データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第67代福田(昭和51.12.24〜53.12.7)
[国会回次] 第80回(常会)
[演説者] 鳩山威一郎外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1977/1/31
[参議院演説年月日] 1977/1/31
[全文]

 第八十回国会の再開に当たり、最近の国際情勢を概観し、わが外交の基本方針について所信を申し述べます。

 最近の世界の流れを振り返りますと、インドシナ、中東等幾つかの地域における戦火は終息し、引き続き対立を内包する諸地域においても、紛争の発生を防ごうとする努力が続いております。また、東西間においても、米ソ関係を中心に関係改善のための努力が、種々の曲折を経ながらも継続されており、南北間においても、数多くの場において対話が続けられております。このような情勢のもとで、わが国を含む先進民主主義諸国間においては、広く国際的諸問題につき、建設的な協力関係を強化し、もって世界の平和と繁栄を図ろうとする努力が行われております。

 このような最近の動きと同時に、国際関係においては、今日なお種々の不安定要因が根強く存在していることも事実であります。東西関係には依然として各種の対立要因が存続しており、また、世界の多くの地域にはさまざまな不安定要因が見られます。南北関係、海洋問題、さらには通商、資源、環境等の諸問題も、依然として容易ならざる様相を呈しております。

 現下の世界におきましては、政治あるいは経済にかかわるこれらの諸問題がすべて相互に絡み合って人々の生活環境に直接影響を及ぼしております。

 私は、このような国際的諸問題を解決するためには、世界の国々が、自国の利益のみを追求することなく、幅広い視野に立って、国際協調の努力を進めていくことが、何よりも要求されていると考えるものであります。また、私は、このような努力が、全人類の間にはぐくまれつつある連帯感と相まって、問題解決の道を切り開いていくであろうと信ずるものであります。

 戦後わが国は、平和憲法のもとで、自由な、そして開かれた社会を堅持しながら、平和国家としての道を歩んでまいりました。わが国は、体制を異にする諸国を含め広く世界の国々との交流を深めることをもって、みずからの発展の基盤としております。これは、わが国が国際社会全体の平和と繁栄に尽くすことが、みずからの国益を確保するゆえんにほかならないとの一貫した認識を有していたからであります。

 私は、ここに改めてわが国が歩んでまいった道と先達の御努力に思いをいたし、今後とも、さきに申し上げましたような困難な国際的諸問題解決のため、わが国にふさわしい役割りを忍耐強く、着実に果たしていくことを外交の指針としてまいる決意であります。

 このような基本的な立場に基づいて、次にわが外交の主要な分野について、所信を申し述べます。

 まず、国際経済関係について申し述べます。

 世界経済、特にその中で重要な責任と役割りとを担う主要先進民主主義諸国の景気回復は、いまだ十分とは申せません。さらに、インフレ、国際収支の赤字などの経済困難から依然として脱却できない国も少なくありません。このような状況のもとでは、主要先進民主主義諸国のすべてが、世界的視野に立ってその経済運営に当たることが重要であることは申すまでもありません。特に、国際収支に比較的余裕があり、かつ、経済規模も大きい諸国に対しては、インフレの再燃に配慮しつつそれぞれの国の実情に見合った形で、世界景気の浮揚に貢献していくことが強く期待されております。わが国としても、かかる国際的期待を考慮しつつ、世界経済の安定的発展のために寄与してまいる所存であります。

 通商面では、最近各国の国内的諸困難を背景に一部に保護貿易主義的動きが見られます。わが国としては、自由貿易の原則に沿って、相互の利益に配慮しつつ国際貿易の安定的拡大を推進するとの観点から、問題の解決を図る所存であります。特に、現在行われておりますガット東京ラウンドについては、これを成功に導くため今後とも積極的な努力を傾注してまいる決意であります。

 世界経済の安定的発展のために不可欠なエネルギー及びその他の資源の安定供給の問題についても、いまなお多くの不安定な要素が存在しております。資源に乏しいわが国としては、国際協力を通じて、資源問題の調和ある解決が図られるよう一層の努力を行う所存であります。特に、世界のエネルギー情勢の安定化のため、主要消費国との協調及び産油国との対話を進めてまいる所存であります。

 南北問題の解決は、いまや国際社会にとってきわめて重要な課題となっております。南北間では、第四回国連貿易開発会議及び国際経済協力会議等を通じて、国際経済における相互依存関係に対する認識が深まっております。同時に、この問題が広範囲にわたる根の深いものであり、相互の立場の相違を調整することのむずかしさも次第に明らかとなりました。しかし、今後とも南北双方がなお一層協力して問題の解決のために忍耐強く努力を続けることが、世界全体の平和と発展にとって、きわめて重要であります。

