データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第67代福田(昭和51.12.24〜53.12.7)
[国会回次] 第85回(臨時会)
[演説者] 園田直外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1978/9/20
[参議院演説年月日] 1978/9/20
[全文]

 第八十五回国会の開会に当たり、本年一月以降の主要外交問題について御報告をいたします。

 まず日中平和友好条約について御報告をいたします。

 一九七二年九月二十九日に国交正常化が実現して以来着実に進展してまいりました日中両国関係において、重要な懸案として残されていた日中平和友好条約につきましては、政府は、従来から日中双方が満足し得る形でできる限り速やかにその締結を図るとの基本方針のもとに、最善の努力を尽くしてまいりました。しかるところ、機ようやく至り、本年七月二十一日から北京で行われました日中双方の交渉団による交渉の努力と経緯を踏まえて、福田総理の的確な決断のもとに命を受けて、私は、八月八日から中国を訪問し、今後長期にわたる日中関係のあり方及び国際情勢について、中国の指導者と誠意をもって率直に意見交換を行い、これを通じて同条約交渉を日中双方が満足する形で妥結すべく、全力を傾注いたしました。その結果、わが国の長期的国益に資するものと判断し得る形で交渉が妥結し、八月十二日に日中平和友好条約に署名調印することができました。私は、同条約の調印を喜ぶとともに、この調印こそは、ひとえに、それぞれの立場からこの問題に御理解と御尽力をいただいた与野党の皆様を初め、各界各層の先輩及び友人の方々の御苦労のたまものであることに思いをいたし、ここに改めて心から感謝の意を表明するものであります。

 日中平和友好条約は、日中両国間の友好関係を長期的に安定したものとして確保するための基礎を築くものであるばかりでなく、かくして両国間の友好関係が長期にわたって安定することは、そのこと自体、アジア及び世界の平和と安定に寄与するものと確信をします。政府としては、この新しい日中関係を踏まえて、今後、アジアさらには世界の平和と安定のために一層の貢献をしたいと考えます。

 私は、ここに、この条約を一日も早く批准できますよう、できる限り速やかな御審議を賜り、御承認いただけますようお願い申し上げる次第であります。

 広くアジア諸国とわが国は、平和と繁栄を分かち合う隣人関係にあり、これらの国々との関係は、わが国外交の基盤であります。アジア諸国との相互理解と友好協力関係を増進し、この地域の平和と繁栄に寄与することは、わが国外交の基本的課題の一つであります。政府は、このような考え方に立って、アジア外交の強化に努めてまいりました。

 特に東南アジアは、わが国がその平和と安定のために積極的な役割りを果たすべき重要な地域であります。本年六月、私は、タイにおいてASEAN五カ国外相と会談いたしました。これは、昨年八月の福田総理のASEANとの首脳会議及び東南アジア歴訪の後を受けて、わが国とASEAN諸国との間の心と心の触れ合う関係をさらに具体化することを目的とするものであります。私は、この外相会談等を通じて、わが国とこれら諸国との間の友好協力と相互信頼の関係が一層深まったと確信いたしております。他方、インドシナ諸国との関係につきましては、政府は、ベトナムとの間で債権債務問題を解決し、新たに経済協力を行うとともに、ベトナム及びカンボジアの要人を招き緊密な意見交換を行う等の努力を行いました。その結果、インドシナ諸国との間の相互理解も着々と深まりつつあります。政府としては、このようにして深まりつつあるASEAN諸国及びビルマとの間の友好協力関係とインドシナ諸国との間の相互理解を基礎に、東南アジア全域にわたる平和と繁栄の形成に積極的に貢献していく方針であります。

 わが国の重要な隣国である韓国との関係につきましては、私は、先般、関係閣僚とともに日韓定期閣僚会議に出席し、将来に向かって、政治、経済、文化等幅広い分野において相互交流を拡大し、相互信頼の増進を図ることを基調とする新しい協力関係を築くべく、韓国政府首脳との間で、率直かつ忌憚のない意見交換を行ってまいりました。政府としては、今後とも、この方向で韓国との友好協力関係の維持、発展に努めてまいる方針であります。それと同時に、北朝鮮との関係につきましても、今後とも貿易、経済、文化、人的交流等の分野における関係を漸次積み重ねることにより、何よりもまず、相互理解の増進を図ることが肝要と考えます。

