[内閣名] 第78代宮沢(平成3.11.5〜5.8.9)
[国会回次] 第126回(常会)
[演説者] 渡辺美智雄外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1993/1/22
[参議院演説年月日] 1993/1/22
[全文]
第百二十六回国会が開かれるに当たり、我が国の外交の基本方針につき所信を申し述べます。
まず、国際情勢認識について申し上げます。
国際社会は、古い秩序が急速に瓦解しましたが、これにかわる新たな秩序の構築が間に合わず、なお、そのはっきりとした姿が見えない状況にあります。世界は、歴史の転換期に特有な不透明で流動的な時代を迎えており、平和を享受するにはまだまだ遠い状態にあります。
さきの湾岸危機や、旧ユーゴスラビア、ソマリアでの今日の悲惨な内戦や飢餓の状態は、このような時代を象徴する出来事であります。これまで抑えられていた宗教、民族、領土問題等の対立や紛争、抗争が、今後とも引き続き表面化してくる危険があります。
ロシアなどの旧ソ連諸国においては、民主化と市場経済化への改革はいまだその途上にあり、国民の日常生活を含めた経済面の諸困難は依然として深刻であります。
世界経済は、アジアの一部の地域が高成長を続けていることを別にすれば、おおむね景気回復の足取りは重く、先進諸国は、深刻化する国内の経済社会問題に忙殺されて、ともすれば内向きになりかねません。また、多くの開発途上国の貧困、人口増大等の問題は、ますます深刻となってきており、国際社会は結束して一層真剣に取り組む必要があります。
国際社会は、歴史の転換期にあって、一方では冷戦の終結により各地で噴き出した民族・宗教紛争等への対応に追われつつ、他方では、新しい平和と繁栄の枠組みを模索しています。しかし、新しい枠組みが構築され、国際社会が安定するためには、なお少なからぬ年月を要するものと思います。
日本外交の目標について申し上げます。
国際社会は、このような歴史の転換期の諸問題を着実に克服し、平和と自由と繁栄を世界のより多くの人々が享受できるよう努力しなければならないという歴史的課題に直面しております。我が国は、そのような国際社会の課題にこたえて、明るい未来を開いていくため、その国力にふさわしい指導力を発揮していく必要があります。そのため、経済力、技術力のみならず、人的及び知的な協力を通じ、積極的に努力してまいります。
我が国は、第二次大戦の灰じんの中から立ち上がり、今日の平和と繁栄を享受するに至りました。この平和と繁栄を享受することができるようになったのは、自由主義体制のもとで、国民の勤勉と努力に負うところ大でありますが、同時に、日米安保関係を基盤とした日米協力体制や、ガット、IMFを中心とした戦後の開かれた世界経済体制が維持されてきたからであることも忘れてはなりません。
日本の存在が飛躍的に大きくなった今日、我が国は、国際秩序から単に受益するだけでなく、これに貢献し、これを強化する役割を担わなければなりません。また、そうした役割を果たすことこそが我が国の長期的国益にかなうものであり、我が国外交の目標でなくてはなりません。
国際協調の推進について申し上げます。
今日の世界が抱える諸問題は、主要国といえども一国のみでは対応することができません。国際社会が協調して解決していくことが必要であります。その意味で、国連の場での、また、日米欧間及びアジア・太平洋地域の諸国間での協力が重要であります。
本年七月には主要国首脳会議が東京で開催されますが、我が国は、議長国として、このような認識に立って、その成功のために最大限の努力を行ってまいります。
国連の強化について申し上げます。
米ソの二極構造が消滅した今日、国際秩序を維持していく唯一の現実的な道は各国間の協力を前提とした協調体制を強化していくことであります。そのためには、まず、国連を初めとする国際機関を強化し、各国が協調して共同の責任を果たしていくことが不可欠であります。特に、国連は、東西のイデオロギー対立から解放されまして、国際の平和と安全の維持という本来の機能を取り戻してきており、今日、その役割への期待は飛躍的に増大しております。戦後一貫して国連中心主義を掲げている我が国といたしましては、そのさらなる活性化に向け一層の努力を行っていかなければなりません。
