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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院における岸田総理スピーチ

[場所] 
[年月日] 2023年1月13日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 ケント・カルダー・ライシャワー東アジア研究所所長、そして御列席の皆様、日本の総理大臣の岸田文雄です。

 本日は、このように皆様の前で講演をさせていただく機会を頂きました。先ほどカルダー所長にお伺いしますと、日本の総理大臣でSAIS(ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院)で講演したのは40年ぶりということであります。今日は日米議員連盟の会長の中曽根元外務大臣もお越しですが、中曽根先生のお父様、中曽根(元)総理が40年前に講演された以来、40年ぶりに日本の総理大臣がSAISで講演させていただく、こうした光栄な機会を頂いたということで心から厚く御礼申し上げます。

 そしてまず、スタインバーグ院長とカルダー所長のこれまでの日米関係の発展への多大なる御貢献に感謝を表明させていただきます。また、伝統あるジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院、SAISで講演させていただくことを大変光栄に感ずるとともに、自分がSAISで講演を行うということに私自身大変感慨深いものを感じております。

 と申しますのも、本大学院で日本研究が行われている東アジア研究所にその名を冠した故エドウィン・ライシャワー元駐日大使は、1961年の日本赴任以来、その時の総理大臣である故池田勇人(いけだ はやと)元総理、また時の外務大臣であった大平正芳(おおひら まさよし)元外務大臣を始めとする様々な政財界人たちと付き合い、そして交流を続けてこられました。日本の政財界には故ライシャワー元大使の影響を受けた人たちが数多くいます。その故ライシャワー元大使の名を冠する研究所を有するここSAISで講演することができ、身の引き締まる思いをしているということでございます。

 1961年、私はまだ4才の子供でした。それから2年後から数年間、私はニューヨークにおいて家族と共に住むこととになります。まさかその60年後、自分自身がこうして日本の総理大臣として、ライシャワー博士のお膝元でスピーチをすることになるとは思ってもおりませんでした。また同じ60年前、こんなにも多くのアメリカ人が、寿司(すし)やカラオケをベルトウェイの内側で楽しむ日が来るとは誰も想像していなかったと思います。他にも、アメリカ人が日本のアニメやマンガ、そして果てには、何と!日本の野球選手まで欲しがる日が来ようとは。そして日本酒。これが私にとっては一番重要ですが、ライシャワー博士もこの光景にはびっくりされておられるのではないかと思っております。

 さて、私が本日のスピーチで皆様に述べたいことが3つあります。

 まず第1に、国際社会は歴史的な転換点にあるということ。そして我々が奉じてきた自由で開かれた安定的な国際秩序は、今、重大な危機にさらされているということ。

 第2に、日本は、世界の平和と繁栄や自由で開かれた国際秩序を能動的に創り出していく決意であるということ。

 第3に、このような世界を作り出していく努力の中で、米国と日本は最も重要な同盟国、親友であり、我々の絆(きずな)を強めていく必要があるということ。

 私は、我々が協力すれば、より良い未来を我々の次の世代に必ずもたらすことができると確信しています。

 昨年、私は外交・安全保障政策で2つの大きな決断を行いました。

 1つは、ロシアによるウクライナ侵略に際しての対露政策の転換、そしてもう1つは、年末の国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画、これら3つの文書の策定による、戦後の日本の安全保障政策の転換です。

 いずれも、日本や世界の行方に重大な影響をもたらす大変重い決断ではありましたが、私はこれらの決断が日本と世界のために正しい決断であったと信じています。

 ロシアによるウクライナ侵略は、ポスト冷戦期の世界を完全に終わらせるものでありました。グローバリゼーションと相互依存のみによって国際社会の平和と発展が保証されないことが白日の下にさらされたのです。

 この侵略を目の当たりにして、私はこう考えました。

 これは歴史が変わる瞬間である。日本にとっても正念場、モーメント・オブ・トゥルースである。

 この侵略行為にいかに対応するかに、国際社会の将来がかかっている。この力による一方的な現状変更を許せば、アジアを始め世界のほかの場所でもこのようなことが行われてしまう。 我々の自由と民主主義を守るために、日本は行動すべきである。

 このように考えて、日本は、従来の対露政策を大転換し、厳しい対露制裁を導入することを決断しました。また、ウクライナへの人道支援でも先陣を切りました。日本はG7で唯一のアジアの国です。その日本が対露措置に加わったことは、ロシアによるウクライナ侵略との戦いは、大西洋世界のものからグローバルな性格なものに変わりました。その意味で、国際社会にとっても意義のある、重大な決断であったと考えています。

 昨年末に行った新たな国家安全保障戦略等三文書の策定を始めとする安全保障政策の大転換も、同じ世界観に基づくものです。国際社会で起こっている大きなパワーバランスの変化により、国家が再び激しく競争を繰り広げ、国際社会は、協調と分断が複雑に絡み合う時代に入ってきています。

