[文書名] 読売国際経済懇話会(YIES)講演会 菅内閣総理大臣講演
今日こうして、読売国際経済懇話会、大変歴史のあるこの会合にお招きいただきまして、大変うれしく思っています。総理大臣に就任して3か月少々でありますけれども、その中における私の政策についての考え方、これから先のことについて、そうしたことを中心に、お話しさせていただきたいと思います。
今、世界各国は、新型コロナウイルスという共通の国難に直面し、私たちの経済・社会は、国境を超えて大きな転換期にあります。大切なことは、感染を一日も早く収束させることであり、そしてまた、これから先のグリーン社会の実現を始めとする新たな改革に挑戦して、次の時代に踏み出していくことだ、このように考えます。
全国の感染者数は、一度高止まりした後に、直近で増加に転じており、その地域も広がっております。国民の皆様の不安も増しています。特に、医療機関を始め、コロナ最前線で対処しておられる方々の御負担は極めて重くなってきております。こうした中、政府としては、専門家から成る分科会の提言を受け、連携を取りながら対策を講じております。
専門家の先生方からは、飲食の場面の感染リスクが高いとかねてから指摘されております。そのために、ステージ3、すなわち感染が相当進んだ地域で、飲食店の時間短縮を要請すべきという提言です。これに沿って、北海道に加え、先月から、大阪、東京、名古屋など各地で飲食の時間短縮を行っています。全国15都道府県になっています。
さらに、こうしたステージ3の地域では、GoToトラベルを停止すべきとの提言を頂き、先月末から実施いたしています。しかし、全国の感染者数が先週末に3,000名を超える中で、より踏み込んだ対策を決心しました。年末年始に集中的な対応を採るべきと考え、全国のGoToトラベルを一旦停止することにいたしました。これについては、GoToを利用して年末年始に帰省される方、あるいは準備していた事業者の皆さん、皆さんに大変な御迷惑をおかけいたしております。また事業者の皆さんのキャンセル代につきましては、旅行代金のうち35パーセントを事業者に国から支払うことにしていましたが、今回50パーセントにさせていただきました。
さらに、飲食店の時間短縮について、感染防止が極めて重要だと。その対策でありますので、年末年始に広く御協力いただきたい、そうした意味合いにおいて、各都道府県が支払ういわゆる協力金に対しても、支援額については従来の倍の、1か月当たり120万円を支援させていただくことにいたしました。
その中で、危険にさらされながらコロナとの長く厳しい戦いに最前線で取り組んでおられます医療関係の皆様方に、心から感謝申し上げます。こうした医療機関などに対して、これまで3兆円の支援を行ってきましたが、さらに、今回の経済対策で1兆4,000億円の追加支援を行い、コロナ対応の病床確保をしっかり支援していく、そうしたことを決定いたしております。
また、医療機関には、特に人材への支援が重要だと考えております。コロナに対応する医療機関へ派遣される医師、看護師、こうした支援額を倍増し、医師は1時間、1万5,000円、看護師は1時間、5,500円を補助することにいたしました。
また、看護師の皆さんが本来の業務に専念できるように、今はコロナということで、清掃事業者の皆さん方もなかなか参画してもらえませんので、そうした経費も含めて、国でしっかり支援していくようにいたしております。
また年末年始というのは医療機関も体制を縮小せざるを得ない時期です。私たちの責務は国民の命と暮らしを守ることです。静かな年末年始を過ごしていただくという形で国民の皆さんの御協力を得ながら、なんとか感染拡大を食い止める、そうした決意で対策を進めています。
感染対策の決め手となるのが、ワクチンであります。安全性・有効性を最優先する、このことが大前提であります。先日、ファイザーから承認申請がありました。国内治験で既に2回の接種が終わっております。来年2月までに主要なデータを取りまとめる予定です。今後、こうした治験などのデータに基づき、しっかりと審査した上で承認したものについて、全額、国の負担で接種させていただきます。さらに、各地までの運搬、そして皆様に接種する体制を構築する必要があります。ワクチンの中には、輸送や保管にマイナス70度で対応する必要があるものもあり、厚生労働省だけでなく、輸送は国土交通省、冷凍施設の生産は経済産業省、都道府県との調整は総務省などでありますので、官邸にチームを立ち上げ、関係省庁を挙げて、今、対策を講じているところであります。こうしてまずはコロナを何としても乗り越えて、その上で、経済の回復に全力を挙げてまいります。
