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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジアの価値観と民主主義シンポジウムにおける菅総理大臣開会挨拶

[場所] 
[年月日] 2020年12月21日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

12月21日に第6回「アジアの価値観と民主主義シンポジウム」が開催され、菅総理が以下の挨拶を行いました。

日本国内閣総理大臣の菅義偉です。

「アジアの価値観と民主主義シンポジウム」の開会にあたり、御挨拶を申し上げます。 2014年、日印首脳の共同提案で始まった本シンポジウムは、本年で6回目を数えます。今回はオンラインも活用した開催となり、モディ首相はビデオメッセージを寄せて下さいました。

日本と、世界最大の民主主義国家であるインドとの協力で実現してきたこの取組が、着実に回を重ねてきていることを、大変喜ばしく思います。

古来、アジアでは多様な価値観が育まれてきました。仏教・ヒンドゥー教の慈悲、儒教の仁、イスラム教の寛容、さらには日本における和の精神。これらには、共通する、多様性や寛容性を養い、尊重する考え方があります。アジアにおける民主主義は、こうした精神的伝統の上に、深く、広く、根付き、そして発展してまいりました。

昨年は「ガンジー生誕150周年」という記念すべき年でした。暴力を否定しながら、民主主義の実現に尽力したガンジーは、「真の民主主義の精神を育てるためには、非寛容であってはならない」と強く訴えました。また、彼は、「民主主義とは、強き者と同じ機会を、弱き者にも与える仕組みだ」とも強調しました。

私自身も、雪深い秋田の農家に生まれ、地縁も血縁もない、まさにゼロからのスタートで、政治の世界に飛び込みました。その当初から胸にあるのは、一人ひとりが、持てる可能性を如何(いかん)なく発揮できる社会を実現したいとの思いです。個人の違いが尊重され、平等に機会が与えられてこそ、そうした社会が実現できる、このように確信しております。

アジア各国には、私と同じような思いで、国家の発展のために努力を重ねてきた仲間がたくさんいると思っています。

本日は、シリセーナ前スリランカ大統領から基調講演を頂きます。同氏は、スリランカにおいて、言葉や宗教の違いを乗り越え、国民和解の実現、民主主義の定着に取り組んでこられました。

また、10月に私が訪問したインドネシアでも、幾多の困難を乗り越え、民主主義を確立した歴史を持ち、今や「バリ民主主義フォーラム」を通じて、各国の民主化の進展にも貢献をしています。

これらを含むアジア各国の経験が物語るのは、民主主義の定着には様々な歴史や文化的背景があること、そして、民主主義を育てていくためには長い長い時間を要するということです。

日本は、これまで、そうした背景を踏まえながら、選挙監視団の派遣や人材育成などを通じ、民主主義の土台づくりや、その定着のための支援を積極的に行ってきました。今後も、各国に寄り添い、共に、アジアにおける民主主義の発展に取り組んでいきたい、そのように考えます。

本日のシンポジウムでは、オリンピック・パラリンピックにおける多様性と寛容性をテーマに、差別のない公正な大会の実現に尽力されている皆様からも、貴重な御経験をお話いただけると伺っています。

オリンピック・パラリンピックは、多様性を認め、誰もが能力を発揮し、活躍できる場であるべきです。私は、来年の夏、人類がウイルスに打ち勝った証として、そのようなオリンピック・パラリンピックを、ここ東京にて、開催する決意です。安全・安心な大会に向けて、しっかり準備を進めてまいります。

アジアの価値観、そして民主主義に関する有意義な議論を通じて、このシンポジウムが、相互理解と、多様で寛容な共生社会の実現に大きく貢献することを心より祈念し、私の挨拶とさせていただいます。