[内閣名] 第13代第2次桂太郎内閣（明41.7.14〜44.8.30）
[国会回次] （帝国）第26回（通常会）
[演説者] 小村壽太郎外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1910/1/27
[貴族院演説年月日]
[全文]

諸君、茲に本院に向て外交の現况に關し大體のことを演説するの機會を得ましたのは本大臣の最も光榮と致すところでこざいます、帝國外交の方針に付きましては、既に前議會に於て其大要を陳述するの光榮を有しましたが爾來政府は此方針に遵據し、諸般の必要なる措置を取りつゝあります、帝國と列國との關係益々親厚を加ふるは、本大臣の諸君と共に欣幸と致すところでございます、殊に英國との同盟は最も健全なる状態にありまして、引續き東洋平和の維持に資し、兩同盟國民間の關係も、益々敦厚を加へつゝあるのでこざいます、本年開催の日英博覽會は即ち此親交を反映するものでこざいまして、目下同博覽會の準備は兩國朝野の●｛執＋れんが｝誠なる翼賛の下に順當に進捗を告げつゝあります、同博覽會開催の兩國貿易の發展と、兩國々民間の親睦に資するところ少なからざるは疑ふべからざることでこざいます、帝國と露國との交情に付きましては、世間或は之に疑を挾み、往々無根なる風説の流布を見ることでこざいまするが、兩國の關係は年を逐うて益々親密となり、何等其間に憂慮を懐くべき事由のなきことは、茲に本大臣の確言し得るところでございます、殊に両國政府は和衷の精神を以て、時々發生致しまする交渉案件を調理しつゝあります、將來に於ても亦常に此方針を確守致しますから、兩國の關係の現に最も良好なるに止らず、其今後益々親厚を加ふべきことは本大臣の期待して疑はぬところでございます、帝國と佛國との關係は極めて良好にして、兩國が誠實に恊約の明文及精神を恪守して、互に相信頼せるは、帝國政府の深く認識を致すところでこざいます、獨逸國の帝國に對する態度の公正友好なるは依然として從來と異なる事なく、又其の東洋政策も、何等我政策と扞格するところなきは、帝國政府の深く滿足するところでこざいます、次に日米兩國の親交は、御承知の如く歴史的性質を、有して居りまして、其の根底極めて確固なるのみならず、兩國通商の關係は益々其の交情を鞏固ならしむるを必要と致しますから、兩國政府は此の目的のため互に、其の爲し得るところを盡しつゝあるのでございます、而して昨年に於ては我練習艦隊が太平洋沿岸を巡視致したことがございます、次で紐育市の「ホドソンフルトン」祝典即ち「ホトソン」川の發見と、蒸汽船の發明に關する紀念祭には、我皇族を特派せられたることがございます、｛原文に、なし｝又續きまして、我軍艦出雲か桑港の「ポートラ」紀念祭に參列したこともごさいます、加ふるに我實業家の一團が、米國商業會議所の招待に應じまして、同國に渡航し五十有餘箇所の市府を巡歴致しましたることがございまして、兩國々民的懇和の機會が、特に其多きを見たる次第でございます、我皇族に對する米國官民の●｛執＋れんが｝誠なる歡待は姑く之を措きまして我軍艦及事業家に對する同國各方面の歡迎は、即ち帝國に對する同國々民傳來の好誼を表彰したるものに外ならぬのでございまして、此の如き兩國官民の接觸交歡は、兩國民間の親睦を増進する上に於て、偉大なる効力を有つことでございますから、本大臣は兩國のため慶賀に堪へざる次第でこざいます、次に帝國と清國とは御承知の如く、極めて重大緊切なる關係を政治上並に經濟上に於て有しておりまするから、其好情を敦うするのは必要あることは、固より論を俟たぬことでございます、帝國政府は大局に顧み、善隣の交誼を重んじ、先づ兩國間多年の懸案を一掃するを以て最も急務と認めまして一昨年以來、互讓の精神を以て