バブル崩壊後、我が国の経済社会が抱えている様々な問題について、長年にわたり次のように言われてきました。少子化・高齢化が止まらない、日本企業のダイナミズムが失われている、IT・デジタルの流れに乗り遅れている、新たな成長の原動力となる産業が見当たらない。アベノミクスにより、金融・財政政策により、日本経済はバブル期以来の好調を取り戻しました。しかしながら、ポストコロナの時代において我が国経済が再び成長し、世界をリードしていけるようになるためには、今申し上げましたように、長年にわたって先送りしてきた多くの宿題が残っています。これらに答えを出すのが、私の内閣である、このように思っています。
地球温暖化は数十年、人類共通の危機と言われてきた問題です。私が宣言しました「2050年カーボンニュートラル」は、我が国がこの分野で今後、世界の大きな流れを主導していくために、どうしても実現しなければならない目標であると考えています。これまでの日本は2050年にCO2を2013年からの8割削減、CO2排出を日本全体でゼロにするのは、今世紀後半のできるだけ早期、こういう目標にとどまっておりました。要因は正に行政の縦割りでした。環境省と経済産業省の間で、膠着(こうちゃく)状態が続いていたのです。一方、私は常日頃から国内外の経済人、有識者、政府関係者と情報交換する中で、グリーン社会に向けての世界の流れは避けることができない、そのように認識しました。そうした中で、私はこの問題に受け身ではなくて、攻めの姿勢で取り組んでいくべきだと考え、総理大臣に就任後いち早く、政権の方針として「2050年カーボンニュートラル」を明確に打ち出しました。組閣においても、梶山経済産業大臣と小泉環境大臣をあえて留任させたのもそのためでした。
環境対応は経済成長の制約ではもうないんです。我が国の企業に将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を生み出すものである、このように認識しています。こうした「環境と成長の好循環」に向けて発想の転換を行って、今回の経済対策では、まず政府が環境投資で一歩大きく踏み込むべきだと考え、過去に例のない2兆円の基金を創設して、野心的なイノベーションに挑戦する企業に対し、今後10年間継続して支援していきます。この基金により様々な先進的技術の実用化を加速します。例えば、非常に薄くて軽く、壁などにも設置できる次世代の太陽光電池の技術や、二酸化炭素を回収して建築材料、また燃料として再利用する技術など、こうしたものが対象になります。また、低コストで水素を大規模に製造・流通させ、飛行機などのエネルギーとして利用する技術、低コスト・高効率の蓄電池技術など、こうしたものも対象にしたいと思っています。蓄電池の製造や、生産工程で再エネを利用するなど、大きく脱炭素化を図る設備投資には、大企業も含めて、あらゆる業種について、過去最高水準の最大10パーセントの税額控除という税制制度で応援をいたします。
また、再生可能エネルギーの抜本的導入拡大を進めます。例えば風力発電について、洋上風力を抜本的に普及させます。現在、再生可能エネルギー全体では、7,500万キロワット、発電量全体の18パーセントであり、そのうち風力発電は420万キロワット、1パーセント程度しかありません。しかし、2030年に約1,000万キロワット、2050年には4,000から5,500万キロワットにすることを目標にいたします。また、風力の発電コストを、キロワットアワーあたり8円から9円と、早期に他の電力源に遜色のないレベルまで下げます。このため、法律に基づく洋上風力の区域の指定を進めるとともに、風力発電の電気を運ぶための送電線の増強、こうしたものをしっかりと行っていきます。
同時に、自動車から排出される二酸化炭素をゼロにすることを目指し、電気自動車などを最大限導入していくための制度や規制を構築します。政府による大胆な支援と制度改革を通じて民間投資を後押しし、240兆円と言われる現預金の活用を促し、ひいては3,000兆円とも言われる世界中の環境関連の投資資金を我が国に呼び込み、雇用と成長を生み出してまいります。