近年、国連の平和維持活動の件数は著しく増加し、一九四八年以来実施されてきた計二十八件のうち、実に十五件の設立が過去五年間に集中しています。また、活動内容や規模も大型化してきております。このような趨勢にこたえていくために、国連加盟国の一層の協力が必要となっております。我が国としても、国際平和協力法により人的貢献を行うとともに、財政基盤の強化のため平和維持留保基金、いわゆるPKO立ち上がり基金の設立を提唱し、これが実現をいたしました。
さらに、従来の伝統的な平和維持活動を超える新たな国連の活動が必要となる場合も出てきております。この点で、ソマリアでの人道支援のための安全な環境づくりを目的とした国際的な活動が注目されています。このように、国際の平和と安定のための国連の役割と任務はより多様なものとなってきており、加盟国にも一層柔軟な対応が求められております。これは、我が国としても、責任ある国際社会の一員として、真剣に受けとめなければならない問題であると思います。
また、国連が効果的に機能するためには、安全保障理事会の構成を含め国連の機構改革と機能強化に取り組んでいく必要があるとの認識が国際的にも広がりつつあります。私は、昨年の国連総会出席の機会にこの点を訴えましたが、このような我が国の主張は、国連総会において安保理改革に関する各国の意見を国連事務総長に提出することを求める決議として満場一致で採択されたのであります。私といたしましては、引き続き国際社会とともにこの問題を真剣に検討してまいりたいと考えております。
日米欧関係につきまして。
国際社会が直面する諸問題の解決に当たりまして、日米欧間の緊密な協力の重要性はますます高まっており、我が国はこうした協力に一層主体的に取り組むことが求められています。
その中で、国際的な協調を強化するためには、米国にかわり得る指導力を発揮できる国はどこにもありません。この意味で、私は、クリントン新大統領がさきの就任演説において、「米国の再生」という目標のもとに国民の結束を求め、冷戦後の世界において引き続き指導的役割を果たしていく決意を示されたことを心から歓迎いたします。我が国は、クリントン新政権との間で、世界の平和と繁栄の確保を共通の課題として、歴史の転換期にふさわしい新たな協力関係を構築するよう努めてまいります。
日米安保体制に基づく日米関係が我が国の外交の基軸であることは、冷戦後の今日においても変わりません。むしろ、日米基軸外交が、アジア・太平洋地域の平和と安定を確保し、また、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという日本の立場の国際的な信頼性を高めるために、今後とも一層重要であると申せましょう。
それと同時に、日米間の経済関係は今や密接不可分に結びついており、そのために、時として摩擦が生じることは避けられない面もありますが、両国がその経済的調和を目指し、協調関係を強化していくことは、日米両国のみならず、世界経済の繁栄のために重要であります。クリントン新政権及び米国議会が、自由貿易体制擁護の立場から国内の保護主義的な動きに対し確固たる態度を示されるとともに、米国経済再建の努力が実を結ぶことを期待し、そのための努力を支持してまいりたいと存じます。
欧州におきましては、近年の国際情勢の劇的な変化の中にあって、ECを中心とした歴史的な統合が進められています。欧州の統合は、まさに国家間の歴史の変革であり、統合完成の暁には世界の政治と経済に大きな影響を与えることは確実であると思います。その意味において、今回の私の欧州訪問と各国指導者との政治対話は大変有意義であり、今後とも欧州との関係強化を図ってまいります。
アジア・太平洋地域との協力について申し上げます。
近年の目覚ましい経済発展を受けて政治的安定を達成しつつあるアジア・太平洋地域の諸国は、地域の平和と繁栄のための協力において重要な役割を担うようになってまいりました。我が国は、それらの諸国との協力を進め、アジア・太平洋地域での平和と繁栄を確保し、これを世界の平和と繁栄につなげていくように努力してまいります。
このような考え方を背景にして、今般、宮澤総理は、ASEAN四カ国を訪問し、日本とASEANの協力関係を一層強化していく決意を表明してきたところであります。 次に、主要な政策課題について申し上げます。
国際社会が直面する様々な問題に取り組んでいく上で、世界経済の活力を維持強化することが、今やこれまで以上に重要な課題となっております。しかし、世界の自由経済体制のもとでは、各国経済は相互依存関係が強いだけに、一国のみの繁栄は長続きしません。先進各国における景気回復がおくれている中で、各国の政策協調が強く求められているのはそのためであります。我が国としても、内需を中心とするインフレなき持続的成長を確保していくことは、国内的に重要であるのみならず、国際的にも世界経済の健全な発展に向けて大きな貢献となるものであります。
