データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第13代第2次桂太郎内閣(明41.7.14〜44.8.30)
[国会回次] (帝国)27回(通常会)
[演説者] 小村壽太郎外務大臣
[演説種別] 日米条約関係演説
[衆議院演説年月日] 1911/2/2
[貴族院演説年月日]
[全文]

諸君、今回帝國と米國との間に締結したる條約に關しまして其概要を開陳致しまして、諸君の御參考に供したいと考へます(「謹聴」と呼ふ者あり)帝國と諸外國との間に存する通商航海條約は御承知の如く帝國政府に於て當該國に對し、既に是が廢棄の通告を致しましたから、本年七八月の頃を以て何れも終了することになつて居るのでございまするが、獨り日米現行條約に至りましては其終了期限に關し兩國政府間に見解を異に致しまして、是がため種々交渉を累ねましたけれども、到底兩國政府の意見の一致を見ることが出來ぬと云ふことを認めましたから、帝國政府は終了期限問題を別と致しまして、本年七月十七日より現行條約に代るべき新條約を日米兩國間に締結せんことを提議致しまして、米國政府の同意を求めた次第でございます、然るに米國政府に於きましては專ら兩國傳來の交誼を顧念し十分の厚意を以て我提案に考量を加へました結果、遂に新條約締結談判を直に開始することに同意をしたのでございます、然るに新條約を本年七月十七日より實施致しまするには目下開會中なる米國議會の開期中に元老院の批准恊賛を得るの必要がございますから日米兩國政府共に鋭意商議の進捗を圖りました、其結果幸に迅速に妥結に達するを得まして、遂に二月二十一日を以て華盛頓に於て、兩國全權委員の間に新通商航海條約の調印を了したのでございます、米國政府は此條約を直に元老院の議に付しましたが、元老院は同月二十四日を以て批准恊賛を興へたる次第でございます、今回の新條約は我政府の提案と米國政府の修正案とに基きまして、商議決定したのでございまするが、新條約を現行條約と對照致しますると其主なる相違の點は五つ程ございまする、第一新條約に於ては現行條約第二條末項に存して居りまする勞働者の移住其他に關する但書を削除致しました、蓋し合衆國への移民に關する帝國政府の方針は嘗て第二十五議會に於て本大臣の言明したるところでございまして、帝國政府に於きましては此方針を變更する意思はございませぬから、新條約締結の際、帝國政府自ら其旨を米國政府へ宣言した次第でございます、第二新條約に於きましては關税は兩國間の別箇の條約又は各自の國内法に依ることに致しまして、之と同時に議定書を以て今後日米兩國間に別箇の條約の締結せらるゝに至るまでは、現行條約中關税に關する條項を維持することになつたのでございまする、{原文に、なし}即ち關税に關しましては日米兩國相互に最惠國待遇を保障する次第でございまする、第三新條約は現行條約第十條の末項に規定してござりまする如く、一定の帝國開港場間に於て米國船舶の積荷運搬を許可することなく、沿岸貿易に付きましては、全然各自の國内法の規定に一任致しまして、唯互に最惠國待遇を保障するに止めてござります、第四新條約に於きましては永代借地權に關する現行條約中の條項を削除致してございます、帝國政府は本件の根本的解決に付きましては、別に米國政府と恊議を致す筈でござります、第五現行條約中遭難船に關する規定及脱船人に關する規定の如き領事官の職務に當る者は、今後日米兩國間に商議決定すべき領事職務條約にそれを譲るの趣意を以ちまして、新條約中より之を削除致した次第でござります、新條約と現行條約と異つて居りまする主なる點は、唯今申述べた通りでござります、新條約にして愈々兩國間に批准書交換を了しまするに於ては、本年七月十七日より現行條約に代つて實施せらるゝことになるのでこざりまする、之がため彼我通商の利益を確保し、兩國傳來交情を益々鞏固ならしむる上に於て、其効果の尠なからざるべき帝國政府の確信致すところでござります、今回の日米新條約締結の顛末は概略唯今申述べた通りでござりまするが尚新條約公布の時期を待ちまして、詳細のことを開陳致しまする機會もあらうと考へて居りますから、諸君に於て宜しう御諒承あらんことを希望致します(拍手起る)