[内閣名] 第97代 第3次安倍晋三内閣(平成26.12.24〜平成29.11.1)
[国会回次] 第189回(常会)
[演説者] 岸田文雄外務大臣
[演説種別] 外交演説
[衆議院演説年月日] 2015/2/12
[参議院演説年月日] 2015/2/12
[全文]
第百八十九回国会に当たり、外交の基本方針について所信を申し述べます。
最初に、シリアにおいて、非道、卑劣きわまりないテロ行為により殺害された日本人お二人に哀悼の誠をささげ、御家族に心からお悔やみを申し上げます。
国民の皆様の祈りにも支えられ、政府として全力を尽くしましたが、このような結果となったことは痛恨のきわみです。許しがたい暴挙に強い憤りを覚え、断固非難いたします。
この間の国会における議員各位の御理解と御協力に深く感謝いたします。
世界各地で、過激主義集団によるテロ行為が発生し、多くの無辜の市民が犠牲になっています。いかなる国もテロの脅威に無縁ではいられません。
日本は、決してテロに屈することはありません。国内外の日本人の安全確保に万全を期すとともに、中東、アフリカへの人道支援をさらに拡充し、また、国際社会におけるテロに対する取り組みにも毅然として責任を果たしてまいります。
今回、国際社会から示された連帯に心から感謝いたします。ヨルダンを初め世界各国・各地からの連帯は、これまでの日本外交の積み重ねのたまものであり、国際社会における日本の存在感の高まりと協力のネットワークの広がりをあらわすものです。
世界各地のテロに象徴されるように、グローバル化と脅威の多様化が進捗しています。また、アジア太平洋地域の戦略環境は、依然として厳しい状況にあります。どの国も、一国のみで自国の平和、自国民の安全を守ることはできません。
こうした状況であるからこそ、国際協調主義に基づく積極的平和主義の旗を高く掲げ、日本の安全保障を確実なものにし、世界の平和と繁栄のために国際社会の一員として責務を果たす外交をこれまで以上に強力に推進してまいります。
本年は、戦後七十年、国連創設七十年の節目の年に当たります。二十世紀の惨禍を二度と繰り返してはなりません。
さきの大戦の反省を踏まえ、日本は、自由、民主主義、法の支配、市場経済、人権といった基本的価値を信奉し、国連を初めとする制度や体制を擁護してきました。先人たちの努力と国際的秩序の恩恵を受け、我々は今日の平和と繁栄を享受しています。平和国家としての日本の歩みが今後も変わることはありません。
平和は、単に戦争がない状態ではありません。日本は、人々が安全に、安心して豊かに暮らせることのありがたさを七十年間実感してきました。みずからの経験に裏打ちされた平和と繁栄を地域と世界に広げていきたい。このため、日本は、アジアを初め世界各地で、開発、平和構築、国民和解、民主化に積極的に貢献し、軍縮・不拡散や環境といったグローバルな課題に主体的に取り組んできました。
こうした平和国家としての日本の歩みをさらに未来に進め、国際協調主義に基づく積極的平和主義を具体的に実践する外交に取り組んでまいります。
日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることへの対応も必要です。
日本固有の領土、領海、領空は断固として守り抜くとの方針は不変であり、引き続き毅然かつ冷静に対応します。そして、国民の命と平和な暮らしを守り抜くとともに、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献するため、切れ目のない安全保障法制を整備する必要があります。国民の皆様の御理解を得るために、引き続き丁寧に説明を続けてまいります。
本年も、これまでと同様、日米同盟の強化、近隣諸国との関係強化、そして経済外交の強化という三本柱を軸とした外交を強力に展開します。
第一の柱は、日本外交の基軸である日米同盟の強化です。
昨年四月、日米首脳は、平和で繁栄するアジア太平洋を確かなものにしていくために、日米同盟が主導的役割を果たすことを確認しました。今後も、日米同盟をあらゆる分野で強化してまいります。
安全保障分野においては、日米防衛協力のための指針見直しを初め、幅広い分野での安保・防衛協力を推進し、抑止力を一層向上させます。
在日米軍再編を現行の日米合意に従って進めながら、沖縄の負担軽減に取り組みます。特に、普天間飛行場については、危険性の除去が極めて重要な課題であるとの認識のもと、一日も早い移設に向けて政府として取り組みます。
また、日米地位協定の環境補足協定署名に向けて、所要の作業を進めてまいります。
第二の柱は、近隣諸国との関係強化です。
日中関係は、最も重要な二国間関係の一つです。
中国が国際社会のルールや法の支配を尊重する形で平和的発展を遂げることは、日本にとっても大きなチャンスです。昨年十一月の北京APECでの首脳・外相会談の成果を踏まえ、戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、さまざまなレベルで対話と協力を積み重ね、大局的な観点から日中関係を発展させてまいります。
地域の平和と繁栄の確保という利益を共有する最も重要な隣国である韓国との関係強化は、日本にとり当然のことです。
今後とも、さまざまなレベルで積極的に意思疎通を積み重ね、大局的観点から、国交正常化五十周年にふさわしい、未来志向で重層的な協力関係を、双方の努力により構築していきたいと考えています。また、経済関係の強化にも努めます。
日本固有の領土である竹島については、引き続き日本の主張をしっかりと伝え、粘り強く対応します。
さらに、日中韓三カ国の協力を未来志向で強化するとともに、日中韓外相会議を早期に開催し、首脳会議の開催につなげられるよう努力してまいります。
