データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第21代加藤友三郎内閣(大11.6.12〜大12.8.24)
[国会回次] (帝国)第46回(通常会)
[演説者] 内田康哉外務大臣
[演説種別] 国務大臣演説
[衆議院演説年月日] 1923/01/23
[貴族院演説年月日]
[全文]

諸君、今期議會開會に際しまして、茲に我が對外關係に付き聊か所見を披瀝するの機會を得ましたことは、私の甚だ光榮とする所であります、之に先ちまして一言申述べたいのは、昨年英國皇太子殿下の御來朝の事であります、{原文には、なし}殿下の御來朝は一昨年我が皇太子殿下の御渡英と相俟つて、洵に昭代の盛事でありまして、英國との友好關係が一層鞏固を加へたことは、我々の深く感銘する所であります、諸君、世界の大戰爭が人類一般に與へたる影響は、有形無形洵に甚大なるもののあることは、今更申すまでもありませぬ、世界に國家を成すものは、此の異常なる事實を無視して、其の國策、殊に對外政策を樹立すること能はざるは當然のことであります、帝國政府は帝國が東洋の先進國たり、又世界の主要列強の一たる地位に應じましてその國權の維持、國運の伸張を念とすると共に、大戰後に於ける國際上の最高使命たる建設的平和政策に向かつて努力することを以つて、我が外交方針と爲すべきものと考へます、隨つて英米佛伊等の舊聯合國は勿論、其の他の親交國と益々協調を維持して、我國の國際信用を一層向上せしめ、國家の權威を此の上とも鞏固にして、我が國民の對外經濟的發展を圓滑ならしめ、以つて其の福祉幸福を増進致しますと共に、世界人類の生活安定に貢獻せんと欲するものであります、而して此の方針が、帝國の利益と名譽に最も合致する所であるのみならず、歐米諸列強の方針も、近來多少反動的氣分が無いでもありませぬが、大局に於て其の軌を一にするものと信じます、{原文に、なし}列強の方針が最も有効に現はれましたのは、即ち華盛頓會議であります、此の會議に付き我が政府の特に重きを置きましたのは、同會議の具體的産物の外に、内には國民の負擔と懸念を減じ、外には列國の了解と親交を齎したことであります、殊に英米兩國との國交が之が爲め益々鞏固なる基礎に置かれましたことは最も顯著なる事實であります、隨つて政府は、華府會議に於て成立致しましたる、條約決議等の速に實施せられることは、即ち帝國の利益に最も能く合致する所以であることを確信致しましたから遲滯なく必要の手續を取運びまして、昨年八月海軍制限條約を始め、諸條約の御批准を經ました、英米兩國の批准手續も既に完了して、今は主として佛伊兩國の手續完了を待つのみとなつて居ります、世界平和の大局上より、兩國に於ても遠からず批准を見ることと信じます、歐洲に於きましては、獨逸賠償問題、聯合國間債務整理問題、近東問題及露國問題等、其の復興に伴ふ幾多の難問題が横はつて居ります、聯合國は此等問題の爲め、屡々會議を開き、交渉を重ね、現に近東問題の如きは、昨年十二月下旬より瑞西國「ローザンヌ」に於て帝國關係諸國と共に平和條約を審議中でありますが、種々の理由に依り、斯の如き世界平和に大關係を有する各種の問題が、未だ解決を見ないのは頗る遺憾とする所であります、殊に最近佛白兩國は、濁逸「ルール」地方に對し、或る行動を執るに至りました、其の結果は、場合に依つては極めて重大な事態に立至らぬと限りませぬ、政府は世界平和の見地に立ち、能く經過を注意する考へであります、露國に對しては、帝國は夙に内政不干渉の根本方針を以つて之に莅み、其の政情の安定を俟つて、成るべく關係列國と協調して、諸種の問題を解決いたしたい方針でありまして、現に、「ゼノア」會議、海牙會議等にも參加しましたが、彼の