データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第84代小渕内閣(平成10.7.30〜平成12.4.5)
[国会回次] 第145回(常会)
[演説者] 高村正彦外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 1999/1/19
[参議院演説年月日] 1999/1/19
[全文] 

 第百四十五回国会の開会に当たり、我が国外交の基本方針について所信を申し述べます。

 国際社会は、冷戦の終えんを経て、新しい世紀を迎えようとしております。この間、世界規模での戦争の可能性は大幅に低下したものの、地域紛争及び国内における民族紛争の頻発、大量破壊兵器が拡散する危険性の増大、テロの深刻化など、いわば脅威の多様化とも呼べる状況が生じております。我々が目指す平和で安定した世界への道のりは、決して平たんではありません。また、世界経済は、グローバリゼーションの進展により、近年一層の発展を遂げてまいりました。その一方、アジア経済危機とその世界的な波及に見られるように、グローバリゼーションの陰の部分も明らかになり、それへの対応も急務となっております。

 このような中、二十一世紀に向けて我が国の安全と繁栄を確保するためには、現下の諸課題に着実に取り組むとともに、将来も見据えて積極的な外交を展開し、安定的な国際環境を主体的につくり上げていかなければなりません。

 我が国が広く世界に外交を展開していくに当たり基盤となるのは、米国との同盟関係であります。この同盟関係を一層揺るぎないものとするためにも、日米安保体制の信頼性を一層高めることが必要であります。今国会に継続審議となっている日米防衛協力のための指針関連法案等の早期成立、承認のため、議員各位の御理解と御協力をお願いいたします。

 また、米軍の施設・区域が集中する沖縄が抱える問題の解決については、沖縄県の御理解と御協力を得つつ、SACO最終報告を踏まえ、米軍施設・区域の整理、統合、縮小に向け、政府として引き続き努力してまいります。

 次に、我が国を取り巻く安定した環境を整備するために、ロシア、中国、韓国等近隣諸国との関係を強化することが重要であります。昨年秋に展開された一連の首脳外交の成果を基礎として、それぞれの国とのパートナーシップをさらに深めてまいります。

 このような取り組みの中、問題となるのが北朝鮮との関係であります。先般のミサイル発射や最近の秘密核施設疑惑など、我が国はもとより、国際社会にとって大きな懸念材料となっております。我が国は、北朝鮮の核兵器開発を封ずるため、KEDOを引き続き支援していく用意がありますが、KEDOの枠組みを維持する上で、北朝鮮がミサイル及び核の問題に関し、こうした懸念を解消する行動をとることが重要であります。

 我が国としては、米韓両国と緊密に連携しつつ、国際的な懸念並びに拉致疑惑や国交正常化問題などの日朝間の諸懸案に対処していく方針ですが、北朝鮮がこれらの問題に建設的な対応を示すのであれば、対話の再開を通じ関係改善の用意があることを明らかにいたします。

 我が国は、近隣諸国との二国間関係強化に加え、ASEAN諸国、大洋州諸国との関係強化、APEC、ARFなど地域協力の進展への貢献、そして、必要に応じ新しい対話の枠組みの構築などを通じて、アジア太平洋地域の安定強化に努めてまいります。

 さらに、アジア太平洋地域の先をも見渡した外交を展開することが重要であります。私はこのたび、中東五カ国及びパレスチナ自治区を訪問し、二国間関係の強化とともに、中東和平の実現に向けた働きかけを行ってまいりました。国際社会の多くの国々とともに中東地域の安定に貢献することは、我が国外交の財産となり、日本の国益にも資するものであります。

 国際社会の相互依存が深まる中、我が国としても、世界全体にかかわる諸問題に積極的に取り組んでいくことがますます重要であります。新しい世紀の世界を、より安定し、より繁栄し、さらに人々にとってより住みよいものとするため、我が国は国際社会における地位にふさわしい主導的役割を担っていく考えであります。

 このグローバルな問題への取り組みに際し、最も重要な国際的枠組みが国連であります。二十一世紀を前にして、国連が時代の要請に適合した役割を一層効果的に果たすためには、全体として均衡のとれた形での改革を早期に実現し、その機能を強化しなければなりません。そして、我が国としては、このような国連改革が実現される中で、安保理常任理事国として責任を果たす用意があることは、これまで繰り返し表明してきたとおりであります。

 脅威が多様化する中、より安全で安定した世界を築いていくためにまず重要なのは、軍備管理、軍縮により脅威を削減する努力であります。今日必要とされているのは、核兵器、生物化学兵器などの大量破壊兵器や、これを運搬するミサイルから、対人地雷、小火器などの通常兵器に至る、あらゆるレベルでの軍備管理、軍縮であります。

 昨年は、国連において我が国が提案した、今後の核軍縮、不拡散への道筋を示す決議案が圧倒的多数の賛成を得て可決されるなど、我が国は積極的にイニシアチブをとってきており、今後とも国際的な取り組みの先頭に立ってまいりたいと考えております。

 この関連で、大量破壊兵器廃棄のための国連特別委員会の査察を拒否してきたイラクに対し、昨年末、米国、英国により武力攻撃が実施されました。我が国は、イラクが関連安保理決議上の義務を即時かつ無条件に履行し、国際社会の一員としての責任ある対応をとるよう引き続き働きかけてまいります。

