データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第93代鳩山内閣(平成21.09.16〜現在)
[国会回次] 第174回(常会)
[演説者] 岡田克也外務大臣
[演説種別] 外交演説
[議院演説年月日] 2010/1/29
[参議院演説年月日] 2010/1/29
[全文]

 第百七十四回国会の開会に当たり、外交の基本方針について所信を申し述べます。

 まず冒頭、さきにハイチで発生した地震において犠牲となった方々に心から哀悼の意を表するとともに、被災者の方々にお見舞いを申し上げます。

 我が国としては、これまで国際緊急援助隊による医療活動などの緊急支援を行っているほか、総額約七千万ドルに及ぶ緊急・復興支援や、国連平和維持活動(PKO)への参加意思も表明したところです。今後とも、震災国としての経験と技術を生かし、ハイチの復旧復興に積極的に貢献してまいります。

 国際社会は、米国のオバマ大統領の登場を一つのきっかけに、新たな協調の時代を迎えています。日本の平和と豊かさは、世界の平和と繁栄、そして、それを実現するための国際協調の中でこそ実現が可能です。

 現実の国際社会の中で、私たちはさまざまな課題に直面しています。その解決に向けて、私たちは、内向きになることなく、常に視野を世界に広げ、なすべきことをなし、みずから率先して国を開いていくことが必要です。日本が積極的に行動し、構想を示すこと、それによって世界の期待にこたえることが求められています。

 昨年九月、私は、外務大臣に就任するに当たり、政権交代という変化を大きな機会ととらえ、国民の理解と信頼に基づく外交を実現していきたいと強調しました。このため、私は、一つ一つの外交案件への対応に当たり、第一に現場を知ること、第二に常に原点に立ち返り検討すること、第三にわかりやすい言葉で国民の皆さんに伝えることという三つの原則を特に重んじてきました。

 私は、さきの総選挙を戦い、日本全国を回る中で、新しい政治に対する国民の皆さんの強い期待を実感しました。今後とも、全力で新しい外交に取り組む決意です。

 以上申し上げた上で、本年、日本外交が取り組むべき課題として、第一に各国・地域との関係の強化、そして、第二に地球規模の課題への取り組み、それぞれに対する基本的な考え方について、国民の皆さんに御説明します。

 日米同盟は、日本外交の基軸であり、日本自身の安全の基礎であり、アジア太平洋地域の公共財として、その平和と繁栄に大きく寄与しています。本年は、現行日米安保条約締結五十周年に当たります。私は、今月十二日にハワイで行ったクリントン国務長官との会談で、同盟関係をさらに深化させていくための協議プロセスを開始することで合意しました。今後三十年から五十年先を見据えて、日米同盟が日本の安全、そして、アジア太平洋と地球規模の平和と繁栄のために果たす役割を日米両国で再確認する一年にしたいと思います。その際、在日米軍が日本の安全を確保する抑止力として重要な役割を果たしているということについて、国民の皆さんに率直に語り、その理解を深めてまいりたいと思います。

 普天間飛行場の移設については、日米合意の重みを十分認識した上で、米軍基地が果たしている役割、沖縄の負担軽減などの諸点を十分に勘案し、五月末までに政府として具体的な移転先を決定します。その上で、日米地位協定や在日米軍駐留経費負担の問題についても取り組んでいきます。

 さきのクリントン国務長官との会談では、北朝鮮、ミャンマーといったアジア太平洋地域情勢のほか、アフガニスタン、イラン、核軍縮・不拡散といったグローバルな課題についても両国の協力を話し合いました。今後とも、このような幅広い問題について連携し、日米同盟を深化してまいります。

 アジア太平洋地域における外交を積極的に推進し、この地域と一体で、ともに成長し繁栄していくことを目指します。日本が有する資金、技術、知恵を活用し、世界の成長センターであるアジアの発展を促し、その活力と需要を日本の成長につなげてまいります。

 基本的価値を共有する隣国である韓国とは、歴史を直視した上で、成熟したパートナーとしての未来志向の関係を強化してまいります。また、日韓経済連携協定(EPA)交渉の早期再開を目指します。

 中国とは、戦略的互恵関係の内容を充実、具体化させるとともに、東シナ海における資源開発や食の安全など両国間の懸案に取り組みます。国際的な地位を高める中国が、地域と国際社会において、より一層の透明性を持って責任ある役割を果たすことを期待します。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との間では、統合に向けた域内の連携強化や格差是正を積極的に支援すると同時に、ASEAN議長国であるベトナムや、民主主義の普及など国際的な課題に積極的に取り組んでいるインドネシアなどとの二国間関係を強化してまいります。特にメコン地域とは、昨年十一月の首脳会議の成果を着実にフォローアップし、協力関係を深化させてまいります。ミャンマーにおいて開かれた公正な選挙が実現され、民主化プロセスが進むように、同国との対話を強化してまいります。

