データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] シャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)における岸田総理基調講演

[場所] 
[年月日] 2022年6月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 リー・シェンロン首相、ジョン・チップマン所長、ご出席の皆さん、長い歴史と高い名声を誇るこのシャングリラ・ダイアローグの場で、基調演説を行うことを、大変光栄に思います。

 本日は、ここにお集まりの皆さんと、現下の国際社会が直面する厳しい状況について認識を共有するとともに、我々が目指すべき未来の姿について展望したいと思います。

 そうした議論を展開するのに、このシャングリラ・ダイアローグほど相応しい場所はありません。まさに、アジアは、世界経済の35パーセント近くを占め、拡大を続ける世界経済の中心であり、一体性と中心性を掲げるASEANを核に、多様性と包摂性のある成長を続けているからです。

 今、ロシアによるウクライナ侵略により国際秩序の根幹が揺らぎ、国際社会は歴史の岐路に立っています。

 国際社会が、前回大きな転換期を迎えたのは、約30年前のことでした。

 世界が2つに分断され、両陣営の冷たい対立が再び熱を帯びてしまう可能性に人々がおびえ続けた「冷戦」が終わりを告げ、「冷戦後」の時代が始まった頃でした。

 私の故郷、広島の先輩であり、私の属する政治集団「宏池会」の先輩リーダーである、宮澤喜一元総理は、「冷戦後の時代」について、日本の国会での演説で「新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まりと認識したい」と述べました。宮澤元総理は、我が国が安全保障分野で国際的に一層の役割を果たすことが求められている現実を直視し、大変な議論の末に、PKO協力法を成立させ、同法に基づき自衛隊をカンボジアに派遣しました。

 宮澤元総理の時代から約30年。今、我々はどのような時代に生きているのでしょうか。

 パンデミックが起きて以降、世界は不確実性を一層増していきました。経済的な混乱が続く中、私たちは、信頼できる安全なサプライチェーンの重要性を認識するようになりました。

 そして、世界がパンデミックから立ち直ろうとしている最中、ロシアによるウクライナへの侵略が起きました。これは、世界のいかなる国・地域にとっても、決して「対岸の火事」ではありません。本日ここにお集まりの全ての方々、国々が「我が事」として受け止めるべき、国際秩序の根幹を揺るがす事態です。

 南シナ海において、「ルール」は果たして守られているでしょうか。長年にわたる対話と努力の末に皆が合意した国連海洋法条約を始めとする国際法、そして、この条約の下の仲裁裁判の判断が守られていません。

 そして、我が国が位置する東シナ海でも、国際法に従わず、力を背景とした一方的な現状変更の試みが続いており、我が国は断固とした態度で立ち向かっています。

 この2つの海の間に位置する台湾海峡の平和と安定も、極めて重要です。

 残念ながら、人々の多様性や自由意志、人権を尊重しない動きも、その多くがこれらの地域で起こっています。

 さらに、北朝鮮は、今年に入ってから、新型ICBMを含め、かつてない頻度で、かつ新たな態様での発射を繰り返すなど、安保理決議に違反して核・ミサイル活動を強化しており、これは国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦です。先日の安保理決議が拒否権により採択されなかったのは極めて残念です。私の政権が最重要課題としている北朝鮮による拉致問題も、重大な人権侵害です。

 こうしたさまざまな問題の根本には、国際関係における普遍的なルールへの信頼が揺らいでいる状況があるのです。これが本質的かつ最も重大な問題です。

 我々が努力と対話と合意によって築き上げてきたルールに基づく国際秩序が守られ、平和と繁栄の歩みを継続できるか。あるいは、「ルール」は無視され、破られ、力による一方的な現状変更が堂々とまかり通る、強い国が弱い国を軍事的・経済的に威圧する、そんな弱肉強食の世界に戻ってしまうのか。それが、我々が選択を迫られている現実です。

