[内閣名] 第26代田中義一内閣（昭和2.4.20〜昭和4.7.2）
[国会回次] （帝国）第56回（通常会）
[演説者] 田中義一国務大臣
[演説種別] 国務大臣の演説
[衆議院演説年月日] 1929/01/22
[貴族院演説年月日]
[全文]

引續キ外務大臣トシテ外交問題ニ就テ説明ヲ申上ゲマス（拍手）諸君、私ハ外務大臣トシテ昨年一月本院ニ對シ、我ガ對外關係ヲ御説明致シタノデアリマス、ソレ以來今日ニ至ルマデノ外交問題ノ經過ヲ茲ニ申述ベタイト存ジマス、諸君、帝國ト締盟各國トノ國交ガ益々親善ヲ加ヘ、又世界ノ平和ガ日ヲ逐ウテ其基礎ヲ固クシ、帝國ガ之ニ十分ノ貢獻ヲ爲シツヽアルコトハ、諸君ト共ニ慶賀ニ堪ヘナイ所デアリマス、世界平和ノ點カラ見マシテ、客年八月二十七日巴里ニ於テ調印セラレマシタ戰爭抛棄條約ハ、一ツノ重要ナル約定デアリマス、帝國ハ其重要ナル性質ニ顧ミテ、殊ニ内田伯爵ヲ全權委員トシテ巴里ニ派遣致シ、之ニ調印セシメタノデアリマス、帝國ト諸列國トノ國交關係ヨリ見マスレバ、獨逸或ハ英領新西蘭及「ラトヴイア」國トノ間ニ新タニソレ／＼通商條約若クハ取極ノ成立ヲ見、又日露兩國間ノ新漁業協約モ御批准ヲ了スルニ至リマシタ、尚ホ北米合衆國トハ益々經濟的關係ガ密接トナリ、國交ノ親善ヲ深クシテ參リマスノハ、洵ニ欣賀ニ堪ヘナイ次第デアリマス、唯數年來懸案トナッテ居リマシタ所謂排日移民法ハ、尚ホ未ダ解決ニ至ッテ居リマセヌ、其解決ハ全ク日米兩國民相互ノ了解ニ俟ツノデアリマシテ、此了解モ年ヲ逐ウテ深厚トナリツヽアルコトヲ確信スルノデアリマス、次ニ支那ノ状況ヲ見マスルニ、過去十有五年ノ間、殆ド絶ユルコトナカッタ所ノ戰亂モ漸ク鎮靜ノ域ニ入リ、一般ニ和平ノ機運ガ現レル形勢ヲ呈スルニ至リマシタ、斯ノ如キハ常ニ隣邦ノ慶福ヲ念トスル帝國ノ洵ニ喜バシク感ズル所デアリマス、政府ハ支那國民ガ斯カル機運ヲ善用シテ、一日モ速ニ和平統一、建設的大業ヲ完成センコトヲ望ンデ止マナイノデアリマス（拍手）之ガ爲ニハ終始一貫深甚ノ同情ヲ有シ、支那ト關係多キ列國ト協力シテ貢獻セント欲シテ居ルノデアリマス、唯國民政府ノ前途ニハ内外共ニ幾多ノ難關ガアルノデアリマスルカラ、所期ノ目的ヲ達成スルガ爲ニハ、同政府ニ於テモ今後一層ノ自重ト穩健ナル態度ヲ以テ事ニ當ルノ要アルコトハ言ヲ須ヒヌ所デアリマス（拍手）若シ夫レ、滿洲ニ關シテハ同地方ガ我國ト接壤地帶ナルガ爲ニ、國防上政治上極メテ重大ナル關係ニアルノミナラズ、嘗テ我国ハ帝政露國ノ侵略ニ對シ、國運ヲ賭シテ同地方ノ自由ヲ恢復シタル歴史的關係アルガ爲ニ、我ガ國民ノ同地方ニ對スル國民的感情ハ、支那ノ他ノ地方ニ對スルト異ルモノアルノハ當然ノ次第デアリマス（拍手）加之同地方ニ於テハ今ヤ百万有餘ノ帝國臣民カ｛前１文字ママ｝在住シ、幾多重要ナル權利利益ガ現存シテ居ルノデアリマス、隨テ日本國民トシテハ滿洲ノ事相ニ對シ一層深刻ナル注意ヲ拂フノハ當然デアリマシテ、帝國政府ニ於テハ素ヨリ滿洲ニ於ケル支那ノ領土主權ヲ尊重シ、門戸開放機會均等ノ趣旨ヲ確保徹底セシメ、以テ内外人安住ノ地タラシムルコトヲ切望スルモノナルガ故ニ、此地ノ靜謐ヲ亂シ若クハ我ガ重大ナル權益ヲ害スルガ如キ事態ノ發生ニ對シマシテハ、之ヲ排除スルノ覺悟ヲ有スルモノデアリマス（拍手）政府ハ是迄此方針ニ基キ總テヲ適宜措置シツヽアル次第デアリマス、之ヲ要スルニ帝國政府ノ希望スル所ハ、日支兩國互ニ其立場ヲ理解シ、其理解ニ基キ互讓妥協ノ精神ヲ以テ腹藏ナキ意見ノ交換ヲ行ヒ、由テ以テ從來ノ諸懸案ヲ解決一掃スルノミナラズ、更ニ一層協力シテ日支兩國民共榮ノ實ヲ擧ゲ極東ノ平和ヲ維持シ、延イテ世界ノ文化進運ニ貢獻スルニ在ル次第デアリマス（拍手）以上概略ノ説明ニ依リマシテ政府外交方針ノ大要ヲ御了解下サッタコトヽ信ジマス、政府ハ今後トモ此方針ニ依ッテ益々列國トノ友好關係を増進シ、帝國ノ權益ヲ擁護伸張スルト共ニ、人類ノ平和ニ貢獻致シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス（拍手）