[内閣名] 第87代第1次小泉純一郎内閣(平成13.4.26〜平成15.11.19)
[国会回次] 第156回(常会)
[演説者] 川口順子外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 2003/1/31
[参議院演説年月日] 2003/1/31
[全文]
第百五十六回国会の開会に当たり、我が国外交の基本方針について所信を申し述べます。
北朝鮮をめぐる問題やイラク情勢など、国際社会が緊急に取り組むべき課題に直面している今こそ、我が国には、外交面で積極的かつ創造的な役割を果たすことが特に求められています。
私は、昨年二月の就任以来、言うべきことは言い、やるべきことはやる強い外交、困難に直面している人々や異なる文化への理解を大切にするという温かい外交、そして、国民の皆様の目から見てわかりやすい外交を実践することを心がけてきました。国際情勢が大きく変化しつつある本年、私は、国民の生命、安全の確保に改めて万全を期した上で、こうした、強く、温かく、わかりやすい外交を基礎としながら、国際社会における秩序やルールづくりに我が国が一層積極的に関与していくことを通じて、創造的な外交を力強く実践していきます。
我が国及び国民の安全と繁栄を確保することこそが、外交に課せられた最も重要な使命です。
我が国が直面する外交課題の中でも最重要案件の一つである北朝鮮との関係では、日朝平壌宣言に基づき、拉致問題及び安全保障上の問題等の諸懸案を解決し、北東アジア、ひいては国際社会の平和と安定に資する形で国交正常化を実現するため努力していくことが重要です。
特に、拉致問題については、被害者及び御家族の立場を踏まえ、問題の全面解決のために引き続き全力を尽くしていきます。また、現在、緊急の課題となっている核兵器開発問題については、我が国は、平和的解決に向け、引き続き、米韓両国と緊密に連携し、また、中国、ロシア等の関係国や国際原子力機関(IAEA)とも協力しつつ、北朝鮮に対して、核兵器不拡散条約(NPT)の遵守、核関連施設の再凍結及びすべての核兵器開発の放棄を強く求めていきます。私自身、先般、韓国を訪問し、盧武鉉次期大統領等と意見交換を行ったほか、関係国の外相等と緊密に連絡をとっており、このような努力を今後とも継続していきます。
イラクの大量破壊兵器をめぐる問題も、我が国を含む国際社会全体が一致団結して取り組まなければならない最も重要な外交課題の一つです。
イラクは、過去に実際に化学兵器を使用したことがあり、また、十年以上にもわたって、大量破壊兵器の廃棄等を求める安保理決議を履行せず、国連の権威に挑戦しています。先般の安保理会合においても、イラクは大量破壊兵器等に関する疑惑を解消するために十分な協力を行っていないとの報告がなされています。
昨年十一月に採択された安保理決議一四四一は、イラクに対して最後の機会を与えるものです。イラクは、同決議を重く受けとめ、無条件かつ完全に遵守しなくてはなりません。イラクが関連する安保理決議を履行し、国際社会の懸念を完全に払拭することが必要であり、我が国は、国際社会と緊密に連携しつつ、イラクが、今後継続される査察を妨害しないだけでなく、能動的に疑惑を解消し、みずから武装解除を行うよう、強く求めていきます。
我が国及び国民の安全と繁栄を確保していくためには、国際社会全体の平和・安定と繁栄を実現し、維持していくことが不可欠です。
昨年も、インドネシアのバリ島、フィリピン、ロシア、ケニア等でテロ事件が続発したように、テロの脅威は依然として深刻です。我が国は、テロをみずからの安全保障上の課題と認識し、テロ対策特別措置法に基づく米軍等に対する支援の継続、テロ資金対策、出入国管理、アジア諸国を中心とする途上国のテロ対処能力向上のための支援の強化等を行っており、引き続き、幅広い分野における国際社会の息の長い取り組みに積極的に参画していきます。また、我が国国民の安全を守るとの観点から、在外公館とも緊密な連携をとりつつ、海外の邦人保護にも一層努力していきます。
大量破壊兵器や弾道ミサイル及び小型武器等の通常兵器の拡散問題は、テロ対策、紛争予防という観点からも、国際社会が一致団結して取り組まねばならない課題の一つです。
我が国は、NPT体制の強化に加え、昨年のカナナスキス・サミットで合意された、G8グローバル・パートナーシップのもとで行われるロシアからの大量破壊兵器等の拡散防止、特に、先般の日ロ首脳会談で合意された退役原子力潜水艦解体事業の推進、さらには余剰兵器プルトニウム処分構想への協力等、軍縮・不拡散分野での取り組みを強化していきます。
