[文書名] 岸田総理大臣のインド世界問題評議会における政策スピーチ
ジャイシャンカル外務大臣、そしてシンICWA(インド世界問題評議会)事務局長、御列席の皆様方、この地、インドで、「自由で開かれたインド太平洋」についてお話しするということは、私は運命的な巡り合わせを感じざるを得ません。皆さんも御存知のとおり、「自由で開かれたインド太平洋」、FOIPは、私の尊敬すべき友人でもあります安倍晋三元総理大臣が提唱されたものであります。
2007年に安倍元総理が、この地において、太平洋とインド洋を初めて結び付けるスピーチを行いました。インドはFOIPの始まりの地です。
私もまた、2015年に外務大臣として、この地を訪れ、本日と同じICWA主催の場で講演いたしました。そして、「インド太平洋の時代」において、日本とインドが共にこの地域と世界をけん引していきたいということについてお話いたしました。2016年には、安倍元総理が「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを提唱しました。それから7年、国際社会には、新型コロナのパンデミック、ロシアのウクライナ侵略など、パラダイムシフトと言うべき大きな出来事がありました。本日、私はFOIPのビジョンを更に発展させ、インド太平洋の未来のために日本がいかに取り組んでいくかについてお話ししたいと思います。
私が今回申し上げたいことは、以下の2点です。
まず第1には、なぜ今、FOIPを発展させる必要があるのか。それは、国際社会が歴史的な転換期にある今、FOIPが持つ考え方を再度明確化して、放置すれば分断と対立に向かいかねない国際社会が共有すべき考え方を提供したいということです。
第2に、FOIPの協力を拡充していくことです。ロシアのウクライナ侵略により、私たちは、平和を守るという最も根源的な課題を突き付けられています。また、気候・環境、国際保健、サイバー空間などの「国際公共財」に関連する様々な課題も一層深刻となっています。私は、こうした平和、そして地球規模の国際公共財に関わる諸課題への対処という新たな要素をFOIPに取り込んでいく考えです。また、従来FOIPが焦点を当ててきた連結性や海洋の自由という分野でも新たな取組を始めたいと考えています。
先ほども述べたように、国際社会は歴史的な転換期にあります。今、国際社会では、パワーバランスの大きな変化が起きています。インドの目覚ましい台頭もその1つです。私は、1月に米国で行ったスピーチで、いわゆる「グローバルサウス」と呼ばれる国々が成長し、世界がより多様化していく中で、彼らの歴史的・文化的背景をしっかりと理解する必要があることに触れつつ、グローバルガバナンスの責任の分担の在り方がますます重要な課題となっている旨述べました。
国際社会は、協調と分断が複雑に絡み合う時代に入ってきています。地政学的な競争、気候変動を始めとする地球規模の課題、科学技術の発展による国家、社会、個人への影響など、複合的な危機とでも言うべき様々な課題が絡み合う状況です。脆弱(ぜいじゃく)な国家ほど大きな犠牲を払い、翻弄されています。
今の転換期に特徴的なことは、国際秩序の在り方について、皆が受け入れられるような考え方が欠如していることだと思います。これを如実に示したのがロシアのウクライナ侵略に対する各国の態度に大きなばらつきが出たことです。これは、国際社会に「考え方」という一番基本的なレベルで強い遠心力が作用していることの表れだと思います。
このように、国際関係のパラダイムが変わり、次の時代の基調となる考え方が何かという点についてまとまりがない今の状況において、FOIPは実は妥当性を増しているビジョンです。その意味でFOIPは先見性のある概念であったとも言えます。
特に、国際社会における支持・賛同が広がる中、FOIPの考え方は、様々な声を受け入れて、柔軟な形で発展してきました。各国の声により育てられ、「Our FOIP」という特徴を持つこのビジョンは、国際社会を分断と対立ではなく協調に導くという目標に向けて、従来以上に重要になっていると思うのです。
