データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第18代寺内正毅内閣(大5.10.9〜7.9.29)
[国会回次] (帝国)第38回(通常会)
[演説者] 本野一郎外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1917/1/23
[貴族院演説年月日]
[全文]

諸君、全世界に亘る現時の大事變に際し、外務大臣の重職に就きまして其の責任の大なることは本大臣の熟知して居る所であります(「君が知つて居るか」と呼ふ者あり)本大臣は今後幾多の困難に遭遇すべきことは之を豫期し居るに拘らず(「御尤も」と呼ふ者あり)此重大の責任は之を避くべき時にあらずと信じ、 {空白ママ}聖上及國家に對する義務として此重任を御請致さねばならぬこと、誠心誠意確信したる次第であります、それで御坐いまするから諸君に於かれましても、何卒此衷情を御諒察あつて、本大臣の職務遂行に對して好意的御恊賛を賜らば本大臣の最も幸ひとする所で御坐います、(「いやだ」と呼ふ者あり)既に二年半餘も繼續致しました歐羅巴の戰亂は、實に有史以來其類例を見ざる大事件でありまして、將來に於ける各國民の運命に至大の影響を及ぼすものであると云ふことは、何人も疑を挾まない所と存じます、各國が自由に共生存を保有し得べきや否や、大小の列國が獨逸の覇権の下に屈するやうになるかならぬかと云ふ問題は實に此戰爭の結果如何に由て決定せらるゝことであらうと思ふので御坐います、諸君も御承知の通り今回の歐洲大戰爭の表面の原因は、墺匈國{2文字前の字は原文では最終画のタテ棒のない字}が塞爾維に對して、國家として到底承諾すること能はざる無理の要求を提出したことでありますが、其眞の原因は、世界の覇権を握らんとする獨逸の野心でありまして、獨逸は此野心を達する爲に久しい以前から準備して居つたのであります、獨逸は實に遠大の慾望を有して居りまして、千八百九十八年に青島に手を著けたるのも、將來支那を占領する素地を作らんと欲したることは今日最も明白なる事實であります、獨逸が全獨逸主義の鼓吹に勉めて居つたことや、軍備の充實に汲々として居つたことは、世人の皆能く知つて居る所でありますが、大正三年の夏獨逸は其野心を滿足せしむる爲に最良の機會が到來したものと考へまして、開戰後數箇月を出でずして敵は其抵抗力を失ふものと信じたのであります、然るに獨逸の目算は全く外れまして、開戰後二箇年半を經過した今日に於て、尚ほ此戰爭を繼續せねばならぬ状態に陥つて居ります、初め帝國は同盟條約の義務を重んじ、英國からの申出でがありますると、直に援助に赴きまして、其の義務を果したのであります、我陸海軍は數月にして極東方面に於ける獨逸の武力を全滅し、支那に於ける獨逸の活動の根據地を破壊して、東洋の安寧と其秩序とを保障するに至つたのであります、又帝國は英國と恊力して太平洋及印度洋に於ける獨逸の海軍を撃破して、此廣き海上に於ける日英兩國の通商航海の安全は勿論、他の同盟國及中立國の通商航海の安全をも保障したのであります、敵國は各國の通商航海を妨害する爲に、有ゆる手段を執つて居るのでありますが、太平洋及印度洋だけは獨逸の暴行を免れて居ります、此の如く帝國が人道の爲に貢獻したる偉大の功績は、文明諸國に於て必ず承認し居ることゝ本大臣は深く信じて疑はざる所であります(「前内閣並に吾々の賜ものなり」と呼ふ者あり)前に述べました通り帝國は獨逸に對して職を宣し、又大正三年九月五日の倫敦宣言に加入を致しましたから、日本は明かに歐洲大戰に仲間入りした譯でありまして、其仲間入りしたのは單に帝國自身の利益を防護する爲ばかりではなく、聯合諸國の利益は勿論、人類全體の利益をも防護する爲であります、即ち此残虐なる戰爭に於て、正義と権利とをして終局の勝利を得せしめ、戰後に於きまして世界をして眞正なる平和の幸