[内閣名] 第91代福田康夫内閣(平成19.09.26〜平成20.09.24)
[国会回次] 第169回(常会)
[演説者] 高村正彦外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 2008/1/18
[参議院演説年月日] 2008/1/18
[全文]
第百六十九回国会の開会に当たり、我が国外交の基本方針について所信を申し述べます。
私は、平成十一年の通常国会における外交演説の冒頭で、国際社会は冷戦の終えんを経て新しい世紀を迎えようとしているが、平和で安定した世界への道のりは平たんでないと述べました。それから九年を経た今、アジア諸国の安定と繁栄、米州やアジア太平洋、欧州での地域協力や経済統合への動き等、好ましい発展が見られる一方で、北朝鮮をめぐる問題や国際テロ、大量破壊兵器及びミサイルの拡散、気候変動を初めとする環境問題、アフリカの開発等、世界は依然として多くの課題に直面しております。
我が国の国益である我が国国民の幸福及び我が国の平和と繁栄の確保は、世界の平和と繁栄の実現なくしてはあり得ません。そして、世界の平和と繁栄は、所与のものではなく、各国の不断の努力があって初めて実現できるものであります。我が国としても、その実現のために受け身であってはなりません。
総理が施政方針演説で述べられたとおり、我が国は、日米同盟の堅持と国際協調を外交の基本方針とし、中国、韓国等の近隣諸国や国連等とも緊密に協力しつつ、平和協力国家として国際社会の平和と発展に向けて積極的に取り組んでまいります。
我が国はこれまで、世界の平和と繁栄の実現を目指して、ODAを通じた協力を実施するとともに、PKOを初めとする国際的な平和活動にも積極的に参加してまいりました。さらに、今年度からは平和構築の分野における人材育成のためのパイロット事業を開始いたしました。国連では現在、平和構築委員会議長も務めております。また、平和維持活動能力の向上を目的として、アフリカのPKOセンターに対する支援も決定いたしました。
我が国は、平和な世界をつくるため、こうした活動に一層積極的に取り組んでまいります。
さきの国会では、補給支援活動特別措置法が成立しました。これは、我が国が、国際社会によるテロとの闘いに引き続き責任を果たしていく決意を改めて示したものであります。また、国際社会にとって重要な課題となっているアフガニスタンとイラクの安定と復興のため、引き続き支援をしてまいります。
一方で、私は、我が国が行う国際平和協力の具体的な活動内容等について、一般的な法律を整備することが的確かつ機動的な協力の推進という観点から必要と考えております。
平和な世界をつくるため、今後我が国が担うべき国際平和協力とはいかなるものか、議論を一層深めつつ、検討してまいります。
本年、我が国は、G8サミット議長国として北海道洞爺湖サミットを主催いたします。私自身は、京都外相会合及び開発大臣会合の議長を務めます。
グローバル化の進展とともに一国では対処できない地球規模の課題の重要性が増しており、また、世界経済においても主要国間の一層の協調が求められております。
我が国は、これら会合において、環境・気候変動、開発・アフリカ、世界経済、不拡散を初めとする政治問題といった重要課題について力強いリーダーシップを発揮し、前向きなメッセージを発信していくべく、その成功に向けて政府一丸となって取り組んでまいります。
また、我が国は本年五月、横浜において、第四回アフリカ開発会議、TICAD4を主催いたします。「元気なアフリカを目指して」との基本メッセージのもと、アフリカにおける成長の加速化、人間の安全保障の確立、環境・気候変動といった諸課題に主導的に取り組んでまいります。私が年初にタンザニアを訪問したのも、これを念頭に置いたものであります。
我が国が本年これらの重要な国際会議を開催することは、我が国自身にとっての大きなチャンスであります。これは、単に、八年置きのG8と五年置きのTICADが同じ年に我が国で行われるというだけではありません。
我が国はこれまで、世界の平和と安定のために積極的な役割を果たしてまいりました。今回、我が国は、それに加えて、G8議長国、TICAD主催国として、世界の平和と安定に向けた各国の外交努力を結集するという大きな国際的責任を果たすことが期待されております。
我が国は、この平成二十年において与えられたチャンスを十分に生かし、我が国自身が国際社会から信頼される平和協力国家としてさらに発展するよう、平和な世界をつくるためのリーダーシップを発揮してまいります。
我が国の外交において、日米同盟はかなめとなるものであります。日米同盟を一層強化し、政治、安全保障、経済を含む幅広い分野で米国と緊密に連携してまいります。