今の転換期においても、FOIPの基本的な考え方は変わりません。インド太平洋地域の連結性を高め、力や威圧とは無縁で、自由と、法の支配等を重んじる場として育て、豊かにしていくというシンプルなものです。その上で、我々が再確認し、共有していくべき点は、FOIPの考え方の根底には、「自由」と「法の支配」の擁護があるということ。つまり、脆弱な国にこそ「法の支配」が必要であり、主権や領土の一体性の尊重、紛争の平和的な解決、武力の不行使など、国連憲章上の原則が守られていることが、国際社会で「自由」が享受される重要な前提と言えるということです。また、同じく重要なFOIPの理念は、「多様性」、「包摂性」、「開放性」の尊重です。誰も排除しない、陣営作りをしない、価値観を押し付けないということです。
これらを前提として、今後取るべきアプローチは、各国の歴史的・文化的多様性を尊重した「対話によるルール作り」であり、各国間の「イコールパートナーシップ」です。私は、これがFOIPの新たな中核的要素だと考えています。一極、二極、あるいは多極など、国際秩序の在り方については様々な見方がありますが、単一、あるいは複数の大国による「極」ということではありません。地政学的な競争に陥ることなく、法の支配の下で、多様な国家が共存共栄していくことが我々の目指すべき世界の在り方ではないでしょうか。
更に言えば、国家レベルだけではない、「人」に着目したアプローチ、これも重要です。個人が生存し、繁栄し、尊厳を持って生きていくということは世界のどこであっても目指すべき目標ではないかと思います。人があっての国家です。日本は、そのために必要な条件を整えていく外交を実施していきたいと思います。
「Our FOIP」は志を同じくする様々な関係国や関係者と共に取り組んでいく必要があります。日本は、米国、豪州、韓国、カナダ、欧州等との連携を強化します。もちろんインドは不可欠なパートナーです。
ASEAN(東南アジア諸国連合)や太平洋島しょ国から、中東やアフリカ、中南米などに至るまで、FOIPのビジョンを共有する各国の輪を更に広げ、共創の精神で取組を進めていきます。
以上を述べた上で、今の歴史的転換期にふさわしいFOIP協力の「4つの柱」を新たに打ち出します。
1つ目の柱は、FOIPの屋台骨ともいえる「平和の原則と繁栄のルール」です。国際社会に法の支配がないことで一番困るのは、脆弱な国、脆弱な環境に置かれている人々です。私が訴えたいことは、国際社会が守るべき最低限の基本原則を皆で再確認し、推進できないか、それによって、ともすれば壊れそうになる国際社会の「平和」を築いていけないかということです。その原則とは、主権、領土の一体性の尊重、力による一方的な現状変更への反対などであり、国連憲章が指し示すこれらの原則は世界の全ての場所で守られるべきです。
この場で、私は、日本はロシアのウクライナ侵略、これを強く非難し、決して認めることはないと繰り返します。モディ首相も、「今は戦争の時ではない」とプーチン大統領に言われました。日本は、世界のどこであっても、力による一方的な現状変更がなされることに反対いたします。
また、日本はこれまでも、困っている国があれば手を差し伸べてきました。例えば、過去約20年間にわたり、貧困やテロとの戦いを進めるフィリピンを支持し、ミンダナオ地域の和平に貢献してきました。今後も「対話」と「協力」を基本として、ウクライナ支援を含め、平和を築き復興するための各国の取組を積極的に支援してまいります。
さらに、日本は、女性・平和・安全保障の視点も念頭に、女性のニーズにも配慮した支援などを行っていきます。
分断を生み出さない自由で公平、公正な経済秩序を作っていくことも重要です。WTO(世界貿易機関)のルールを基盤として維持しつつ、よりレベルの高い自由化を追求する意志、能力のある国と共にCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)などの更なる取組、これを推進していきます。また、自由化の程度もさることながら、力による一方的な現状変更や経済的な威圧をしないことなども、信頼できる経済関係を築いていく上で、不可欠の条件です。さらに、日本は脆弱な国への配慮も忘れていません。インドの隣のバングラデシュは、間もなく後発開発途上国から卒業しますが、更なる発展のためにバングラデシュとのあり得べきEPA(経済連携協定)に関する共同研究を開始しています。これも、「誰も排除しない」というFOIPの重要な理念が反映されたものです。
