データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 令和2年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2021年3月21日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 本日、防衛大学校の卒業式に当たり、我が国防衛の中枢を担うこととなる諸官に対し、心からお祝い申し上げます。卒業、おめでとう。

 新型コロナの影響が長引く中で、今日の日の諸官の門出を、御両親や関係者の皆様と共にお祝いできず、大変残念であり、また、申し訳なく思います。

 しかしながら、国民の命と暮らしを守るため、できることは全て取り組み、1日も早く新型コロナを収束させる必要があります。

 その中で、自衛隊は、最後の砦(とりで)として期待されています。私は、今年1月、知事の要請があれば、医療チームをいつでも投入できるよう、万全の体制を整えることを、自衛隊に指示しました。

 その後、クラスターが発生した沖縄の高齢者施設に、自衛隊の看護官がただちに支援に駆け付けました。「おかげで施設の雰囲気が良くなった」、「本当にありがたい」という、感謝の声が寄せられました。

 これまでに、延べ2万人を超える隊員が各地に派遣され、国民に寄り添い活動をしていることを誇りに思います。

 10年前の東日本大震災の際も、自衛隊は、最後の砦として、役割を果たしました。

 震災発生から72時間後には6万人、1週間後には10万人の隊員が、全国各地から駆け付けました。そして、行方不明者の捜索や、御遺体の収容、埋葬を、不眠不休で行いました。

 「辛く困難な任務のときほど、指揮官は、隊員を鼓舞するのが役目であります。しかし、当時、その必要は全くなかった」

 四国から派遣された井上 武(たける)第14旅団長は、こう振り返ります。現場の隊員の士気は非常に高く、強い自覚と、使命感に満ちていたからです。

 「全ては被災者のために」、「被災者のためには何でもやる」、隊員一人一人が、そうした強い思いを持ち、陸・海・空自衛隊、そして在日米軍が一体となって懸命に任務に当たりました。

 震災から1年後の世論調査において、自衛隊の活動を「評価する」と答えた人は、97.7パーセントに達しました。隊員の強い思いが、国民に届いた証だと思います。

 自衛隊は、この史上最大の作戦を実行している間も、我が国防衛のための警戒を怠らず、また、ハイチや南スーダンにおける国際平和協力の任務を粛々と遂行しました。

 今後、こうした様々な任務を担う諸官に対し、2点、強調したいと思います。

 第1に、将来の変化に、的確に対応してほしいということです。

 今からちょうど30年前の1991年、ソ連が崩壊しました。その後の安全保障環境が激変する中で、自衛隊には、次々と新しい任務が付与され、活動の幅は大きく広がりました。特に、海外へは、国連PKOなどに、延べ6万人が派遣されました。

 「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」諸官の先輩は、この宣誓を胸に、30年前、誰も予測できなかった数々の任務に、立派に対応してきています。

 そして、30年後、諸官が自衛隊の主要幹部になっている頃を想像してください。これまでに無い課題や脅威が現れ、新たな任務が自衛隊に付与されているのではないかと思います。

 そうした中で、一番大切なのは我が国防衛への備えです。国防という最も厳しい事態に対処できるよう、日夜訓練に励むからこそ、新たな任務にも対応できるはずです。

 我が国防衛と国際社会の平和と安定は、諸官の双肩にかかっています。

 私の座右の銘は、「意志あれば道あり」です。

 諸官には、強い意志を持って、進んで新しいことに挑戦して、将来の変化に適応してほしいと思います。

 2点目は、同盟国や友好国と積極的に交流し、信頼関係を構築してほしいということです。

 複雑化する安全保障環境下では、もはや、どの国も、一国のみで自国の平和と安全を守ることはできません。同盟国や友好国との協力が不可欠であります。

 私自身、来月予定している訪米も通じて、バイデン大統領との個人的信頼関係を深めつつ、日米同盟の更なる強化にしっかりと取り組む決意です。同時に、あらゆる機会をとらえて首脳外交を積極的に展開し、各国との関係強化にも努めてまいります。

 こうした首脳レベルの関係を踏まえ、各国軍隊と固い絆(きずな)を築くことができるのは、自衛隊をおいて他にありません。一人一人が、防衛、当局間、対話や共同訓練などを通じ、地域の安全保障の要となる軍事面の絆を、より一層強固なものとしてください。

 既に、諸官には、そのための大きな財産があります。本日、ここにいる、苦楽を共にした29名の留学生の皆さんです。皆さんは、日本のかけがえのない友人です。一人一人が日本との懸け橋となり、地域の平和と安定のため、自衛隊員と肩を並べて、共に汗を流してくれることを期待します。

 卒業生諸官。4年間の防衛大学校の生活では、辛く苦しいことも多かったはずです。諸官がそれを乗り越え、この日を迎えることができたのは、隣にいる仲間の存在があったからだと思います。

 「自衛隊は人の組織であり、人の絆は一番重要な戦力である」部下は上司を信頼し、上司は部下を信頼する。それぞれの持ち場で、そうした絆をしっかり深めていってください。さらに、国民との絆、同盟国や友好国との絆も、大切にしてください。

 御家族や関係者の皆様。卒業生諸官は、凛々(りり)しく、頼もしい姿に成長しました。皆様の御支援に、心より御礼を申し上げます。彼らが、万全の環境で任務に当たることができるよう、自衛隊の最高指揮官(注)として、全力を尽くすことをお約束いたします。

 最後になりますが、教職員の皆さん、学生に対する日々の熱心な指導、誠にありがとうございます。

 特に、國分(こくぶん)学校長におかれては、9年間にわたり学生の教育に情熱を注いでこられました。愛情にあふれ、魂のこもった学校長の指導は、教え子たちの大きな指針となり、人生の糧となっているに違いありません。これまでの御尽力に、改めて感謝を申し上げます。

 卒業生諸官の今後の大いなる活躍と、防衛大学校の一層の発展を祈念し、私の訓示といたします。


令和3年3月21日

自衛隊最高指揮官(注)

内閣総理大臣 菅 義偉


(注)「最高司令官」と発言しましたが、正しくは「最高指揮官」です。