[内閣名] 第67代福田(昭和51.12.24〜53.12.7)
[国会回次] 第82回(臨時会)
[演説者] 鳩山威一郎外務大臣
[演説種別] 外務演説
[衆議院演説年月日] 1977/10/3
[参議院演説年月日] 1977/10/3
[全文]
第八十二回国会の開会に当たり、最近の国際情勢を概観して、わが国外交の基本方針について、所信の一端を申し述べたいと思います。
国際社会は、目下、戦後最大の深刻な経済困難を経験しております。このような困難を克服し、新たな繁栄を目指す各国の努力にもかかわらず、最近の世界経済の回復のテンポは、依然緩やかなものにとどまっております。インフレ、失業、国際収支の赤字等の問題は、いまなお多くの国において深刻であります。通商面においては、失業その他各国の国内的諸困難を背景に、保護貿易主義的な考えや動きが強いことも否定できません。
このような状況のもとで、先進民主主義諸国は、五月のロンドン主要国首脳会議及び六月のOECD閣僚理事会の場で、世界経済の諸困難に共同して対処する決意を表明し、このため、各国の事情に応じ、それぞれ拡大的成長政策ないしは安定化政策をとることにより、世界経済の健全な発展に寄与することを国際的な目標といたしました。
政府が過般、対外経済政策を含む総合経済対策を決定し、対外均衡に配慮しながら、国内経済の拡大を目指しましたのも、このような国際社会の一員としての連帯感に基づいた努力のあらわれでございます。
また、開放的な国際貿易制度の維持及び強化を図るために、ロンドン主要国首脳会議における合意を受けて、現在、東京ラウンド交渉が積極的に進められております。わが国といたしましては、交渉が成功裡にかつ早急に完結するように、最大限の努力を払ってまいります。
資源・エネルギー問題は、資源有限時代のもとにおいて、国内資源に恵まれないわが国経済にとってきわめて重要であり、わが国としては、この分野における外交努力を強力に推進することが肝要であります。
原子力の平和利用、とりわけ使用済み核燃料の再処理を含む核燃料サイクルの確立は、長期的エネルギー政策の観点から、わが国が全力を挙げて取り組むべき重要課題であり、東海村再処理施設の運転に関し先般日米間に了解が成立いたしましたことは、喜ばしい次第であります。わが国といたしましては、今後、原子力開発の一層の推進を図るとともに、東海施設の運転によって得られる知識と経験を活用して、核不拡散と原子力平和利用の両立を図るための国際的な努力、とりわけ、この十月から開始される国際核燃料サイクル評価計画に積極的に参加してまいりたいと考えております。
急速な二百海里時代の到来を迎えまして、わが国漁業をめぐる国際情勢は、まことに厳しいものがございます。このような情勢に対応して、わが国といたしましては、積極的な国内的施策を講じるとともに、沿岸諸国との交渉や漁業振興を図る開発途上諸国に対する漁業協力等を通じて、漁業の継続及び新しい漁場の開発のため積極的に努力してまいる所存であります。
私は、南西アジア諸国、ASEAN諸国、ビルマ及びメキシコ等への訪問、国連総会への出席等を通じまして、開発途上諸国の経済社会開発に対します意欲と努力に深く感銘を受けるとともに、これら諸国の開発努力に積極的に協力していく必要性を痛感いたしました。政府といたしましては、すでに国際的に繰返し表明いたしておりますように、今後五年間に政府開発援助を倍増以上にするため、計画的に援助の拡充を図ってまいる決意であります。
過去一年余にわたり対話が続けられてまいりました国際経済協力会議は、共通基金、政府開発援助、特別計画等の分野において前進を見ました。わが国は、国際社会の責任ある一員として、南北間ですでに合意を見た諸点は、これを誠実に実施に移すとともに、未解決の諸問題についても、その解決のために一層の努力を傾けてまいります。