不透明・不公正な開発金融を防ぐルール作りは、国家が自律的・持続的に発展していく上で必要です。国家の破綻は普通の人々の生活へも甚大な影響を及ぼします。日本は、「質の高いインフラ投資」に関するG20(金融・世界経済に関する首脳会合)原則の実施を推進していきます。スリランカの債務再編も、公平かつ透明な形で進められることが不可欠です。日本は、インドと緊密に連携し、南アジア地域の安定に貢献していきます。質の高いインフラを提供できる優秀な日本企業による海外展開を後押しし、現地経済と日本経済を共に活性化させていきます。
第2の柱は、FOIP協力の新たな力点である、「インド太平洋流の課題対処」です。今の時代は、気候・環境、国際保健、サイバー空間を含めた「国際公共財」の重要性が飛躍的に高まっています。これらに関連する様々な課題にインド太平洋流の現実的かつ実践的な形で取り組み、FOIP協力を拡充します。そして、各国社会の強靱(きょうじん)性・持続可能性を高め、自律的な各国間での「イコールパートナーシップ」を実現していきます。
気候変動分野では、我が国は、グローバルなGX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現に貢献すべく、クリーン市場やイノベーション協力を主導していきます。地域のプラットフォームとして、脱炭素と経済成長の両立を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を推進いたします。また、ODA(政府開発援助)を活用し、島しょ国における再生エネルギー導入支援等を推進いたします。
ロシアのウクライナ侵略により、食料価格が上昇し、世界の食料安定供給が待ったなしの状況です。先日、アジアや中東、アフリカ等の脆弱な国を支える5,000万ドルの緊急食料支援や、ウクライナの脆弱な農家を支えるトウモロコシ種子等の支援、これを決定いたしました。また、日本は、従来からASEAN+3(日中韓)緊急米備蓄を積極的に進めてきました。緊急時に各国が備蓄を融通する仕組みは先見性のあるものであり、今後も引き続き推進していきます。
新型コロナが国際社会の分断と格差を拡大させた光景を目の当たりにした我々は、国際保健課題に世界全体で対応する必要があることを痛感いたしました。日本は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に引き続き取り組みます。また、ASEAN感染症対策センターが東南アジア地域の感染症対策の中核として発展するよう支援していきます。
気候変動の影響もあり、災害の規模も数も深刻化しています。各国が、災害の予防という意味でも災害からの回復という意味でも強靱な社会を築けるよう、日本のノウハウや技術をいかし、防災・災害対処能力向上に資する支援などを行っていきます。
偽情報の拡散は、人々の政治的自己決定を妨げ、国家の自律性を脅かす各国共通の課題です。自由で公正な情報空間を確保すべく、偽情報対策の知見を地域に拡(ひろ)げるためのワークショップなどを年内に開催いたします。
3本目の柱は、FOIP協力の中核的要素というべき「多層的な連結性」です。時代が変わっていこうとも、我々が経済成長を必要とすることには変わりはありません。成長を実現するには、各国が様々な面においてつながっている必要があります。ただ、一国のみに依存するようなつながり方は政治的脆弱性の温床になります。つなぐことで各国の選択肢を増やし、脆弱性を克服し、皆が裨益(ひえき)する形で経済成長を目指してまいります。
ここで私は、3つの重要地域に言及したいと思います。一つは東南アジアです。ASEANのAOIP(インド太平洋に関するASEAN・アウトルック)とFOIPは共鳴するビジョンです。日本は、12月に東京で行われる日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議も念頭に、日ASEAN統合基金に新たに1億ドルの拠出を行います。
また、ハード・ソフト両面の連結性強化の取組を推進する包括的な日ASEAN連結性イニシアティブを12月までに刷新いたします。
