データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第79代細川内閣(平成5.8.9〜6.4.28)
[国会回次] 第129回(常会)
[演説者] 羽田孜外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1994/3/4
[参議院演説年月日] 1994/3/4
[全文]

 第百二十九回国会が開かれるに当たりまして、我が国の外交の基本方針につき所信を申し述べさしていただきます。

 国際情勢の認識について、まず申し上げます。

 東西冷戦という単純な座標軸が消滅した今日、世界は、平和と繁栄の新しい枠組みを模索しています。しかし、この道のりは長く、平たんではありません。現在の国際社会は、変革期の不透明さと不確実さに満ちており、多くの課題を抱えています。世界経済は、先進国では北米等で景気回復の足取りが力強くなっていますが、多くの国が景気の低迷と深刻な失業問題に悩んでおります。

 地域紛争につきましては、カンボジアでは永続的平和と復興の第一歩がしるされる一方で、旧ユーゴスラビアやソマリアの紛争は、国際社会の懸命の努力にもかかわらず解決の兆しがいまだ見えておりません。また、北朝鮮の核兵器開発疑惑や旧ソ連の解体等による大量破壊兵器の拡散の危険は、世界の安寧を脅かしております。

 さらに、開発途上国の貧困や地球環境、人口、難民といった地球規模の問題は、むしろ深刻さを増していると言えます。

 このように国際社会は、多難かつ目まぐるしい変革の波の中で海図なき航海を続けています。しかし、私は、その前途には航海の導となる灯がともり、我々が進むべき航路を照らし始めていると考えます。その灯とは国際社会が協調と協力によって目指すべき目標であり、より平和で繁栄した、より人間的な世界の実現であります。この目標に向かって、平和の中で今日の繁栄を築いてきた我が国に対する国際社会の期待は、ますます高くなっておると言えます。我が国は、この期待にこたえるべく、みずから世界の平和と安定の枠組みのつくり手、そして担い手となっていくべきであります。そのためにも日本外交には、一層積極的で創造性豊かな役割が求められておると言えます。

 次に、ただいま述べた基本的理念のもとで我が国として取り組むべき主要な政策課題について述べさせていただきます。

 景気の低迷や失業は、保護主義的な動きを強め、経済摩擦を激化しがちであります。これを防ぎ、豊かで繁栄した世界を実現するためには、各国の一層の政策協調が必要であります。世界のGNPの約六分の一を占める我が国が大きな役割を果たす責務があることは、改めて申し上げるまでもありません。

 ウルグアイ・ラウンドが七年を超える困難な交渉を経て、昨年十二月に成功裏に妥結いたしましたことは、自由貿易主義、開放的多国間主義、そして国際協調の勝利であると思います。我が国もさまざまな困難のもとでぎりぎりの交渉を行い、米に関する我が国の立場を最大限主張いたしました。包括的関税化の特例措置の設定等を内容とする農業合意案の受け入れは、ウルグアイ・ラウンド交渉成功のために応分の貢献を果たすことが我が国の国際的責務であるとの視点から、まさに断腸の思いで行ったものであります。最終文書署名のための閣僚会合は、四月にモロッコで開催される予定でありますが、関連合意文書の締結に関し、鋭意準備を進めておりますので、速やかに国会の御承認が得られるよう御協力をお願い申し上げます。今後とも、ウルグアイ・ラウンドの成果を着実に実施し、我が国のみならず世界経済全体の繁栄の基盤である多角的自由貿易体制の維持強化に努めてまいります。

 翻って我が国の経済状況は、予断を許さず、依然大きな経常黒字を抱えています。こうした状況を念頭に、政府は先月、所得税減税を含む景気浮揚のための内需拡大や経済活力喚起のための規制緩和推進等を柱として、史上最大規模の十五兆二千五百億円に上る総合経済対策を発表いたしました。この対策の着実な実施を通じ内需主導型の持続的成長を確保し構造改革を進めていくことは、調和ある対外経済関係の形成及び世界経済の安定的発展にも資するものであると信じます。特に、規制緩和に関しましては、我が国国民生活の質的向上に直接つながるものであることから、今後一層の努力を傾注していくことが必要であろうと思います。