 わが国としては、国際社会の責任ある一員として他の諸国と協力しつつ、援助、貿易、一次産品等の分野における具体的措置を真剣に検討し、国際的合意が得られたものについては着実に実施に移してまいりたいと思います。特に、開発途上国が重視しております一次産品問題の解決に積極的に努力してまいる所存であります。さらに、政府としては、政府開発援助を量、質ともに主要先進民主主義諸国の水準並みまで引き上げることを当面の課題とし、特に二国間無償協力の拡充を積極的に図る考えであります。

 次に、世界各国、各地域との関係について申し述べます。

 太平洋をはさんだ隣国としての日米両国の友好協力関係は、わが国外交の基軸をなすものであります。日米安保体制を含む米国との協力関係が、わが国の平和と安全を確保し、わが国経済の繁栄を実現する上で、大きな役割りを果たしてきたことは明らかであります。政府としては、先般発足したカーター新政権との間に、単に日米両国間の問題のみならず、アジアの諸問題を含め日米双方が共通の関心を有する国際的諸問題についても密接な連携を保ち、世界的視野に立って、日米両国政府間に間断なき対話と揺るぎなき協調関係を維持してまいる所存であります。

 今日、わが国を含む先進民主主義諸国間には、緊密かつ多様な相互協力関係が存在しており、国際社会の平和及び発展に大きな貢献を行っております。

 政府としては、西欧諸国との関係を重視し、貿易上の諸問題を含め、これら諸国との相互理解を深め、協調の道を広げてまいる所存であります。

 カナダ、豪州及びニュージーランドとの間には、アジア・太平洋地域の安定した発展のための相互の協力関係の重要性について、共通の認識が深まりつつあります。カナダとの間には、昨年日加文化協定及び経済協力大綱がそれぞれ署名され、両国関係の今後の一層の発展が期待されます。また、豪州との間では、昨年六月に友好協力基本条約が署名され、さらに、本年一月第四回日豪閣僚委員会が開かれ、日豪関係を一層緊密化する必要性が改めて確認されたのであります。

 アジア地域は、わが国が平和と繁栄を分かち合う最も重要な地域であります。

 わが国と伝統的に友好と協力の関係にあるASEAN諸国は、国としての強靭性と自主性の向上及び域内の連帯強化に引き続き努めております。わが国としては、今後とも人的交流の拡大、国づくりへの積極的寄与等を通じ、これらASEAN諸国及びビルマとの友好協力関係を一層強化したいと考えております。他方、インドシナ諸国については、昨年七月にベトナムの統一が達成され、またわが国は、昨年八月、民主カンボジアとの外交関係を回復いたしました。政府としては、今後ともインドシナ三国との間に着実に関係を発展させてまいりたいと考えております。

 中国との関係は、全般的に着実に進展しております。政府としては、今後とも日中共同声明を基礎として、両国間の善隣友好関係を一層確固たるものにするよう努力してまいる決意であります。日中平和友好条約交渉については、両国とも、その早期妥結の熱意において一致しております。政府としては、本条約が、両国国民に真に納得のいく姿で早期に締結されるよう、最善の努力を払ってまいる考えであります。

 朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジアの安定と発展に深いかかわり合いを有しておりますが、不幸にも、南北間には依然として対立と緊張が見られます。

 わが国としては、南北間の均衡とそのための国際的枠組みの存在が、朝鮮半島の平和の維持に貢献してきたことを十分認識するとともに、同半島の緊張の緩和のための国際環境づくりに関係諸国とともに積極的に協力してまいる所存であります。また、南北間の緊張の緩和の進展が同半島に永続的な平和と安定をもたらし、ひいては民族の念願である統一へ向かう道であるとの見地より、南北双方の当事者が、相互不信を克服して、一九七二年の共同声明の精神に基づき、実質的な対話を再開することを強く希望するものであります。

 韓国との関係については、両国間の相互理解をさらに深め、友好協力関係を一層幅広いものとするため、今後とも努力を払ってまいります。特に、政府としては、貴重な独自のエネルギー源を確保する観点から、すでに三年前に署名された日韓大陸棚協定の締結のための国会の承認が、ぜひとも今国会で得られますよう強く希望いたします。

 北朝鮮との関係については、貿易、人物、文化等の分野における交流を漸次積み重ね、もって相互関係をめぐる雰囲気の改善に資することといたしたいと考える次第であります。

 また、インド亜大陸における平和と安定に対しては、わが国としても深い関心を有している次第であり、同地域の諸国との友好協力関係を一層強化し、この地域の安定と発展に寄与したいと考えます。