国民一人一人に直結する、もう一つの大きな改革がデジタル化であります。行政サービスのデジタル化の遅れも長く言われてきた課題です。コロナの中で具体的な問題が明らかになってきました。給付金の支給スピードが遅い、テレワークができない、はんこをもらうために会社に出て行かなければならない。いろいろな声が聞こえてきました。これらの課題を解決すべく、改革を強力に進める司令塔としてデジタル庁を設立します。来年秋の始動を目指して、現在、急ピッチで作業を進めています。デジタル庁は、首相直属の組織とし、情報システム関係の予算を一元的に所管させ、各省庁に対して勧告、是正ができる強い権限を持たせます。御高齢の方々など、デジタル機器の利用に慣れていない方を念頭に置いた対応も行ってまいります。
組織の要は人です。民間から100名規模の高度な専門人材を迎え、官民を行き来しながら、キャリアアップできるモデルをつくります。公務員の採用枠にデジタル職を創設する、このことも実現したいと思います。政権の本気度がお分かりいただける、このように思います。
これまで各市町村のシステムはバラバラに導入され、内容もバラバラでした。今後は引っ越しをしても同じサービスが受けられるよう、デジタル庁が司令塔となって、全国の自治体のシステムを5年後までに統一・標準化します。そのための1,500億円の予算を今回の補正予算に盛り込みました。
デジタル化のカギとなるマイナンバーカードについては、普及を進めるために、カードと保険証の一体化を来年3月からスタートし、令和6年度までに運転免許証との一体化も行います。さらに、マイナンバーのシステムを管理するJーLIS(地方公共団体情報システム機構)という法人を改革し、まずはシステムを24時間運用することで、来年夏から、ポータルサイトで自分の情報に24時間アクセスできるようにします。
デジタル化には送受信するデータの量、その速さ、通信の安定度がカギとなります。5Gを機能強化した、いわゆるポスト5G、更に次世代の技術であるいわゆる6Gの技術についても、次の技術で世界をリードできるよう、官民が一体となって研究開発を進めます。
今回の経済対策で、これらを含めたデジタル関係で1兆円を超える予算を計上しています。さらに、民間企業における抜本的なデジタル化を税制で幅広く後押しすることや、株主総会のオンライン化など、日本全体のデジタル化を一挙に進めてまいります。
我が国企業が、過去の成功体験にとらわれず未開拓の成長分野に進出する。さらに、次の成長の担い手となる新たな中小企業、ベンチャー企業が育つ。こうした環境を作り出すこと、これが長年の課題でもあったと思います。コーポレートガバナンス改革は、我が国企業の価値を高めるカギとなるものです。更なる成長のために、女性、外国人、中途採用者の登用を促進し、多様性のある職場、しがらみにとらわれない経営の実現に向けて改革を進めてまいります。大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて、地域の中堅・中小企業の経営陣として紹介する取組を、まずは銀行の人材のリストアップを行ってスタートしたところであります。今後、他業種にも拡大していきます。
海外の金融人材を受け入れ、日本に、アジア、世界の中心となる国際金融センターをつくることも、長い間言われてきたことであります。日本には、良好な治安と生活環境、そして1,900兆円の個人の金融資産、こうした強みがあります。今月決定した税制改正で、関係者からの要望を一挙に実現します。相続税について国外財産を対象外とし、いわゆる業績連動報酬に掛かる所得税は、一律20パーセントの税率を適用することとします。また、日本での生活がより便利で快適なものとなるよう、在留資格を緩和して、母国から連れてくることができる家事使用人の人数も拡大いたします。
東京一極集中の是正、そして地方の活性化、このことも長年言われてきたことであります。実は、いわゆる東京圏と言われる一都三県の消費額は全国の3割に過ぎません。残りの7割の消費は地方です。地方の所得を引き上げ、消費を活性化しなければ日本全体が元気にならないということです。そこで政権交代以来、官房長官時代から、観光と農業改革に力を入れてきました。政権交代以来、インバウンドは年間836万人から3,200万人に、昨年4倍にしました。農産品の輸出額は年間4,500億円から昨年9,000億円に倍増しました。こうしたことによって、昨年、27年ぶりに地方の地価が上がってきたんです。私にとっては、本当にうれしいことでありました。