主な地域紛争に対しても、我が国は、引き続き、その解決に向けた取り組みに積極的に関与していきます。
中東和平をめぐる情勢は国際社会の平和と安定に大きな影響を与え得る問題であり、情勢のさらなる悪化は許されません。我が国は、暴力の停止と和平に向けた交渉の再開をイスラエル、パレスチナ両当事者に対して粘り強く働きかけていきます。同時に、我が国は、双方の信頼回復に向けた取り組みを積極的に後押ししていきます。
アフガニスタン、インドネシアのアチェ、フィリピンのミンダナオ等における地域紛争を恒久的に解決するため、我が国は、昨年十二月に発表された国際平和協力懇談会の報告書も踏まえつつ、引き続き、和平プロセスの促進、国内の安定・治安の確保、人道・復旧支援を迅速かつ切れ目のない形で進めることを通じて、平和の定着に向けた取り組みを強化していきます。また、先般、私が訪問したスリランカでは、現在、和平プロセスが進展しています。我が国は、明石康氏を政府代表に任命しましたが、三月に我が国で和平交渉を、その後、復興会議を開催するなど、同国における平和の定着に向けた努力を継続していきます。
政府開発援助(ODA)は、狭い意味での開発目的に限定することなく、こうした国際平和協力を促進する手段としても積極的に活用するなど、その戦略性を一層高めていく方針です。また、私は、就任以来、ODAに対する国民の皆様の御理解と御支持を高めるため、透明化、効率化及び国民参加を柱として、ODA改革に取り組んできました。今後、ODA改革をさらに推進し、本年中ごろを目途に政府開発援助大綱の見直しを進めていきます。
国際社会の平和・安定と繁栄の実現には、世界経済の安定的な発展が必要であり、WTOのラウンド交渉を通じて、多角的自由貿易体制を維持し、強化していくことが不可欠です。
我が国は、二月に東京でWTO非公式閣僚会合を開催するなど、今回のラウンドの成功に向け積極的に貢献していきます。同時に、多角的自由貿易体制を補完し、強化するためにも、経済連携にも積極的に取り組んでいくとの方針であり、現在、メキシコとの協定交渉を進めているほか、将来における東アジア地域全体の経済連携の強化を目指し、韓国やフィリピン、タイ、マレーシア等のASEAN諸国との協議を推進していきます。
グローバル化の利益を途上国を含む国際社会全体が適切な形で共有することは、極めて重要です。
我が国は、引き続き、東アジア地域、特にASEANの後発国を重視した開発援助を行っていきます。九月末には、東京で第三回アフリカ開発会議を開催する予定であり、貧困、紛争、感染症等、多くの困難を抱え、国際社会の関心が高いアフリカ地域の問題の解決に向けても積極的に取り組んでいきます。また、五月には、沖縄で第三回太平洋・島サミットを開催し、太平洋島嶼国の関心の高い環境問題等への取り組みについての協力を深める予定です。
人間の生存と生活に不可欠な資源である水の問題については、我が国は、三月に、関西で第三回世界水フォーラム及び閣僚級国際会議を開催します。我が国としては、人づくりと社会づくりの視点を重視し、途上国みずからの取り組みを側面から支援し、問題の解決に向けた国際協力の強化を図る考えです。
地球温暖化についても、早急に取り組みを強化することが必要です。京都議定書は気候変動に対する国際的な取り組みを強化する重要な一歩であり、我が国は、同議定書の早期発効を目指します。同時に、米国や途上国を含むすべての国が参加する共通ルールの構築に向けて最大限努力していきます。
このように多様化、複雑化する諸課題に対し、国際社会が一層効果的に対応するためには、安保理改革を初めとする国連の機能強化が不可欠です。安保理改革が実現する暁には、我が国は、常任理事国として一層の責任を果たしていく考えです。また、国際社会が直面する諸課題に取り組んでいくに当たり、G8プロセスは引き続き重要な役割を果たしており、六月のエビアン・サミットに向け、先般、私が訪問した本年のG8議長国であるフランスを初め、G8各国と緊密に協力していきます。
また、以上のように国際社会の安定と繁栄の実現に取り組むに当たっては、人間の生存、生活、尊厳に対する脅威から一人一人の人間を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現していくことが重要です。このような人間の安全保障という考え方は、緒方貞子氏が共同議長を務めている人間の安全保障委員会の最終報告書においてこの二月にも打ち出される予定であり、我が国は、人間中心の社会づくりを推進するために、この理念の普及と実現を図っていきます。