 隣国たるソ連との友好関係を発展させることは、わが外交の一貫した方針であります。一九五六年に国交が回復されて以来、両国関係は、経済、貿易、文化等の面で順調に進展してまいりました。しかしながら、両国間には、領土問題が未解決のため、いまだ平和条約は締結されておりません。政府としては、わが国固有の領土である北方四島の一括返還を実現して平和条約を締結するため、今後ともソ連との間に粘り強い交渉を続けてまいる所存であります。

 一方、経済協力と貿易の発展に努め、漁業問題についての話し合いを積極的に進めてまいる所存であります。

 わが国と東欧諸国との間においては、経済的及び人的交流において近年ますます関係が深まっております。わが国としては、今後ともこれら諸国との友好関係の強化に努める所存であります。

 中東におきましては、昨年十月以降、関係諸国の努力によりレバノン紛争が収拾に向かい、一応の平静が取り戻されるという歓迎すべき出来事がありました。このことは、中東和平交渉に対しても、新たな契機となることが期待されるのであります。わが国は、従来より、中東紛争の全面的解決のためには、国連安全保障理事会決議二四二が早急かつ全面的に実施されるとともに、パレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認されなければならないと考えております。このため、わが国としては、国連における努力にできる限り協力を行うとともに、関係諸国がジュネーブ和平会議の再開等を通ずる話合いを促進することにより、公正かつ永続的な中東和平の実現に一歩でも近づくことを強く希望するものであります。

 また、政府としては、今後とも、中東諸国との多面的な交流と協力の一層の拡大を通じて、友好関係の増進に努めつつ、中東地域の発展に寄与する所存であります。

 アフリカ諸国との間では、今後とも友好親善と互恵の精神に基づく協力関係を一層強化してまいります。

 南部アフリカ問題については、わが国は、人種差別反対及び民族自決支援の立場から、この問題につき、平和的かつ速やかな解決が達成されることを切望するものであります。特に、南ローデシア問題については、ジュネーブ会議が成功し、少数者の権利にも留意した多数支配の原則が速やかに実現することを希望しております。

 わが国と中南米諸国とは、伝統的な友好のきずなで結ばれております。特に、近年、中南米諸国は、経済社会開発を意欲的に進めており、これに伴い、わが国との各種の協力関係に対する期待もますます高まりつつあります。このような状況を背景として、わが国と中南米諸国との関係は、通商、経済協力、人的交流等の面で一層強まってまいりました。わが国としては、中南米諸国の重要性にかんがみ、今後とも、これら諸国との間で幅広い分野にわたって交流と協力をさらに推進することに努めてまいる所存であります。

 わが国は、国際連合に加盟して以来これまで、その活動に積極的な貢献をしてまいりましたが、今後とも他の加盟諸国と協力して、その活動に建設的に参加してまいる所存であります。

 わが国は、昨年六月、核兵器の不拡散に関する条約の締約国となり、核兵器を製造、取得しないとのわが国の立場を鮮明にいたしました。

 政府としては、今後とも非核兵器国家としての立場から、核軍備の削減、核兵器の拡散防止及び包括的核実験禁止等の具体的かつ実効的な核軍縮の実現に努力する一方、原子力の平和利用を推進し、この分野における国際協力に貢献してまいる所存であります。

 わが国は、海洋国家として限られた海洋の漁業資源や海底の鉱物資源を確保するため、また、わが国の生命線ともいうべき海運、貿易が将来にわたり円滑に行われるよう、新たな海洋秩序の形成に深い関心を持っております。政府としては、このような海洋に関する国益全般の展望に立って、国連海洋法会議の早期妥結のため今後とも一層の努力を傾ける所存であります。特に国民生活に直接の関係を持つわが国漁業の問題については、沿岸漁業者の切実な要望にこたえるため、今般領海十二海里問題に関し、所要の立法措置をとる方針が決定されましたが、なお今後とも二百海里時代における遠洋、沿岸の漁業利益をともに守るため、国際協調の基礎の上に最善を尽くす所存であります。

 各国間の相互依存関係が深まりつつある今日、広く国際的な相互理解を増進することは、ますます重要になってまいりました。言語、習慣、文化的伝統等それぞれの社会の基盤について、相互の理解を深めることこそ、真の平和を築き上げる上で最も重要な手段の一つであります。このような観点から、政府としては、今後とも、海外広報活動を強化するとともに、国際交流基金等を通ずる各般の文化交流事業を一層積極的に推進してまいる所存であります。

 以上、わが国の外交につき所信の一端を申し述べました。

 国民各位の御理解と御支援を切にお願いいたします。