[文書名] 岸田総理によるクメール・タイムズ紙への寄稿文
本日から、私はASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議出席のため、プノンペンを訪問します。新型コロナウイルス感染症パンデミックを経て、実に3年ぶりのASEAN関連首脳会議の対面開催です。日本の総理大臣として、本年3月に続き、再度カンボジアを訪問できること、そして、本会議に出席し、参加国の首脳と直接議論できることを非常に嬉(うれ)しく思います。
これら一連の首脳会議が、本日こうして開催の日を迎えられたことは、ASEAN議長国であるカンボジアの多大なる尽力によるものです。フン・セン首相の下、議長国として、ASEAN諸国のみならず域外の関係国とも連携・調整し、参加国のリーダーが一堂に会して国際社会の喫緊の課題を議論する場を用意してくださいました。また、悪化するミャンマー情勢の打開に向けてASEAN議長国として主導的役割を果たすなど、大きな貢献がありました。私は、フン・セン首相を始めとする政府関係者、全てのカンボジアの人々の御配慮に敬意を表します。日カンボジア外交関係樹立70周年に当たる来年に向けて、こうした地域・国際情勢への対応に加え、カンボジアとの2国間の協力・連携を一層強化していく考えです。
来年は、日本とカンボジアにとって節目を迎えるだけでなく、日本とASEANにとっても極めて重要な年です。よく知られたとおり、日本はASEANの最も古い友人ですが、来年ついに日本ASEAN友好協力50周年を迎えます。半世紀に亘(わた)る協力の歴史を振り返ったとき、私は、この期間にASEAN諸国が成し遂げた発展への感嘆の念を新たにするとともに、日本がASEAN諸国と共に、その発展と統合の道のりを歩み続けてきたことを誇りに思います。日本が長年支援してきたASEANの取組の1つに、後発加盟国の若手外交官及び行政官の育成を目的としたアタッチメント・プログラムがありますが、その卒業生の多くが、各国政府の中心で活躍している姿を見ると、大変嬉しく、そして心強く感じます。
ASEAN諸国の飛躍的な発展にも後押しされ、今や我々の地域は世界経済の35パーセント近くを占め、拡大を続ける世界経済の中心になりました。この地域が、一体性と中心性を掲げるASEANを核に、多様性と包摂性のある成長を続け、世界経済を牽引(けんいん)することが期待されています。いわば、我々が共に、これからの「インド太平洋の時代」を築き上げていくことが重要になっています。
その一方、残念ながら、国際社会が非常に厳しい歴史の岐路に立たされていることも事実です。ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす事態であり、中でも、ロシアがウクライナにおける核兵器の使用を示唆していることは極めて憂慮すべき事態です。核による威嚇は全く受け入れられませんし、ましてや、その使用は決してあってはなりません。
さらに、インド太平洋地域に目を向ければ、北朝鮮による活発な核・ミサイル活動、力を背景とした一方的な現状変更の試みや経済的威圧など、多面的な挑戦に直面しています。
このように、我々は、世界経済を牽引する役割を担う一方で、非常に厳しい国際情勢に立ち向かい、同時に、地域が抱える様々な課題に取り組む立場に置かれています。こうしたかつてない歴史の分岐点において、我々が共に追求すべきは、これまでの我々の経済の成長と豊かな暮らしを支えてきた、法の支配に基づく国際秩序を守り抜き、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現することです。FOIPは日本が推進してきたビジョンであり、国際社会から幅広い支持・賛同を集めてきました。しかしその中でも、ASEAN諸国との協力は要です。ASEANも、独自の「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を打ち出しましたが、AOIPとFOIPは基本的な考え方を共有しており、協力していくべき関係にあります。日本のためにも、ASEAN諸国のためにも、そして広く国際社会のためにも、日本はASEAN諸国との協力を更に強化していきます。具体的には、海上交通安全等の海洋協力、質の高いインフラ投資等の連結性支援、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを始めとした保健、気候変動対策、防災分野等のSDGs(持続可能な開発目標)に資する協力に加え、経済面においても、サプライチェーン強靱(きょうじん)化、我が国のデジタル田園都市国家構想とも共通するスマートシティの取組などデジタル技術を活用した社会課題解決、食料・エネルギー安全保障の強化といった幅広い分野で、日ASEANの幅広い協力を一層強化していきます。
8月の日ASEAN外相会議においては、50周年のオフィシャル・ロゴマークとともに、キャッチフレーズ「輝ける友情、輝ける機会」が共同発表されました。長年の活発な人的交流と強い信頼関係に裏打ちされた日ASEAN関係は、このキャッチフレーズが表すとおり、輝かしい可能性に満ちています。来年、日本ASEAN友好協力50周年という節目の年、フン・セン首相を始めとするASEAN各国の首脳を日本にお迎えし、特別首脳会議において新たな日ASEAN協力のビジョンを打ち出せることを、心から楽しみにしています。