データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第57代第2次岸(昭和33.6.12〜35.7.19)
[国会回次] 第30回(臨時会)
[演説者] 藤山愛一郎外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1958/9/30
[参議院演説年月日] 1958/9/30
[全文]

 第二次岸内閣の成立に伴いまして、私は再び外務大臣に就任いたしましたので、今後におけるわが外交の進路を定めます上からも、わが国と最も深い関係にある米国を訪問し、日米間の基本問題に関して意見の交換を行うことを適当と考え、また、この機会に国連その他において常に協力的な関係にあるカナダよりの招待を受けることといたしまして、今般ワシントン及びオタワを訪問いたしました。

 カナダにおきましては、ディーフェンベーカー首相を初め、スミス外相、フレミング蔵相及びチャーチル通産相と会談をいたし、現在の国際情勢に関し率直な意見の交換を行うことができました。

 この会談におきましては、国連尊重の方針及び国際紛争の国連による平和的処理、査察制度を伴った核実験の停止、軍縮措置に関する国際協定の交渉を促進する方針等について話し合いをいたしましたが、私は、これらの問題につきましては日加両国政府の見解に多くの共通点を見出し、大いに意を強くいたした次第であります。さらに、私のカナダ訪問の最大の目的の一つであった日加貿易拡充の問題につきまして話し合い、両国の貿易を双方にとって有利に伸張せしめることについて相互に確認し得たのであります。

 次いで、米国におきまして、九月十一日、十二日の両日にわたりダレス国務長官と会談し、また十二日にはディロン経済担当国務次官とも会談する機会を得たのであります。この会談は、相互に関心のある問題について、きわめて友好的に、かつ、相互理解の雰囲気のうちに行われ、その結果、日米両国の理解と協力に一段の進歩を見たものと信ずるものであります。

 まず、国際情勢につきましては、私は、国際社会における民主主義の擁護と発展とを念願するわが政府の基本的立場に立ちまして討議をいたしたのでありますが、国際共産主義が依然として世界平和の大きな脅威となっていることにつき、米国政府との間に完全な意見の一致を見ました。次いで、台湾海峡の問題については、私は、これを武力によらず、あくまでも平和的手段により解決すべきであるとの見解を強調いたしたのであります。

 次に、日米共同安全保障の面におきましては、昨年六月の岸内閣総理大臣の訪米によりまして、日米関係は新段階を迎えたのでありますが、その結果、同年両国間の協議機関として日米安全保障委員会が設けられ、日米安全保障条約に関して生ずる諸問題を検討してきたことは、御承知の通りであります。

 今回の私の訪米によりまして、この点に関し日米両国間に隔意ない意見の交換を行い、安全保障問題に関する共通の利害と双方の立場についての理解が増進された結果、ここに日米安全保障条約を再検討することが確認され、引き続き東京においてその具体的協議を進めることになったのでございます。

 また、両国間多年の懸案である沖縄、小笠原の問題につきましても、私は、わが方の立場を率直に米国政府に説明し、その考慮を要請したのであります。沖縄に関しましては、すでに土地問題の円満な解決のため米国政府当局と沖縄代表との間に討議が行われておりますので、私は、これが成功することを念願いたしております。沖縄民生の安定については、経済的援助を増強する方向で研究することになり、将来この道を開く目途を確認することができました。また、元小笠原島民に対する補償についても米国政府の善処を要請いたしましたが、ダレス長官も本問題を理解し、その解決のため慎重に研究すべきことを約束したのでございます。

 さらに、重要な議題の一つとして、日米貿易関係及び東南アジア経済開発上の協力の問題を検討いたしました。

 まず、日米貿易に関しましては、わが国にとり対米貿易がいかに重要であるかを強調するとともに、わが国としても日米貿易の円滑な伸張のため、秩序ある貿易、特に売り込み方法に格別留意すべき旨を述べ、米国政府もわが国のこのような方針を多としたのであります。

 東南アジア諸国の経済開発については、米国の最近における米州大陸、中近東等に対する地域的な経済開発基金の構想について先方の見解をただしますとともに、アジア諸地域の住民の生活水準の向上が急務であり、そのためには早急に自由諸国が協力してこれら諸地域の経済開発を援助する必要があることを力説し、この点、意見の一致を見たのであります。

 以上のごとく、ダレス国務長官との会談は安全保障問題を中心として多岐にわたったのでありますが、米国政府首脳者がわが国が国際場裏において果しつつある役割を正しく評価しているということ、及び、昨年における岸総理大臣の訪米によって打ち立てられました日米関係の新時代に即応し、相互の善意と信頼の上に、日米の協力関係をますます強化していきたいと念願しているということでありました。従って、わが国としては、今後とも日米協力の方針を維持し、強化し、もって世界の平和と正義の達成に貢献する必要を痛感したのであります。

 私は、カナダ及びアメリカ訪問に引き続き、第十三回国連総会に出席して参りました。

 国連総会におけるわが国の対処方針につきましては、総会冒頭の一般演説において私の所信を表明いたしました。このうち、中近東問題につきましては、本三十日に予定されておりますハマーショルド事務総長の報告によって緊急総会決議の実施が促進されることを期待するものであり、また、核実験停止問題については、近くジュネーブにおいて米英ソ三国の間で協定締結の交渉が開始されることになっており、この交渉が成果を上げて究極的な実験禁止に向って一歩を進めることを希望するものであります。台湾海峡問題につきましては、ワルソーにおける会談が成功することを望むものでありますが、この問題が国連において論議される場合も予想されますので、今次総会はきわめて重要なものになると考えております。

 国連協力を外交の基本方針の一とするわが国といたしましては、国連における討議の成り行きを注視しつつ、国連がこれら諸問題の平和的処理に成功し、世界平和の確保に貢献すべきことを衷心期待するとともに、わが国もその実現のため努力を続けたいと考えております。

 以上をもって私の帰国報告を終りますが、私は、今後外交を進めて参るに当りまして、今次の米加両国の訪問と国連総会出席の成果を十分に反映せしめ、もって世界の平和と繁栄の確保に貢献いたしたいと考えます。国民各位の御支援を切望してやまないものであります。