[文書名] 岸田総理によるIndian Express紙への寄稿文
本日、私は総理大臣就任後初めての二国間訪問先としてインドを訪れます。日本とインドは、長い交流の歴史を通じて共有してきた、自由・民主主義・人権・法の支配といった普遍的な価値で結ばれ、戦略的利益を共有する「特別戦略的グローバル・パートナー」です。今回、日印国交樹立70周年という節目に、日本の総理大臣として4年半ぶりにインドを訪れ、躍動するインドを体感できることを心から楽しみにしています。
私は、昨年10月に総理大臣に就任して以降、新型コロナウイルスに打ち克(か)つべく全身全霊で取り組むと共に、経済を再生させるために、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現に向けて取り組んできています。中でも成長戦略においては、「デジタル」、「気候変動」、「経済安全保障」といった課題の解決を図ることを重視しています。国際保健危機に際して「一大生産拠点」として貢献しながら、「太陽光同盟」など脱炭素化の取組をリードし、「アーダール」を始めとするデジタル社会の先進的な取組や、サプライチェーンの強靱化(きょうじんか)を含む、経済安全保障の取組を進めているインドこそ、「新しい資本主義」の実現に向けたベストパートナーです。こうした思いで、私は総理に就任して以降、できるだけ早くインドを訪問したいと思っていました。
今日、国際社会は国際秩序の根幹を揺るがす事態に直面しています。ロシアによるウクライナ侵略は明確な国際法違反であるとともに、力による一方的な現状変更の試みであり、断じて認めることはできません。国際秩序の中核的な原則を守り抜くことは、急速に厳しさを増すインド太平洋の外交・安全保障の観点からも不可欠です。日本は、国際社会と結束して、毅然(きぜん)と行動していきます。私やモディ首相も参加した先日の日米豪印首脳テレビ会議においても、このような力による一方的な現状変更をインド太平洋地域においても許してはならないこと、こうした状況だからこそ「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を一層推進していくことが重要であることで一致したところです。
このような中、いかにして国際秩序の根幹を守っていくのか。コロナ後を見据えて、いかに強靱なサプライチェーンを構築し、経済を活性化していくか。急速に変化する現実に即して国際機関をどう改革していくか。サイバーや気候変動といった新たな国際課題にどう対処できるか。今回の訪問において、モディ首相との間で、これらの課題に関する議論を深めるとともに、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンをいかに具現化していくか、率直な意見交換を行うことを楽しみにしています。
日印が国交を樹立してから70年後の今日、インドには日本がODA(政府開発援助)を通じて支援したメトロが走り、日本企業が作った車が走り、今後高速鉄道も走ります。現在コロナで困難な状況は続いていますが、両国の国民レベルの交流も進んでいます。さらに近年では、日本の自衛隊とインド軍による共同訓練など、安全保障分野での協力も著しく進展しています。基本的価値を共有する日米豪印の4カ国の協力も急速に発展しており、今後、モディ首相の参加も得て、首脳会合を開催すべく調整をしています。日印関係は「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」という名が示すように、文明的な絆(きずな)、固い友情、共通の普遍的価値に基づいた、包括的で重層的な関係へと発展してきました。今回の私のインド訪問が日印関係に新たなページを刻み、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の一層の深化へとつながることを、心から願ってやみません。インドの皆様にお会いするのを楽しみにしております。