[内閣名] 第14代第2次西園寺公望内閣(明44.8.30〜大元.12.21)
[国会回次] (帝国)28回(通常会)
[演説者] 内田康哉外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1911/12/28
[貴族院演説年月日]
[全文]
諸君、本日茲に本院に於きまして帝國政府外交の方針及一般外交の状况に關しまして、其大要を陳述することを得るのは、甚だ光榮と致すところであります、帝國外交の方針が、世界の平和の維持に貢献し、殊に東洋の平和を維持し、帝國の安固を確保し、併せて帝國の利權を擁護するにあることは、私の茲に言ふに及ばざるところでございます、是れ即ち我外交の一定不變の方針とも申すべきものでございます、帝國政府は常に此方針に基きまして、宇内の形勢を顧念し、國力の發展を考慮し、必要なる措置を執り、苟も違算なからしめんことを期して居る次第でございます、帝國と列國との交情は逐年彌々親善となりました次第は本官の諸君と共に欣幸とするところでございます、就中英國との親交は益々其の厚きを致しまして、同國との同盟も、昨年に於ける恊約の改訂に依りまして、更に其の鞏固を加へた次第であります、帝國と露國との好誼は、是れ亦益々親厚となりまして、兩國政府は二回の恊約の正文及其の精神を恪守致しまして、相悖ることがありませぬ、前年來懸案となつて居りました、諸般の交渉案件も昨年を以て一括之れが妥結を得まして、兩國間に、最早何等軍要案件の解決を待つものなき程に至りました、帝國と佛蘭西との關係は前年締結致しました、恊約を恪守致しまして、互に相信頼すること益々厚うございます、目下、彼我の通商開係は暫定恊約に依つて之れを律し居りますけれども曩に締結せられましたる新通商條約は遠からず批准交換を了することゝ思ひます、其の結果兩國の通商關係を安固ならしめ、其發展に寄與するに至ることゝ信します、帝國と獨逸との交際は愈々滿足なる状態にあります、昨年締結實施せられましたる同國との新通商條約は、去る十二月を以て愈々同國議會の恊賛するところとなりました、尚ほ兩國は互いに右新條約の廢棄權を抛棄致しまして彼我の通商關係の基礎が茲に確率するに至つた次第でございます、日米兩國の親交は其由來致しまするところ遠くございまして、彼我通商上の關係に至りましても、極めて密接なるものがございます、固より米國に於きまする一部排日論者のために攪亂せられ得べきやうなものではござりませぬ、加ふるに最近に至りましては彼我排日論者の我に對する誤解も漸く氷釋せんと致しまして、且兩國名士識者の頻繁なる往來は兩國國民をして互に其性質感情の眞相を了解せしめまして、兩國國民の意思も益々疏通するに至りましたる次第でございます、我鄰邦清國に於きまする擾亂は帝國政府の甚だ痛心に堪へざるところであります、帝國政府は帝國の清國に於て有しまする政治上及び經濟上の重大なる利害關係に鑑みまして、速に秩序の同復を見るに至らんことを切望致しまして、是がため同國に利害關係を有しまする諸國との間に意見を交換致しまして、禍害の未だ甚だ大ならざるに先ち和平の解決をなすことに盡力致しまして、即ち英吉利と共に官革兩者の恊商に對し好意的斡旋の勞を取りまして、更に又英吉利、露西亞、亞米利加、佛蘭西、獨逸の五箇國と共に官革雙方の代表者に對しまして、平和回復の必要に關し注意を喚起するところがござりました帝國並に他列國の是等努力に拘りませず、清國の状勢未だ和平の途に進まざるの有様にありまするのは、甚だ遺憾に堪へざる次第でござります、帝國政府は今後尚引續き事態の發展に注視致しまして、東洋平和の確保に努めまするのを怠りませぬのは勿論、同時に清國政府及其國民に於きましても、大局を顧みまして速に擾亂を収め、和平を計るに至らんことを切望して居る次第でござります、最後に條約改正の事業に關して一言申上げたうござります、日米新通商航海條約の成立は既に前期議會に於て報告説明せられました通りでござります、其他の諸國との舊條約は帝國政府より廢棄の通告を發しましたる結果、何れも昨年七八月の交を以て消滅に歸しました、英吉利、獨逸、瑞典諾威及瑞西の五箇國とは既に新通商條約を締結實施するに至りました、佛蘭西及西班牙の二國とは既に新條約を締結致しまして、目下其批准交換を了せんことを期待して居る次第でござります、墺地利、伊太利、白耳義、和蘭、丁抹、葡萄牙の六箇國とは今尚新條約談判中に屬して居る次第でこざいます、此中葡萄牙を除きまする外は既に各國との間に暫定取極を訂立致しまして以て新條約の締結に至るまでの間の通商關係等を律して居る次第でございます、帝國政府は成べく速に改訂の業を終了致しまして以て我維新以來の宏謨を完成せんことを希望し、鋭意新條約の締結に努め居る次第でござります、帝國政府外交の方針及外交状况は大要右に述べましたる通りでござります、故に諸君に於ても之を諒せられんことを希望致す次第でござります(拍手起る)