データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第87代第1次小泉純一郎内閣(平成13.4.26〜平成15.11.19)
[国会回次] 第154回(常会)
[演説者] 川口順子外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 2002/2/4
[参議院演説年月日] 2002/2/4
[全文]

 このたび、私は外務大臣を拝命いたしました。

 私は、これまで、改革を断行する小泉内閣の一員として、私たちがよりよい環境を享受できるような政策の策定と実施に努めてまいりました。これからは、平和で安定し、かつ繁栄する国際社会の実現を目標として、日本外交のかじ取りに取り組むこととなります。

 現在、さまざまな外交課題が山積しておりますが、私は、先人たちが築き上げてきた外交路線をしっかり継承するとともに、新しい時代に対応した外交を積極的に展開するため、全力で取り組んでまいります。

 外交の任を担っていく上で重要なことは、外交が国民に理解され、国民に支持されなくてはならないということです。

 私は、昨年の一連の不祥事を踏まえ、何よりも、外務省改革の実施が重要と考えています。この点については、外務大臣就任に当たって総理大臣よりいただいた御指示に従って、改革を力強く実施してまいります。

 特に、外交に関する意見は、幅広く謙虚に拝聴するとともに、不当なものは受け入れず、外交への特定の圧力を排除します。また、国民の目から見て、外務省の体質、仕事ぶりが国民の期待に沿うようにしてまいります。

 昨年、米国で発生した同時多発テロは、新たな安全保障上の脅威を改めて私たちに認識させました。テロの防止、根絶に取り組むことは不可欠であり、我が国も、テロとの闘いをみずからの問題ととらえ、この闘いに向けた国際的な連帯の強化に努めるとともに、テロ対策特措法を成立させ、協力支援活動、被災民救援活動を積極的かつ主体的に実施してきております。

 一方で、テロとの闘いは、軍事行動だけではなく、幅広い分野における息の長い取り組みが必要です。特にテロ資金対策については、昨年署名したテロ資金供与防止条約を早期に締結するとともに、同条約及び関連国連安保理決議を誠実に履行するための法制の整備などを進めることが必要であり、早急に国会にお諮りいたします。

 さらに、今回の事態により困難に直面しているアフガニスタン及びその周辺国、並びにこれらの国々にいる被災民に対しても、細やかな目配りを行いつつ、将来における紛争の発生を防止し、地域全体の安定を図ることができるよう、積極的に支援していく必要があります。

 このような考えに基づき、先日、我が国は、米国、EU及びサウジアラビアとの共同議長のもと、東京において、アフガニスタン復興支援国際会議を開催いたしました。同会議において発表したとおり、難民帰還、地域社会再建、地雷除去、保健医療、教育、女性の地位向上、メディア・インフラの整備等の分野を中心に、二年半で最大五億ドルの対アフガニスタン支援策を実施していきます。

 なお、NGO参加問題をめぐる混乱については、今会議の大きな成果に水を差す結果となり、外務省としては率直に反省しています。アフガニスタン復興支援におけるNGOの果たす大きな役割にかんがみ、外務省としては、NGOとの連携協力に一層努めてまいります。

 さまざまな課題に直面する二十一世紀においても、我が国外交の基軸である日米関係は、引き続き極めて重要です。今月には、ブッシュ大統領の訪日も予定されており、我が国は、今後とも、幅広い分野で両国間の対話及び政策協調を進めるとともに、日米安保体制の信頼性の向上に努め、アジア太平洋地域の平和と安定の礎である日米同盟の一層の発展を図ります。

 また、沖縄県の方々が我が国全体の平和と安全のために背負っておられる御負担を軽減していくため、普天間飛行場の移設、返還を初めとする沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告の着実な実施に努める等、誠心誠意、努力してまいります。

 さらに、今後の世界経済の見通しが不確実な中で、日米両国経済及び世界経済の持続可能な成長を達成していくためにも、成長のための日米経済パートナーシップを通じた日米間の建設的な対話を進めていくことが重要です。

