データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20リオデジャネイロ・サミット出席に際しての石破総理によるオ・グローボ紙への寄稿文「日・ブラジル関係の新たな章の幕開けへ 130年の友情と国際協力」

[場所] 
[年月日] 2024年11月17日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

「日・ブラジル関係の新たな章の幕開けへ 130年の友情と国際協力」


 今般のG20リオデジャネイロ・サミットの開催に当たり、ルーラ大統領をはじめブラジル政府関係者そしてブラジル国民の皆さんに心よりお祝い申し上げます。

 本年のブラジル議長下でのG20においては、(1)飢餓・貧困との闘い、(2)持続可能な開発とエネルギー移行、(3)グローバル・ガバナンス機構改革の3つの優先課題が掲げられ、G20としての取組を進めてきました。ブラジルのリーダーシップに敬意を表します。

 日本の総理大臣のブラジル訪問は、今年2回目となり、昨年のG7広島サミットの際のルーラ大統領の訪日を含め、日本とブラジルの間の首脳の相互訪問が非常に活発となっています。私自身、ブラジルとのご縁は、日本人ブラジル移民80周年にあたる1988年に、慶祝団の一員としてブラジルを訪問したことに遡ります。そして本年、総理に就任してブラジルを再訪することができ、大きな喜びを感じています。この機会に、日伯の長年の友好関係に裏付けられた二国間の協力について触れたいと思います。

 「飢餓・貧困との闘い」に関して、日伯間では長年にわたり取り組んできました。飢餓と貧困の撲滅には、食料供給の安定化は欠かせません。日本は、1979年から始まった「日・ブラジル・セラード農業開発協力事業(PRODECER(プロデセール))」を通じてブラジルと協力し、34.5万ha(ヘクタール)の土壌改良を行い、ブラジルは世界最大の大豆生産国になるなど、世界の食料供給の安定化に貢献してきました。

 環境・気候変動対策は喫緊となっています。日本は本年3月にアジアから初となるアマゾン基金への拠出を行いました。また、日本は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の衛星及びAI(人工知能)技術を用いてアマゾン熱帯雨林の違法森林伐採の管理能力強化においても協力を進めています。

 また、両国は、20年以上前から毎年東京で開催している「『気候変動に対する更なる行動』に関する非公式会合」の共同議長を務め、気候変動に関する議論をリードしてきました。持続可能な世界の実現に向けて、各国の事情に応じ、あらゆる技術やエネルギー源を活用する多様な道筋の下で、ネット・ゼロという共通のゴールを目指すことが重要です。特にモビリティ分野で高い低炭素化技術を有する日本と、G20の中で最もクリーンなエネルギー・ミックスを有するブラジルは、この分野で世界をリードできるユニークな立場にあります。「持続可能な燃料とモビリティのためのイニシアティブ(Initiative for Sustainable Fuels and Mobility)」のもと、日本とブラジルの強みを活(い)かして世界のカーボンニュートラルの実現に貢献していく所存です。

 また、本年5月には、気候変動対策と持続可能な開発を軸として、「日・ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ」を立ち上げました。劣化牧野を畑地に転換し、森林伐採を避け、ブラジルの世界有数の食料供給国としての地位を維持するため、両国間で協力していくことで決意を新たにしたところです。

 ブラジルとの持続可能な開発における協力については、日本人移住者、そして、日系人の方々の絶え間ない御尽力無くして語ることはできません。例えば、ブラジル北部では、胡椒(こしょう)や熱帯果樹、樹木栽培を組み合わせた森林農法である「トメアス式アグロフォレストリー」が行われています。これは、1970年代に日系農家の方々が開発された農法であり、日本の支援を受けて、今日まで引き継がれています。日本は、持続可能な土地利用と生物多様性・森林保全の確保に向けて、引き続きブラジルと協力を進めていく考えです。

 防災における協力も重要です。リオ・グランデ・ド・スール州での豪雨被害による被災者の方々を支援するため、日本は緊急援助物資(浄水器)を供与しました。近年、日本各地も記録的豪雨に見舞われています。防災は、両国の共通する課題と言えます。こうした中、ブラジルとの間では、土石流対策構造物の設計、施工、維持管理の実施能力強化に関する技術協力を実施し、土砂災害に対する能力強化を進めています。日本は、防災分野におけるブラジルとの協力を今後も強化していきます。

 そして、現下の国際情勢においては、日本は、世界を分断や対立ではなく、協調に導くことを重視しています。そのためには、主権や領土一体性などの国連憲章の原則をはじめ、国際法を遵守することが不可欠です。今なお続くロシアによるウクライナ侵略は国際法の明白な違反です。一日も早くウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現することが必要です。また、中東情勢のエスカレーションは地域及び国際社会全体の安定と平和を脅かすことは明らかです。日本としては国際社会と協力して、全ての関係者に最大限の自制を働きかけるとともに、ガザを含め中東の人道状況の改善にも取り組んでいく考えです。

 また、世界中のどこであれ、力や威圧による一方的な現状変更の試みを許容してはなりません。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくことが不可欠です。厳しい国際情勢の下、来年には国連創設から80年が経ち世界が大きく変わる中で、国連を中核とした多国間主義の重要性は高まっています。日本とブラジルは、国連、中でも安保理の改革のため、共に取り組んで来ました。先般、国連未来サミットで採択された「未来のための約束」で、世界の全首脳が、安保理改革が緊急に必要であると結論づけました。改革実現のためのステップを踏み出すべく、日本は、G4メンバーとしてブラジルと共に、緊密に連携していきます。

 日本とブラジルは、価値や原則を共有する「戦略的グローバル・パートナー」です。また、日本にとってブラジルは、世界最大の日系社会を礎として、人と人との間の特別な絆(きずな)がある友好国です。この日本とブラジルの関係は、来年、日ブラジル外交関係樹立130周年という節目を迎えます。

 この節目を捉え、日本とブラジルの間では、来年を「日本ブラジル友好交流年」とすることで一致しており、文化や観光、スポーツ等の様々な分野で協力を促進していきます。人的交流においては、昨年9月からの両国による短期滞在査証の免除を契機として、訪日ブラジル人数は倍増しています。ビジネス関係者の人的往来の活性化にも期待しています。また、これまでの成功を礎に、更に両国の新しい協力のフロンティアを拓いていける年にもしたいと思います。

 今回のG20サミットをきっかけとしたブラジル訪問、そして、友好交流年は、日・ブラジル関係の新たな章の幕開けと言えます。私は、ルーラ大統領を始め、ブラジル政府・議会関係者の皆さんと手を取り合いつつ、二国間関係、国際場裡(じょうり)での協力の一層の強化に尽力してまいります。