私は、今般、第三十二回国際連合総会に日本政府首席代表として出席をいたし、平和に徹するわが国の基本的外交姿勢を強調するとともに、アジアの平和と安定のため努力する決意を披瀝し、あわせて軍縮、南北問題等についてのわが国の立場を強く主張してまいりました。また、同総会出席の機会に、各国の外交責任者との間に、共通の関心を有する諸問題について率直かつ有意義な意見交換を行い得た次第であります。
国際連合は、いまや加盟国百四十九カ国を擁するに至り、普遍的な国際機関としての重要性がますます高まりつつあり、国際連合成立当時の三十二年前とは、全く事態を異にしております。わが国といたしましては、このような現実を踏まえ、国連憲章の再検討問題を含む国連の機構及び機能に対する検討、国連の主要なフォーラムにおきますアジアグループの地位及び機会の向上と増大の必要性を主張してまいりました。わが国といたしましては、国連における外交努力を今後とも積極的に推進してまいる所存であります。
明年五月には、国際連合史上初の試みとして軍縮特別総会が開催される予定であります。非核三原則を堅持し、平和外交を追求するわが国は、同会議を成果あらしめるため、包括的核実験禁止を初めとする核軍縮問題、通常兵器の国際移転問題等につき、わが国の立場を強く主張する所存であります。
また、第三次国連海洋法会議については、本年夏第六会期が開催され、海洋をめぐる国際秩序のあり方につき審議が続けられました。海洋の問題については、各国の利害が錯綜しており、合意は決して容易なものではありませんが、わが国といたしましては、海洋国家として、この会議の場を通じ新しい公正な海洋法秩序が早急に成立するよう、努力してまいる所存であります。
次に、世界各地域との関係について申し上げます。
日米間の友好協力関係は、わが国外交の基軸であり、日米安保体制を含む同国との関係の維持増進に努めることは、政府の一貫した方針でございます。
日米両国の首脳間におきましては、三月の首脳会談を含め、常に緊密な連絡を保持することに努めております。このような日米間の間断なき対話と協議を通じて、日米間の懸案事項について早期に合理的な解決が得られるよう努めるとともに、広く世界が直面する諸問題の解決について「世界の中の日米協力」を推進するべく努力している次第であります。
朝鮮半島に関するわが国の基本的立場は、第八十回国会の外交演説において述べましたとおり、同半島の緊張の緩和のための国際環境づくりに関係諸国とともに積極的に協力するとともに、南北双方の当事者が、相互不信を克服して、一九七二年の共同声明の精神に基づき、実質的な対話を再開することを強く希望するものであります。
在韓米地上軍の撤退の問題に関しましては、今後とも朝鮮半島における平和と安定を損なわないような形で取り進められることを希望いたします。
韓国との関係につきましては、両国間の相互理解をさらに深め、友好協力関係を一層幅広いものとするため、努力を払ってまいります。特に、政府は、貴重な独自のエネルギー源を確保する観点からも日韓大陸棚協定が速やかに実施に移され、大陸棚の開発に着手できるよう、関連の特別措置法案がぜひとも今国会で成立するよう強く希望いたします。
北朝鮮との関係につきましては、今後とも貿易、人物、文化等の分野における交流を漸次積み重ね、相互理解の増進に資することといたしたいと考えます。
国交正常化五周年を迎えた日中関係は、順調に進展しております。わが国といたしましては、日中共同声明に基づき、両国間の善隣友好関係の一層の発展を図ってまいるとともに、日中平和友好条約を双方にとって満足のいくような形でできるだけ速やかに締結するよう努力する所存であります。
ASEAN諸国は、本年八月、ASEAN設立十周年を記念して第二回首脳会議を開催しましたが、総理は、ASEAN諸国首脳の招請に応じて、マレーシアのクアラルンプールへ赴き、史上初めてこれら首脳と一堂に会して意見交換を行い、その後、ASEAN五カ国及びビルマを訪問いたしました。この結果、日本とASEANとの協力関係は大きく前進し、また六カ国との友好関係が一層強化されました。