現在最終段階にあるウルグアイ・ラウンド交渉は、多角的自由貿易体制の維持強化の観点から、世界経済の将来にとり決定的に重要であります。我が国は、この交渉が成功裏に、かつ早期に終結するよう引き続き最大限の努力を行っていく決意であります。
世界の平和と安定の確保について申し上げます。
中東の不安定な状況や、旧ユーゴスラビア、ソマリア、カンボジア等における紛争は、転換期の世界における大きな懸念材料であります。このような認識に立って、我が国は、地域紛争の解決のため、資金的協力にとどまらず、人的貢献や外交努力を積極的に行ってまいります。
まず、資金的協力の面では、カンボジア問題以外にも、旧ユーゴスラビアやソマリアにおける避難民の救済のため、それぞれ二千万ドルを超える人道援助を行っています。特に、ソマリアに関しては、人道援助に加え、国連のソマリア信託基金に対し一億ドルを拠出することを決定しました。次に、人的貢献としては、国際平和協力法ので、既にアンゴラ、カンボジアに平和協力隊を派遣いたしました。さらに、外交努力としては、カンボジア問題、中東和平問題等の多数国間の協議の場に積極的に参画をしてまいりました。しかし、ソマリアでの惨状に対して典型的に示されているような国際社会の積極的な対応は、国民の皆様が連日の報道でごらんのとおりであります。地域紛争も国際社会の対応もますます多様化しようとしている中で、我が国の取り組みはどうあるべきかが改めて問われているように思います。
転換期の世界の平和と安定を確保するためのもう一つの重要な課題は軍備管理・軍縮への取り組みであります。昨年以降この分野において幾つかの大きな成果が見られました。
第一に、米ロ両国間においては、昨年六月、二〇〇三年までに戦略核兵器の核弾頭数を現保有量の約三分の一まで削減することが合意され、先般、条約への署名が行われました。我が国は、唯一の被爆国として核軍縮を重視しており、これまでの合意の着実な履行とともに、米ロ以外の核兵器国の核軍縮過程への参加を強く期待するものであります。
第二に、中国、フランス等が核兵器不拡散条約に加入し、核兵器国がすべて締約国になるとともに、締約国数も百五十カ国を超えるなど同条約の普遍性がますます高まってきていることは歓迎すべきことであります。
第三に、長きにわたり行われてきた化学兵器禁止条約交渉が九月にまとまり、化学兵器の全面的な禁止が実現する運びとなったことは画期的なことであり、先般パリで行われた署名式には私自身出席してまいりました。
以上のような好ましい動きが見られる反面、北朝鮮やイラクなどにおける核兵器開発の疑惑、そして旧ソ連からの大量破壊兵器やその製造技術等の流出の危険が国際的な懸念を呼んでいます。
我が国は、大量破壊兵器やミサイルの不拡散体制の強化のため、他の関係国とともに一層努力していく方針であります。また、旧ソ連での核兵器等の製造技術の流出防止を目的とした国際科学技術センターの設立に当たりましても、二千万ドルの資金貢献を表明しており、今後とも同センターの円滑な活動のために積極的に協力してまいる決意であります。
通常兵器については、まず兵器移転の透明性を高め、これにより各国間の相互信頼感を高めることが重要であり、我が国などの提案により発足した国連軍備登録制度の円滑な実施に一層努力いたします。また、冷戦中に膨らんだ各国兵器産業の余剰生産能力が一部地域への兵器の無秩序な移転を生み、地域の不安定化を招く結果とならないように、関係国による慎重な対応の重要性を国際的に強調してまいりたいと存じます。
次に民主化や市場経済の導入に対する支援について申し上げます。
世界平和を真に長続きするものとしていくためには、自由、人権、民主主義が尊重され、市場経済のもとで繁栄が享受され、人間一人一人の幸福が保障される社会を形成する必要があります。
旧ソ連諸国や中・東欧諸国においてのみならず、モンゴルや南西アジア諸国、アフリカ、中南米の多くの開発途上国において、民主化や市場経済の導入に向けての改革を進める機運が高まっております。
ロシアに対しても、我が国は、技術的支援、人道支援など他の諸国に劣らぬ支援を行ってきており、今後とも国際社会と協調しつつ、適切な支援を行っていく方針であります。昨年十月に我が国が旧ソ連支援東京会議を開催したのも、このような努力の一環であります。中央アジア諸国については、我が国の働きかけにより、政府開発援助の対象国となることが先般国際的に決定されたところであります。