 昨年は、1952年に日米安保条約が発効して70周年に当たる年でした。今、日米両国は東アジアやインド太平洋において、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。ロシアによるウクライナ侵略のみならず、日本の周辺国・地域においても、核・ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどが、一層顕著になっています。

 このような歴史の転換点、日本国家の危機に、私は総理大臣という立場にいます。私には、国家、国民を守り抜くという使命があります。私は、国際社会の平和と安全の確保に向けて外交力を強化するためにも、こうした決意を持って、まず自国の足下を固めるべく、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組を合わせ、GDP(国内総生産)の2パーセントまで予算水準を確保することや、反撃能力の保有、サイバー安全保障分野の対応能力の向上、南西地域の防衛態勢の強化など、戦後の安全保障政策を大きく転換する決断をいたしました。これは、米国、そして世界に対する日本の強い覚悟を明確に示すものです。

 特に、この決断は、東南アジア、太平洋、インド洋を含めたインド太平洋地域全体の安全保障にも裨益(ひえき)するものであります。

 日米同盟の強化にとっても、吉田茂元総理による日米安保条約の締結、岸信介元総理による安保条約の改定、安倍晋三元総理による平和安全法制の策定に続き、歴史上最も重要な決定の一つであると確信しています。戦後の日本の平和国家としての在り方はいささかも変わりはないということは、皆さんも御承知のとおりです。自由、あるいは民主主義という価値観は、日本人のアイデンティティの一部となっています。他国の犠牲の上にではなく、他国と共に繁栄していきたいという日本の外交政策の在り方も不変です。日本は世界の「モデル・シティズン」であり続けます。

 私は、昨年達成した成果に基づきながら、本年は一層外交を強化していきます。そして、この時代に何が求められているのか、最も現実的な判断を下し、「新時代リアリズム外交」を推進していく決意です。

 その上で、変わったことと変わらないことをつなぐのは、私が昨年12月16日の国家安全保障戦略策定に関する会見で述べた2つのこと、すなわち、外交には裏付けとなる防衛力が必要であり、防衛力の強化は外交における説得力にもつながるという現実的な考え方、そして、ウクライナ国民が今正に示している、国民一人一人が主体的に国を守るという意志の強さの大切さです。このように、日本は理想と現実を調和させる努力を常に続けながら、大きく進化しています。このような日本は、皆さんにとっても、より一層信頼のできるパートナーであると思っていただけるのではないでしょうか。

 次に、これからの課題について述べたいと思います。私が重要だと考えることは3つです。

 第1に、G7を中心とする同志国の結束の強化、第2に、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々との関係、そして第3に、日米両国にとっても、最も中心的な課題である、中国との関係であります。

 この3つの要素への対応は、移行期である現在の国際情勢の向こう側にある国際秩序の次の姿を描いていく上で必須であると考えています。

 分断と混迷を強める国際社会の中では、我々は誰であるのかということが重要になります。G7は共通の価値観に基づいた紐帯(ちゅうたい)であり、ロシアによるウクライナ侵略に際しては、最も効果的に機能したグループでした。国際平和の維持やエネルギーや食料という国際経済の危機、保健や気候変動というグローバルな課題の解決においては、我々がまずまとまる必要があります。特に、中国との関係をマネージしていく上では、日本、米国、欧州が1つにまとまることが絶対に必要です。日本が掲げている「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)という概念も、G7を始めとする多くの同志国の支持を得てきています。

 私は、本年5月に広島においてG7サミットを主催いたします。G7広島サミットでは、議長として、ロシアが行っている武力侵略も核兵器による威嚇も国際秩序の転覆の試みも、断固としてこれを拒否し、ウクライナを力強く支持していく、いかなる地域においても力による一方的な現状変更を認めない、そして法の支配や自由で開かれた国際秩序を守り抜いていくというG7の意志を、歴史に残る重みをもって示したいと考えています。

 また、唯一の戦争被爆国である日本として、また広島出身の総理大臣として、G7広島サミットでは、核兵器の惨禍を二度と起こさせてはならないという誓いを世界に示していきたい。そして、厳しい安全保障環境の中で、抑止を犠牲にすることなく、G7として現実的かつ実践的な取組を進めていくとの力強いメッセージを発信したいと考えています。そのためには、核軍縮の機運を再度高め、NPT(核兵器不拡散条約)体制の維持・強化を図ることが、唯一の現実的な道だと考えます。私は、昨年夏のNPT運用検討会議に日本の総理大臣として初めて出席し、「核兵器のない世界」という「理想」と「厳しい安全保障環境」という「現実」を結びつけるための現実的なロードマップの第一歩として「ヒロシマ・アクション・プラン」を発表しました。