 私は、外務大臣就任以来、世界じゅうで平和の願望が高まっていることを痛感いたしております。このような平和への願望にこたえるべく、我が国としてもできる限りの努力を行ってまいります。

 今日、北朝鮮の核兵器開発疑惑は、北東アジアの平和と安全の確保に対する脅威であり、核不拡散の努力に対する大きな挑戦であります。今般、国際原子力機関による北朝鮮の申告済みの施設に対する査察が行われることとなりました。そのため、当面は、米朝間の話し合いの進展がかぎとなりますが、我が国としては米国、韓国、中国などの関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し核兵器不拡散条約脱退の完全な撤回、国際原子力機関との保障措置協定の完全な履行及び南北非核化共同宣言の実施を通じて疑惑を払拭するよう、粘り強く働きかけてまいります。

 我が国は、大量破壊兵器の拡散を防止するための国際的枠組みや体制の整備強化を図るとの観点から、核兵器不拡散条約の無期限延長を支持し、核兵器国による一層の核軍縮促進を目指し、全面核実験禁止条約に関する交渉に積極的に参加しております。さらに、我が国は引き続き旧ソ連の核兵器廃棄のための協力を行ってまいります。なお、昨年署名した化学兵器禁止条約につきましても、できるだけ早期に締結できるよう努めてまいります。加えて、ウクライナの非核化に向けての働きかけも強化していく所存であります。

 また、最近の大量破壊兵器や通常兵器の拡散の懸念に対処すべく、国際的な輸出管理体制を見直し、強化する必要があります。我が国もこの検討に積極的に参加してまいります。

 なお、このような我が国の努力にもかかわらず、最近一部の外国報道等におきまして我が国の非核政策に対して根拠のない疑問が投げかけられております。我が国は、唯一の被爆国として非核三原則を堅持するとともに、我が国の原子力利用は平和目的に限定しており、核兵器開発を行うことはあり得ないことをこの場で改めて強調したいと考えます。

 旧ユーゴスラビアやソマリアの地域紛争は、民族的、部族的、宗教的対立に根差しており、その解決は容易ではありませんが、国際社会は粘り強い取り組みを行っています。

 特に、世界の新たな悲劇の象徴であるボスニア・ヘルツェゴビナにおいては、依然として流血が続いています。我が国は、今後とも関係諸国及び国連と協力しつつ和平の実現に努力してまいります。また、二月には、人道支援の一層の強化、マケドニアの安定維持のための協力、我が国関係在外公館の体制再構築等を内容とする施策を決定いたしたところであります。

 このほか、我が国は、これまでも地域紛争解決のため、外交面での努力、財政面での協力のみならず、アンゴラ、カンボジア及びモザンビークにおける国連平和維持活動に参加するなど、人的貢献も行ってまいったところであります。特にカンボジアにおける国連平和維持活動への参加は、痛ましい犠牲を伴うものでしたが、和平の実現に大きく貢献したものと考えます。ここに、とうとい犠牲となられた方々に心からの哀悼の意を表したいと存じます。今月には中米和平に対する支援の一環としてエルサルバドルに選挙監視要員を派遣すべく準備を進めております。さらに、民族的、部族的対立や宗教的対立に根差す紛争が増加している今日、知恵を出すことこそ重要であり、我が国にふさわしい貢献に努めてまいりたいと考えます。

 より人間的な世界とは、自由、民主主義、人権の尊重が確保され、繁栄を享受できる世界であります。現在、世界各地で民主化、市場経済化に向けた改革努力が進められています。これは大きな歴史の潮流であり、我が国は引き続き積極的に支援をしてまいらなければなりません。

 また、一部の開発途上国の目覚ましい発展の陰で、多くの開発途上国にあっては人々が依然貧困と飢餓に苦しんでいます。これらの開発途上国が困難を克服し、経済と社会開発に取り組むことは、世界の平和と繁栄に不可欠と確信しております。そのためには、援助とともに貿易、投資の促進を含む包括的な取り組みが重要と考えます。