 基本的人権の尊重、民主主義、市場経済、自由貿易を基調とし、安定し、繁栄するアジア太平洋地域を実現することは、国際社会全体の平和と繁栄にとっても非常に有意義です。

 こうした観点からも、中国と安定した友好協力関係を構築することが不可欠です。中国が安定的に発展するとともに、今般の世界貿易機関(WTO)加入等を通じて国際社会において一層建設的な役割を果たすことが重要であり、そのためにも、昨年策定した対中国経済協力計画に沿って、可能な支援を行っていきます。

 本年は、日中国交正常化三十周年を記念し、中国において日本年、我が国において中国年の諸活動が展開されます。これらの活動等を通じて、特に若い世代を中心に相互理解、相互信頼の一層の増進を図り、日中関係のさらなる発展に努めていく考えです。

 基本的価値を共有し、我が国にとって政治経済上極めて重要な隣国である韓国との関係では、昨年十月の二回の首脳会談が、日韓関係をさらに発展させるための重要な契機となりました。本年は、ワールドカップサッカーを日韓で共催する年であり、また、国民交流年でもあります。我が国は、これらを成功に導き、日韓関係を盤石なものにすべく、全力を尽くしていく考えです。

 朝鮮半島については、南北間の対話が継続されることを期待しています。我が国としては、引き続き、韓国及び米国との緊密な連携を維持しつつ、日朝国交正常化交渉に粘り強く取り組む考えです。こうした対話の中で、北朝鮮との安全保障上及び人道上の諸問題の解決に向け努力していきます。

 プーチン大統領のもと、国内改革を進め、国際社会と建設的な関係を積極的に構築しつつあるロシアとの関係では、一昨日、イワノフ外務大臣との会談を行ったところですが、我が国は、こうしたロシアの変化を支持し、幅広い分野で日ロ関係の進展に努めていきます。平和条約締結交渉については、北方四島の帰属の問題を解決し平和条約を締結するとの一貫した方針のもと、交渉を進めていく考えです。

 先般の総理大臣の東南アジア訪問は、この地域の安定と繁栄にとって重要なASEAN諸国との幅広い協力を強化していくための重要な機会となりました。今後とも、ASEAN諸国との協力を土台に、ASEANプラス3、日中韓三国間協力、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)といった地域的な枠組みの重層的な発展に努めてまいります。

 また、先般署名された日・シンガポール経済連携協定は、貿易の自由化、円滑化のみならず、金融、情報通信等、幅広い分野での二国間の経済連携を強化するものであり、今後、我が国とアジア諸国、豪州、ニュージーランド等との経済関係を強化していく方途の一例です。

 アジアの主要な民主主義国であるインドとの関係では、先般のバジパイ首相の訪日の際に発出された日印共同宣言に基づき、今後、グローバルパートナーとして、経済分野に加え、政治・安全保障分野においても協力を推進していきます。

 EUの拡大、深化が進展しつつある欧州との関係は、ますます重要です。今後とも、昨年より開始した日欧協力の十年のもと、日・EU協力のための行動計画を着実に実施し、日欧間に一層緊密かつ具体的な協力関係を構築するとともに、アジア欧州会合(ASEM)を通じたアジアと欧州との対話の促進に努めていく考えです。

 地域情勢については、特に、パレスチナ情勢を深く憂慮しております。暴力の悪循環を断ち切り、対話と交渉により問題を解決するよう、我が国は、米国を初めとする国際社会と協調しつつ、改めて当事者に対し自制と対話を呼びかけます。

 また、緊張の見られるインド・パキスタン間の関係については、両国が我が国を含む国際社会からの働きかけにこたえてさらなる努力を継続し、両国間の対話が速やかに再開されるよう、引き続き働きかけます。

 国際社会の安定の実現には、紛争予防への積極的な取り組みが不可欠です。我が国は、これまでも、国連、G8、ARF等において、関係国、国際機関、NGO等と協力しつつ、紛争の発生を未然に防止するよう取り組んできました。今後とも、このような取り組みを一層強化してまいります。

