[文書名] 人口戦略シンポジウム 岸田総理ビデオメッセージ
内閣総理大臣の岸田文雄です。
本日は「人口戦略シンポジウム」が盛大に開催されましたことを、心からお慶(よろこ)び申し上げます。
本日、地方自治体の持続可能性分析レポートが公表されました。
10年前の日本創成会議による896もの消滅可能性がある自治体のリストの公表が与えた衝撃は、今でも忘れていません。
その後、政府は、まち・ひと・しごと創生本部を設置し、10年にわたり、地方創生の取組を進め、岸田政権発足後は、さらにデジタル田園都市国家構想に取り組みました。
昨年私が訪れた岡山県奈義町(なぎちょう)では、全国に比べて高い出生率を維持しており、本日発表された分析では、10年前のリストから脱却しています。また、島根県は、10年前には16の自治体が「消滅可能性」があるとされていましたが、今回は実に12自治体が脱却し、4自治体まで減少しています。
これらの自治体は、地域ぐるみの子育て支援や若者の地方移住の促進などに地道に取り組んできており、その成果が表れていると言えます。
人口減少・少子化への取組をさらに強化します。
まず、「こども未来戦略」による「加速化プラン」を通じ、政府として、3.6兆円に及ぶ前例のない規模で、こども・子育て支援を抜本的に強化します。先週、関連法案が衆議院を通過したところであり、法案の早期成立に全力を挙げてまいります。
当面の人口減少に対しては、デジタルの力を最大限活用し、地域においてきめ細かい行政サービスが提供できるよう、デジタル行財政改革を進めます。
介護分野では、新たなテクノロジーの導入を支援し、デジタル活用を前提として、特養などにおける介護職員の配置基準の見直しも行ってまいります。
地域交通では、ライドシェアの課題に対応し、地域の自家用車や一般ドライバーを活用した新たな運送サービスを、今月8日から開始いたしました。タクシー会社以外の事業者によるライドシェア事業に係る法制度についても本年6月に向けて議論を進めています。
広域化・共同化の取組も進めます。
国民健康保険について、既に財政運営の責任主体を市町村から都道府県へと広域化・共同化していますが、大阪府や奈良県で今年度から実現する都道府県内の保険料の統一の取組を全国に広げてまいります。
上下水道について、今月からの国土交通省による上下水道行政の一元化を機に、広域化・共同化の取組を上下一体で進めていくこととします。
医療提供体制について、地域医療構想をバージョンアップします。病院のみならず、外来医療、在宅医療、介護との連携等を含め地域の医療提供体制が効率的で質の高いものとなるよう、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を進めつつ、実効的な仕組みを構築します。
こども・子育て支援の抜本的強化に当たっては、「社会全体の意識醸成」を車の両輪として進めます。
制度や施策を充実するだけでなく、社会や職場で活用されるよう、社会全体でこども・子育て世帯を応援する気運を高めていく取組が重要と、繰り返し申し上げてきました。
男性育休の取得率はこの10年間で1.9パーセントから17.1パーセントまで伸びましたが、取得率がなお低い要因として、職場や社会の雰囲気や仕事の属人化から自分から育休を申請しにくいことが挙げられています。
こうした状況が変わらなければ、制度をいくら充実させても、絵にかいた餅になりかねません。
本日発表された分析を含め、我が国の先行きの姿を示す意義は、企業経営者をはじめ各界のリーダーの皆様に、危機感を共有していただき、具体的な行動をとっていただくことにあります。
男性育休100パーセント宣言をした企業のトップの方々が、「もっと一緒にいたかった」と自身が育児に関わらなかった後悔を語る動画が、かつてインターネット・メディア・アワードを受賞しました。私も拝見して身につまされる思いをしましたが、企業経営者やシニアの方々の率直な発言は、働き方改革や子育て参加に取り組む重要性を伝える機会となります。
ある会社経営者は、対談で、社内託児所を作ることから始めて「朝型勤務」を導入するなどの取組を進めた結果、午後3時に部下が上司に「お先です」と言って、こどもを連れて帰ることが当たり前になり、社内の出生率が10年間で3倍に向上したとお話しされました。
こうした取組を発掘・発信することで、自分たちも「やればできる」と理解していただき、職場の改革につなげていただきたいと思います。
こども・若者世帯には「安心感」が醸成されなければなりません。
「社会全体の意識醸成」の取組が、子育て世帯やこれから結婚や出産を考える若い世代に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりするものであってはなりません。
結婚、妊娠・出産、子育て等は個人の自由な意思決定に基づくものであり、若い世代が希望どおり結婚し、こどもを持ち、安心して子育てできる社会を実現することこそが重要です。
こどもや家族と過ごす「時間」を増やしたいという希望も叶(かな)えていく必要があります。男性育休や柔軟な働き方の推進などの支援策の充実に加え、更なる長時間労働の是正や時短勤務の推進に取り組みます。取組に積極的な企業であるほど、勤務先として選ばれ、投資家からも評価される好循環を作り出します。
20代、30代は学業、就職、結婚、出産などライフイベントが集中する人生のラッシュアワーです。若い世代の皆さんが、このラッシュアワーに備えて、人生設計を早くから考え、希望どおり人生を歩んでいけるよう、ライフデザインを支援する取組を推進していきます。
「安心感」の醸成には、将来に明るい希望を持てる実感が不可欠であり、若者・子育て世帯の所得の向上が必要です。
このためにも、長年にわたり染み付いたデフレ心理を払拭し、賃金が上がることは当たり前の社会に変えていきます。
昨年を大きく上回る春季労働交渉での力強い賃上げの流れを中小企業に広げるべく、労務費の価格転嫁、最低賃金の引上げも含め、総合的・多面的な対策を全力で講じます。本日は経済界・労働界からも多くの方々がご出席ですが、引き続き協力をお願いします。
私は、「今年、物価上昇を上回る所得増を必ず実現する」、「来年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」という2つの約束を申し上げています。完全にデフレから脱却し、わが国経済を成長型の新たな経済ステージに移行させていくことが、岸田政権の使命です。
その先の経済についても、生産性の向上、労働参加の拡大、そして希望出生率の実現が図られれば、豊かさと幸せを実感できる持続可能な経済社会を実現できることを、定量的な試算とともに、具体的なシナリオとしてお示ししてまいります。この夏の骨太方針において、人口減少が本格化する2030年までにこうした持続可能な経済社会を軌道に乗せるための道筋を描いてまいります。
豊かさと幸せを広げて「明日は今日よりよくなる日本」と信じられる時代を何としても実現したい。若者・子育て世帯のために成し遂げなければなりません。
私たちは、ただ警鐘を鳴らすのではなく、若者・子育て世帯のために具体的に行動する重い責任を負っています。
政府が旗を振るだけでは、社会の意識は変わりません。
三村議長が方針を表明された、意識醸成のための民間推進組織の立上げを歓迎いたします。
本日は、17名の知事の皆様をはじめ、多くの自治体関係者もご参加と伺っており、自治体の取組も重要です。
皆様と力を合わせ、官民連携で、社会全体でこども・子育て世帯を支える意識を醸成していきたいと思います。
人口減少に真正面から取り組み、乗り越え、豊かさと幸せを実感できる持続可能な経済社会を次の世代に引き継ぐ。そのためにともに取り組んでいこうではありませんか。
このシンポジウムがその出発点となることを期待して、私の挨拶とさせていただきます。