 開発途上国に対する援助は、我が国がこれまでの発展の過程で得てきた経験を生かせる国際貢献の最も重要な柱であります。我が国は、昨年六月、平成五年から五年間で七百億ドルから七百五十億ドルを目途とする政府開発援助の第五次中期目標を策定いたしました。また、厳しい経済情勢のもとではありますが、我が国が果たすべき役割を深く認識し、平成六年度予算案では一兆六百三十四億円の政府開発援助にかかわる予算の審議をお願いしております。私は、政府開発援助大綱のもと、国民の皆様に納得のいただける援助、そして開発途上国の人々に真に感謝されるような平和と発展につながる援助の実施に引き続き努めてまいりたいと考えます。

 さらに、我が国は、昨年秋から冬にかけ、カンボジア、モンゴル、インドシナ地域及びアフリカの復興、開発問題についての国際会議の議長国や主催国を務める等、開発途上国の発展や民主化、市場経済化を支援するための多国間協調の枠組みづくりに主導的な役割を果たしております。今後とも、このような取り組みの先頭に立っていきたいと考えます。

 環境、人口、エイズ、麻薬や難民といった地球規模の問題は、人類全体にとり深刻な問題であり、先進国と開発途上国が一体となった取り組みの推進が急務であります。このため、開発途上国に対する積極的な環境援助に加え、二月の総理訪米の際、七年間で三十億ドル、およそ三千億円以上を人口、エイズの分野での途上国援助に向けることを表明いたしました。本年九月にはカイロで国際人口・開発会議が開催されます。特に人口問題は、環境や開発と密接な関係を有する問題であり、我が国は、この会議に貢献するために去る一月に人口と開発に関する賢人会議を主催するなど、積極的に対応しているところであります。

 国際社会の相互依存関係がかつてないほどに深まっている現在、ただいま述べた諸課題への取り組みに当たっては、国際協調の強化が不可欠であります。

 国際情勢が厳しい局面にある現在、日米欧が率先して政策協調を進め、世界の諸課題に取り組むことが不可欠であり、我が国としても、引き続きサミットを初めとする場において日米欧間の政策協調の強化に努めてまいります。

 新たな国際情勢のもとにおいても日米安保条約を基礎とする日米間の緊密な協力関係を維持していくことが、我が国の外交の基軸をなすことにはいささかの変わりもありません。むしろ、日米基軸の外交は、アジア・太平洋地域の平和と安定を確保するためますます重要であります。

 去る二月、細川総理が訪米し、三度目の日米首脳会談が開催されました。首脳会談では、包括経済協議につきましての意見の不一致はあったものの、政治・安全保障面や地球規模の問題の解決に向けた日米間の協調は、経済面での意見の不一致によって損なわれてはならないとの認識で一致したところであります。

 包括経済協議につきましては、客観的基準と数値目標をめぐる意見の調整のため私自身予定を一日繰り上げワシントンを訪問し、ゴア副大統領、クリストファー国務長官、ベンツェン財務長官、カンター通商代表と会談し、合意を目指して懸命の折衝を行いました。しかし、残念ながらこの問題をめぐる両国の立場が収束せず、しばらく冷却期間を置くことになりました。他方、首脳会談では、北朝鮮、中国、ロシア等の国際情勢について、今日の日米関係の幅と深みを反映した協議が行われました。また、環境、人口、エイズといった地球的規模の問題に関する協力推進のための行動計画を作成したところであります。さらに、私は、今回の訪米中ペリー新国防長官とも会談し、日米安保体制の重要性について意見の一致を見たところであります。

 経済問題をめぐり、日米関係は厳しい局面を迎えておりますが、私としては、日米協力関係全体の維持強化に努めるとともに、経済貿易面での一刻も早い打開の糸口を見出して懸案の解決を図り、日米間のパートナーシップを一層強固なものとすべく、全力を傾注していく決意であります。

 欧州連合条約の発効によって統合が新たな段階を迎えた欧州との関係についても、これを一層確固たる基盤の上に構築していくことが今まで以上に必要であります。平成三年の日・EC共同宣言に基づき、基本的価値を共有するパートナーとしての関係をさらに深め、経済貿易中心の関係にとどまらず、国際社会に共通するさまざまな課題についても対話と協力を促進してまいります。

