[内閣名] 第11代第1次桂太郎内閣(明治34.6.2〜明治39.1.7)
[国会回次] (帝国)第16回(通常会)
[演説者] 小村壽太郎外務大臣
[演説種別] 日英条約に関する演説
[衆議院演説年月日] 1902/2/12
[貴族院演説年月日]
[全文]
今回帝國政府と英國政府との間に成立致しましたる協約の件に關し其顛末を諸君に御報道するのは本大臣の光榮と致す所でございます政府は東亞の事局に鑑み帝國の利益を虞り帝國と利害を同くする與國と緊切なる關係を結ぶ事は有益なりと認めましたるに依り昨年以來英國政府と累次交渉を重ねましたるが其結果として兩國政府の意思幸に一致を致しましたるに依り勅裁を經て本年一月三十日我全權委員をして英國の全權委員と會同し共に一の協約に調印致さしめました茲に此協約の全文を朗讀致します
日本國政府及大不列顛國政府ハ偏ニ極東ニ於テ現状及全局ノ平和ヲ維持スルコトヲ希望シ且ツ清帝國及韓帝國ノ獨立ト領土保全トヲ維持スルコトヲ及該二國ニ於テ各國ノ商工業ヲシテ均等ノ機會ヲ得セシムルコトニ關シ特ニ利益關係ヲ有スルヲ以テ茲ニ左ノ如ク約定セリ
第一條 兩締約國ハ相互ニ清國及韓國ノ獨立ヲ承認シタルヲ以テ該二國孰レニ於テモ全然侵略的趨向ニ制セラルヽコトナキヲ聲明ス然レトモ兩締約國ノ特別ナル利益ニ鑑ミ即チ其利益タル大不列顛國ニ取リテハ主トシテ清國ニ關シ又日本國ニ取リテハ其清國ニ於テ有スル利益ニ加フルニ韓國ニ於テ政治上並ニ商業上及工業上格段ニ利益ヲ有スルヲ以テ兩締約國ハ若シ右等利益ニシテ別國ノ侵略的行動ニ因リ若クハ清國又ハ韓國ニ於テ兩締約國孰レカ其臣民ノ生命及財産ヲ保護スル爲メ干渉ヲ要スヘキ騷擾ノ發生ニ因リテ侵迫セラレタル場合ニハ兩締約國孰レモ該利益ヲ擁護スル爲メ必要ヲ缺クヘカラサル措置ヲ執リ得ヘキコトヲ承認ス
第二條 若シ日本國又ハ大不列顛國ノ一方カ上記各自ノ利益ヲ防護スル上ニ於テ別國ト戰端ヲ開クニ至リタル時ハ他ノ一方ノ締約國ハ嚴正中立ヲ守リ併セテ其同盟國ニ對シテ他國カ交戰ニ加ハルヲ妨クルコトニ努ムヘシ
第三條 上記ノ場合ニ於テ若シ他ノ一國又ハ數國カ該同盟國ニ對シテ交戰ニ加ハル時ハ他ノ締約國ハ來リテ援助ヲ與へ協同戰鬪ニ當ルヘシ講和モ亦該同盟國ト相互合意ノ上ニ於テ之ヲ爲スヘシ
第四條 兩締約國ハ孰レモ他ノ一方ト協議ヲ經スシテ他國ト上記ノ利益ヲ害スヘキ別約ヲ爲サヽルヘキコトヲ約定ス
第五條 日本國若クハ大不列顛國ニ於テ上記ノ利益カ危殆ニ迫レリト認ムル時ハ兩國政府ハ相互ニ充分ニ且ツ隔意ナク通告スヘシ
第六條 本協約ハ調印ノ日ヨリ直チニ實施シ該期日ヨリ五箇年間効力ヲ有スルモノトス若シ右五箇年ノ終了ニ至ル十二ケ月前ニ締約國ノ孰レヨリモ本協約ヲ廢止スルノ意思ヲ通告セサル時ハ本協約ハ締約國ノ一方カ廢棄ノ意思ヲ表示シタル當日ヨリ一箇年ノ終了ニ至ル迄ハ引續キ効力ヲ有スルモノトス然レトモ右終了期日ニ至リ同盟國ノ一方カ現ニ交戰中ナル時ハ本同盟ハ講和終了ニ至ル迄當然繼續スルモノトス
右證據トシテ下名ハ各其政府ヨリ正當ノ委員ヲ受ケ之ニ記名調印スルモノナリ
一千九百二年一月三十日龍動ニ於テ本書二通ヲ作ル
大不列顛國駐剳日本國皇帝陛下ノ特命全權公使 林董印
大不列顛國皇帝陛下ノ外務大臣 ランスダウン印
〔拍手起る〕
本協約の條文は唯今朗讀致した通でございます此協約の目的は全く極東の平和を益々鞏固にして同時に清韓兩國に於ける帝國の利益及權利を擁護すると云ふのでございます又清國の領土保全門戸開放とは列國が悉く是認し且つ自ら明にしたる所の主義でありますからして本協約は必ず列國の異議を招くやうなことはなからうと信じて居ります・・・〔拍手起る〕