとなりました。そして同時に、実はこのことは余り知られていないのですが、日本から本場欧州へのワイン輸出も、4割増加しているんです。また、日本産牛肉のヨーロッパへの輸出も4割増えました。地方経済の核は農林水産業ですが、世界に目を向けることで、地方経済にも大きなチャンスが生まれています。
そして今般、米国との貿易協定が、最終合意に至りました。農林水産物については、過去の経済連携協定で約束したものが最大限であるとした、昨年9月の共同声明に沿った結論が得られました。取り分け、我が国にとって大切な米について、関税削減の対象から完全に除外をし、国益にかなう結果となったと思います。それでもなお残る農家の皆さんの不安に対しても、今後、年末に向けて政策大綱を改正し、しっかりと対策を講じていきます。米国への牛肉の低関税枠が大きく拡大するなど、新しいチャンスも生まれています。今回の協定を、地方の農林水産業の更なる飛躍につなげていきます。幅広い工業品について、関税削減が実現しました。日本の自動車に対して、米国は232条に基づく追加関税をかけない。そのことも、首脳会談の場で、直接、トランプ大統領から確認を取りました。もちろん、数量規制など、WTO(世界貿易機関)と整合しない措置は含まれていません。正にウィン・ウィン。相互のステークホルダーから評価が得られる協定をつくり上げたと考えています。
TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、欧州とのEPA、そして今回の日米貿易協定。この3つを併せれば、実に世界経済の6割を占める、巨大な自由貿易圏が誕生したことになります。その中心にいるのが、日本です。国際貿易をめぐっては、米中の貿易摩擦を始め、世界的に懸念が高まっています。そうした時代に、アジア、欧州、さらには米国も含める形で、自由で開かれた、公正なルールに基づく貿易圏を築き上げた意義は大きいと思います。今回、日米でデジタル貿易のルールも合意しました。これは先般のG20サミットで立ち上げた、WTOにおける大阪トラック交渉にも、大きな推進力となるものです。新しい時代の付加価値の源泉であるデジタルデータについて、日本は、世界のルールづくりを力強くリードしていきます。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)も単なる関税の引下げでは意味がありません。ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々に、中国、豪州やインドが加わった形で、新しい時代の共通の経済ルールを構築する。野心的な協定となるよう、大詰めの交渉を引っ張っていきます。日本は、法の支配を重視しています。一旦決まれば、ルールは、しっかりと守る国です。しかし、これまで我が国は、ややもすると受け身で、国際ルールをつくる側に回ることはほとんどありませんでした。その結果、しばしば、不利なルール変更を強いられている、とも指摘されてきました。他方、日本ほど国際社会から広く信頼されている国はありません。世界第3位の経済大国として、その存在感も大きい。世界情勢が複雑な時代だからこそ、国際的なルールづくりなどで、日本に対する国際社会の期待も高まっていると実感しています。私の残り任期もあと2年を切りましたが、これからも、我が国が先頭に立って新しい時代の世界のルールづくりに挑戦していく。そう決意しています。
さて、帰国したその日のアイルランド戦は本当に大興奮でありました。皆さんも御覧になった方は多いのではないかと思いますが。4年前の南アフリカ戦に続く、ジャイアント・キリング。もう奇跡とは言わせない。テレビ実況の言葉どおり、日本代表の実力を世界に見せつける、歴史的な大勝利でした。現在、日本各地で、ラグビーワールドカップの熱戦が続いています。60を超えるキャンプ地などで地域を挙げて大いに盛り上がるなど、地方創生の面でも成果が出ていると思います。私の地元、山口県の長門(ながと)市においてはカナダのチームがキャンプを行っていまして、この選手たちと地域の皆さんとの交流も始まり、カナダとの関係をこれから更に親密にしていこう、そんな機運も盛り上がっています。日本全国各地で、こうした光景が見られているのではないかと思います。ラグビーと言えば、私は神戸製鋼出身ですので、何と言っても、ミスター・ラグビー、平尾誠二さんのことを思い出します。3年前、53歳という若さでお亡くなりになられたことは、本当に残念でショックでありました。平尾さんといえば、一選手としてだけでなく、日本選手権7連覇の偉業を成し遂げたチームリーダーとしての手腕も、素晴らしいものがありました。例えば、当時、平尾さんは、重要なポジションにも、躊躇(ちゅうちょ)することなく、どんどん新しい選手を起用したそうであります。その理由を聞かれて、平尾さんは、こう語っています。現状維持は、許されない、と。自分たちの目標はあくまで優勝であり、勝ち続けるためには、毎年、20パーセントのチーム力アップが必要である。そして、そのためには、リスクがあろうとも挑戦するしかない、というわけです。これは、ラグビーに限った話ではありません。政治においても、同じであります。現状維持は、決して許されない。ましてや、内向きな政局や離合集散に費やす時間などありません。リスクを取ってでも、様々な改革に挑戦しなければなりません。世の中は、世界はすさまじいスピードで変化を遂げています。例えば、ソーシャルメディアの急速な進歩は、皆さんも強く実感されておられると思います。こうした社会の変化は、望むと望まざるとにかかわらず、どんどん進んでいきます。過去の成功体験に捕らわれ立ち止まっていたら、一気に衰退してしまう。一歩先を見据えた改革、前進なくして、明るい未来を切り拓(ひら)くことはできません。7月の参院選はもはや、はるか昔のことのようですが、政権交代以来、国政選挙で6連勝させていただけたことは、本当に身の引き締まる思いです。だからこそ、安定した政治基盤の上に胡坐(あぐら)をかくことなく、内政に、外交に、果敢に挑戦していかなければならない。自民党総裁としての残り任期2年も挑戦あるのみ。常にチャレンジャーの姿勢をもって、令和の時代の新しい国づくりに果敢に挑戦していく決意です。