 世界第三位の経済大国であり、そして、この地域で戦後一貫して平和と繁栄を追求し、経済面を中心に貢献してきた、日本。その日本が果たすべき責任は大きい。

 そうした認識の下、歴史の岐路に直面する我々の平和を実現するために、日本が果たすべき役割とは何なのか。

 誰もが尊重し、守るべき普遍的価値を重視しながら、「核兵器のない世界」を目指す、といった未来への理想の旗をしっかりと掲げつつ、しかし、時にはしたたかに、果断に対応する。私はこうした徹底的な現実主義を貫く「新時代リアリズム外交」を掲げています。

 その中でも、日本は、謙虚さ、多様性を重視する柔軟性、相手方の主体性を尊重する寛容さ、を失うことはありません。しかし、日本、アジア、世界に迫り来る挑戦・危機には、これまで以上に積極的に取り組みます。

 そのような観点から、私は、この地域の平和秩序を維持、強化していくため、次の5本柱からなる「平和のための岸田ビジョン(Kishida Vision for Peace)」を進め、日本の外交・安全保障面での役割を強化してまいります。

 第1が、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化です。特に、「自由で開かれたインド太平洋」の新たな展開を進めます。

 第2が、安全保障の強化です。日本の防衛力の抜本的強化、及び、日米同盟、有志国との安全保障協力の強化を車の両輪として進めます。

 第3が、「核兵器のない世界」に向けた現実的な取組の推進です。

 第4が、国連安保理改革を始めとした国連の機能強化です。

 第5が、経済安全保障など新しい分野での国際的な連携の強化です。

 国際社会を平和に導くために、我々は、第1に、「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序」の維持・強化を進めていく必要があります。

 そのような秩序を支える基盤が、「法の支配」です。また、「紛争の平和的解決」であり、「武力の不行使」であり、「主権の尊重」です。

 さらに、海に目を転じれば「航行の自由」であり、経済に目を転じれば「自由貿易」です。

 当然、「人権の尊重」も重要であり、人々の自由意志と多様性が反映される民主的な政治体制も重要です。

 これらは、世界の全ての人々が、国際社会の平和を希求し、叡智を結集して紡ぎ出した、共通で普遍的なものなのです。今申し上げたルールや原則が、国連憲章の目的と原則にも合致していることは、言うまでもありません。

 ルールは守られなければなりません。自らに都合が悪くなったとしても、あたかもそれがないかのように振る舞うことは許されません。一方的に変更することも許されません。変更したいのであれば新たな合意が必要です。

 我が国は、この地域におけるルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け、「自由で開かれたインド太平洋」を進めてまいりました。そして、この我が国が提唱したビジョンは、国際社会において幅広い支持を得るようになりました。

 我が国は、ASEANが自らの基本方針として示した「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を一貫して強く支持しています。

 世界を見渡せば、米国、豪州、インド、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、そしてEUといった様々なアクターが、インド太平洋へのビジョンを打ち出しています。

 志を同じくする国々が、大きなビジョンを共有した上で、誰かの押しつけではなく、自らの意思で、それぞれの取組を進める。それこそが、包摂性、インクルーシブネス、を基本とする、FOIPの考え方なのです。

 特に、ここインド太平洋においては、ASEANとの協働が不可欠です。

 私も、総理就任後、最初に、本年のアセアン議長国を務めるカンボジアを、その後、インドネシア、ベトナム、タイを訪問し、本日は、ここシンガポールにやってまいりました。ASEAN各国首脳との会談も積み重ねてまいりました。

 我が国と東南アジアの歴史は、長きにわたる善意と友好に支えられています。戦後、我が国は東南アジアの発展を支援し、そして、東南アジアも、我が国が未曾有の震災に見舞われた時に、その復興に手を差し伸べてくれました。

 今後もASEAN各国首脳との間で、手を携えて、この地域の平和と繁栄を確保していくための方策について議論を深めていきたいと思います。

 また、ASEAN諸国と並んで太平洋の島国の皆さんもFOIPの実現のための大切なパートナーです。彼らの存立にかかる気候変動問題への対応を始めとして持続可能で強靱な経済発展の基盤強化に貢献します。日米豪が連携した海底ケーブル敷設など、近年の安全保障環境の変化に応じたタイムリーな支援を実施してきています。法の支配に基づく持続可能な海洋秩序の確保に向け、太平洋島嶼国の皆さんと共に歩んでいきます。