極東共和國成立中は、特に同國と速に通商關係を開き、直ちに西伯利より軍隊を撤退することを得策と信じまして、我が代表は齊多側代表と、大連に會商しまして、數箇月の長きに亘つて、通商再開のことを交渉しましたけれども、遂に不調に終りましたが、帝國政府は、極東露領に於ける政情も、漸次安定に赴く徴候を看取しましたから、昨年十月末に、沿海州より全部撤兵することに決しますと同時に、極東共和國との間に於て、通商關係復活の爲め、更に努力することに決しまして、大連會議で既に纏つた部分を骨子として交渉すると云ふ條件で、更に長春に於て、彼我代表間に折衝を重ねました所が、我方に於て十分交讓の態度を示したに拘らず、會議が結局決裂に至りましたのは、遺憾とせざるを得ないのであります、併し帝國政府は豫定の通り沿海州、北滿州等全大陸より、昨年十月末を以つて全部撤兵致しました、我が對露政策は今申述べました通り、終始公正の方針に出たものであつて、特に我が軍隊の撤退斷行は、豫ての我が宣言に適合するものであつて、我が誠意の存するところを十分内外に宣明し得たと信ずるのであります、我が撤兵後間もなく極東共和國は、勞農露國と合併し、其の獨立の存在を失ふこととなりましたが、何れにしても、歐露並西伯利の状況の益々安定し露國側も尼港事件の責任を正當に了解し、從來の態度を改めて誠意を披瀝し、茲に通交開始の機運の促進せられんこと、希望に堪へぬ次第であります、帝國の支那に對する根本方針は、支那内政に關しては、飽まで不干渉、不偏不黨の態度を執り、進んで支那人自身の自覺向上を援助し、速に支那全體の圓滿なる統一發逹を期し以つて平和的經濟的に、同國と提携せんとするにあるは、幾度か聲明せられた所であります、華盛頓會議に於て成立しました九國條約及決議並關税條約も其の精神とする所は、全然此の帝國根本方針に合するものでありますから、帝國政府は華盛頓會議に於て成立したる他の條約と共に、何等の躊躇なく實施手續を進捗し、英米も日本と同様の準備を終りまして、今日に於ては主として、佛伊の手續完了を俟つのみになつて居る次第は、前に述べた通りであります、佛伊兩國と雖も、支那に關する條約並決議の主旨には、固より何等異議があると信じられませぬ、關税條約に基く支那關税現實五分改訂實施に對しては、既に同意を表しまして、本月十七日を以て、愈々支那關税も現實五分引上げが實行せられ、且又華盛頓會議に於ける決議中、支那に於ける外國郵便局撤廢の件に付ても、關係國たる日英米佛四箇國は決議に示した通り、撤廢すべき郵便局は昨年迄に撤廢を完了しました次第であります、而して他方、多年日支間に不愉快なる懸案となつて居りました、所謂山東問題は、曩に華盛頓に於て成立した日支條約に基き、北京に於て昨年六月以來、細目の協定を進めて、十二月初旬交渉を終り、茲に帝國が世界参加の際宣言し、其後度々聲明せる通り、膠州灣租借地行政權は圓滿に支那側に引渡を了した次第であります、{原文に、なし}過去數年に亘り、困難な國際問題とせられた山東問題も、帝國の當初宣言の通り、之を解決することを得ましたのは、日支國交に多大の貢獻をなすのみに止らず、國際間に於ける帝國の信用を高むるの所以なることを、信じて疑ひませぬ、日支兩國國交は、帝國の根本方針より出でたる誠意の徹底に伴ひ、政治的に將又通商的に、漸次新生面を啓かんとするの機運に逹して居ります、帝國か飽迄從來の方針を以て進み、支那人民に對して同情と援助を吝まざるに於ては、必ず日支兩國の好關係は愈々密接を加へ、其結果が日支共同の利益を齎すべきことを、深く確信致します、尚ほ詳細に亘りまして諸君に申述べる機會は多々あらうと存じますが、政府の意思の存する所は、以上の陳述致しました處に依り、大體御了承あらんことを希望致します。

〔拍手起る〕