 国際社会の急激な変化の中にあって、アジア・太平洋地域は比較的安定した政治情勢のもとで目覚ましい経済成長を遂げており、明るい要素が多い地域であります。このような好ましい環境の中で、現在この地域ではさまざまな形の域内協力が進められています。

 近年、政治・安全保障の分野では、従来からの我が国の提案に沿った形で全域的な対話を行おうとする機運が急速に高まっています。特に本年は、ASEAN拡大外相会議の参加国に加え、中国やロシア等の参加も得て、外相間で地域全体にわたる政治・安全保障問題についての意見交換を行うというASEAN地域フォーラムが初めて開催される予定です。このような場を通じて、各国の政策についての透明性を増すことによって域内各国の安心感を醸成していくことが重要であろうと考えます。

 経済面における域内協力の枠組みといたしましては、アジア・太平洋経済協力、APECが存在いたします。昨年十一月に初めて開催されたAPEC経済非公式首脳会議におきましては、アジア・太平洋地域における域内協力についての将来の展望と今後の協力について方向が示されるという大きな成果を生み出すことができました。

 我が国は、このような政治・安全保障、経済面等にわたる域内協力が国際社会全体の平和と繁栄につながるものであるとの認識のもと、今後ともその促進に主導的な役割を果たし、この地域をまさしく平和の湖にしていきたいと思います。

 アジア・太平洋地域のみならず国際社会においてますます大きな存在となることが予想される中国と我が国との関係は、良好に発展しています。私自身、一月に中国を訪問し、江沢民国家主席、李鵬総理、銭其●副総理兼外交部長と会談し、二国間関係に加え双方が関心を有する国際問題について率直かつ有意義な意見交換を行うことができました。また、先般、朱鎔基副総理が訪日された際にも、私の訪中を踏まえた有意義な意見交換の機会を持つことができました。我が国としては、未来志向の日中関係、世界に貢献する日中関係を築いていくとともに、両国の協力をさらに深めていく考えであります。また、引き続き中国の改革・開放政策に協力してまいります。

 朝鮮半島は、北朝鮮の核兵器開発疑惑により、アジア・太平洋地域の不安定要因となっています。我が国と北朝鮮との国交正常化交渉も中断していますが、政府としては、今後の北朝鮮の動向を慎重に見守りながら国交正常化の問題に取り組んでいきたいと考えております。こうした状況のもと、自由・民主主義という共通の基盤に立つ隣国の韓国との関係は、我が国にとってますます重要になりつつあります。三月下旬には、金泳三大統領が国賓として訪日される予定ですが、両国の協力関係を未来に向けた幅広いものとするため、政府としても努力してまいります。

 インドシナ地域では、カンボジアに自由な選挙による新政府が誕生し、ベトナム、ラオスでは、開放的な経済改革が進んでいます。我が国は、この地域全体を視野に入れた開発のため、インドシナ総合開発フォーラムの設置を提唱し、本年後半にはその開催を予定していますが、今後ともこのフォーラムの場等を通じ国際協力を推進していきます。

 南西アジア地域でも民主化や経済自由化が進んでおり、我が国としては、こうした努力を支援するとともに、この地域における核不拡散の確保にも取り組んでまいりたいと考えます。

 世界の平和と安定のため国連は極めて重要な役割を期待されており、国連の機能を一層強化することが急務であります。本年は、特に安全保障理事会の改組に関する作業部会が開かれ、内外で幅広い議論が活発に行われることが予想されます。我が国は、過去二年間安保理非常任理事国として、より平和な世界の構築に向け、真摯な努力を行ってまいりました。今日、我が国が国連において、より大きな役割を一層積極的に果たすべしとの国際世論が高まっており、我が国としても、このような期待にこたえ、なし得る限りの責任を果たしていかなければならないと考えます。

 もとより、我が国が国際協調を推進していくに当たっては、その他の主要国及び地域との関係も重要であります。

 昨年十月のエリツィン大統領の訪日は、新生ロシアと我が国との関係の進展のための新たな基礎をつくった極めて重要な訪問でありました。それ以来、昨年十二月には議会の選挙が行われ、本年一月には内閣改造がありましたが、ロシア情勢は不透明さを増しており、今後の内政動向を注視していく必要があります。