 FOIPに基づく協力。それは、永年に亘る信頼に立脚した協力です。インフラ建設といったハード面にとどまらず、現地の人材を育て、自律的かつ包摂的発展を促す支援や、投資のパートナーとして官民挙げた産業育成などが中心でした。ASEANの連結性強化の取組も支援してきました。

 有志国が連携してこの地域にリソースの投入を増やしていく必要があります。先程述べたASEAN、太平洋島嶼国といった仲間に加えて、FOIPの推進に重要な役割を果たす日米豪印、クアッド。先般のクアッド東京サミットでは、インド太平洋地域の生産性と繁栄の促進のために不可欠なインフラ協力について、今後5年間で500億ドル以上の更なる支援・投資の実施を目指すことを確認しました。

 私は、このような取組をさらに加速してまいります。ODAを通じた国際協力を適正・効率的かつ戦略的に活用しつつ、ODAを拡充するなど、外交的取組を強化し、従来のFOIP協力を拡充します。巡視艇供与や海上法執行能力強化、サイバー・セキュリティ、デジタル、グリーン、経済安全保障といった分野にも重点をおきつつ、FOIPというビジョンを更に推進していくための我が国の取組を強化する「平和のための『自由で開かれたインド太平洋』プラン」を来年春までに、お示しすることを表明します。

 中でも、近年、日本は、衛星、人工知能、無人航空機等の先端技術も活用しながら、海洋安保の取組を強化しており、各国との知見・経験を共有していきます。この観点から、今後3年間で、20か国以上に対し海上法執行能力強化に貢献する技術協力及び研修等を通じ、800人以上の海上安保分野の人材育成・人材ネットワークの強化の取組を推進していきます。

 さらに、インド太平洋諸国に対し、今後3年間で少なくとも約20億ドルの巡視船を含む海上安保設備の供与や海上輸送インフラの支援を行うことをここに表明します。クアッドや国際機関等の枠組も活用しながら、各国への支援を強化していきます。

 加えて、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序を維持・強化するため、国と国・人と人との繋がりやネットワーク作りを強化していきます。そのため、今後3年間で法の支配やガバナンス分野における1,500人以上の人材育成を行ってまいります。

 第2に、安全保障面での日本が果たすべき役割についてお話ししたいと思います。

ロシアによるウクライナ侵略を目の当たりにし、世界各国の安全保障観が大きく変容しました。ドイツは、安全保障政策を転換し、防衛予算をGDP比2パーセントに引き上げることを表明しました。ロシアの隣国であるフィンランドやスウェーデンは、伝統的な中立政策を転換し、NATO加盟申請を表明しました。

 私自身、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」という強い危機感を抱いています。我が国も対露外交を転換するという決断を行い、国際社会と結束して、強力な対露制裁やウクライナ支援に取り組んでいます。平和国家である日本の総理大臣として、私には、日本国民の生命と財産を守り抜き、地域の平和秩序に貢献する責務があります。

私は対立を求めず、対話による安定した国際秩序の構築を追求します。しかし、それと同時に、ルールを守らず、他国の平和と安全を武力や威嚇によって踏みにじる者が現れる事態には備えなければなりません。

 そうした事態を防ぎ、自らを守る手段として、抑止力と対処力を強化することが必要です。これは、日本自身が、新たな時代を生き抜く術を身につけ、日本が平和の旗手として発言し続ける上では不可欠です。

 日本を取り巻く安全保障環境が一段と厳しさを増す中、本年末までに新たな国家安全保障戦略を策定します。日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意です。

 その際、いわゆる「反撃能力」を含め、あらゆる選択肢を排除せず、国民の命と暮らしを守るために何が必要か、現実的に検討してまいります。皆様には、日本の平和国家としての在り方は不変と強調します。我が国の取組は、憲法・国際法の範囲内で、日米同盟の基本的役割分担を変更しない形で進めていきます。各国にも、引き続き、透明性をもって、丁寧に説明してまいります。

