データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 令和5年度航空観閲式 岸田内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2023年11月11日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 本日、ここ入間基地での航空観閲式に臨み、意気天を衝(つ)き、鋭気漲(みなぎ)る隊員諸君の勇姿を目の当たりにし、自衛隊指揮官として大変頼もしく思います。

 今から120年前に有人飛行機が初飛行して以来、航空機は瞬く間に世界をつなぎ、グローバリゼーションの象徴となりました。20世紀は空を制するものが世界を制する時代、エア・パワーの時代となりました。

 今日も、航空機が経済や社会、そして国の防衛に果たす役割は極めて重要であり、日夜、航空機を運用し、空の守りと航空の安全に努める全ての隊員諸君に敬意を表します。

 隊員諸君の頭上に広がるこの大空は、万里鵬翼(ほうよく)の彼方(かなた)、遠く中東の空までつながっています。今、緊迫した中東情勢を受け、邦人等の輸送のため、諸君の仲間と航空自衛隊の輸送機が派遣されており、既に2度にわたり計129名の邦人・外国人が自衛隊機で現地から出国し、日本に到着されました。

 自衛隊機で出国された方々は、初め不安を抱えて搭乗されたと思いますが、機内や経由地において、真摯に任務に当たる隊員の姿と、退避者へのきめ細やかな配慮により、不安を大きく和らげることができたと聞いています。

 多くの子供たちも自衛隊機に搭乗して出国しましたが、隊員たちが声をかけ、一緒に折り紙で遊んだりして、常にリラックスできるよう努めたので、保護者から「子供が遊ぶ姿を見てホッとした」との声があり、子供たちの中からは「どうやったら自衛隊になれるの」と、隊員たちに質問があったと聞いています。

 正に、隊員たちはプロフェッショナルの仕事をし、国民の期待と信頼に応えてくれました。これは、輸送機を運航した隊員だけではなく、情報収集から飛行計画、機体の整備や警備、現地での調整などに当たった全ての隊員たちがワン・チームとなって成し遂げた成果であり、引き続き現地で待機している隊員たちを含め、諸君の働きを高く賞したいと思います。

 今、隊員諸君が直面している世界は、歴史の転換点と言うべき大きな変化を迎えています。

 ロシアによるウクライナ侵略は、明白な国際法違反であり、核兵器による威嚇とともに、国際秩序を根幹から揺るがす許し難い暴挙です。

 我が国周辺においても、一方的な現状変更の試みが強化されており、また、中国とロシアが爆撃機を共同飛行させるなど、軍事活動を活発化させています。

 北朝鮮も核・ミサイル開発を進展させるとともに、昨年以来80発近くのミサイルを日本海に向け発射しており、我が国にとって、より一層重大かつ差し迫った脅威となっています。

 このように、日本は戦後もっとも厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある。こうした難局を乗り切り、国民の命と安全、国の平和と繁栄を保つため、政府は、昨年末、新たな国家戦略である3文書を策定いたしました。

 我が国に望ましい国際環境を生み出すためには、国家安全保障戦略に示したとおり、まず外交努力が欠かせません。

 本年、我が国はG7広島サミットを主催し、私自身ウクライナを直接訪問するなど積極的な外交を行って、平和と安定に向け世界をリードする役割を務めてまいりました。

 力強い外交に説得力と迫力を持たせるものこそ、我が国自身の防衛努力です。

 防衛力は、我が国を守り抜くという不屈の意思と能力を示すものであり、安全保障を最終的に担保する力です。すなわち、防衛力の中核を担う隊員諸君の役割は、他の何物によっても代替できない、諸君だけが果たし得る任務です。

 今、こうした唯一無二の役割を持つ防衛力の強化が必要不可欠です。私は、従来の延長ではなく、我が国を守り抜くための防衛力を積み上げ、必要な予算水準を確保して、防衛力を抜本的に強化することといたしました。

 特に、我が国への攻撃を抑止し、万一攻撃があった場合には更なる攻撃を防ぐため、反撃能力の保有を決定しました。このため、スタンド・オフ・ミサイルの整備を速やかに進めます。

 また、次世代の翼となる次期戦闘機を、初めて日英伊で国際共同開発します。3か国の技術を結集し、航空優勢を確保できる優れた戦闘機の開発を期待します。

 この大空は宇宙にもつながっています。今や、情報収集・監視・通信など、宇宙空間の利用は戦略的に極めて重要であり、21世紀はスペース・パワーの時代になりつつあります。自衛隊の宇宙作戦能力を強化し、令和9年度までに航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とします。

 今この瞬間も、諸君の仲間である多くの隊員たちが、各地で任務に当たっています。

 人知れぬ海上や空中で、国境の離島で、暗黒の深海で、雪中の山頂で、灼熱(しゃくねつ)の大地や外洋で、そして全国の駐屯地・基地で、24時間365日、弛(たゆ)むことなく、黙々と任務に当たる隊員諸君一人一人が流す汗こそが、国民の命と、日本の平和を守ってくれる。

 私は、このことを片時も忘れることなく、諸君の先頭に立って、自衛隊指揮官としての重責を果たしてまいります。

 諸君におかれても、高い士気と誇りをもって国の防衛という任務に当たってもらいたい。この崇高な任務に取り組む隊員諸君同士は、軍種、階級、職種、性別の区別なく、志を一つとして取り組む仲間である。共に任務に当たる仲間に対するあらゆるハラスメントを一切許容しない組織環境を作り上げ、ハラスメントを根絶して、仲間同士助け合い、励ましあって任務に臨むことを忘れないでいただきたい。

 同時に、社会における自衛隊の役割と責任についても、隊員一人一人が自覚して、常に品位を重んじ、そして厳正な規律の維持に努めてください。

 最後に、国民は、隊員諸君に、国民の命と平和な暮らし、日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くことを期待し、日本の繁栄と未来を諸君の双肩に託しています。

 国民の期待に応え、託された使命を全うすべく、各員が勇往邁進(まいしん)し、一層奮励努力されんことを切に希望し、私の訓示といたします。

令和5年11月11日

自衛隊最高指揮官

内閣総理大臣 岸田文雄