 わが国としては、朝鮮半島に真の平和と安定をもたらすための国際環境の形成について従来にも増して積極的に協力してまいる方針であります。

 さらに、南西アジア諸国との間においても友好関係を一層強化すべく引き続き努力し、この地域の安定と発展に寄与してまいる考えであります。

 米国との間の安保体制を含む緊密な友好協力関係は、わが国の平和と安全を確保し国民生活の繁栄を実現する上で、欠くことのできない重要な関係であります。わが国外交政策の基軸であります。また、わが国の経済力と政治的影響力が増大した結果、いまや日米間の緊密な友好協力関係は、アジア・太平洋地域の平和と安定のための不可欠の前提となっております。同時に、世界経済の安定的な拡大を確保することを含めて広く世界全体の平和と繁栄を確保するために日米両国が協力すべき分野はますます増しております。本年五月の日米首脳会談において、日米両国が世界の平和と繁栄のためにいかに協力し、それぞれいかなる役割りを果たすべきかについて具体的に話し合われたことは、この意味でまことに時宜にかなうものでありました。政府としては、日米両国がともに担っているこのような責任を十分認識し、その遂行に引き続き努力する方針であります。

 わが国の重要な隣国であるソ連との間の友好関係を維持し促進することが、わが国外交の重要な課題であることは申すまでもありません。

 政府が従来から一貫して主張しておりますように、日ソ関係を真に安定した基礎の上に置くためには、全国民の一致した要望である北方四島の祖国復帰を実現して平和条約を締結することが不可欠であります。そして、その必要性は、今日ますます痛感されるところであります。私は、このような認識のもとに、本年一月訪ソいたしました。政府としては、今後ともこの問題の解決のために一層の努力を傾ける方針であります。

 他方、日ソ両国の関係は、近年、貿易、経済、文化、人的交流等広い分野において着実に進展しておりますが、政府としては、今後とも漁業を含め、これらの実務面における協力を拡大し各種の交流を促進することにより、両国間の友好関係の増進を図るべく積極的に努力する方針であります。

 中東諸国は、わが国にとって相互依存関係にある重要な国々であります。私は、本年一月に中東諸国を訪問し、各国首脳と率直な意見交換を行いましたが、今般、福田総理がわが国の総理大臣として初めてイラン、カタール、アラブ首長国連邦及びサウジアラビアを公式訪問されたことは、中東諸国との相互理解を深め友好協力関係を一層確固たるものとしていく上で画期的な意義を持つものでありました。政府としては、今回の総理の中東訪問を新たな契機として、中東諸国との間に長期的な視野に立った緊密な協力関係を確立するよう一層の努力を払う方針であります。また、政府としては、中東地域の平和と安定が世界の平和と繁栄のために不可欠であるとの認識のもとに、この地域の平和と安定のためにできる限りの協力を行っていく方針であります。

 また、今般のキャンプ・デービッドにおける米国・エジプト・イスラエル三国首脳会議において、エジプトとイスラエルとの間で和平協定締結を目指すことで合意し、ジョルダン川西岸及びガザ地区の取り扱い並びにパレスチナ問題につきまして交渉の枠組みが合意されるに至りました。このことは、今後の中東和平へ向けての一層の前進につき希望をもたらすものであり、政府としてもこれを高く評価いたします。わが国としては、このような国際的な和平努力が実を結ぶことを強く期待するものであります。

 先進民主主義国としてわが国と立場をともにする西欧諸国との協力関係は、近年ますますその重要性を増しております。わが国としては、これら諸国との関係を一層緊密なものとするための努力を払わなければなりません。その意味で、本年七月ボンで開かれた主要国首脳会議の機会に総理が欧州を訪問されたことは、これまたきわめて時宜を得たものであった考えます。政府としては、今後とも西欧諸国との間で、幅広い人的交流を通じて相互理解を深めつつ、緊密な協力関係を確立するよう努力してまいる方針であります。