次の地平は、インドも含めた南アジアです。陸に囲まれているインドの北東部は、経済的に未発掘のポテンシャルを有しています。南に下ったバングラデシュなどを一体の経済圏として捉え、地域全体の成長を促すためのベンガル湾・インド北東部の産業バリューチェーン構想を、インドやバングラデシュと共に協力して推進してまいります。
さらには、太平洋島しょ地域です。日本と太平洋の国々をつなぐ海には境はありません。気候変動による海面上昇、コロナなどの感染症、火山噴火などの自然災害など、太平洋島しょ地域は多くの課題にさらされています。
日本が支援したパラオの国際空港は、観光活性化といった経済的観点のみならず、コロナ支援物資の輸送を円滑にしたという意味でも真の連結性を示したものでしょう。日米豪が支援している海底ケーブルも脆弱性の克服には重要です。来年に日本が主催する太平洋・島サミットに向けて、取組を一層強化いたします。
もちろん、中東やアフリカ、中南米などの国々もFOIP実現のための大切なパートナーであり、様々な協力を進めてまいります。
私は、FOIPに、国家レベルだけではない、「人」に着目したアプローチも加えていきたいと考えています。「知」の連結性も強化します。「人」に着目したアプローチで、「人造り」を助け、新たなイノベーションを生み出し、地域の活性化を支えるものです。
JENESYS(対日理解促進交流プログラム)やアジア高校生架け橋プロジェクトなど各種交流プログラムを強化し、次世代を担う「若者」をつなぎます。
来年、順調に進めばマレーシアに筑波大学の分校が開校される予定です。大学の海外展開を支援するなど、「知識と経験」をつなぎます。
近年、途上国のICU(集中治療室)に対して、日本の専門家から遠隔でサービスを提供するという遠隔ICUサービスが行われています。こうした取組を支援し、「研究室と現場」をつないでまいります。
さらに、アフリカのスタートアップ支援や、日ASEAN女性起業支援基金などを通じて、「起業家と投資家」をつないでまいります。
ポスト・コロナの世界においてはデジタル・コネクティビティの重要性も増しています。オープンRAN(無線アクセスネットワーク)を始めとする信頼できるデジタル技術の推進や、海底ケーブル敷設事業を含む情報インフラ整備を進めていきます。また、スマートシティの具体化に協力していきます。日本の技術とインドのIT分野での力を活用するとともに、日本のODAでインフラ整備支援を実施していくことは大きな可能性があると考えています。
第4の柱は、「海」から「空」へ拡がる安全保障・安全利用の取組です。FOIPは一貫して「海」に焦点を当ててきています。海は一層重要性と意義を増しています。ウクライナ侵略で見られるように、巨大なユーラシア大陸の中央部では大きな地政学的な変動が起こっています。悲劇と言ってもよいものです。私は、海をそのような地政学的リスクから解放したい。皆で分かち合う公の海の恵みを守り、育てることが極めて重要です。加えて、空の安全や安定利用の確保も含めた「公域」全体における取組を行っていきます。
様々なリスクから海を守るため、日本が長く提唱してきた「海における法の支配の三原則」、すなわち、1つ目として、国家は法に基づいて主張をなすべき、2つ目として、力や威圧は用いない、3つ目として、紛争解決には平和的収拾を徹底するべき、こうした3つの原則をもう一度呼び掛けたいと思います。日本は、本年、気候変動による海面上昇によって海岸線が後退した場合も既存の基線は維持可能との立場を正式に採用しました。法は弱者を守るためにあるものです。この立場は、三原則の下で島しょ地域の海をリスクから守るものです。
また、自由な海を守るため、人材育成、海上保安機関の連携強化、各国沿岸警備隊との共同訓練などを通じ、各国の海上法執行能力の強化を支援いたします。特に、太平洋島しょ地域を含め、違法な漁業による被害が深刻化しています。日本も例外ではありません。いわゆるIUU(違法・無報告・無規制)漁業対策の取組を強化いたします。
海洋安全保障のための取組も充実いたします。私の政権では、自衛隊と各国軍の共同訓練、RAA(円滑化協定)やACSA(物品役務相互提供協定)などの法的基盤の整備等を進めています。豪州、英国とのRAAは今国会に提出、インドとのACSAも既に運用されています。新たに同志国の軍等に対する無償資金協力の枠組みも創設しました。将来的にはインドとも協力できることを楽しみにしています。また、海上自衛隊は、地域の海の平和と安定に貢献するForce for Peaceです。インドや米国との共同訓練やASEAN諸国・太平洋島しょ国との親善訓練などを進めていきます。