 一方、いまだに後を絶たない世界各地での紛争に対処していくには、実際に起こった紛争の迅速な解決、紛争後の復興、起こり得べき紛争の未然防止、さらには、紛争の根源にある貧困等の社会問題への対処までを視野に入れた包括的な取り組みが必要とされております。昨年、我が国は、第二回アフリカ開発会議を主催し、東京行動計画の取りまとめに当たるなど、紛争との連関をも視野に入れた開発促進へのイニシアチブをとりました。世界的にも認識の深まりつつあるこの包括的な取り組みを強化する必要性を、一層強く訴えていく所存であります。

 次に、より繁栄した世界を築いていくために必要なのが、グローバリゼーションへの対応であります。近年浮き彫りになってきた、グローバリゼーションに伴う危機の連鎖的波及といった問題の背景には、現在の国際的な枠組みがグローバリゼーションの流れに十分対応できていないことがあります。我が国は、我が国経済の発展のためにも、既存の枠組みの強化、さらには新たな枠組みの構想などにおいて、主導的役割を担っていかなければなりません。

 現在進められている国際金融システム強化に向けた議論の中で、迅速かつ有効な支援のあり方や被支援国に課される条件等につき、我が国として議論に積極的に貢献していく考えであります。我が国はまた、二〇〇〇年からWTOにおいて始められる自由化交渉を包括的なものとすることを主張しております。グローバリゼーションのもとで、我が国経済のさらなる発展につながるような国際ルールの構築に向け、産業界及び関係団体などとも十分に意見交換を行いつつ、我が国として最善の対応をとるべく取り組んでまいります。

 アジア各国経済と我が国経済との相互依存関係の深さにかんがみれば、アジア経済の回復が我が国にとって極めて重要であることは申すまでもありません。我が国経済の自律的な回復のために必要な施策をとるとともに、我が国としてなし得る最大限の支援をアジア諸国に対し引き続き行っていく考えであります。これまで発表してきた一連の支援策を着実に実施していくとともに、今後ともアジア経済危機克服のために創造的に貢献を行っていく考えであります。

 折しも、欧州においては単一通貨ユーロが導入されました。ドルに次ぐ主要な国際通貨の誕生が世界経済に与える影響については、我が国としても注目しており、ユーロが安定した信頼できる通貨となることを期待しております。また、我が国自身も、国際通貨体制の一層の安定に資するよう、国際通貨としての円の役割の向上などに努めていかなければなりません。

 そして、世界が、安定と繁栄を享受するのみならず、人々にとってより住みやすいものであるためには、地球環境問題、薬物、国際組織犯罪、難民などの、国境を越えた問題への取り組みが必要であります。近年、人間の生存、生活を直接脅かすこれらの諸問題を人間の安全保障という観点から包括的にとらえ、対応を強化するという考え方が提唱されております。我が国は、先般、国連での人間の安全保障基金設立のため資金を拠出することを表明しましたが、国際機関やNGOとの連携を深めて、この分野での取り組みを強化していく考えであります。

 このように山積する諸問題に対処していくに当たり、我が国外交の手段及び実施体制を強化していくことが急務であります。

 中でもODAは、国際社会全体の安定と繁栄を確保し、もってみずからの安全と繁栄を確保しようとする我が国にとって、最も重要な外交手段であります。政府といたしましても、現在の厳しい経済財政状況の中、援助を推進していくためには、国民の皆様による一層の御理解と御支持が不可欠と認識しており、情報公開の強化などによりODAの透明性向上に努めてまいります。そして、ODA中期政策や国別援助計画の策定などを通じて、貴重な財源をより効果的、効率的に活用できるよう努力してまいります。

 また、資金面だけでなく、人的な貢献も我が国の国際協力の重要な柱であります。昨年は、カンボジアやボスニア・ヘルツェゴビナへの選挙監視団の派遣、ハリケーン災害に見舞われたホンジュラスへの国際緊急援助隊派遣に対し、関係国を初め国際社会から高い評価を得ることができました。その一方で、タジキスタンで秋野国連政務官というかけがえのない人材を失ったことは痛恨のきわみであります。この教訓を生かし、派遣要員の安全の一層の確保に努めつつ、今後とも、国際社会の期待にこたえて、積極的に顔の見える国際協力に取り組んでいく所存であります。

 さらに、外交を展開するためのいわば足腰である外交実施体制の強化もまた重要であります。来年度予算案ではアゼルバイジャンの公館設置などを計上させていただいておりますが、これらを通じて外交の幅を広げ、将来を見据えた外交活動を展開してまいりたいと考えております。

 二十一世紀はもはや目前です。新しい世紀を希望の世紀とするために我が国が示し得る世界像は、まず第一に、我が国自身が発展の基盤としてきた自由、民主主義といった価値が広く共有される世界の姿であります。同時に、我が国としては、多様な価値観や文化が共生し得る世界こそ、歴史も民族も異なるさまざまな国や地域が安定的な関係を結んでいくことのできる基盤であることを訴えていきたいと思います。この観点からも、国際交流を通じて、さまざまな国や地域の人と人がお互いに対する理解を深めていくことが極めて重要であります。

 我が国は、現下の困難を乗り越えるべく、官民を挙げて全力を尽くしております。このときに当たって、あすのよりよい国民生活のため、安定した国際環境を確保する外交の役割は一層重要であります。外務大臣としての私の信念は、リーダーシップのある外交であります。内においては、世論を喚起し国民とともに外交を進めるべく、そして、外においては、国際社会の中で率先してみずからにふさわしい役割を果たしていくべく、全力を尽くしてまいる所存であります。

 御臨席の議員各位、そして国民の皆様の御支援と御協力を心からお願い申し上げます。