 この問題の進展のためには、同盟国である米国との信頼関係が不可欠です。バイデン大統領ともしっかりと連帯していきます。

 いわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々との関係は、我々に重要な挑戦と機会を提供しています。今の移行期の後に現れる世界は、グローバリゼーションの時代に一般に信じられていたような、単一の価値観に収斂(しゅうれん)するという世界ではないでしょう。世界は多様であり、現実問題として、様々な特色を持った国のパワーが相対的に増してきています。彼らの多くは経済発展に自信を強めており、国際社会でのより大きな発言権を望んできています。彼らに対し我々の価値観をそのまま受け入れさせることはできないでしょう。他方で、彼ら自身も明確で統一されたビジョンを持っているわけではありません。我々は、我々の価値観により深くコミットするとともに、彼らに関与するに当たっては、先入観を排して謙虚になり、彼らの歴史的・文化的背景をしっかり理解する必要があります。その上で、国際社会が弱肉強食ではなく、力ではなくルールに基づき動かされていくべきとの原則の共有を図っていくことがますます重要になります。

 こうした認識の下、エネルギー、食料、気候変動、保健など、我々皆が協力しなくては解決できない深刻な問題について協力を進めていくとともに、発言力と責任のバランスがとられることが、次の国際秩序を創る上で不可欠となるでしょう。

 このような考えを持って、私は総理就任以来一貫して、グローバルサウスとの関係強化に臨んできました。いかに我々が正しいと信じる途を歩んでいても、国際社会の重要なポーションを占めるグローバルサウスから背を向けられるようでは、我々自身がマイノリティとなり、多くの政策課題の解決はおぼつかないことになってしまいます。

 中でも、東南アジアは日本にとって最も近く重要な仲間たちであり、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)と、「インド太平洋に関するASEAN・アウトルック」(AOIP)は共鳴しています。私は、近々、この FOIPのアップグレードを行います。また本年12月を目途に、東京で日ASEAN特別首脳会議を開催します。大きく変わる国際社会の中でも、日本と東南アジア諸国との関係がインド太平洋地域の平和と繁栄の中核的な要素であることを示していきたいと考えています。

 また、本年の G20議長であり、基本的価値や戦略的利益を共有するパートナーであるインドとの関係も重要です。中国を人口で抜くことが見込まれ、世界最大の民主主義国家であるインド。日印両国の間で築かれた「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を更に強化し、FOIPの実現に向けて引き続き連携していきます。

 さらに、南アジア、太平洋島嶼(とうしょ)国、アフリカ、中東、中南米、中央アジア・コーカサスといった地域との外交も強化していきます。

 この関連では、安保理改革を含む国連の機能強化も重要です。ロシアの暴挙により、現在、国連の信頼が危機に瀕(ひん)しています。日本は今月から2年間、安保理非常任理事国を務めます。バイデン大統領が国連の場で力強く発言をされた安保理改革の動きを具体化していくとともに、全ての国が代表される国連総会の更なる強化にも取り組んでいきます。

 次に中国です。中国と日本、中国と米国、中国と世界との間には、様々な可能性とともに数多くの懸案や課題があります。より根本的な問いかけは、中国が持っている国際秩序に関するビジョンや主張には我々と異なるものがあり、その中には我々が決して受け入れることができない要素があるということです。

 私は、国家安全保障戦略で、中国のもたらす挑戦は、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携により対応するべきものと位置付けました。

 我々は、中国に、確立された国際ルールを守り、これに反するような形で国際秩序を変えることはできず、またそのようなことはしないという戦略的な判断をしてもらう必要があります。そのための取組は息の長いものになるでしょう。その過程では、力による一方的な現状変更の試みは決して認めない、抑止力は強化していく、その上で、我々は中国と共にインド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定に貢献することを希望しており、共通の課題については協力していく。つまり、関係を平和裡(り)にマネージしていく必要があります。これが今の時代のステーツマンシップの成否を決める点であります。

 昨年11月、私は習近平国家主席と会談を行いました。その際には、尖閣諸島を含む東アジア、昨年8月の中国によるEEZ(排他的経済水域)を含む我が国近海への弾道ミサイル発射等の軍事活動について懸念を表明しました。中国との間では、首脳を始め、できるだけ高いレベルで言うべきことは言っていくことがますます重要になります。先ほど述べたように、国際秩序の在り方について、中国と共通の理解に至るためにも、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、建設的かつ安定的な関係の構築を、双方の努力で進めていきたいと思います。

 今申し上げたことの全てについて、日米同盟はアンカーとなります。米国の国家安全保障戦略は、米国の世界に対するリーダーシップとコミットメントを力強く示すものであり、心強く思っています。米国の世界、とりわけ国際政治での重要性を増しているインド太平洋地域へのコミットメント、これは不可欠です。我々が協力すれば成功すると確信しています。