 いずれの国もその国の安全を1か国だけで守ることはできません。だからこそ、私は、日米同盟を基軸としつつ、普遍的価値を共有する有志国との多層的な安全保障協力を進めてまいります。

 先般日本を訪問されたバイデン米国大統領との会談において、防衛力に関する私の決意に対する強い支持を得ました。日米の安全保障・防衛協力を拡大・深化させていく、この点でも一致しました。

 インド太平洋を超え世界の平和と安定の礎となった日米同盟の抑止力と対処力を一層強化していきます。

 同時に、豪州や有志国との安全保障協力も積極的に進めていきます。

 リー・シェンロン首相、貴国、シンガポールとの間で、防衛装備品・技術移転協定の締結に向けた交渉を開始することを大変嬉(うれ)しく思います。引き続き、ASEAN各国との間で、防衛装備品・技術移転協定の締結を進めるとともに、ニーズに応じた具体的な協力案件を実現してまいります。

 円滑化協定、RAAについては、1月の豪州との協定の署名に続き、先般、英国との間で大枠合意に達しました。欧州、アジアの同志国との協定締結にむけて、関係国と緊密に連携していきます。

 また、自由で開かれた海洋秩序の実現に貢献すべく、日本は、海上自衛隊の護衛艦「いずも」などを中心とした部隊を6月13日からインド太平洋方面に派遣し、東南アジアや太平洋諸国を含む地域の国々との共同訓練などを行います。

 第3に、「核兵器のない世界」の実現に向けても全力で取り組んでまいります。

 ウクライナ危機の中で、ロシアによる核兵器の使用が現実の問題として議論されています。核兵器による惨禍を繰り返してはならない、核兵器による威嚇も使用もあってはならない。唯一の戦争被爆国の総理大臣として、このことを強く訴えます。

 今回のロシアによる核兵器の脅しの問題は、それだけには止まりません。既に核不拡散体制に深刻なダメージを与えてしまったのではないか。核開発を進める国に核を放棄させることを一層困難にしたのではないか。さらには、核兵器を開発、保有しようという動きが他の国にも拡がるのではないか。様々な懸念が示されています。

 ウクライナ危機以前から、北朝鮮は、ICBM級を含む弾道ミサイル発射を頻繁に繰り返しており、近く核実験を行うのではないかと深刻に懸念しています。

 我が国の周辺で見られる、核戦力を含む軍事力の不透明な形での増強は、地域の安全保障上の強い懸念となっています。

 イランの核合意遵守への復帰も未だ実現していません。

 「核兵器のない世界」への道のりは、一層厳しくなっているといわざるを得ません。しかしながら、こうした厳しい現状だからこそ、私は、被爆地広島出身の総理大臣として、「核兵器のない世界」に向けて声を上げ、汗をかき、この現状を反転し、少しでも改善するべく行動をしてまいります。

 我が国を取り巻く厳しい安全保障環境という「現実」を直視し、国の安全保障を確保しつつ、同時に、「核兵器のない世界」という「理想」に近づいていくことは決して矛盾するものではありません。我が国は、「現実」と「理想」を結びつけるロードマップを示しながら、唯一の同盟国である米国との信頼関係を基礎として、現実的な核軍縮の取組を進めてまいります。

 このような取組の基礎となるのが核戦力の透明性向上です。核軍縮の不可逆性と検証可能性を下支えし、核兵器国間、核兵器国・非核兵器国間の信頼関係を構築するための第一歩となります。一部に不透明な形で核戦力の増強を進める動きも見られる中、全ての核兵器国に対して、核戦力の情報開示を求めてまいります。

 また、米中二国間で核軍縮・軍備管理に関する対話を行うことを関係各国と共に後押ししてまいります。

 さらに、最近忘れられた感すらあるCTBT(包括的核実験禁止条約)やFMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の議論を、今一度呼び戻すことも重要です。

 国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石であるNPTを維持・強化していくことが、今まで以上に求められています。核兵器国、非核兵器国の双方が参加する、8月のNPT運用検討会議が意義ある成果を収めるよう全力を尽くします。