加えて、空の安全・安定的な利用の確保や上空からの海洋状況把握も重要です。空の状況把握の能力向上のために、警戒管制レーダーの移転や人材育成・交流を積極的に推進していきます。衛星を活用した状況把握も重要であり、人材育成や情報共有等を推進していきます。さらに、ドローンを含む新技術に関する航空当局間での協力体制も強化していきます。
以上、FOIP協力の新たな「4つの柱」について申し上げました。FOIP協力を拡充する中で、様々な手法を最適な形で組み合わせて実施することが重要です。ODAの戦略的活用を推進し、様々な形でODAを拡充するなど、外交的取組を更に強化いたします。こうした観点から、開発協力大綱を改定し、今後10年間の日本のODAの指針を示します。
その中で、ODAやその他の公的資金を扱う機関間の連携を強化し、開発需要に応じた、日本の強みをいかした魅力的なメニューを作り提案する「オファー型」協力を新たに打ち出す考えです。
また、新たに、投資を呼び込む「民間資金動員型」の無償資金協力の枠組みを導入します。これは、各国の意欲のある若者によるスタートアップを支援するための新メニューです。経済社会課題への貢献に関心のある民間資金の動員にもつながります。官民の資金のシナジー効果を生み出す新たな試みであり、この考えに賛同する域内各国と共に取り組んでいきます。
民間資金の動員という観点では、JBIC(国際協力銀行)法の改正案を国会で審議中です。新たに、企業のサプライチェーンを支える外国企業の融資対象への追加や、海外事業を手掛けるスタートアップへの出資を可能とすることで、経済安全保障を確保しつつ、デジタル、脱炭素など成長分野における民間企業の展開、これを後押ししていきます。
これらの取組を通じて、官民が連動する形で各国のニーズに力強く応えていきます。各国のニーズが大きいインフラ面において、日本は、2030年までに民間投資や円借款等を通じて官民合わせて750億ドル以上の資金をインド太平洋地域に動員し、各国と共に成長していきます。
ここまで、私は、「自由で開かれたインド太平洋」を発展させていくための我が国のプランについて述べてきました。これを実現するに当たって、インドは必要不可欠なパートナーです。日本とインドは、現代の国際関係の中で、もっと言えば、世界史の中で、極めてユニークな立場にあると思います。
インドは世界最大の民主主義国です。インドが巨大で多様な国の中で民主主義を発展させてきていることを私は常に敬意を持って見ています。日本もアジアで最初に近代化し、民主主義を定着させました。両国は、国民の選挙によって政治を選ぶことや公の議論を通じて政策を決めていくことなどについても、自然に受け止め、完全にコミットしていると言ってよいでしょう。コロナ禍(か)にあっても、全体主義的な統治体制の方がよいという声は、日本でもインドでも全く聞かれませんでした。
同時に、日印両国とも、独自の歴史的な背景を持っています。この地球上には、多様な価値観、多様な文化、多様な歴史があり、これを完全に理解するのは容易ではないことを謙虚に認めており、相手を尊重し、対話を通じて協力していくことが最善の策であることも感覚的に分かっている国民であると思います。
ゆえに、日本とインドは、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を維持し強化する大きな責任を負っていると言えます。日本がG7議長、インドがG20議長である本年、両国が、ASEANなど多くの国と協働することで、試練のときを迎えている国際社会に平和と繁栄をもたらすことが私の希望です。そのためのビジョンがFOIP、すなわち、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」です。この地域が、力や威圧とは無縁で、自由と、法の支配等を重んじる場となることを、私は信じています。
日本は、G20の成功のためにインドへの協力を惜しみません。5月にモディ首相を広島にお迎えするとともに、私も9月に再びこの地を踏むことを心待ちにしております。
御清聴、誠にありがとうございました。