データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ABC Color紙による岸田総理への書面インタビュー

[場所] 
[年月日] 2024年5月3日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

問1.今回のパラグアイ訪問の目的いかん。

回答

 ペニャ大統領の招待を受け、パラグアイを初めて訪問することができ光栄。総理として初めてとなる中南米の訪問国として、パラグアイとブラジルを選ばせていただいた。本年は、日本・パラグアイ外交関係樹立105周年となる節目の年。1世紀以上にわたる友好協力関係をさらなる高みに引き上げたい。

 パラグアイと我が国は、自由、民主主義、法の支配等の価値や原則を共有しており、信頼できる重要なパートナー。これまで国連を含む国際場裡(じょうり)の様々な場面で協力してきた。ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢等、国際社会の分断・対立が深まり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が危機に直面する中、価値と原則を共有するパラグアイのペニャ大統領と個人的にも信頼関係を築きながら、国際社会が直面する諸課題について連携して取り組み、協調する世界を創り出すために協力していくことを確認したい。

 また、今年はペルーでAPEC(アジア太平洋経済協力)、ブラジルでG20(金融・世界経済に関する首脳会合) が開催されるなど、南米が世界の重要な舞台となる「南米イヤー」ともいうべき年。パラグアイと共にこの「南米イヤー」を有意義なものにしたい。

問2.日・パラグアイ関係において重要視している点は何か。また、日本にとって地政学的な観点からのパラグアイの重要性いかん。

回答

 パラグアイと日本は、政治、経済、開発協力、文化、人的交流等多岐にわたる分野で結びつきを深めてきた。本年105周年を迎える両国の外交関係の中で、88年目を迎えるパラグアイにおける日系人の活躍、また、70年目を迎える開発協力は、日本とパラグアイの友好・信頼関係の確固たる基礎となっている。今回の私の訪問でも新たな協力覚書への署名が行われ、更に幅広い分野で関係を深めていくことを確認したい。

 世界の食料安全保障の確保やクリーンエネルギー分野における協力のパートナーとして、パラグアイの重要性は一段と高まっている。引き続き二国間の貿易・投資関係といった経済面でのウィンウィンの関係を強化したい。

 今回、日本企業で形成された経済ミッションが同行しているのは、パラグアイとの貿易投資関係強化への関心の表れである。今次開催されるビジネスフォーラムを通じ、今後、経済関係が更に強化されることを期待する。

 パラグアイは、現在、メルコスール(南米南部共同市場)の議長国を務めているところ、日メルコスール間の幅広い経済関係の強化・緊密化に向けても協力を深めたい。パラグアイの優れたビジネス環境が、日メルコスール経済関係強化により、一層の魅力をもたらすことも期待している。

問3.パラグアイは現在、メルコスールの議長国を務めているが、メルコスールの動向に対する見方いかん。アジア諸国にとってメルコスールとの貿易は魅力的か。日本はメルコスールと更なる緊密な関係を構築することに関心はあるか。

回答

 中南米随一の巨大経済圏であるメルコスールは、日本にとって自動車等の工業製品の主要輸出先の一つ。また、資源等の重要な供給源の一つでもあり、重要なパートナーである。

 メルコスール地域には、世界最大の日系社会が存在。この日系社会にも支えられながら、多くの日本企業がメルコスール地域において長年にわたりビジネスを展開し、日本とメルコスール地域の相互の発展に貢献してきた。

 国際情勢が劇的に変化するなか、重要な経済関係を有するパートナーとともにサプライチェーンの強靱(きょうじん)化を図り協力を深めることは急務である。特に、豊富な再生可能エネルギーや資源等を有し、多くの日系人を抱える地域との協力を深め、GX(グリーン・トランスフォーメーション)やフレンド・ショアリングを進めることは重要。南米において重要な位置を占めるメルコスールとの経済関係強化の重要性は増している。

 本年4月に「第5回日・メルコスール経済関係緊密化のための対話」がアスンシオンで開催された。今後も同対話などの機会も活用し、幅広い分野での協力を進めるべく、引き続き、議長国パラグアイと連携して取り組んでいきたい。

問4.パラグアイにおける日系コミュニティの存在に対する見方いかん。

回答

 日系コミュニティは、日本とパラグアイ両国の良好な関係の礎。1936年の移住開始以来、日本人移住者は数多(あまた)の困難を乗り越えて、農業分野を中心にパラグアイの開発・発展に貢献した。特に、日系人が普及させた「不耕起栽培」により、パラグアイにおける大豆の生産量は飛躍的に増加し、今ではパラグアイは世界有数の大豆輸出国となっている。

 現在では、日系人は、農業分野に限らず、企業家、医師、エンジニア、弁護士、大学教授等を輩出しており、その勤勉さと誠実さから、パラグアイ国民より広く尊敬されていることを誇りに思う。私からも先人の努力と現在の日系人の皆様の御活躍に敬意を表したい。特に、パラグアイでは日本語の継承、日本文化の維持・普及への貢献が際立っていることを特筆したい。また、80年以上にわたり日本人移住者を温かく迎えてくれたパラグアイの皆様に感謝申し上げたい。

 昨年1月、外務省に日系社会連携支援室を新設した。日系社会の発展を支援するとともに、日本政府として中南米の日系社会との連携を更に強化する所存である。