 紛争が発生した場合には、国際社会が一致団結して、紛争の拡大防止と解決に努めるとともに、被災民に対する支援に努めることが必要です。特に、紛争の解決と再発防止に当たっては、国連を中心とした国際平和のための努力が引き続き重要であり、我が国は、三月に東ティモールに自衛隊の施設部隊を派遣すべく準備しております。また、先般の国際平和協力法の改正を踏まえ、今後とも、国連平和維持活動等に一層積極的に参加していく考えです。

 核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散防止は、対テロの視点からも極めて重要です。また、対人地雷や小型武器の問題等の実践的な取り組みの強化も重要です。我が国は、軍縮・不拡散の取り組み強化のため、積極的にイニシアチブを発揮してまいります。

 ますます多様化、複雑化する国際社会の諸課題に一層効果的に対応するためには、安保理改革を初めとする国連の機能強化が不可欠です。我が国は、安保理改革が実現する暁には、常任理事国として一層の責任を果たしたいと考えています。

 国際社会の安定と繁栄を実現するためには、アフリカを初めとする開発途上地域における貧困削減や開発支援への取り組みを無視することはできません。昨年末、我が国は、国連、世銀等とともに、アフリカ開発会議(TICAD)閣僚レベル会合を開催いたしました。今後とも、TICAD3開催等を念頭に置きつつ、開発途上国自身の貧困削減に向けたイニシアチブを積極的に支援していきます。

 世界経済に安定と活力をもたらす上で、多角的貿易体制の強化は非常に重要です。昨年のWTO第四回閣僚会議で新ラウンド交渉の開始が合意され、中国と台湾のWTO加入が実現したことは、世界規模での持続的な経済成長を達成していく上で意義深いものです。我が国は、今後、WTO新ラウンド交渉に積極的に参加し、開発途上国の関心や懸念にも配慮しつつ、世界貿易の一層の自由化とWTOルールの強化を図っていく考えです。

 環境問題は、人類の生存に対する脅威となり得るもので、外交課題としても極めて重要です。私は、前職での経験も生かし、積極的に取り組んでいきます。

 特に、地球温暖化問題に関しては、今国会において、京都議定書の締結につき御承認いただくことを目指します。また、米国の建設的な対応を引き続き求めるとともに、開発途上国も含めた国際的ルールの構築に向け、最大限努力していきます。さらに、本年、ヨハネスブルクで行われる持続可能な開発に関する世界サミット等の場を通じて、環境と開発の両立を各国に訴えていく考えです。

 政府開発援助(ODA)は、国際社会の安定と繁栄の実現に向け取り組むに当たって、極めて重要な手段です。アジアの平和と繁栄、アフガニスタンの復興、環境や感染症を初めとする地球規模の課題の解決等に向け、国際社会の我が国に対する期待は極めて大きく、こうした期待に積極的にこたえることこそ、我が国への信頼と尊敬の糧となるものです。厳しい経済財政状況を踏まえつつ、ODAを最大限戦略的かつ効果的に活用してまいります。

 以上、我が国の外交の基本方針について申し述べてまいりました。

 新たな世紀を担っていく子供たちに平和で安定した世界を引き継ぐためにも、私たちは、すべての人があまねく幸福を享受し、人間一人一人の生命と尊厳が守られるような時代を築き上げていかねばなりません。

 そのために、国際社会は、市民の生存、生活と尊厳を脅かすテロの脅威を取り除くための対策を講ずるとともに、基本的人権の尊重、民主主義、市場経済、自由貿易を基調とした政治経済体制をますます発展させる必要があります。あわせて、異なる文化や文明、歴史への深い理解と、互いの違いを認めつつも共通の価値を見出すための対話を深め、人々が平和のもとに共存できる社会を構築することが極めて重要です。

 私は、こうした目標の実現に向け、全力で取り組んでいくつもりです。国民の皆様と議員各位の御支援と御協力を心からお願い申し上げます。