 オーストラリアは、アジア太平洋地域の戦略的パートナーであり、安全保障や経済関係を初めとするさまざまな分野における関係を深化させてまいります。

 インドとは、昨年末の鳩山総理の訪問の成果も踏まえ、安全保障や経済を初め幅広い分野で連携し、両国間の戦略的グローバルパートナーシップを発展させてまいります。

 私たちの政権は、東アジア共同体構想という長期的なビジョンを掲げています。具体的には、貿易・投資、金融、環境、エネルギー、開発、災害救助、教育、人の交流、感染症などの分野で、開放的で透明性の高い地域協力を推進してまいります。

 本年、日本はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長を務めます。来年の議長である米国とも緊密に連携し、アジア太平洋地域のさらなる繁栄に向け、新しい時代にふさわしいAPECを構想してまいります。

 ロシアとの関係では、昨年末の私のロシア訪問も踏まえ、政治と経済を車の両輪のように前進させつつ、北方領土問題を最終的に解決して平和条約を締結するため、精力的に取り組みます。アジア太平洋地域におけるパートナーとして、新しい日ロ関係を構築してまいりたいと考えます。

 北朝鮮については、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、日朝平壌宣言に基づき、不幸な過去を清算して、国交正常化を図る方針です。六者会合の早期再開と北朝鮮の核放棄に向けて関係国と緊密に連携しつつ、同時に国連安全保障理事会決議に基づく措置や日本独自の措置を着実に実施してまいります。日本が主導して採択された国連安保理決議第一八七四号において求められている貨物検査を的確に実施できるよう、政府として関連法案の早期成立を期します。

 基本的価値を共有する欧州は、グローバルな課題への対応や、政治、経済いずれにおいても、日本にとって重要なパートナーです。統合を深める欧州連合(EU)や欧州各国との連携を深めるべく、外相間でも緊密に連携してまいります。

 経済成長を背景に中南米で発言力を増すブラジルやメキシコ、中東や中央アジアと歴史的、地理的関係の深いトルコなど、新興経済国との連携を強化します。

 アフガニスタンとパキスタンの安定は、国際社会全体にとって最重要課題の一つであり、私もみずから現地を訪問するなど、力を入れて取り組んでまいりました。アフガニスタンについては、今後とも国際社会と連携しつつ、アフガニスタン自身の治安能力の向上、元タリバン兵士の再統合、同国の持続的、自立的発展のための支援を柱として、おおむね五年間で最大約五十億ドル程度までの規模の支援を行います。同時に、カルザイ大統領の新政権に対し、ガバナンスの向上及び汚職対策を強く求めてまいります。パキスタンについては、昨年の支援国会合で約束した最大十億ドルの支援を迅速に実施してまいります。

 イランについては、主要関係国と緊密に連携し、同国の原子力開発が平和目的に限定されるよう、核問題の外交的解決に努力してまいります。中東和平については、包括的和平が早期に実現するよう、和平交渉のための国際的努力を支持し、パレスチナ支援を含めて取り組んでまいります。

 世界経済危機や気候変動は、アフリカの人々に大きな影響をもたらしています。貧困やエイズ、結核、マラリアなどに苦しむアフリカの人々への支援は重要です。第四回アフリカ開発会議(TICAD4)の公約であるアフリカ向けODA倍増の実現に向け、必要な事業を着実に進め、アフリカの開発と成長を後押しすると同時に、貿易・投資の分野での協力を広げてまいります。

 続いて、地球規模の課題に対する積極的なリーダーシップの発揮について御説明します。

 オバマ米国大統領のプラハ演説は、核軍縮に向けた世界の流れを大きく変えました。日本は、この流れをより確実なものにするため、意味ある役割を果たさなければなりません。

 本年は、核セキュリティーサミットや核不拡散条約(NPT)運用検討会議が予定され、核兵器のない世界に向けて重要な一年になります。米ロ両国による新たな核軍縮条約の早期締結を強く期待します。NPT運用検討会議では、核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用、それぞれの分野において前向きな合意を達成できるよう、リーダーシップを発揮してまいります。

 私は、核兵器のない世界を実現するための第一歩となる具体的な手段として、核兵器を持たない国に対する核兵器の使用を禁止すること、そして、核兵器保有の目的を核兵器使用の抑止のみに限定することといった考え方に注目しています。これらの点も含め、オーストラリア、米国など関係国とも議論を深めてまいります。

