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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「核兵器のない世界」のための国際賢人会議第1回会合 開会セッションにおける岸田内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 2022年12月10日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

「核兵器のない世界」のための国際賢人会議第1回会合 開会セッションにおける岸田内閣総理大臣挨拶

 本日、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議第1回会合のためにお集まりいただいた皆様に感謝します。皆様を私の地元広島でお迎えでき大変嬉しく思います。

 たとえ困難であっても、「核兵器のない世界」への道のりを歩まなければならない。これは広島、長崎のみならず唯一の戦争被爆国たる日本の、そして、来年5月に、ここ広島で開催されるG7サミットで議長を務めるに当たっての、私の、そして日本の強い思いです。

 ポスト冷戦期は終わりを迎え、私たちは、今、歴史の岐路に立っています。世界の安全保障環境は一層厳しさを増しており、核兵器使用の脅威は冷戦下の最盛期以来かつてないほど高まっています。ロシアによるウクライナ侵略における核の威嚇は断じて受け入れることはできず、ましてや、その使用は決してあってはなりません。また、北朝鮮が再度核実験などを行う可能性も指摘されています。

 核軍縮を巡る厳しい現実の壁は、依然として、いや、それどころか以前にも増して更に高く大きく、我々の前に立ちはだかっています。国際安全保障環境の複雑化や新興技術の急速な進展と相俟って、このテーマを巡る立場や考え方の分断は益々顕著になっています。対話の道筋も見えていません。

 私は総理就任後も、このような厳しい現実の中で、核軍縮のための国際的な機運を今一度高めるための取組を続けてきました。本年8月には、NPTの維持・強化が唯一の現実的な道筋であるとの信念の下、日本の総理として初めてNPT運用検討会議に出席し、「ヒロシマ・アクション・プラン」を訴えました。スラウビネン議長の懸命なご采配にもかかわらず、会議は残念ながら我々が望んだ成果には至りませんでしたが、締約国間の真剣な議論を経て作成された最終成果文書案は、今後、国際社会が核軍縮を進めていく上で土台の一つになるものと考えています。

 我々はここで立ちすくむことは許されません。日本として、来年のG7広島サミットも念頭に、「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って現実的かつ実践的な歩みを進めていく考えです。

 私は、かつて外務大臣時代、核兵器国・非核兵器国を含む様々な立場の有識者の参加を得て「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」を開催し、核軍縮を実現する上で直視すべき課題の抽出、その解決に向けて各国政府・市民社会がとるべき措置、そして、礼節を持った議論の重要性などについて、貴重な提言を頂きました。

 この度の国際賢人会議は、厳しさを増す昨今の状況の中にあっても理想に向かって進むことができる強固な基盤を今一度打ち立てることができるよう、長年の経験や重責に裏打ちされた深い洞察と大きな影響力を持つ世界の政治指導者の協力を得ています。オバマ元米国大統領を始めとする多くの政治リーダーからビデオメッセージが寄せられています。心からの感謝を申し上げます。

 また、核軍縮分野において、深い造詣や未来を見通す叡智と共に強い情熱をもって取り組んでおられる15名の皆様に、国際賢人会議委員としてご参加いただいています。皆様に心からの感謝を申し上げます。特に、白石教授には前回会議に引き続き座長に就任いただき、感謝いたします。

 皆様には自由で忌憚のない議論を期待します。核兵器国と非核兵器国の双方が参加するNPTの維持・強化や、2026年開催予定の第11回NPT運用検討会議も念頭に、厳しい現実を踏まえながらも、理想に近づいていくために各国政府や市民社会、そして国際社会全体として何をどう考え、どう動いていくべきか、具体的な方策と共に示していただきたいと考えます。

 本日の第1回会合が「核兵器のない世界」に向けた国際的な機運を高め、理想に向かいたゆまぬ努力を積み重ねていく上での重要な一歩となることを切に願っています。私も、厳しい現実を理想に結びつけていく道筋を見出すための松明を強く、高く、皆様と共に掲げ続けていくことを改めてお誓い申し上げ、ご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。