 核兵器の使用がまさに現実の問題となる中、核兵器の使用がもたらす惨禍、その非人道性を改めて世界に訴えていくことも重要です。唯一の戦争被爆国である日本から、来る「核兵器の人道的影響に関する会議」を含め、あらゆる機会を捉えて、被爆の実相を世界に発信してまいります。

 さらに、私が外相当時設置した「賢人会議」の議論を発展させ、国際的な核軍縮の機運をもう一度盛り上げるべく、各国の現・元政治リーダーの関与も得ながら、「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」を立ち上げ、本年中を目標に、第1回会合を広島で開催します。

 北朝鮮については、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化の実現に向け、日米韓で地域の安全保障、国連での議論、外交的取組などで緊密に連携し、国際社会と協力して取り組んでまいります。

 こうした取組を積み重ね、「核兵器のない世界」に向け、一歩一歩近づけるよう努力してまいります。

 第4に、平和の番人たるべき国連の改革も待ったなしの課題です。

 国際社会の平和と安全の維持に大きな責任を持つ安保理の常任理事国であるロシアが、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙に出たことにより、国連は試練の時を迎えています。

 国連を重視する日本の立場に変わりはありません。私自身、外相時代から、国連改革に向け積極的に取り組んでまいりました。総理就任以降も、首脳外交の機会も活用して、各国のリーダーとの間で、国連の機能強化に向けた方策について議論を重ねてまいりました。

 各国の複雑な利害が絡み合う改革は簡単ではありませんが、日本は平和国家として、国連安保理改革を含む国連の機能強化に向けた議論を主導してまいります。日本が来年から安保理入りすることが決まりました。安保理の中でも汗をかいていきます。同時に、国際社会の新たな課題に対応したグローバルガバナンスの在り方についても模索してまいります。

 最後に、経済安全保障など新しい分野での国際的連携についてです。

 未曾有のパンデミックの中、世界のサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。他国に自国の一方的な主張を押し付けるために不当な経済的圧力をかける。意図的に偽の情報を流布する。こうしたことも認められてはなりません。

 我々はウクライナ侵略により、一層自明かつ生活に直結する喫緊の課題として、我々自身の経済の強靭性を高めなければならないことを認識するようになりました。

 経済が国家の安全に直結し、サイバー・セキュリティ、デジタル化などの分野の国家安全保障上の重要性が高まっていることも踏まえ、国家及び国民の安全を経済面から確保する観点から、経済安全保障の取組を推進します。

 日本国内ではこの課題に取り組むため、岸田内閣の下、経済安保推進法を制定しました。

 しかし、この取組は日本だけでできるものではありません。G7といった同志国の枠組みを含め国際連携が不可欠です。

 我が国とASEANは、かねてより、重層的なサプライチェーンを構築してきました。今後も、こうしたサプライチェーンの維持・強化に向け、官民が投資を行っていくことが大切です。このため、我が国は、今後5年間で100件を超えるサプライチェーン強靭化プロジェクトを支援してまいります。

 また、経済的な発展を含め、国際社会における地位が向上したならば、恩恵だけを享受するのでなく、その地位に見合った責任や義務を果たすことも重要です。経済協力や融資についても透明性を確保し、被援助国の国民の長期的な幸せにつながるものであるべきです。

 我々は、引き続き、人間の安全保障の考えに基づき、各国の主体性と各国民の利益を尊重した経済協力を進めていきます。この困難な時代において、繁栄を実現するためには、ASEANが、インド太平洋地域が、世界の成長エンジンであり続ける必要があります。大きく困難な挑戦に直面しようともそれを乗り越える強靱な国づくりに日本は貢献していきます。

 皆さん、改めて我々の未来を思い浮かべてください。

 今日、私が皆さんと共有したビジョン、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の構築に向け、皆で取り組む。「自由で開かれたインド太平洋」を次のステージに引き上げていく。

 そうすれば、平和と繁栄を享受する未来が、希望に満ちた、互いを信頼しあい、共感しあえる明るく輝かしい世界が必ず待っている。私は、そう信じています。

 ありがとうございました。