また農産品の輸出については、今年は年初以来、新型コロナウイルスの影響を受けておりましたけれども、直近10月の輸出額は対前年比で21.7パーセント増と大きく回復いたしております。本年4月には農水省に輸出本部を立ち上げて、それまで農水省と厚労省に分かれていた農産品の輸出に関わる業務を統合することとして、政府一体となって農水産品の輸出の障害になる規制を解消しました。さらに、輸出額を向上させるために、2025年に2兆円、2030年に5兆円という目標を設定します。今月、その達成に向けて、輸出拡大実行戦略を取りまとめました。牛肉やイチゴを始めとする27の重点品目を選定し、品目別・国別に目標金額を設定しました。先日決定した来年度予算においても、輸出先国のニーズに特化した産地の育成を支援するために、輸出先国の規制に対応した加工施設の整備を進めてまいります。
コロナを機に、地方で仕事をしたい、地方で暮らしたいという方が増えています。テレワークによって都会と同じ仕事ができる。そのため、この夏に手当てした500億円の補正予算によって、来年度中に離島を含めて全ての日本の隅々まで光ファイバーを整備します。全国的にテレワークの環境が整い、さらには、オンライン教育や診療の重要な基盤ともなる、このように考えています。テレワークの妨げになるのが、行政への申請などにおけるはんこです。河野大臣の下に、規制改革の議論を進め、押印が求められる1万5,000項目のうち99パーセント以上の廃止を決定しました。
また観光については、1点この場で御紹介すべき話があります。我が国にはまだまだ内外の観光客に知られていないすばらしいコンテンツがあります。その最たるものが、伝統の文化財や美術品です。一昨年から、文化庁、宮内庁、そして読売新聞の皆さんが共同して、「つむぐプロジェクト」をスタートしております。これは、我が国のすばらしい文化財を各地の国立博物館などで展示し、その収益や企業からの協賛金を文化財の保存・修理に充てようというプロジェクトです。昨年、東京国立博物館で開催された展覧会では、1か月で10万人の方々が来訪されました。この展示会は、皇室ゆかりのすばらしい品々を収蔵している三の丸尚蔵館が出品したものでした。これは、皇居の中にある宮内庁の施設ですが、例えば、江戸時代の絵画で極めて有名な伊藤若冲(じゃくちゅう)の作は31点所蔵されています。教科書に出てくる、鎌倉時代の蒙古(もうこ)襲来絵ことば、また藤原定家の更級(さらしな)日記、こうした収蔵品の数は約1万点に上ります。私が文化庁の宮田長官にお願いして一緒に視察いたしました。宮田長官いわく、収蔵品のうち、4分の1の2,500点が国宝、重要文化財級、皇室の文化に深く関わっている優れた品々ということでありました。現在は展示スペースが不足しておりますが、2年前に導入しました国際観光旅客税の財源を活用して、展示スペースを現在の8倍に拡充すべく、5年後の完成を目指し昨年から工事を始めております。また、現在、内閣官房を中心に各省のチームを作り、三の丸尚蔵館のすばらしい収蔵品を地方の美術館に展開し、地方観光の起爆剤にしようというプロジェクトが進んでいます。今後4年間にわたり、全国各地で毎年4か所以上の展覧会を実施する予定です。まず来年は、国立博物館のほかに、宮崎、和歌山、宮城で開催を予定いたしております。
そして、長年にわたり、我が国の最大の課題と言われてきたのが少子化の問題です。結婚や出産、子育てを希望する方々の声に丁寧に耳を傾け、その方々の望みの障害をなくす対策を講じる必要があると思い、実行に移しています。
第一に不妊治療です。子どもが欲しいが、費用が多額で、とても不妊治療が受けられない、そうした当事者の気持ちに寄り添いつつ、出産を希望する方々を広く支援し、その願いに応えていきたい。そのような思いから、不妊治療の保険適用を2022年度からスタートし、男性の不妊も対象にいたします。それまでの間は、現行の助成制度の所得制限を撤廃した上で、助成額の上限を今までの倍の一律30万円で6回まで、2人目以降も同様とし、来年すぐに実施できるよう補正予算に計上しました。昨年の出生数が86万人です。これが新型コロナウイルスの影響で今年は更に減少すると見込まれています。この中で、直近の不妊治療による出生者数は年間5万7,000人です。専門家によれば、保険適用されると、若い世代も治療しやすくなり、出生数が10万人以上にはなるだろうという予測をする方もいらっしゃいます。また、不妊治療と仕事の両立に対する社会的機運を醸成するとともに、治療のために仕事を休めるような中小企業の取組を支援したいと思っています。事業主による職場環境整備を促進します。併せて、不育症患者や小児・AYA(思春期・若年成人)世代のがん患者等に対する支援も推進いたします。子供を持ちたいという方々に寄り添ったきめ細かな対策を行ってまいります。