幅を受けさせねばなりませぬ、此崇高なる目的を達する爲には先づ第一に我聯合國側が十分にして且決定的の勝利を得なければなりませぬ、此十分の勝利がなければ日本が多大の努力をして折角維持し來つた所の極東の平和も、甚だ危險になると云ふことは、今更本大臣が喋々と述べるまでもないのであります(「其通り」又「ひや\/」と呼ふ者あり)而して我聯合諸國に於て十分の勝利を得まするには、人類の權利防護の爲に劔を執つて立つた所の諸國の政府並に國民が、總ての點に於て神聖なる團結を固めることが最も必要なる條件であると思ふのであります(「官僚を除いて然り」と呼ふ者あり)帝國は今次の戰爭に參加するに當りまして、亞細亞に於ける其特殊の地位に鑑み、開戰以來其戰闘區域を限定致しまして十分其責務を果しましたが、尚其後に於きましても同盟國をして最終の勝利を得せしむる爲に、種々の方面に於て出來得るだけの援助を與へて居るのであります、我同盟諸國と我共同の敵との戰闘は單に陸海軍の戰爭に限られて居るのではなく、人類活動の有ゆる方面に亘つて居りますから、我帝國に於ても出來得る限りの手段を竭して、各方面に於て共同の動作を執らねばならぬのであります(「ひや\/」拍手起る)昨年の夏巴里に開かれました聯合國經濟會議の決議に、日本が參加致しましたのも之が爲めであります、又帝國政府が通信に關し共同の利益を防護する爲に或種の措置を執りましたのも同一の理由に依るのであります、巴里の經濟會議の決議に參加致しましたる結果として、帝國政府に於て種々の手段を執らむとするのも全く同一の目的に出るのであります、{原文に、なし}尚又講和に關する十二月十九日の獨逸の通牒,並に同二十一日の米國の通牒に對し佛國政府が同盟國の名に於て米國政府に與ふべき回答案に、帝國政府が迅速に同意を與へましたのも、同盟國との歩調を一にし、依て以て帝國の利益を擁護するが爲に外ならぬのであります、獨逸の提議を拒絶致しました理由は、米國政府を通じて敵國政府に送りました所の同盟國の共同回答に明瞭に述べられて居りまして、諸君は既に御承知のことゝ存じますから爰に改めて申述べることは之を省きます、帝國政府は他の同盟國政府と同様に、敵國政府の主張は到底認容し難きものであると云ふこと、及講和談判に入るの時間は未だ達到して居らぬと云ふことを認めたのであります、昨年十二月二十一日帝國政府が受取りました米國政府の通牒に對する回答に付きましては、爰に一言致して置かねばならぬことがあります、同盟諸國政府は米國政府の措置の動機たる高尚なる精神は、十分に之を諒とするものでありまするが、米國政府の表白したる平和の希望には應ずることが出來なかつたのであります、其理由は佛國政府が同盟國の名に於て在佛米國大使に手交致しました所の回答中に述べてあります、是亦諸君の御承知の通りでありますから之を繰返しませぬが、唯諸君の御注意を願ひたいのは次の一點であります、米國政府への回答中には平和締結の際に於きまして、聯合諸國が敵國に對し課せなくてはならない數多の條件が列擧してあります、然るに獨逸の殖民地の處分に關しましては一言も述べてありませぬ、是が爲め輿論の注意を喚起しましたのは尤の次第でありますが、此點に付きましては政府も固より氣が付いて居つたのでありまして、米國政府の通牒に對する回答中には講和の際提出すべき總ての條件を包含して居る譯ではありませぬ、同盟諸國は講和談判の際總ての要求を提示するの權利を留保して居るのでありまして、此意味は米國政府への回答中に現はれて居ります、それ故に本件回答案は講和談判に際し、帝國政府の提出すべき正當なる要求を考量に入れなかつたのではないのであります、併ながら尚此點に付て誤解を避くる爲めに、回答案に承諾を與ふるに際しまして、帝國の權利を保障すに必要なる手段を執つて置きました、此點に關し聯合國と滿足なる了解が付て居ると云ふことを、茲に諸君に向かつて明言することを得るのは、本大臣の