妥結に努めましたが、清國政府に於ても亦大局を洞察致しまして、我と同一の希望を表示するに至りました、兩國政府の意思茲に相一致しましたから、昨年九月を以て交渉案件中最も重要なるものを一括致しまして、之を妥結することを得たる次第でございます、目下兩國間には比較的重大ならざる案件の尚存在して居りますけれども、今後兩國に於て、常に和衷の精神を以て妥結に從ふに於ては、此等案件の解決は必ずしも困難なことでないと信じて居ります、本大臣は清國當局者が深く此點に顧念致しまして、益々兩國の關係を親密ならしめて、東亞の大局を維持することに努めんことを切望して止まざる次第でございます、滿洲に關しまする帝國の政府策は、申迄もなく清國の他の地方に對すると同じく、門戸開放、機會均等の主義を保持することであります、此方針は帝國政府の終始嚴守し來りしところにして、將來に於ても亦決して渝ることなきところてございます、先般帝國政府は滿洲地方の開發と、各國商業の發展に資せんがために、旅順港を開放することに決定致しましたるものも、亦此方針に出でたるに外ならぬのでござります、此帝國の終始渝らざるの方針は既に列國に於ても認識するところたるを信じて居るのでこざいます、今回米國政府は、滿洲鐵道中立問題に關しまする提議を致しましたが、本件は帝國の緊切なる利益に關する事項でありますのみならず、帝國と最も親好ある支那の提議でございますから、帝國政府に於ては之に對し特に愼重なる考慮を加へまして、帝國の滿洲に於ける政策は、唯今述べました通りに門戸開放、機會均等主義を嚴守するにあることでございますけれども米國提議の實行は「ポーツマス」條約と、北京條約に依つて確立したる滿洲の事態に、根本的變動を與ふるものでございまして、其結果甚だ重大なるのみならず、南滿洲鐵道の附近に於ては、引續き同鐵道の我領有に屬すべきことを期し、此信念の下に、諸般の事業を經營するもの甚だ多くございますから、今に●｛しんにょう＋台｝んで此鐵道を放棄するが如きは、帝國の責任上到底之を許すべからざるところでございます、（拍手起る）因て政府は本月二十一日を以て、遣憾ながら米國の提議に同意する能はざる趣を、同國政府に回答するの已むを得ざるに至つたのでございます（拍手起る）、帝國政府は、米國政府が本問題に關しましては、我意のあるところを諒と致すべく、列國も亦、我態度の公正なるを認識すべきことは、本大臣の信じて疑はぬところでございます、次に帝國と墺太利、伊太利其他の諸締盟國との關係も亦極めて良好でございまして、是等諸國との親交を害するが如き、何等の事件の發生を見ざるは本大臣の欣幸と致すところでございます、最後に條約改正の件に付きまして、一言述べて置きますが、條約改正に關する大體の方針は、既に前議會に於て之を陳述致して置きました、爾來政府は怠らず、談判開始に關する準備を進めつゝあるのでございます、本問題に付きましては、政府は現行條約中不對等の性質を有する條項は、總て之を新條約中より除去致しまする考でございます、即ち片務的恊定税率の如き、又沿岸貿易を外國船舶に許興する條項、若くは國定輸入税率の改正は六箇月前に之れを交付するを要する規定の如き全然之を廢除致しまして、各國との間に完全なる對等條約を締結せしことを期して居ります、輸入税率に至りましては、國定税率を適用することを原則と致しまして、特別の場合の限り、我産業の状態を參照し、互惠の基礎に依り、相互的恊定税率を定むる方針でございます、政府は此方針に依り、今後速に諸般の準備を完了することに努めまして準備完了後適當の時機に於て、各國と商議を開く積りであります、諸君、外交の現况は唯今述べたる通りでございまするから、宜しく御諒承あらんことを希望致します。

〔拍手起る〕

〔此時發言を求むる者多し〕