第二に、待機児童の問題です。これまで保育所などの整備を進めてきたことにより、今年は調査開始以来、待機児童が最少の1万2,000人であり、もう一歩のところまで来ています。最終的な解消を目指し、「新子育て安心プラン」を決定しました。幼稚園やさらにベビーシッターを含む地域のあらゆる子育て資源も活用して、女性の就業率の上昇も見込んで、今後4年間で14万人分の保育の受け皿を整備します。税制においても、ベビーシッターや認可外の保育所などに対する助成金をもらった場合、これまでは課税対象であったのを、今回の税制改正で非課税にします。
もう1点挙げなければならないのは、男性の育児参加です。少子化の問題を解決するには、男性が積極的に育児休業を取得し、これまで以上に子育てに参加し、イクメンが当たり前になることが不可欠であると考えています。今年度から男性国家公務員には1か月以上の育児休業の取得を求めていきます。民間企業でも、事業主に対して育児休業の取得の働きかけや取得しやすい環境整備を義務付けるなど、男性の子育てを促進するための制度を検討し、来年の通常国会に法案を出したいと思っています。
さらに今回、全国の小学校について現在の40人学級を35人学級とすることを決定しました。40年ぶりの全学年での人数の引下げです。これにより、担任の先生がきめ細かく子どもの状況を把握できるようになります。
これら一連の具体的対策を着実に実施して、結婚、出産、子育てという、希望を阻む障壁を一つ一つ取り除いていくことで、長年の課題である少子化対策を大きく前に進めていきたい、このように思います。
高齢化に伴って増え続ける医療費への対策も長年の課題でした。後期高齢者の方々が医療機関を利用した場合の負担を1割から2割に引き上げることは、安倍政権から引き継がれた課題でした。与党内でも様々な意見がありましたが、私は、医療制度の将来を考えた場合、高齢者と若者が互いに支え合う仕組みを作るべきだという考えの下、最終的に私と公明党の山口代表で、年収200万円以上の方々について是非2割負担をお願いするということで決着いたしました。これによって、現役世代の保険料負担は740億円程度減ることになります。
また、これまで薬価改定は2年に1回でしたが、国が決める薬価をより実態に近付けて、国民負担を軽減するために、4年前に私が官房長官時代に関係大臣と合意して、毎年改定を行う方針を決定しました。今回初めて、2年に1回の間の年の改定を行い、医療費で約4,300億円、国費で1,000億円の国民負担の軽減を行いました。
日本外交の基軸は日米同盟です。来年1月には、バイデン次期大統領が正式に就任されます。先月の初めての電話会談では、日米安全保障条約・第5条の尖閣(せんかく)諸島への適用、日米同盟の強化、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を確認し、大変意義のあるやりとりができました。従来、米国政府首脳に公の場で条約・第5条の尖閣諸島への適用を表明してもらうためには、相当な時間をかけた入念な外交努力が行われてきました。今回、初めての電話会談の場で、先方から言及があるとは、正直、想定しておりませんでした。推測でありますけれども、バイデン次期大統領御自身の考えに加えて、スタッフの方々が日米同盟の重要性や日本の戦略的な関心を理解し、電話会談に際してしっかり準備いただいた結果なのではないかと思っています。例えば、次期国務長官に指名されているブリンケン氏とは、私も官房長官時代に4回ほど会談いたしております。今後の日米関係にも、こうした方々も大事にしていきたい、このように思っています。またバイデン氏とは、今後、国会の日程次第ではありますが、できる限り早い時期にお会いし、日米同盟の強化に向けた連携のみならず、コロナ対応や気候変動問題といった国際社会共通の問題について、じっくり話し合っていきたいと思います。
