[内閣名] 第17代第2次大隈重信内閣(大3.4.16〜5.10.9)
[国会回次] (帝国)第37回(通常会)
[演説者] 石井菊次郎外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1915/12/7
[貴族院演説年月日]
[全文]
諸君、第三十七回帝國議會の開會に際しまして、茲に諸君に向つて前議會以後に於ける外交經過の大要を陳述することを得るは、私の光榮とする所でございます、帝國と聯合同盟國との結束は益々鞏固を加ふると同時に、其他締盟各國との關係亦益々親善を加へつゝあるは、諸君と共に欣幸とする所でございます、又今回の御大典に際しまして、是等の各國が何れも熱誠を以て奉祝の儀に參加致しまして、衷心祝賀の意を表せられたるは、我國民の擧つて滿足する所なることは、私の喋々を俟たぬ所でございます、隣邦支那に在りては國體變更帝制再興の議が起りまして、最近遽に其歩を進め、之が實現將に遠からざらんとするに至りました、是を以て政府は愼重蕃議大局の利害を考察致しまして、他の關係諸國とも十分意見を交換したる上に、支那に對し國體變更の計畫を延期せられんことを、友誼的に勸告することに決しまして、我が在支代表者をして之を實行せしめたる次第は、其當時之を發表し置きたる通りでございます、蓋し歐洲に於ける戰爭の慘禍業に已に甚しきものあるに當つて、何れの地たるを問わず、更に新なる不安の紛擾を加ふるの虞ある事態は、能ふ限り努めて之を避くるを必要とするは勿論のことでございます、然るに支那各地方に於ける趨勢は、表面一般に帝制に賛成を表するの觀がありまするが、裏面に於ける反對不安の氣運は、意外に深く且廣きに亘ると信ずべき理由がございます、若し一旦帝制の實現を見るが如きことあらば、如何なる擾亂を來すやも計り難く、折角近時漸く平靜に近きつゝある支那の治安をして再び逆轉せしむるの虞がございます、東洋の平和も遂に之が爲めに危殆に瀕するの事なきを保せざるの有様となります、而して若し帝制實行の結果、此の如き事態を惹起すに至りましては、直接間接に支那に對し利害を有する諸國、殊に是と最も密接の關係を有する日本の蒙むるべき損害は、眞に計るべからざるものがございます、帝國政府の執りたる措置は隣邦支那の秩序公安を維持し、延いて東洋の静安状態を確保せんが爲めに、其當に盡すべき所を爲したるに外ならぬ次第でございまして、毫も支那の内政に干與するの意思なきは勿論、支那に對し一點の私心あるに非ず、全く誠心誠意支那及列國の利害を顧念したるに由る次第でこざいます、我在支那代理公使は帝國政府の訓令に基き、英露佛三國公使と恊同致しまして、帝制延期の勸告を實行し、尋で伊國政府も亦自から同様の措置に出ました、右四國の勧告に對して支那政府の爲したる回答の全文は、去る十一月四日を以て公表したる通りでございます、要するに其措辭曖昧にして、意味明瞭を缺くものがありましたが、帝國政府は更に支那政府に問ふに、同政府は列國の爲したる帝制延期の勸告を、受諾したるものなりや否やと云ふ點を以て致しました、支那政府は之に對し回答する所がありましたが、其詳細の内容に至りましては、支那政府より秘密の回答として受領したるものでございますから、今日此席に於て之を開述することの自由を有せないのは、私の遺憾とするところでありますが、要するに帝制の實行は多少延期を免れずと云ふ意向を表象したるものでございます、若し夫れ本問題に對し、帝國政府が今後執るべき措置に至つては、事關係諸國と恊議未了の事項に屬しますから、今日直に之を茲に言明することは出來ませぬ次第でございます、此段は御諒御諒承を願ひたい。
昨年九月五日倫敦に於いて、英佛露三國間に調印せられたる、所謂倫敦宣言に關しまして、帝國政府は過般同宣言に公然加盟するの手續を了しました、抑抑右宣言は御承知の通り、現戰爭中單獨に講和せざるべきこと、及び何れの政府も他の政府の同意を經ずして、講和條件を要求せざるべきことを約定したるものでございまして、右三國間には日英兩國間に於けるが如く、戰後講和に關し何等恊約の存するものがありませなんだから右の如き約定を必要としたる次第でありますが、日英兩國間には、同盟恊約第二條の規定がございますから、更めて右の如き約定を爲すの必要は無かつた次第でございます、右の次第は昨年の議會に於きまして、當時の外務大臣加藤男爵より報告せられたる通りでございまして、諸君御承知の通りでありまするが、其後三國政府より帝國政府に對し、右倫敦宣言に正式加入方を勸誘し參りました、由來帝國が三國側と恊同講和の關係に在るは、日英同盟條約と倫敦宣言とにより來る自然の結果でございまして、帝國政府が更めて正式に倫敦宣言に加入するの絶對必要ありたる次第にはあらずと雖も帝國の宣言加入は聯合諸國の決心、及結合の益々強固なることを内外に宣明するものにして、戰爭の前途に對し頗る有益なるべきのみならず、講和に臨んで關係國間の位地を、一層瞭然たらしむるの効果も亦是れあるべしと認めまして、帝國政府は在英大使に訓令を發し、去十月十九日を以て英國外務大臣、及英國駐箚露佛兩國大使との間に、該加盟に關する文書の交換を行ひたる次第でございまする右交換公文は曩に公表せられ、既に諸君の御承知になつて居る所でございます、續いて十一月末に至りまして、伊國政府も亦倫敦宣言に加入するに決しまして、同月三十日倫敦に於て日英露佛及伊國政府の間に、右加盟に關する宣言の調印が遂げられました、其條文は昨日官報を以て公表せられた通りでございます、以上外交經過の大要を御報告申上けます(拍手起る)