また、日米安保・防衛協力を強化し、在日米軍の兵力態勢の再編についても、抑止力の維持と地元の負担軽減という考え方を踏まえ、沖縄等地元の切実な声に耳を傾けて、着実に進めてまいります。
さらに、日米関係の基盤となる知的交流、草の根交流及び日本語教育といった日米交流を強化し、将来の日米同盟の深化につなげてまいります。
近隣諸国との関係に触れれば、豊かで安定し、開かれたアジア地域の実現は、我が国の安全と繁栄に不可欠であります。
中国とは、戦略的互恵関係を構築し、ともに世界の平和、安定、繁栄に貢献してまいります。先月、福田総理と私はそれぞれ中国を訪問し、本年の桜の咲くころには胡錦濤国家主席も訪日する予定であります。日中平和友好条約締結三十周年、日中青少年交流年である本年、引き続き幅広い層で対話と交流を積み重ねていくとともに、懸案の決着に向けて努力し、日中関係を一層強化してまいります。
韓国は我が国にとって重要な隣国であります。我が国とは、自由、民主主義、基本的人権、市場経済といった基本的価値を共有し、また、北朝鮮問題等共通の課題を持っております。李明博新大統領との間でも、未来志向の日韓関係を一層発展させていきます。
北朝鮮をめぐる問題の解決は、我が国の安全保障にとり極めて重要であり、また、アジアの平和と安定に不可欠であります。六者会合や日朝協議を通じ、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を早期に実現できるよう、全力で取り組んでまいります。
重要な隣国であるロシアとの間では、北方領土問題の解決に向けて進展を図るべく、強い意思を持って交渉を進めていきます。同時に、極東・東シベリアを含むアジア太平洋地域における積極的な協力を通じた戦略的パートナーシップの構築を目指して、日ロ行動計画に基づき、引き続き幅広い分野での関係の発展に努めます。
ASEANの結束と繁栄は、東アジア地域全体の安定と繁栄にとって重要な推進力であります。先般、日本・ASEAN包括的経済連携協定の交渉が妥結しました。今後は、協定の早期発効に向けて努力してまいります。また、我が国は、ASEANの一層の発展と繁栄のため、メコン地域開発を通じた域内格差是正や人材育成支援等を通じて、ASEANの統合努力を力強く支援してまいります。
インドや豪州との間でも、安全保障面や経済連携協定交渉を含め、引き続き幅広い分野で関係を強化いたします。
日米豪戦略対話等の協力も引き続き推進してまいります。
また、将来の東アジア共同体の形成を視野に入れ、東アジア首脳会議等の枠組みを活用して、アジア諸国とともに地域共通の課題に積極的に取り組んでまいります。
昨年十一月の東アジア首脳会議では、福田総理より、東アジアにおける持続可能社会の実現に向け、我が国の環境協力イニシアティブを打ち出しました。今後はこれを着実に実現してまいります。
また、中国と韓国を交えた日中韓協力についても、環境を初めとするさまざまな分野で一層発展させてまいります。
その他の地域に目を転じれば、本年、外交関係開設百五十周年を迎える英国、フランス、オランダを初めとする欧州諸国と連携してまいります。また、これまで培ってきたEU及びNATOとの協力関係を強化してまいります。
さらに、民主化や市場経済化等の支援や対話を通じて、バルト諸国や中東欧、中央アジア、南アジアといった地域の諸国との関係を強化してまいります。
我が国が原油の約九割を輸入する中東地域の平和と安定は、世界全体の安定と我が国のエネルギー安全保障にとって不可欠の条件であります。中東諸国との間で、資源を超えた重層的な関係を構築してまいります。
中東和平については、さきのアナポリス中東和平国際会議での成果を歓迎するとともに、引き続き和平の実現に貢献してまいります。中でも、我が国が推進する平和と繁栄の回廊構想は、イスラエル、パレスチナ双方から高い評価を受けており、実現に向けて着実に取り組んでまいります。
また、GCC、湾岸協力理事会諸国との関係を一層強め、FTAの早期合意やエネルギー分野での相互の投資の増大に向けて努力いたします。
一方、イランの核問題の平和的・外交的解決のために、国際社会と緊密に協力してまいります。
本年、日本人移住百周年を迎えるブラジルを初め、経済面での存在感と国際場裏での発言力を増している中南米諸国との関係も強化してまいります。
続いて、国際社会の共通課題に移ります。
気候変動問題は、人類が一致して緊急に対応することが求められている課題であります。
先般の気候変動枠組み条約第十三回締約国会議、COP13では、我が国が提案したすべての主要排出国が参加する交渉の場の立ち上げについて合意が成立し、バリ行動計画策定に貢献することができました。