主要国・地域との関係を強化することは、以上述べてきたような、国際社会が直面する諸課題に有効に取り組んでいくためにも不可欠です。
日米関係は、我が国外交の基軸です。我が国は、日米安保体制の信頼性のさらなる向上に努めていきます。また、北朝鮮やイラクの問題等、さまざまな課題につき、同盟国として、米国と引き続き緊密に協議、連携していきます。在日米軍にかかわる諸問題については、沖縄県民の方々が我が国全体の平和と安全のために背負っておられる御負担を軽減していくため、普天間飛行場の移設、返還を初めとする沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告の着実な実施に努めるなど、誠心誠意努力していきます。
また、両国の持続可能な経済成長を図るため、引き続き、成長のための日米経済パートナーシップを通じた建設的な対話を行い、地球規模の問題を含む幅広い分野での対話及び政策協調を進めます。日米間で交流が開始されて百五十年という歴史的な節目を迎える本年、あらゆるレベルでの交流を一層活性化していきます。
基本的人権の尊重、民主主義、自由貿易を基調とし、平和で安定し、繁栄する東アジア地域を実現することは、国際社会全体の平和・安定と繁栄の実現にとって極めて重要です。
韓国は、我が国と基本的な価値観を共有し、政治・経済上極めて重要な隣国であり、両国間の未来志向の友好協力関係を一層発展させていくことが重要です。二月に発足する盧武鉉新政権とも協力関係を維持しながら、引き続き、幅広い交流を通じ、両国国民間の相互理解を増進していきます。
中国との間では、平和友好条約締結二十五周年に当たる本年、人と人とのつながりをさらに拡大し、深めていくことなどを通じて、両国国民間の相互理解、相互信頼を深めていきます。特に、緊密な経済関係を踏まえ、日中経済パートナーシップ協議を初め、経済面での対話をより緊密にし、さらに、二国間関係の増進のみならず、地域問題やグローバルな諸課題の解決に向け、一層協力していきます。
ロシアとの間では、先般、小泉総理が訪ロし、幅広い分野でのこれまでの協力の成果と今後の方向性を取りまとめた、日ロ関係の海図となる日ロ行動計画を発表しました。今後、同計画の内容を着実に実施し、具体的な成果につなげることが重要です。特に、本年は、年間を通じてロシアにおける日本文化フェスティバルが開催される予定であり、日ロ間の協力を幅広い分野で進めていく中で、平和条約締結問題についても、我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を可能な限り早期に締結する決意を持って、粘り強く交渉に取り組み、前進を図っていきます。
ASEANとの間では、ともに歩み、ともに進むとの基本理念のもと、さまざまな分野、レベルで一層の相互理解を深めていきます。また、我が国は、地域協力を進展させるための取り組みを行っていきます。日本ASEAN交流年である本年、十二月に予定される日本ASEAN特別首脳会議に向け、二十一世紀における幅広い協力の枠組みを構築していく考えです。
先般、私が訪問をしたインドとの間では、グローバル・パートナーとしての協力関係を、より戦略的な視点から前進させていきます。
EUの拡大と深化が進展し、NATOの拡大が決定され、国際社会での欧州の影響力が一層増しています。我が国は、日欧協力の十年のもと、緊密かつ幅広い協力、交流を進め、欧州との戦略的なパートナーシップをさらに強化していきます。
以上述べてきた外交を実施していくに当たっては、外交が国民の皆様に理解され、支持されなくてはなりません。一連の不祥事によって失われた外務省に対する国民の皆様の信頼を回復するため、昨年二月の就任以来、私は、まず外務省改革の実施に全力投球してきました。有識者から成る「変える会」、外務省内の有志による自発的な改革グループ、国会議員の方々からのさまざまな提言を踏まえ、昨年八月に、外務省改革「行動計画」を発表しました。また、昨年十二月に、外務省の組織・機構改革に関し、中間報告をまとめ、本年三月中に最終報告の成案を得る予定です。
私は、こうした取り組みを通じて、外務省改革を総仕上げし、国民の皆様の期待にこたえながら、創造的な外交を一層力強く、積極的に実践していく考えです。引き続き、国民の皆様と議員各位の御支援と御協力を心からお願い申し上げます。