最も幸とする所で御座います(拍手する者あり)前に述べましたる通り、正義と權利との終局の勝利並に世界の眞正なる平和の爲に、聯合國が戰爭繼續の意思を明に致しましたる此機會に於て、本大臣は英露佛伊の諸國を初めとし、白耳義塞爾維「モンテネグロ」羅馬尼等の偉大なる努力に對し感謝の意を表し、是等諸國の勇敢なる將卒に對し稱讃の辭を呈すると同時に、残酷無恥の敵兵の暴行の犠牲となつた各地の人民に對し、滿腔の同情を寄せ、聯合國の努力は必ず是等の人民に、光榮ある將來を齎らすものであると云ふことを確信するのであります、帝國外交の基礎は日英同盟にあると云ふことは、今更申すまでもなきことでありまして、今次の戰爭に依て該同盟の鞏固なること、及び其効果の偉大なることが證明せられ、日英兩國民は兩帝國の權利及利益を防護し、極東の平和と其秩序とを維持するために、此同盟が益々必要であると云ふことを確信するに至つたのであります、大正五年七月三一日諸君も御承知の通り日露兩國間に新恊約の締結せられましたことは、誠に慶すべきことであると思ひます、此恊約は其當時既に發表せられましたから、茲に述ぶるの必要はありませぬが、日露の關係に就きまして一言致して置きたいと思ひます、日露戰爭以後兩國は直ちに親善の必要を認め、明治四十年に第一恊約を締結致して以來、歴代の内閣は日露接近の政策に向つて益々其歩を進めて、爾後兩國間に數次の恊約が締結せられ終に大正五年の恊約となつて現はれたのであります、露國將來の運命に大關係を有する今回の事變の眞最中に、本恊約が締結せられましたが爲に、露國の輿論は帝國の誠意を十分に了解するに至つたのであります、殊に今回の大戰爭中日本が露國に對し多大の軍需品を供給し其軍事行動を援助したることに就ては、官民共に日本に對して深厚なる感謝の意を有し居ることは、本大臣の茲に明言するを憚らざる所であります、本大臣は十年以上露國に在りまして、日本に對する露國の人心の趨嚮に就ては、愼重に注意を致して居りましたが、今や露國民は日本國民に對し眞率にして隔意なき友情を有して居ると云ふことを確言することが出來ます、戰爭開始以來露國に旅行されたる本邦の方々は皆此事實を認められて居ること々信ずるのであります、日露兩國は極東に於て共同の利害關係を有して居りまして、兩國は相提携して之が防護に當らねばなりませぬ、兩國間の共同一致は、實に日英同盟と相俟て極東に於ける平和の維持、及び帝國の利權防護の爲め、最も必要な保障でありますことは、最早本大臣の喋々を俟たずして明かなることであります、{原文に、なし}帝國と同盟國との關係に就きましては之に止めまして、今より中立國との關係に就て聊か申述べたいと思ひます、現時の戰爭中に於きましても、帝國と諸中立國との關係が頗る圓滿であるのは誠に喜ぶべきことであります、中立諸國が其の海外貿易に對する帝國陸海軍の功績を十分に認めて居ることは、本大臣の確信して疑はない所であります、若し帝國陸海軍が支那に於ける獨逸の策戰根據地を破壊しなかつたとしたならば、又帝國海軍が英國海軍と共同して太平洋上の獨逸艦隊を一掃しなかつたとしたならば米國濠洲支那等の諸國は如何なる状態に陥つたのでありませうか、凡そ商船を有する中立國は、皆日英兩國の海軍力に依て海上の安全が維持せられましたが爲に大なる利益を受けて居るのであります、我か友邦たる諸中立國に於ては、確に此事實を認めて居ることゝ確信致して居ります、帝國と友好關係にある中立國の中で、北米合衆國と支那とに就きまして、特に一言申上げたいと思ひます、帝國政府は常に米國政府並に米國民との親善關係を顧慮して居ります、兩國の親善關係を幾分か毀損する虞のあるやうな問題が起つたことは事實でありますが、此等の問題は兩國政府間の善意の交渉に依つて、或程度迄は圓滿に解決せられたのであります、勿論兩國政府間に意見の一致しない問題もありますが、是は列國の關係に於ては免かれ難きことえあつて、同盟國間に於いてさへ起り得ることであつて、敢て怪しむに足りませぬ。