私の内閣においても引き続き最重要課題である北朝鮮による日本人拉致問題です。この秋の一連の国際会議においても、数多くの首脳から理解を、そして協力を得ることができました。バイデン氏ともこの問題で日米連携を更に深めていきたいと考えています。日米同盟を基軸に、自由で開かれたインド太平洋を実現するための取組を戦略的に進めていくとともに、中国を始めとする近隣諸国との安定的な関係を築いていく。この日本外交の基本方針に変わりはありません。私自身、首脳外交も活用しながら、積極外交を戦略的に進めていきたいと考えています。
世界的にコロナによる経済低迷が続く中、内向き志向の動きも見られます。国際社会の連帯が弱まりかねない状況にあるからこそ、日本は、リーダーシップを発揮して、多国間主義を重視していく決意です。先般署名したRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の協定により、世界のGDP(国内総生産)の3割を占める、自由で公正なルールに基づく経済圏が新たに誕生します。こうした内向き志向の流れに大きな一石を投じるものと考えます。我が国は、来年は、TPP(環太平洋パートナーシップ)の議長国でもあります。質の高い経済ルールを世界に広げながら、WTO(世界貿易機関)、さらにはWHO(世界保健機関)といった国際機関の場を通じて団結した世界の実現を目指し、ポストコロナの秩序づくりを主導してまいります。
そして夏には、世界の団結の象徴となる、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する決意です。来年は、東日本大震災から10年を迎えますが、本日お越しの外交団の皆様の国々からも、本当に温まる御支援を、また励ましの言葉を頂きました。この場をお借りしまして厚く御礼を申し上げます。この2020東京大会を、復興五輪として、被災地が復興を遂げる姿を、大きな感謝の気持ちを込めて世界へ発信します。人類がコロナを克服した証として世界の人々を勇気付け、感動を与える大会となるように、感染対策を万全に準備を進めてまいります。
今年も残り後僅かになりました。総裁選挙や所信表明演説でお約束したことを、できるものからスピード感を持って実現し、国民の皆さんに成果を実感していただきたい。我が国に課せられた長年の課題を解消して、将来に向けた突破口を開きたい。そうした気持ちでこの3か月間、全力疾走で取り組んできました。2年前に「携帯電話料金については4割下げられる」と申し上げました。法改正を始め、あらゆる措置を講じた結果、今月初め、大手が大容量プランについて、2年前に比べて7割安い20ギガで2,980円という料金プランをメインブランドの中で実現する発表がありました。本格的な競争に向けて一つの大きな節目を迎えたと思っております。年末年始においても、高い緊張感を持って新型コロナウイルスの対応に当たり、何としてもこれ以上の感染拡大を食い止め、その上で、経済をコロナが始まる前の水準まで回復させます。そして、グリーンとデジタルを原動力として、経済を民需主導の成長軌道に乗せてまいります。私の内閣において重要なのは、変化に対応するスピードと国民目線での改革です。行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打破し、具体的な改革を実行します。国民の方々、外交団の皆様からの叱咤(しった)激励も頂きながら、「国民のために働く内閣」として、これからも一生懸命に取り組んでまいります。
(自由で開かれたインド太平洋の実現に向けての具体的な方向性について)
私が総理大臣に就任して、初めて日本を訪れてくれたのは豪州の首相であります。対面でも会談いたしました。やはりこの日・米・豪・印という4か国、自由でそして民主主義国家でありますから、ここの団結をしっかりと固めた上で、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国も中国を始めいろいろなところを見ておりますけれども、私は、ASEANと連携していくというのは極めて大事だという認識を持っています。それで私の初めての海外訪問をASEANの議長国であるベトナムと、そして大国であるインドネシア、この2か国を訪れていますので、正にこの4か国を中心にASEAN諸国との連携を更に密なものにしていきたい、このように思っています。