データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・ウクライナ経済復興推進会議における岸田総理大臣基調講演

[場所] 
[年月日] 2024年2月19日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

【導入】

● シュミハリ首相、御列席の皆様

最初に、ロシアによるウクライナ侵略開始から2年もの間、自由と独立を守るために奮闘しているウクライナ国民の勇気と忍耐に改めて敬意を表します。日本は昨年G7議長国としてウクライナ支援に関する議論を主導し、財政支援を含む強力な支援をしてきました。日本はこれまでも、そしてこれからもウクライナと共にあります。

● 本日の会議の原点は、G7議長として行った、昨年3月の私のウクライナ訪問です。キーウでの会談中、ゼレンスキー大統領から、長期にわたるウクライナ復興に向けて、日本の持つ経験・技術に対する期待、そして日本の民間投資に対する強い期待についてお聞きしました。

● この訪問を経て、私は、「日本ならではの貢献」ができるはずだと考え、日・ウクライナ経済復興推進会議を開催することを決めました。

● ゼレンスキー大統領は、ウクライナへの支援は慈善事業ではなく、「世界の安全保障と民主主義への投資」だと述べました。私は、更に新しい意義を加えたいと思います。「未来への投資」です。ウクライナでは、今この瞬間も戦争が続いています。状況は決して容易とはいえませんが、経済復興を進めることは、いわば、ウクライナ、日本、そして世界の「未来への投資」です。我々は、我々全員の未来のために努力しなければなりません。我が国は、大いなる潜在性を有するウクライナの経済成長に繋がる経済復興・産業高度化に向け、農業、製造業、IT産業といった第1次産業から第3次産業に至る網羅的な経済発展を目指し、官民一体となって強力に支援する考えです。

● その上で、私は今日、ウクライナの皆様に、「日本ならではの貢献」を実現するための「3つの原則」、「5つの行動」、そして「50の約束」をお伝えします。


【「日本ならではの貢献」】

● まず、「日本ならではの貢献」を進めるに当たり、重要な要素が3つの原則です。

● 3つの原則のうち第一は、「包摂性」です。「人間の尊厳」を重視し、女性や子どもたちを含む全てのウクライナの人々に寄り添い、「女性・平和・安全保障」(WPS)の視点も交えて、ウクライナの自立的な発展と復興を息長く支援していきます。

● 第二は、「パートナーシップ」です。ウクライナ復興の主人公は、あくまでウクライナの人々でなくてはなりません。日本側による一方的な支援ではなく、ウクライナの皆さんと協力しながらともに進めていくことこそが、長期にわたるウクライナの復興を持続的な形で推進する鍵です。日本は、ウクライナ側の声に耳を傾け、そのニーズに沿った、きめ細やかな対応をしていきます。

● 第三は、「知見・技術」です。日本の戦後・災害復興の知見、民間の先進的技術・ノウハウを活用し、官

民一体となって、オールジャパンで取り組んでいきます。もちろん、大企業のみならず、高い技術を持った中小企業にも参画の扉が開かれています。

● これに加えて、本日の会議の成果として、次の日本の民間投資を促進し、ウクライナでの雇用を生み出す5つの行動を起こしていきます。

 第1に、法的インフラ整備として、新たな租税条約を締結します。また、投資協定の改正交渉を開始します。

 第2に、ウクライナの復興を後押しするため、国際金融機関を通じた支援として、欧州復興開発銀行による増資への貢献、JBICによる黒海貿易開発銀行を通じたツーステップローンの供与を行います。

 第3に、二国間協力として、ODAによる官民連携事業、ウクライナのベンチャーキャピタルに対するJICAの海外投融資を実施します。

 第4に、両国のビジネス連携や投資・貿易の拡大のため、キーウにJETRO事務所を設置します。また、日本企業の投資・貿易リスク軽減のため、NEXIが新たなクレジットラインを設定します。

 第5に、日・ウクライナの協力案件に関与するウクライナの関係者に対する数次査証の緩和措置も導入します。

● 3つの原則、5つの行動に基づく今回の具体的な約束が、今回、スタートアップを含む日本企業とウクライナのパートナーとの間で署名された50本以上の協力文書です。

● 今後、日本は、これらの成果をしっかりとフォローしつつ、初期の緊急支援から生活再建、そして経済復興・産業高度化のフェーズに至るまで、また、復旧・復興を持続可能とする基盤整備を含め、生活再建を後押しし、新たな産業創出でウクライナの経済発展に貢献すべく、様々な取組を進めていきます。

【国際社会との連携・結語】

● ウクライナの復興は長い取組となるでしょう。それを支える国際社会の連帯もまた、一層強固なものにしていかなければなりません。G7をはじめとする各国との緊密な連携を軸としつつ、国際機関を含むパートナーと協力していきます。本年6月にドイツで開催されるウクライナ復興支援に関する国際会議を含む、国際社会の動きと連動して行動してまいります。

● ロシアに侵略されたウクライナが復興を成し遂げ、活力を取り戻すことは、日本、そして国際社会全体の利益です。御来場の皆様の御協力をよろしくお願いします。

● ありがとうございました。(了)