データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 未来サミットにおける岸田文雄内閣総理大臣による演説

[場所] 
[年月日] 2024年9月22日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 御列席の皆様、世界が歴史の転換点にある中、現在と未来の世代のため、我々は「行動(actions)」をとらなければなりません。様々な価値観を有する国々が共に行動する際、我々には根本的な指針が必要です。平和で自由で豊かな世界の未来に向けて、私が最も重要だと考えることを申し述べます。

 第一に、法の支配を貫徹することです。国連憲章の諸原則は我々の行動の根本的な指針です。力による一方的な現状変更の試みは、世界のどこであれ許されません。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序こそが、持続可能な開発を可能とし、繁栄をもたらすことができます。この根本原則について、私は昨年5月広島で、G7やブラジル、インド、ウクライナをはじめとする各国首脳との間で、見解を一致することができました。

 第二に、人間の尊厳を守り抜くことです。貧困、気候変動をはじめとする複合的危機には、どの国も一国では対処できず、国際協力が不可欠です。人間の尊厳は、全ての国際協力の出発点です。2030アジェンダの「誰一人取り残さない」との精神の達成に向け、改めて見つめ直されるべきものです。

 第三に、人間の安全保障という理念に立ち、人への投資に果断に取り組むことです。女性や子ども・ユースのエンパワーメントは、最重要の課題です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や、質の高い教育において、日本は世界をリードしてきました。日本は近いうちに、ジェンダ一分野を牽引(けんいん)する次世代の育成プログラムを立ち上げることとしています。

 第四に、核軍縮・不拡散です。核軍縮を巡る情勢は、一層厳しさを増しています。しかし、核兵器のない世界への道のりがいかに厳しいものであったとしても、我々はその歩みを止める訳にはいきません。今般立ち上げるFMCT(兵器用核分裂性物質生産禁止条約)フレンズを含め、核兵器のない世界に向けた現実的かつ実践的な取組を推進して参ります。

 第五に、国連安保理改革です。未来サミットで、加盟国は改革のための行動を明確に求めました。大多数の国が、常任・非常任の双方拡大を支持し、そして、安保理が国際の平和と安全に果たす役割や信頼回復の必要性を痛感しています。来年は国連創設80周年です。安保理改革に向け、具体的な行動を進めるべきです。日本は、改革された安保理においても、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化し、国際の平和と安全の実現と維持に貢献する決意です。

 世界中の人類が国際社会の未来のために声を上げている今こそ、国際社会が責任を共有し、真の連帯を実現する機会です。国連が果たす役割は増しています。国際社会は、デジタル・AI(人工知能)など、新たな可能性、機会や、リスクも共有しています。人間一人ひとりが自らの可能性を発揮し、より良い未来を実現できるよう、世界の指導者は、多国間主義の名の下に結集しなければなりません。国連に対する日本のコミットメントは揺らぐことはありません。