 気候変動問題は人類にとっての危機であり、その解決は次の世代への責任です。昨年末の国連気候変動枠組み条約第十五回締約国会議(COP15)の結果は、主要排出国の国際的関与を得るなど、一定の前進はありました。今後、これを踏まえ、COP16において、公平かつ実効的な国際的枠組みを構築する新たな法的文書を採択するべく、米国、EU、国連などとも連携しながら、国際交渉を主導してまいります。鳩山イニシアチブに基づき、排出削減などの気候変動対策に取り組む途上国や、気候変動の悪影響に対し脆弱な途上国に対する支援を行ってまいります。気候変動問題の解決に向けて、まさに日本の外交力が問われています。

 世界経済はいまだ回復の途上にあります。保護主義の台頭を防ぎつつ、世界経済の回復と持続的成長を確かなものとするため、他の主要経済国と連携して取り組んでまいります。世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド交渉や、インド、EUなどとのEPA交渉を政治主導で加速化します。

 グローバル化が進む国際社会においては、飢餓や病気に苦しみ、人間としての尊厳を保てないような苦しい生活を営んでいる人々が数多く存在しているという厳しい現実があります。同じ人間としての共感を持って、人間の安全保障の実現に向け、途上国の人づくり、国づくりを支援してまいります。極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の完全普及、ジェンダーの平等の推進、乳幼児の死亡率削減、妊産婦の健康の改善、HIV、エイズやマラリアなどの蔓延防止などのミレニアム開発目標の達成に向けて、国際機関や非政府組織(NGO)とも連携しながら取り組んでまいります。

 同時に、現在の開発援助について国民の共感が十分には得られていないとの認識のもと、政府開発援助(ODA)のあり方について本年夏までをめどに基本的見直しを行います。それによって、我が国国民の理解と支持のもと、ODAをより戦略的かつ効果的に実施してまいります。

 海洋国家、貿易国家である日本にとって、海上航行の安全確保は極めて重要な課題です。自衛隊による海賊対処行動やソマリア及びその周辺国への支援は、日本国民の生命及び財産の保護、海上輸送の安全確保の観点から重要な役割を果たしており、この活動を継続してまいります。

 テロリズムは我が国国民やその経済活動にとって脅威であり、その原因の一つとなっている貧困の問題や国家再建支援に力を入れてまいります。イエメン、ソマリア、スーダンなどの平和と安定に貢献します。

 国連平和維持活動については、カンボジアや東ティモールなどですばらしい実績があるものの、最近の日本の貢献は十分な水準であるとは言えません。平和の維持及び構築に向けてより積極的な役割を果たすべく、冒頭述べましたハイチのミッションに加えて、さらなる貢献について検討してまいります。

 世界は多極化しており、その中で、国際的な合意形成のメカニズムの再構築が必要です。日本として、これに積極的に関与します。

 新興経済国を含む主要経済国から成るG20の存在感が高まっている一方で、G8も、自由と民主主義という基本的価値を共有する主要先進国の集まりとして、引き続き重要な役割を果たしています。これらの枠組みでの議論を通じ、世界経済やグローバルな問題についての国際協調をリードします。

 日本は、国連を重視し、積極的に活用し、その実効性と効率性を高めることに貢献してまいります。そのためにも、日本の常任理事国入りを含む安全保障理事会改革の早期実現に取り組みます。国際機関における邦人職員を増強し、人的貢献を高めます。

 私は、就任以来、国民の理解と信頼に支えられた外交の必要性を強調してまいりました。国民の理解と信頼があって初めて外交は力強さを備えることができるのです。

 私が、外務大臣就任直後に密約をめぐる問題について調査を命じたのもこのためです。外務省内の調査は既に終了し、現在、外部有識者による検証を行っています。なるべく早く、その事実関係を明確にした上で、外交文書の公開ルールの改革も含め、国民の皆さんに御説明したいと考えています。

 納税者の視点も重要です。このため、外務省所管の独立行政法人や公益法人の改革に取り組むとともに、独立行政法人評価委員会や外務人事審議会などの第三者機関が本来の役割を果たすことができるよう、そのあり方も検討します。

 このような自己改革の努力を行うことによって、国民の理解と信頼を得た上で、今まで述べてきたようなさまざまな課題に正面から取り組み、積極的な外交を展開してまいります。

 私は、日本の総合的な外交力を高めたいと考えています。そのためには、外交官が使命感を持って行動できるよう、外交実施体制を強化します。また、外交は政府だけで行うものではありません。COP15では、政府代表にNGOのメンバーが加わりました。私は、広い意味での外交を実現するに当たり、NGO、地方自治体、民間企業・団体、文化交流に携わる人々の役割に大きく期待をしています。

 世界の人々の平和で豊かな生活の実現のために、そして日本国民が平和で豊かな生活を実感できるために、国民の理解と信頼に支えられた力強い外交が必要です。私は、国際協調の時代にあって、人々が希望を感じることのできる日本外交を、日本国外務省の総力を挙げて展開していく決意です。

 議員各位、そして国民の皆さんの御支援と御協力をお願い申し上げます。