併ながら最も複雜したる問題が發生しましても、兩國政府が調和的精神を以て隔意なく問題の解決を圖る場合には、常に妥恊の途を見出し得るのであります、日米兩國政府が終始此方針を守つて居りますのは、兩國の甚だ滿足する所でありまして兩國間の友情が近年著しく増加致しましたことを認めましたのは、洵に悦ばしいことであります、現に支那に於ける經濟間題に就きましては、米國資本家が我が資本家との提携を希望するの意志を示して參りましたのは、洵に悦ぶべき現象であると思ひます、{原文に、なし}右の次第に依り帝國政府は、日米兩國の經濟的接近と云ふことに就て深く考量を加へて居るのであります、諸君日支關係に就きまして諸君は必ず政府の説明を期待して居られることゝ存じます、さうして政府も亦本問題に對する現内閣の方針を明瞭に諸君に開陳することは、其義務であると信じて居る次第であります、(「謹聽」と呼ふ者あり)數年來支那に發生した事變は、諸君の御記憶に十分残つて居ることでありますから、今更申述ぶる必要はありませぬ、{原文に、なし}併ながら是等の事柄から日支兩國の間に何となく、甚だ面白からざる事態を生ずるに至りましたことは認めねばなりませぬ、而して此事態は是非共日支兩國の爲に一掃するの必要があります、日本が支那に於て有しまする所の大なる政治上及經濟上の利益に鑑み、帝國は常に支那が近世の文明を採用して、益益發達することを熱望し、之が爲に援助の勞を惜まなかつたのであります、即ち文武の顧間を送り、ヌ列強と共に有らゆる改革の實行に必要なる資源を供給し、且數萬の支那學生の教育をも引受けたのでありまして、此數年來支那の成し遂げましたる改革は日本に負ふ所甚大なりと申しましても、何人も異存なきことゝ信じます、斯の如く日本は支那に對し好意を以て盡力して居るに拘らず、支那は往々猜疑の眼を以て日本を視、日本に對して惡感を懐いて居る様でありますのは何故でありませうか、是には種々の原因がありませうが、本大臣の見る所に依りますれば、其の最大の原因は、近年支那の内部政爭の渦中に投ぜんとするの傾向であると存じます、(「ひや\/」拍手起る)(「現内閣の罪だ」「明言すべし」「明言しろ」と呼ふ者あり)

○議長(島田三郎君)御靜かに願ひます靜肅に……

○國務大臣(法學博士子爵本野一郎君)清朝沒落して支那共和國が建設せられまして以來、支那に多數の政黨が出來ました、そこで日本に於きましては或者は一方の黨派に同情を表し、或者は他方の黨派に同情を表し、各々其の政見若くは個人的關係により其の好む所の政黨に援助を與へて、政權を掌握せしめんとしたのであります、(「誰がしたのだ」と呼ふ者あり)勿論是等の人々の活動は誠意に出でたものであると云ふことは本大臣の毫も疑はない所でありますが、(「人々か國家かどちらだ」と呼ふ者あり)其結果は甚だ良くなかつたと信じます(「ひやひや」拍手起る)支那共和國建設當時に於て、我か執りたる態度の結果はどうでありましたか、又大總統袁世凱に對する各種の運動の結果はどうでありましたか、是等のことは皆諸君の御承知のことでありますから(「明言すべし」と呼ふ者あり)改めて喋喋するの要を見ませぬ(拍手起る)唯前述の行動は一面隣邦支那の反感を買ひ、一面列國をして我眞意を誤解せしむるの結果を生ぜしむるに過ぎなかつたと信じます(「ひや\/」と呼ふ者あり)現内閣は斯る政策は斷然之を執らぬことに決定して居ると云ふことを、茲に聲明するに躊躇しませぬ(「それが外務大臣の演説か」と呼ふ者あり)帝國政府は眞實支那との親善關係を切望するものであります、帝國政府は支那が其將來の發展の爲めに行はんとする各種の改革が漸次に實行せらるゝことを望むのであります、而して支那に於て希望とあらば、決して必要の援助を與ふるを惜しむものではありませぬ、唯今述ぶる通りの次第でありますから、帝國政府は支那をして我誠