 同じアジア・太平洋地域に属し、かつ、わが国との交流が年々緊密となっておる豪州、ニュージーランド等の諸国及びカナダ、さらには中南米、アフリカ、東欧の諸国との関係を増進することもまた、わが外交の重要な課題であります。政府は、これら諸国との友好協力関係を確固としたものとするよう努力を重ねる方針であります。

 さて、現在、世界は、幾つかの重大な問題に直面しております。世界経済の問題、南北問題、資源・エネルギー問題、軍縮問題、海洋法秩序の問題等は、わが国の国益にも直接かかわる問題であり、わが国としても、その解決のために努力することが必要であります。同時に、このような世界的な問題の解決にできる限りの努力をしていくことは、先進工業国としてのわが国の責任でもあります。

 世界経済の問題につきましては、去る七月の主要国首脳会議において、各国が当面の主要経済問題について、積極的に政策目標を示し相互に相補いつつ世界経済の安定的拡大のため努力することに合意しました。このことは、世界経済の前途に対する信頼を強める上で大変有益でありました。しかし、主要国首脳会議の真の成果は、各国が宣言に掲げた政策目標をいかに達成するかにかかっています。政府としましても、世界経済の運営におけるわが国の役割りの増大を十分認識し、目標の達成に万全の努力を払う方針であります。

 自由貿易体制の維持、強化は、わが国にとって基本的な要請であります。去る七月の主要国首脳会議で、東京ラウンド交渉を十二月十五日までに妥結させることにつき合意を見ましたので、わが国としましては、右期日までに成功裏に交渉をまとめるよう、関係国とも協調して努力していく決意であります。

 国際通貨情勢の安定や世界経済のインフレなき拡大を確保するためには、関係国間の協力が必要であります。政府としては、一方で関係国の努力を引き続き求めていく方針でありますが、同時に、わが国としても大局的見地からその責任を果たすために格段の努力を行うことが必要と考えます。

 以上のような種々の観点からも、九月二日に決定されました総合経済対策は、重要な意味を持つものであります。

 南北問題は、わが国として、一層真剣に取り組むべき重要な課題であります。政府は、政府開発援助の三年間倍増を実現するとともに、十一月に予定されておる一次産品共通基金についての交渉を成功裏に終結させるよう、できる限りの努力を払う方針であります。また、開発途上国の債務累積につきましても、三月の国連貿易開発理事会での決議に基づき、所要の措置をとることとしております。

 二十一世紀を展望して、長期的課題としてのエネルギー問題の解決を図るために、新エネルギーの研究開発に積極的に取り組むことは、世界的に重要な課題であります。去る五月の日米首脳会議の際、福田総理が日米科学技術協力に一歩を進めるよう提案を行ったのも、まさにこのような考え方に基づくものでありますが、この提案は、米国政府の賛同を得て、現在その具体化のための交渉が両国間で鋭意進められております。

 軍縮の問題につきましては、本年五月、私は、国連軍縮特別総会に出席し、核軍縮を中心とした軍縮の促進を強く訴えました。政府としては、今後とも、この方向で努力を続けていく方針であります。

 なお、政府は、本年六月、国際人権両規約を国会に提出いたしましたが、両規約の意義及び国際的な重要性にかんがみ、その締結について速やかに御承認を賜るよう、重ねてお願い申し上げます。

 前国会の外交演説において、私は、わが国の動向が国際社会に与える影響が大であるとの認識のもとに、わが国としては、積極的に国際社会の平和と繁栄に貢献する「世界に役立つ日本」となるよう努力することをその外交政策の基本的目標とすべきである旨強調いたしました。私は、こうした努力を通じて、わが国が世界の国々にとってなくてはならない日本としての地位を確立したときに、初めて、平和に徹することを国是とするわが国に真の平和と繁栄を確保する道が開けてくると確信しております。

 このためには、なお一層の努力を払わなければなりません。国民各位の一層の御理解と御協力を切に願う次第であります。