また、我が国の政府開発援助大綱においては、援助の実施に当たって、被援助国の軍事支出の動向などとともに、民主化の促進と市場経済導入の努力に十分注意を払っていくこととしておりますが、これは、こうした民主化と経済改革の動きを、援助を通じ積極的に支援し、促進していくとの考えに基づくものであります。
翻って、開発途上国の現状に目を向けますと、依然として飢餓や貧困、成長の低迷、累積債務問題などの問題が山積しており、援助の必要性はこれまで以上に高いものとなっております。
我が国は、今後とも開発途上国援助を外交の重要な一分野としてとらえ、政府開発援助大綱に掲げた理念と原則にのっとり、開発途上国を支援していく考えであります。今国会において審議をお願いする政府開発援助予算は、このような考えに基づいて、厳しい財政事情のもとではありますが、一兆百四十四億円の一般会計予算を計上したものであります。
地球的規模の問題について申し上げます。
国際社会は、地球環境、人口、難民、エイズ、麻薬、テロなどの全人類にとって共通の重要な問題を抱えており、我が国も、地球市民としての自覚のもと、これら問題の解決のために一層の努力を払っていかなければなりません。
特に、地球環境問題については、昨年の国連環境開発会議の成果を着実に実施していくことが重要であります。そのため、我が国の行動計画の策定と気候変動枠組み条約などの締結に向け努力してまいります。また、国連環境開発会議で発表したとおり、環境分野における政府開発援助を拡充強化してまいります。
難民問題については、中米やカンボジアでは、難民の本国への帰還が始まり、問題が解決に向かっておりますが、旧ユーゴスラビアやソマリア等では新たな難民問題が発生し、関係地域の安定にも大きな影響が及ぶことが懸念されております。我が国は、世界各地の難民問題の解決のため、一層の協力を行い、より積極的な役割を果たしていきたいと考えます。国連難民高等弁務官事務所に対する我が国の拠出金として、平成五年度予算に前年度より八百万ドル多い八千三百万ドルを計上したのも、そのあらわれであります。
次に、文化、科学技術について申し上げます。
各国との間で、知的及び文化的交流を推進し、国家間の相互理解を深め、信頼関係を築いていくことは、平和で安定した国際関係を構築する上で不可欠であります。また、我が国は、人類共通の財産である文化財の保存や開発途上国の教育、文化の振興等にも積極的な協力を行っていく考えであります。
科学技術の分野についても、経済とのかかわりのみならず、環境問題の解決のためにも国際的な協力がますます重要となってきております。我が国も、外国人研究者の受け入れや国際的な各種研究プロジェクトを着実に進めていくことが重要であります。
アジア諸国との関係について申し上げます。
天皇皇后両陛下のさきの中国御訪問は、日中両国民の間の相互理解と友好を促進する上で大きな成果をおさめられ、まことに意義深いものでありました。中国との間で友好関係を維持発展させ、また、国際社会においてともに建設的役割を担っていくことは、アジア・太平洋ひいては世界の平和と安定にとって重要であります。我が国は、このような認識に立って、中国が政治経済両面にわたる改革、開放を推進し、国際協調を行っていくよう慫慂してまいりたいと考えます。
我が国は、香港が一九九七年以降も繁栄を続けていくことを強く希望しており、そのためには、香港が、英中間の合意に基づき、政治的にも経済的にも開かれ、安定した体制を維持していくことが肝要と考えるものであります。
朝鮮半島につきましては、南北対話の一定の進展は見られたものの、緊張緩和に向けた動きはなお定着したとは言い難い状態にあります。
このような状況のもと、我が国は、韓国との友好協力関係を基本として、北東アジア地域の平和と繁栄に貢献していく考えであります。二月には、韓国で金泳三大統領が就任いたしますが、新政権との間でも、引き続き未来志向的な関係の構築に向かって努力していきたいと考えております。
北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉につきましては、依然として核兵器の開発疑惑が解消されていないこともあって、なお見通しを申し上げることが困難な状態であります。我が国は、引き続き北朝鮮の動向を慎重に見守りつつ、韓国、米国といった関係諸国とも緊密な連絡をとりながら、原則的な立場を堅持し、交渉に臨んでまいりたいと考えております。
