[文書名] 第54回自衛隊高級幹部会同 菅内閣総理大臣訓示
我が国防衛の中枢を担う幹部諸官に対し、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、一言申し上げたいと思います。
日々刻々と変化する国際情勢と我が国を取り巻く安全保障環境において、防衛省・自衛隊は、あらゆる脅威に対し、24時間365日、切れ目なく対応し続けています。強い使命感と責任感を持ち、組織を率いる幹部諸官を、誇りに思います。
幹部諸官。国民の自衛隊に対する期待は、極めて大きいです。皆さんも、リーダーとして、それぞれの組織の先頭に立ち、国民の期待に応えることが求められています。
「リーダーたるもの、問題を解決しなければならない。問題を解決しない人は、リーダーではない」
米国統合参謀本部議長を務めたコリン・パウエル氏の言葉です。
問題は、どこからともなく降ってくる。リーダーは、時として、手の付け方が分からないような問題でさえも対処しなければならない、パウエル氏は、御自身の著書の中で、こうも述べておられます。
日本を含め、世界は、今、新型コロナウイルス感染症との闘いに全力で取り組んでいます。
自衛隊は、これまでも、突然対応を求められたダイヤモンド・プリンセス号などにしっかり対処してきたほか、地方自治体の要請に基づき、看護官などの医療従事者を派遣しています。
今後も続く、こうした危機から国民を守ることと、外部の侵略から国民を守ることに違いはありません。
いかなる時も、国民の命を守るために、自衛隊として何ができるか「一歩先を考え」、全力を尽くす、そして、「問題を解決」する。このことをリーダーたる幹部諸官に強く期待します。
近年、自衛隊の任務の場は、従来の陸、海、空に加え、宇宙、サイバー、電磁波という新領域にも拡大しています。そうした新たな課題の一つ一つに対応するためには、それぞれの「方針」をしっかりと明確にし、ぶれてはなりません。
その「方針」を間違いなく決定するためには、「小さなことをチェック」しておく必要があります。リーダーというのは、現場を全て知らなければならない、私はそのように確信しています。細かいことを把握した上で判断を下すのと、そうでないのとでは、結果が全く違うのではないでしょうか。
自衛隊の任務の成否も、現場で決まります。幹部諸官、常に現場に目を向け、現場の声に耳を傾け、そして、細部まで理解した上で、任務の完遂に最大限努力してください。
自衛隊を取り巻く環境が変化する中、自衛隊では、意欲と能力のある女性の活躍が目覚ましく、女性初という言葉を多く耳にしています。
先月、入間にて行われた航空観閲式では、藤山花野一尉が儀仗(じょう)隊長を務めました。自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣に対し、女性隊長が儀仗を行うのは初めてとのことですが、規律正しく、堂々と指揮する姿は、極めて自然に感じられました。
今回の会同に出席する予定であった幹部諸官90名の内、女性はわずか1名と聞いています。より複雑な環境に立ち向かうためには、これまでにない発想や柔軟な思考が求められます。性別を問わず、意欲と能力に溢(あふ)れた人材を積極的に登用していくことを期待します。
そして、一人一人が能力を最大限に発揮し、生き生きと働くことができるよう、前例や固定観念にとらわれることなく、防衛省・自衛隊の働き方改革を、これまで以上に前進させてください。
業務の思い切った簡素化や効率化を進めることができるのは、諸官をおいて他にいません。スピード感をもって、大胆な改革を実現することを強く希望します。
国民の命と平和な暮らしを守る。この崇高な任務に、終わりはありません。国民に信頼され続ける防衛省・自衛隊を目指し、任務遂行のために「小さなことをチェック」する、そして、「一歩先を考え」全力で「問題を解決」する、そのようなリーダーとなれるよう、日々、研鑽(けんさん)を積むことを期待し、私の訓示といたします。
令和2年12月16日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 菅義偉