 本日先ほど実施した日米首脳会談でも、バイデン大統領との間で、日米両国の国家安全保障戦略が軌を一にしていることを確認するとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の推進への強いコミットメントを改めて強調し、更に法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化するということで一致しました。

 我々はビジョンと戦略を示しました。今年ここから先は、外務・防衛「2+2」や昨年バイデン大統領との間で立ち上げた経済版「2+2」などの場でフォローアップを行い、実行に移し、実現していくフェーズに入ります。

 日本は米国との協力分野を一層広げ、強化していきたいと思っています。

 例えば、経済安全保障。我々のサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性が明らかになり、威圧的な国益追求などの新たな挑戦が顕在化しています。日米の連携を深める必要性は高まるばかりです。半導体やエネルギーなどの分野における協力も一つの重要な鍵となります。

 また、我々が直面する難しい課題を乗り越え、これからの世界の趨勢(すうせい)を方向付けていく最大の鍵となるのが科学技術です。今後、米国を始めとする同志国との連携として、国際共同研究及び若手研究者の人材育成を強化するための約500億円に及ぶ大型基金の創設、国際頭脳循環の中核的な拠点となる「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」の設立に取り組んでいきます。両国のすばらしい科学技術人材の相互交流と研究協力を通じて、次代のフロンティア開拓、新たな市場創出、そして時代を先導する価値創造につなげていきたいと思います。

 さらに、日米宇宙協力も重要です。「アルテミス計画」により新たな時代に突入した宇宙協力の推進を更に押し進めていきたいと考えます。

 そして強調したいのは、これらの日米協力のプロジェクト実現を支えるのが「人」だということです。我々の強固な同盟関係を支えるのは、両国国民間の友情です。学生、スポーツ選手、ビジネスマン、研究者、米軍人、日系人など日米の裾野は広いものがあります。少年時代からずっと長らく野球をしていた私は、大谷翔平選手や他のMLB(メジャーリーグベースボール)日本人選手の成功は、彼ら自身の努力のみによるものではないということを知っています。彼らの成功はまた、彼らのチームメイトたちの努力の結果でもあるのです。国と国との間も同じです。世界の平和と安定を確固たらしめるため、日本と米国のパートナーシップは欠くべからざるものです。今の混迷期を乗り越えて、次の世代がより明るい未来を享受できるよう、日米で協力してまいりましょう。同時に、バイデン大統領もリーダーシップを発揮しているクアッドを含めインド、豪州との協力も更に強化していきたいと思います。さらに、昨年初めてNATO(北大西洋条約機構)首脳会合に参加した日本の総理として、欧州との関係も一層強化していきます。また、前例のない頻度と態様での弾道ミサイル発射など、北朝鮮は安保理決議違反を繰り返しており、北朝鮮の核・ミサイル活動は国際社会の平和と安定に対する明白かつ深刻な脅威です。これらの脅威に直面する中、日米韓の安全保障面での連携は重要性を増しており、3か国間の安保協力を強化していきます。そして、拉致問題を一刻も早く解決する必要があります。日本と韓国との関係については皆さんも心配されているかもしれませんが、できる限り速やかに日韓二国間の懸案を解決し、日韓関係を健全な形に戻し、更に発展させていく所存です。

 その上で、米国にアクションをとっていただきたいことがあります。

 米国のインド太平洋地域への関与のためには、経済面、貿易面が戦略的に重要です。日本は米国の「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を歓迎いたします。日米でこれを成功させたいと思っています。

 しかし、地域の経済秩序の根幹を形成するのは、物品やサービスの市場アクセスを含む枠組みであると言わざるを得ません。アジア太平洋地域には、そのような枠組みとして、もともと米国が主導したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が、米国抜きで発足しています。そして、今、英国、中国、台湾などがTPPに加入の意思を示している状況において、米国が戻ってくること、このことが決定的に重要です。この地域に皆が繁栄を享受できる公平な経済秩序を構築していくためにはどうしたら良いのか、米国の皆さんと何ができるか、一緒に考えていきたいと思っています。

 最後になりますが、今年SAISは設立80周年を迎えられるとうかがいました。私も35年にわたり結婚生活を送ってきましたが、anniversaryを忘れることがいかにまずいことか、そしてそれがトラブルにつながる、しかも大きなトラブルの元になるか、身をもって学んできました。永い歴史を刻まれて、この記念すべき80周年を迎えられたことに心から祝意を申し上げます。

 国際社会が歴史的な転換点にある中、私は日本及び国際社会が直面する課題を解決していくべく、引き続き、力強く決断を下していきます。そして、日本として確固たる歩みで前進し、米国と共に、この歴史的転換点を乗り越え、「自由で開かれたインド太平洋」を実現していきたいと思っております。御清聴誠にありがとうございました。