 日ロ関係につきましては、我が国は、ロシアの議会選挙に際し監視団を派遣したほか、二月には日ロ事務レベル協議及び平和条約作業部会を開催するなど、政治対話を活発に行っております。さらに、民間レベルでは、東京で第一回の日米ロ三極会議が開催されるなど、日ロ間の対話は幅を広げております。

 このような中、私は今月ロシアを訪問し、ロシア指導部に対し、領土問題を解決し、日ロ関係を完全に正常化することが、日ロ二国間においてのみならず、アジア・太平洋地域の平和と安全のために重要であることを改めて強調する考えであります。また、その際、ロシアの民主化、市場経済化及び法と正義に基づく協調外交という改革路線が引き続き堅持されることの重要性を指摘し、そのような改革が維持される限り、我が国としてこれを積極的に支持していく方針であることを再確認する考えであります。

 昨年九月にイスラエル・PLO間で暫定自治に関する原則宣言が合意され、私自身、ワシントンでの歴史的な署名式典に立ち会いました。その後、原則宣言実施のための努力がイスラエルとパレスチナ人との間で行われるとともに、米国の努力により、イスラエルとシリアとの間などで他の和平交渉も真剣に続けられています。我が国は、パレスチナ人の民生安定のため、二年間で二億ドルの支援を約束し、このうち約五千万ドルの具体的支援を既に発表しています。中東地域の平和と安定の促進には、国際社会の支援が不可欠であり、我が国としても、域内関係者との政治対話の強化、中東和平多国間協議への参画、対パレスチナ支援等に今後とも努めてまいりたいと考えます。

 中南米諸国では、総じて民主化と市場経済化が着実に進展しつつある一方、構造的貧困等取り組むべき課題も残っております。我が国は、引き続きこの地域における改革努力を支援していく考えであります。

 アフリカ諸国では、昨年十数カ国で大統領選挙や議会選挙が行われる等政治改革が進んでいる反面、国内情勢が混乱している国も多くあり、経済的困難の克服も難しくなっています。我が国は引き続きこの地域における政治面、経済面での改革努力を勧奨するとともに二国間及び多国間の枠組みを通じた支援を行ってまいります。

 世界の平和と安定を実現するためには、国家間の相互理解と信頼関係の構築が必要です。したがって、我が国に対する諸外国の理解を深めるための広報活動の強化とともに国際文化交流促進の努力をしてまいります。また、昨年アンコール遺跡救済国際会議を主催いたしましたように、人類共通の遺産である有形無形の文化財、遺産の保存や開発途上国の教育、文化振興等、文化の面でも積極的に協力してまいります。さらに、科学技術は未来を開くかぎであり、可能な限りその英知を分かち合うべく国際協力を着実に促進していくことが重要であります。

 国際情勢の流動化や海外で活動する邦人の増加に伴に、海外で事故や犯罪に巻き込まれる例が増加しています。海外の邦人の安全をよりよく確保するための対策強化とともに、各地における内乱、クーデター等の緊急事態に際し、政府として迅速かつ的確な邦人保護のための対応が行えるよう、在外公館の危機管理能力を一層高めるよう努力してまいります。

 以上申し上げましたような外交の課題を実現していくためには、目まぐるしく移り変わる国際情勢に的確に対応し、先を見据えた機動的な外交活動を展開していかなければなりません。私は、その足腰とでもいうべき外交実施体制と諸機能の強化に一層努めてまいりたいと考えます。しかし、外交は国民の皆様の後ろ盾があって初めて可能となります。私は、我が国の外交に対する国民皆様の一層の御理解が得られるよう引き続き努力してまいりたいと存じます。

 国際社会の将来にとり極めて大切な時期に我が国の外交のかじ取りを任せていただいた者として、私はその重責に身の引き締まる思いであります。何とぞ議員の皆様並びに国民の皆様の一層の御支援を賜りますことをお願いしたいと思います。

 以上であります。