わが国といたしましては、総理が最後の訪問地マニラでの演説で明らかにしたわが国の対東南アジア政策の三原則を柱に据え、これら諸国の連帯と強靭性強化の自主的努力に対して積極的に協力するとともに、再建と復興の努力を行っているインドシナ諸国との間にも相互理解に基づく関係の醸成を図り、もって東南アジア全般にわたる平和と繁栄の達成に努めるとの政策を着実に実行する所存であります。
先般のバングラデシュ、インド及びネパールの三国訪問を通じ、私は、これら諸国の指導者が、わが国との間の友好協力関係増進について強い意欲を表明したことに深い感銘を受けました。政府といたしましては、今後ともこれら諸国を含む南西アジア諸国との友好協力関係を一層強化してまいりたいと考えております。
日ソ関係は、経済、貿易、文化、人的交流など各分野におきまして順調に発展してまいりました。特に漁業面では、ソ連二百海里水域におけるわが国の操業に関する暫定協定は、国会の承認を得て発効いたしました。また、先般署名されましたわが国二百海里水域におけるソ連の操業に関する暫定協定につきましては、可及的速やかに国会の承認が得られますよう希望いたします。さらに、より安定的な日ソ間の漁業秩序を樹立するための長期漁業協定締結交渉が開始されました。政府といたしましては、本件協定交渉の早期妥結のため全力を挙げてまいる所存であります。
もとより、日ソ関係を真の相互信頼に基づく長期的かつ安定的な基礎の上に発展させるためには、領土問題を解決して平和条約を締結することが不可欠の要請であります。私は、でき得る限り早期に訪ソして、平和条約締結のための継続交渉及び定期協議を行う所存であります。
先進民主主義国としてわが国と多くの共通点を有する西欧諸国、カナダ、豪州及びニュージーランドとの友好協力関係は、わが国にとり、ますます重要なものとなっており、政府といたしましては、これら諸国との対話と協力の一層の強化を図ってまいる所存であります。
政府はまた、引き続きわが国と東欧諸国との交流促進に努め、相互理解と友好関係の強化を図ってまいります。
中東問題につきましては、現在、ジュネーブ会議の早期再開を目指す真剣な努力が続けられております。中東和平の基礎は、安保理決議二四二及び三三八であり、国連憲章に基づくパレスチナ人の正当な権利、なかんずく民族自決権の実現であります。わが国といたしましては、早期和平を探求する関係諸国の努力が実を結んで、この地域に一日も早く公正かつ永続的な和平の確立されることを念願するものであります。
南部アフリカ問題につきましては、わが国は、この地域において人種差別の撤廃、非植民地化及び多数支配が平和的手段を通じて可及的速やかに実現されることを強く希望するものであります。特に、南ローデシア問題及びナミビア問題につきましては、英、米、その他関係諸国による平和的解決のための国際的努力を評価するものであります。同時に、南部アフリカ問題解決に対する南アフリカ共和国政府の立場は、決定的な重要性を有しており、同国政府が問題の早急な解決に協力することを強く希望いたします。
中南米諸国は、意欲的な経済社会開発を推進しております。わが国といたしましては、幅広い分野におけるこれら諸国との密接な協力関係をさらに推進してまいる所存であります。
最後に指摘申し上げたい点は、わが国の国際的地位が近時急速に高まりつつあることに伴いまして、わが国に対する期待と、その国際的責任も、これに応じて重きを加えていることであります。またその範囲も、単に経済面にとどまらず、学術、文化も含むより広範な分野に広がりつつあります。
政府といたしましては、今後、幅広い分野において積極的な貢献を行ってまいると同時に、わが国の真の姿について広く諸外国の正しい理解を求めるため、海外広報文化活動を一層強化してまいる所存であります。
国民各位の御理解と御支援をお願い申し上げます。