データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 効果的な多国間主義とウクライナ情勢に関する安保理首脳級会合 岸田総理スピーチ

[場所] 
[年月日] 2023年9月20日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 議長

 最初に、多国間主義とウクライナ情勢に関する安保理(安全保障理事会)首脳級会合を開催したラマ・アルバニア首相のリーダーシップを高く評価いたします。また、ゼレンスキー・ウクライナ大統領の参加を歓迎いたします。

 現在、法の支配に基づく国際秩序は未曽有(みぞう)の危機・課題に直面しています。国際秩序の基礎にあるのは国連憲章です。国連憲章は安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に主要な責任を負うと定めています。その安全保障理事会の一常任理事国が法の支配を蹂躙(じゅうりん)していることが原因となり、我々は今日この場に集まっています。

 議長

 私は、本年3月、キーウとブチャを訪問し、惨劇の現場も訪れました。そのときの胸の張り裂けそうな思いは決して忘れません。日本は、ウクライナと共にある、その決意を新たにいたします。

 ロシアによるウクライナ侵略は、国連憲章を含む国際法の明白な違反であり、最も強い言葉でこれを非難いたします。

 侵略を直ちに停止し、即時かつ無条件に軍を撤退させなければなりません。平穏に確立した領域の状況を、力や威圧によって一方的に変更しようとする試みは、世界のどこであっても許してはなりません。

 無責任な核のレトリック、ベラルーシへの核兵器配備、ザポリッジャ原子力発電所の占拠・軍事化は、世界の平和と安定を脅かしています。ロシアの核による威嚇、ましてやその使用は断じて受け入れられません。

 安保理の決定を妨害し、その信用を失墜させる拒否権を乱用することは国際社会として認められるものではありません。

 議長

 ウクライナ侵略は、世界中で「無法の支配」への懸念を深刻化させています。第二、第三のウクライナを生み出してはなりません。

 法の支配に基づく国際秩序を守り抜くためには、国連憲章の原則に基づく包括的、公正かつ永続的なウクライナの平和を実現させることが不可欠です。

 国連憲章に沿った基本原則を平和フォーミュラにおいて掲げるゼレンスキー大統領の真摯な取組を支持いたします。

 私自身、5月に広島で、ウクライナを含む国際社会の幅広い国々の首脳等と共に、主権や領土一体性の尊重、紛争の平和的解決といった、国連憲章の諸原則の重要性を確認いたしました。

 こうした議論を踏まえ、ウクライナに関する国家安全保障補佐官会合が2回開催されました。いわゆるグローバル・サウスを含む多くの国が参加したことを歓迎し、引き続き我が国も積極的に貢献していきます。

 議長

 ウクライナ侵略が、難民、食料・エネルギー安全保障、原子力安全等の深刻な問題を引き起こし、世界中で多くの人々を苦しめていることも忘れてはなりません。日本は各国と連携し、苦しむ人々に手を差し伸べる取組を進めることで一致いたしました。「人間の尊厳」を守るため、体制や価値観の違いを乗り越えて、「人間中心の国際協力」を進めていきます。

 議長

 本日の討論のテーマである効果的な多国間主義が、今ほど求められている時代はありません。

 我々は、ウクライナに対する侵略を始めとする幾多の惨禍を乗り越え、「協調の精神に根ざした多国間主義」を実現しなければなりません。

 こうした思いの下、私自身、各国の首脳と議論を積み重ねてきました。安保理においても、日本は「法の支配」と「平和構築」に関する討論を主催し、国際社会の様々な声に耳を傾けました。多国間主義の下、法の支配を擁護し、予防外交も含め、国際の平和及び安全に関する諸課題の解決に向けた取組を一層強化していきます。

 議長

 今こそ、1945年以来、我々加盟国が積み上げてきた、国連憲章を始めとする揺るぎない原則に立ち返り、分断や対立ではなく協調の世界を目指すべきです。

 そのためには、国連の機能強化が喫緊の課題です。安保理は常任・非常任の両議席を拡大し、アフリカを含め現在の世界の現実をより良く反映させなければなりません。

 未来サミット、国連創設80周年を見据え、今こそ具体的行動に移るべきです。「人間の尊厳を尊重する世界」を目指し、困難に直面する人々に耳を傾け、共に困難に立ち向かう場としての国連を実現するため、歩みを進めるときです。

 御清聴ありがとうございました。