データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第57代第2次岸(昭和33.6.12〜35.7.19)
[国会回次] 第33回(臨時会)
[演説者] 藤山愛一郎外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1959/10/28
[参議院演説年月日] 1959/10/28
[全文]

 本臨時国会の開会に際し、わが国の当面する外交上の諸問題と、これに対処いたします所信を明らかにいたしたいと存じます。

 私は、本年九月初旬、国連総会に出席のため渡米いたしたのでありますが、ほぼ時を同じゅういたしましてフルシチョフ・ソ連首相の訪米が行なわれましたので、その直後に親しくハーター米国務長官とも会談をいたし、国際情勢全般とともに、今後の日米両国の関係につきましても、同長官と隔意ない意見の交換を行なうことができたのであります。

 すでに本年初頭の通常国会に際しても明らかにいたしましたごとく、私は、わが外交の基調として、あくまでも平和外交を旨とし、このため国際問題はすべて平和的手段によってのみ解決さるべきことを主張して参ったのでありますが、このほど、米ソ両国首脳の話し合いにおいて、国際問題の平和的解決という原則が一応確認されましたことは、政府といたしましても歓迎するところであります。

 今回の両国首脳の話し合いの結果を見まするに、問題は主として欧州問題、しかも、その重点はベルリンの危機回避に置かれた模様であり、期限付条件のもとにおける交渉というような事態は一応回避されましたが、すべては、今後に予想される外相会議なり、巨頭会談なり、長期にわたる折衝の結果にかかるものと考えるのであります。

 軍縮問題に関しましても、最近、国連において英国及びソ連より全面的な軍縮案が提出される等、軍縮を通ずる緊張緩和の新たな努力を行なおうとする傾向が見られますことは、まことに喜ばしいことであります。わが国といたしましては、多年主張し続けてきた核実験中止協定の早期締結を最も重要視するものでありまして、これが今後の全面的軍縮問題解決の契機となることを願うものであります。

 われわれは、これら東西間の話し合いが今後逐次具体的成果を見ることを希望し、これがためにあらゆる努力が払わるべきことを期待するものであります。その際、自由民主主義諸国といたしましては、ますますその結束を強固にして、いささかのゆるぎない立場に立ち、共産陣営との公正かつ合理的な話し合いに臨む体制を整えることが最も肝要であり、今後長期にわたる忍耐強い交渉を行なうことによりまして、初めて、いわゆる雪解けも期待し得るものと考えるのであります。

 次に、今次国会において御審議を願いますベトナムとの間の賠償協定及び借款に関する協定につき御説明いたします。

 ベトナム国政府は、世界の約五十カ国よりベトナムにおける唯一の正統政府として承認されており、一九五一年九月八日のサンフランシスコ平和条約には、全ベトナムを代表する正統政府としてこれに調印し、翌五二年六月一八日、同条約批准書を寄託いたしたのであります。これによって、わが国は、ベトナムに対し、平和条約第十四条に基づく賠償支払いの義務を負うこととなったのであります。その後、本件賠償に関する交渉は七カ年の長きにわたって続けられ、幾多の紆余曲折を経ましたが、ようやく本年五月調印をみるに至った次第であります。

 本賠償協定は、わが国が条約上賠償義務を負っているアジア諸国との間の賠償協定として最後のものでありますが、わが国が平和条約上の義務をできる限りすみやかに果たしますことは、国際信義の上からも望ましいことであるとともに、他方、この賠償の実施は、ベトナムの経済建設と民生安定に寄与し、両国間の友好親善関係を強化し、政治、経済、通商、文化の各般にわたる両国間の協力を一そう緊密にするものと確信いたすものであります。

 次に、当面の重要案件について御説明いたします。

 政府は、過去一年にわたり、日米安全保障条約改定の交渉を行なって参ったのでありますが、その要旨は、すでに国会におきましても累次にわたり御説明して参ったところであります。すなわち、現行条約締結後七年を経過いたし、名実ともに独立国としての地歩を確保いたしましたわが国として、安全保障の分野における日米両国間の協力関係を、今日の事態によりよく適合せしめるとともに、国連憲章の精神にのっとりつつ、わが国の独立と安全とを確保し、両国の友好関係をさらに促進することを目的とするものであります。政府は、次期通常国会において新条約の承認を求めるべく交渉の進捗をはかっております。

 日韓会談につきましては、本年八月十二日再開以来、法的地位委員会と漁業委員会が開催されておりますが、政府といたしましては、過去における日韓両国間の複雑な経緯にかかわらず、相互の努力によってすみやかに信頼感を確立し、大局的見地から、諸懸案の公正かつ合理的な解決に努め、もって日韓両国間の恒久的友好関係の基礎を築きたいと念願いたしている次第であります。

 また、釜山に抑留されている日本人漁夫の帰還問題につきましては、政府は引き続き努力をして参りましたが、近くこれが実現に至るものと期待いたしております。

 なお、在日朝鮮人の北鮮帰還問題につきましては、九月二十一日より帰還申請の受付を開始いたし、実施の段階に入らんとしております。わが国といたしましては、本件は個人の自由意思に基づく帰還であるという基本方針を堅持しつつ、帰還が所期のごとく円滑に実施されるよう万全を期しております。

 国連におきましては、わが国は、昨年一月以来、安保理事会の非常任理事国として、各種国際紛争の平和的解決のため、公正かつ建設的な態度をもって努力して参りました。最近は、ラオス問題に関し、その事態の平静化のため積極的な役割を果たしましたことは、各位の御承知のところであります。この非常任理事国の任期は本年末をもって終了いたし、わが国は、来年初頭より、経済社会理事会の理事国として、世界の経済的、社会的発展を通じて国際平和を強化するという国連の事業に積極的に参加することになりました。私は、今後ますます重きを加えるわが国の責任を自覚いたし、国連の平和建設事業にでき得る限りの協力をして参りたいと思うものであります。

 すでに御承知のごとく、このたび、わが政府の招請にこたえて、ガット総会が初めてジュネーブを離れ、その第十五総会が東京において開催されておりますが、私は、この機会に、訪日する各国の関係大臣及び代表が親しくわが国の産業経済の実情を視察され、その認識を深められんことを期待するものであります。同時に、今回の総会が契機となり、多年懸案となっておりますわが国に対する貿易上の差別待遇撤廃の問題がすみやかに解決することを期待するものであります。

 以上、当面の諸問題に関し、報告かたがた、私の所信を明らかにいたしました。各位の深い御理解と御支援とを要請する次第であります。