意のある所を諒解せしむる爲に努力する積りであります、而して帝國政府に信頼すると否とは支那自ら之を決しなければなりませぬ(「汝を信頼せず」と呼ふ者あり)帝國政府は支那に於ける或黨派に特に加勢する意志を持つて居らないと云ふことを斷言します、帝國政府は支那其者と親善の關係を有せんと欲する者でありまして、或る限られたる政黨と親善の關係を有せんとするの考ではありませぬ(拍手起る)之を要するに帝國政府に取つて肝心なる點は、支那が順調に文明の域に進むと云ふことでありますが、帝國政府の最も憂慮に堪へませぬのは支那内部の動亂が間斷なく繼續致しまする結果、支那が遂に支離滅裂の情態に陥りはしないかと云ふ點であります、支那が獨立を維持し其の領土を保全することは、最も必要のことでありまするから、帝國政府は支那の瓦解分裂を防止する爲に、全力を盡さなければならぬと思ふのであります(「其の全力を何處へ注ぐのだ」と呼ふ者あり「支那の滅亡することを傍観するのですか」と呼ふ者あり)右に申述べました所のものが現内閣の對支方針の一つであります、次に諸君の御注意を乞はなければならぬ點は、日本が支那の或地方に於て特殊の地位を占めて居ると云ふことであります、就中南滿洲及東部内蒙古のことであります、滿蒙に於て日本が特殊の地位を占むるに至りましたのは、日本が此方面に於て多大の犠牲を拂ひ、容易ならさる努力を爲したる結果でありまして、又支那との條約及取極めによりて、特殊の權利及利益を得るに至つたからでのことでありますから、日本帝國が此等の權利及利益を防護することは、帝國政府に於ては國家に對するの當然の義務であつて、支那に於て帝國の權利及利益を尊重することは、支那國際上の義務にして、又日支親善の實を擧ぐるものであると云ふことを能く了解して貰はねばならぬことゝ信じます、帝國政府が眞實希望する如く、若し支那に於て日本との親善關係を正實に欲するならば、支那も亦帝國政府と同様の態度方針に出づるを要するのであります、然らずんば日支兩國の親善は到底之を期待することが出來ませぬ、本大臣は此明確なる帝國政府の意思を支那に於て知るに至らば、支那政府に於ても帝國の誠實なる對支親善の方針に付き、毫も異存無かるべしと確信して居ります、日本は其の地理上の關係、及政治上並經濟上の利害關係により國際上支那に對し特別の地位にあると云ふことは何人も爭はない所であります併ながら外の列國も亦支那に於て大なる利害關係を有して居ると云ふことは吾々も之を忘れてはなりませぬ、{原文に、なし}故に日本は一方に於て其の利益の防護に努めると同時に他方に於て他國の利益を尊重しなければなりませぬ、{原文に、なし}即ち帝國の特殊の恊約を結んで居る諸國とは歩調を一にして進む様にして一般的に帝國の利益と列國の利益との調和を圖るの必要があります、{原文に、なし}列國共同の利益に關する限り、此の態度を執ることが最良の途であると確信するのであります、日本は支那に於て利己主義の政策を執らんとする者ではありませぬ、{原文に、なし}是非とも支那に利害關係を有する列國との恊調を保つて行くことを切望するのであります、而して帝國政府の見る所を以てしますれば、各人各善意を以て事に臨む場合には、支那自身にとり又列國にとりても、滿足なる恊調に達することが出來ると信ずるのであります、現内閣の採らむとする對外政策の要綱は、大體唯今述べた通りであります、現今の時勢は帝國の將來に重大なる關係を持つて居るのでありまして、何事も帝國の參加して居りまする所の歐洲戰爭の結果如何に因て決するのでありまするから、帝國の權利及利益防護の爲に全力を致さなければなりませぬ、政府は賢明にして愛國心に富んで居らるゝ議員諸君の御賛同に依て、其重き責任を果さむとする者であります(「汝を信頼せず」と呼ふ者あり)壇を降るに臨んで本大臣は國家の爲め、切に諸君が現内閣の對外方針に關し、十分の御賛成あらんことを冀望致します(拍手起る)