我が国は、世界全体の排出削減につながるよう、我が国自身の真摯な取り組みが求められております。北海道洞爺湖サミット等の場を通じて、すべての主要排出国が意味のある枠組みを構築することを目指し、途上国支援のための資金メカニズムの構築を含め、イニシアチブを発揮してまいります。
気候変動問題と密接不可分の関係にあるのがエネルギー安全保障であります。中長期的視野に立った安定的なエネルギー・資源確保に努めるため、輸入先とエネルギー源双方の多様化を図ります。また、二国間及び多国間の協力を通じて輸送路の安全対策を強化してまいります。
さらに、新興経済国におけるエネルギー効率の向上、再生可能エネルギーや省エネ技術の活用に向けて国際社会と協力して取り組むとともに、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティーを前提として原子力協力を推進してまいります。
途上国における感染症や母子保健の深刻な状況を踏まえれば、国際保健分野の課題も避けて通れません。TICAD4や北海道洞爺湖サミット等の場を通じて、我が国の経験も踏まえつつ、国際社会が共有する行動指針の策定を目指してまいります。
また、国際社会の平和と安定の維持増進のため、そして唯一の被爆国として、核兵器不拡散条約を基礎とした国際的な軍縮・不拡散体制の維持強化に努めます。
政府開発援助について述べれば、途上国の安定と発展のために協力していくことは、我が国自身にとっても利益であり、我が国の外交政策において重要な課題であります。人間の安全保障の視点も踏まえ、積極的に援助を実施してまいります。
国際社会は、地球規模の課題の解決とミレニアム開発目標の達成に向けて一致して取り組んでおります。我が国は、貧困撲滅、感染症等の保健問題、教育、水・衛生、防災等の課題に対し、ODA事業量の百億ドルの積み増しといった対外公約の達成を初め、我が国にふさわしい国際的責任を果たしてまいります。
本年十月には、技術協力、有償資金協力、無償資金協力を一元的に実施する新JICAが発足します。外務省としても、これを契機に、我が国の外交政策を反映させた国際協力の推進に一層努めるとともに、NGOや民間経済界とも連携しつつ、援助効果のさらなる向上を図ってまいります。
また、政府開発援助の一層の選択と集中と質の改善を進めます。資源・エネルギーの確保、民主化・市場経済化、法制度整備支援、貿易・投資環境整備に対しても積極的に活用してまいります。
国際の平和と安全の維持につき重要な役割を担う国連安全保障理事会の改革の早期実現は、喫緊の課題であります。我が国が国際社会において一層の貢献を行えるよう、早期の安保理改革の実現と我が国の常任理事国入りを目指してまいります。
加えて、多角的貿易体制の強化は我が国にとって死活的な利益であります。WTOドーハ・ラウンド交渉は、農産物、非農産物に関する関税等の引き下げ方式に合意ができるかどうかという決定的に重要な局面を迎えております。早期妥結に向けて、引き続き積極的に交渉に参画し、バランスのとれた交渉結果が得られるよう政府一丸となって全力で取り組んでまいります。
知的財産権の保護強化に向けた国際的な取り組みにも引き続き注力いたします。
また、国際社会の平和と繁栄の実現のためには国際社会における法の支配の確立が求められており、国際裁判制度の活用などを通じ積極的に貢献してまいります。
これまで、平和な世界をつくるための取り組みを初めとする我が国の外交方針について述べてまいりました。諸外国での我が国に対する信頼と理解の増進は、外交政策の円滑な推進にも資するものであります。このため、我が国の魅力や外交方針の戦略的かつ積極的な対外発信、日本語学習者の増加、知的交流及び国民レベルの交流促進に取り組んでまいります。
一方で、イランでの邦人拘束事件等、海外で国民が巻き込まれるさまざまな事件が発生しております。海外における国民の安全確保に向けて引き続き全力を挙げて取り組むとともに、世界各地で活躍する多くの日本人が安心して円滑に力を発揮できるよう適切な支援に力を尽くしてまいります。
最後に、山積する外交課題に適切に対処し、平和な世界をつくるための取り組みを推進していくためには、情報の収集・分析能力の強化、情報防護体制の強化が不可欠であり、引き続き取り組んでまいります。
また、機構、定員等の外交実施体制の抜本的な強化が不可欠であります。国民の皆様の御理解を得ながら、積極的に取り組んでまいります。
以上のような力強い外交を展開していく上では、国民の皆様と議員各位の御理解と御支援をいただくことが不可欠であります。
私は、本日改めてその点を強調し、演説を終えます。
ありがとうございました。