最大の挑戦は、何と言っても、少子高齢化への対応です。今日は、10月1日です。皆さんの報道は、税率が10パーセントに上がった日ということで、恐らく消費税一色だと思いますが、私としては、3歳から5歳まで幼児教育・保育の無償化がスタートした日である点を強調したい。どうか、この点もしっかり報道していただきたいと思います。恐らく報道していただけるのではないかなと思いますが。来年4月からは、さらに、真に必要な子供たちの高等教育も無償化します。日本国憲法の下、小学校・中学校9年間の普通教育が無償化されて以来、実に70年ぶりの大改革であります。子育て世代の負担をしっかりと軽減していく。そして、子供たちの誰もが、家庭の経済事情にかかわらず、夢に向かって頑張ることができる。令和の新しい時代を迎え、チャンスあふれる日本をつくり上げていきたいと考えています。若者だけではありません。女性の皆さんにも、どんどん、その能力を活かしてもらいたい。お年寄りの経験や知恵も、大きな財産であります。障害や難病のある皆さんにも、その個性を発揮し、思う存分活躍していただく。一億総活躍の社会をつくることができれば、少子高齢化も克服できるはずです。「みんなちがって、みんないい」。多様な学び、多様な働き方、多様なライフスタイルに対応した社会保障。次なる2年間、この3つの改革に挑戦していきたいと考えています。
これまで社会保障改革といえば、すぐに、給付カットか負担増。現行制度を前提とした議論ばかりに終始してきました。しかし、世の中は大きく変わっています。例えば、この夏の年金財政検証では、恐らく多くの方が、5年前よりも、将来の年金給付にかかる所得代替率は悪化するのではないか、と思っていたのではないでしょうか。でも実際には、所得代替率は、悪化するどころか、逆に改善しました。それは、なぜでしょうか。それは、アベノミクスによって支え手が500万人増えた結果であります。人生100年時代が到来する中で、元気で意欲ある高齢者の皆さんが増えています。8割の方が、65歳を超えても働きたいという意欲をもっておられます。ですから、意欲ある皆さんには、70歳までの就業機会を確保していきたい。同時に、年金の受給を開始する時期について、選択肢の幅を広げていきます。ここで念のために申し上げておきますが、これは、現在65歳からとなっている支給開始年齢を変更するものではありません。現在も、選択肢として、70歳まで繰り下げて受給を開始することができ、その場合65歳からもらうより、毎月の年金額が42パーセント多くなる、という制度があります。この選択肢を、もっと広げていく、ということであります。実は、先月私は65歳を迎えました。ですからこの選択を正に迫られる年齢になったのかなとそう思っておりますが。今申し上げましたように年金財政との関係では、全く中立的で、選択肢の幅を広げたとしても国が得をする訳ではありません。その点、誤解されている方もおられるのかなと。私は今のことを国会で答弁しているところでございますが、どうか御理解いただきたいと思います。
元気で意欲ある高齢者の皆さんには、支えられる側ではなく、できるだけ、支える側として活躍していただく。先ほど申し上げましたように、財政検証で恐らく所得代替率が悪くなるのではないか、なぜそう思っていたかといえば、この5年間で450万人生産年齢人口が減っていくということが分かっている、かつ平均寿命が延びていくということが分かっていますから、そうなれば、厳しくなっていくのではないか、こう考えていたわけでありますが、しかし正に私たちの経済政策によって、そうではなくて逆に500万人が支え手に回った。多くの人たちが、女性や高齢者の皆様も含めて、多くの方々が働き始めた結果、この財政検証、所得代替率が改善したということであります。財政政策としてではなくて、高齢者についての画一的な捉え方を変えることが、最大のポイントです。現行制度を前提に、高齢化イコール社会保障の危機、高齢化が進めば支えられる側の人数が増えるだけで、給付カットか現役世代の負担増か二者択一しかありません。なんて議論から、完全に脱却する。人生100年時代を見据えた改革が必要であります。現役世代についても、働き方改革により同一労働同一賃金が進み、正規・非正規の区分がなくなっていく中で、広く厚生年金を適用し、老後の安心をより拡大することも、自然の流れとなりましょう。このように、世の中の変化をチャンスとして前向きに捉えながら、現行制度に捕らわれることなく、全ての世代が安心できる社会保障制度の在り方を大胆に構想していきたいと考えています。当然、給付と負担のバランスについてもその中で議論していきますが、それ以前に、まずは未来を見据えながら、誰もが安心できる、新しい社会保障制度の青写真を描くところから始めていく。今後、全世代型社会保障改革検討会議で議論を深めていきます。この議論は、国民の皆さんが最も関心を持っているテーマです。どうか皆さんも、政府批判という視点ではなく、自らと自らの次の世代のためにどうすべきなのか、同じ目線で共に議論していただければ幸いであります。
さて、今月は、歴史的な、即位礼正殿の儀が執り行われます。たくさんの首脳が日本にお越しになり、世界の注目が集まります。その後には、ラグビーワールドカップが、いよいよクライマックスを迎えます。そして、年が明けると、令和2年はオリンピック・パラリンピックイヤーです。さらに、ドバイ万博が終われば、いよいよ大阪・関西万博に向けた準備が本格化します。日本全体が、未来への躍動感にあふれる、このタイミングこそ、改革のときであります。地方の現場、実情を知り尽くした皆さんであれば、その危機意識は、共有していただけるものと確信しています。現状維持は、許されない。どうか、私たちの新たな国づくりに向けた挑戦に、御理解と御協力をいただきますように、最後にお願いいたしまして、私の御挨拶とさせていただきたいと思います。
本日は、ありがとうございました。