インドシナの経済社会の発展は、アジア全体の安定と繁栄にとり重要であり、我が国は、ベトナムを初めとする各国の開放政策を支援してまいります。カンボジアでは、国連カンボジア暫定機構の指導のもと、多くの困難と闘いつつ、総選挙に向けての準備が進められていることを高く評価いたします。我が国は、予定どおり本年五月までに総選挙が実施され、カンボジアでの真の永続的平和が実現されるよう、引き続き外交努力を行ってまいりたいと考えております。
ロシアとの関係については、我が国はその改革努力を支持してきております。ロシアの改革の成否が世界的に極めて重要な意味を有している中で、日ロ関係の完全な正常化はアジア・太平洋地域の将来の発展にとり不可欠であります。そのためにも、両国間の最高首脳を含むハイレベルの対話を継続的に行うことが必要であります。この関連において、エリツィン大統領の訪日が延期されたことは残念でありましたが、訪日延期によってつまづいた日ロ関係の仕切り直しとして、昨年九月下旬に私がコズイレフ外相と会談し、日ロ間の対話を再開しました。さらに今般、パリでの同外相との会談では、エリツィン大統領の訪日の早期実現に向けて真剣な準備を行うことを確認したのであります。我が国は、今後とも拡大均衡の原則にのっとって、領土問題を解決し平和条約を締結して日露関係を新しい次元に引き上げるよう、全力で努力を継続していく考えであります。
また、我が国は、他の旧ソ連諸国との関係強化も進めており、今般、ウズベキスタン、カザフスタン、ウクライナには大使館を、ベラルーシには駐在官事務所を開設しました。
その他の諸国との関係について最後に申し上げます。
湾岸地域を含め、中東地域の平和と安定の確保は、世界の最大の関心事の一つであります。今般、米国を初めとする合同軍がイラクに限定的な武力行使を行いましたが、これは国連安保理諸決議の履行を確保するためのものであり、我が国はこれを理解し、支持することを表明いたしました。我が国といたしましては、安保理の決議に公然と挑戦するような行動は、到底容認することができません。また、我が国は、この地域の安定にとり不可欠である中東紛争解決のため、多数国間協議において重要な役割を担うなど、問題の早期解決を促す努力に積極的に取り組んでおり、さらに、シリア、イスラエルを初めとする交渉の直接当事者に対し、交渉の早期妥結に向けて柔軟な対応を行うよう引き続き働きかけてまいりたいと考えます。
アフリカでは、今なお百万人以上が飢餓線上にあると言われておりますソマリアでの緊急事態に対応するため、人道支援の分野においてさらにいかなる協力が可能かについても検討しております。また、我が国は、民主化と経済構造の調整に向けての多くのアフリカ諸国の努力を支援してきており、それらの諸国の努力を一層促す目的で、本年十月にアフリカ開発会議を東京で開催する予定であります。
中南米では、先般、ペルーで民主体制復帰の第一歩となる憲法制定議会選挙が平穏裏に実施され、エルサルバドルでは和平合意が着実に実施されております。我が国は、民主化と市場経済の確立に向けての真剣な改革努力を続けているこれらの諸国を今後とも積極的に支援してまいります。
海外における邦人の安全対策と危機管理について申し上げます。
世界各地の地域紛争に日本人が巻き込まれる危険性が増大し、日本人を標的とした凶悪犯罪も多発をしているため、海外における我が同胞が安心して活動を行えるよう、安全対策の強化が重要であります。また、万一緊急事態が発生した場合にも、安全確保のための政府としての役割に遺漏のないよう、在外公館の危機管理体制を一層整備してまいります。
最後に、今日、さまざまな側面で、外交活動は日常生活に直接影響するようになってまいりました。今や、外交と内政はまさに一体でありますので、私は引き続き国民の皆様の一層の御理解と御協力を得るため、「わかりやすい外交」を目指して努力をしてまいります。また、さまざまな視点から正確に国際情勢を分析し、適切かつ機動的な外交活動を展開していく「頼もしい外務省」とするためにも、それを支える外交実施体制と諸機能の強化に努めてまいります。
国際社会がさまざまな課題に取り組んでいく中で、我が国がより大きな役割と責任を担っていくのに伴い、外交の成否が我が国の将来に及ぼす影響は一層重大なものとなります。外交の責任者として、その重大な任務を前に身が引き締まる思いがするのであります。私は、将来にわたり国を誤ることのないよう、使命感を持って、誠意をもって職務に粉骨砕身してまいる決意であります。何とぞ、国民の皆様の一層の御理解と御協力を切にお願い申し上げる次第であります。