より統合され、繁栄し、安定したASEANは、地域全体の平和と安定にとり極めて重要です。本年のASEAN共同体構築及びさらなる統合に向けた努力を引き続き支援するとともに、ASEAN及びASEAN各国との関係を一層強化する考えです。
特別な戦略的グローバルパートナーシップの関係にあるインドとの協力強化を進め、南西アジア諸国との関係を深化させます。
また、基本的価値と戦略的利益を共有する特別な関係にある豪州との間で、二国間及び日米豪三カ国の枠組みでの安保・防衛分野における協力を進めるとともに、日豪EPAを通じた経済関係の強化等をより一層促進します。
また、五月の第七回太平洋・島サミットの開催を通じ、太平洋島嶼国との協力関係を一層深化させます。
日ロ関係については、本年の適切な時期に実現を目指しているプーチン大統領の訪日を含め、今後、政治対話を積み重ねつつ、日本の国益に資するよう進めてまいります。
最大の懸案である北方領土問題については、引き続き、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべく、粘り強く交渉に取り組んでまいります。
また、ウクライナ情勢の平和的解決に向け、全ての当事国の対話努力を促すとともに、ロシアが建設的役割を果たすよう働きかけてまいります。
日本としても、ウクライナの改革努力を引き続き支援していきます。
北朝鮮に関しては、対話と圧力の方針のもと、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指します。
北朝鮮による核・ミサイル開発の継続は、地域と国際社会全体の平和と安全に対する重大な脅威です。関係国と連携しつつ、北朝鮮に対し、安保理決議及び六者会合共同声明の誠実かつ完全な実施を引き続き強く求めます。
北朝鮮が、国際社会の声を真摯に受けとめ、人権状況の改善に向けた具体的行動をとることを引き続き強く求めます。拉致問題は、日本の主権及び国民の生命、安全にかかわる重大な問題であり、政権の最重要課題です。北朝鮮による調査が、全ての拉致被害者の帰国という具体的な成果につながるよう、全力を尽くします。
欧州各国、EUやNATO等との協力関係を重層的に強化します。特に、英国及びフランスとの安保・防衛分野の協力を推進していきます。
また、中南米諸国との国際場裏での協力関係を含む幅広い関係強化を図ります。
第三の柱は、日本経済の再生に資する経済外交の強化です。
日本経済の再生と発展に資する戦略的な経済外交を引き続き推進します。国際市場において日本企業が存分に活躍できるよう、トップセールスやODAの活用も含め官民一体で推進します。地方創生に資する取り組みを強化する観点からも、日本産品の海外普及促進や風評被害対策に引き続き力を入れてまいります。また、経済面での国際ルール整備のため、WTOやOECD、APEC、主要国首脳会議等の議論に積極的に参画します。
さらに、TPPを初めとする経済連携交渉を、国益にかなった、包括的かつ高いレベルで戦略的かつスピード感を持って推進します。
エネルギー、鉱物資源、食料等の安全確保のため、資源外交を強化します。
鯨類を含む海洋生物資源の持続可能な利用について、国際社会の理解と支持を得るべく一層努力します。
今回のシリアにおける邦人人質殺害事件を受け、従来の取り組みに加え、在留邦人への注意喚起、日本人学校との連絡強化や現地治安当局への警備強化申し入れ、危険情報の発出などを行いました。その上で、海外に在留、渡航する日本人の安全確保にさらに万全を期すための検討チームを立ち上げ、考え得る具体的な措置について早急に取りまとめます。
また、テロと闘う国際社会において、日本としての責任を果たすとともに、日本の立場を積極的に対外発信していきます。さらに、テロ関連情報の収集を一層強化してまいります。
中東地域においては、ISILの脅威がある中で、中庸が最善の精神に裏打ちされた、安定した中東を取り戻すことが急務です。過激主義の流れを食いとめるべく、穏健イスラム諸国に対し、可能な限り、非軍事の支援を行います。
外交の三本柱を推進するのとあわせて、国際社会が直面するグローバルな課題についても、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、引き続き積極的に貢献してまいります。
国連創設七十年の節目の年に当たり、国連との連携をより一層強化します。
日本は、国連が二十一世紀にふさわしい姿となるよう、常任理事国の責務を担う用意があり、インド、ドイツ、ブラジルとともに、安保理改革実現に向けてリーダーシップを発揮してまいります。また、本年の安保理非常任理事国選挙に万全を期します。
国連PKOへの貢献を一層拡大し、平和維持、平和構築を推進します。
国際機関の日本人職員の増強にも努めます。
本年は被爆七十年でもあります。唯一の戦争被爆国として、NPT運用検討会議での議論を主導し、核兵器のない世界を目指して現実的、実践的な取り組みを前進させます。
気候変動の分野では、COP21における全ての国が参加する公平かつ実効的な二〇二〇年以降の国際枠組みの合意に向け、積極的に貢献します。この一環として、緑の気候基金に拠出を行うため、緑の気候基金法案を今国会に提出します。
女性が輝く社会の実現は、世界共通の課題です。二十一世紀こそ女性に対する人権侵害のない世界となるよう貢献してまいります。ことしも、女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW!)を開催します。
ポスト二〇一五年開発アジェンダ策定に向けた議論に、積極的に貢献してまいります。人間の安全保障の理念に基づき、国際保健課題や防災等に対処し、多様な主体が参加する枠組みの策定を目指します。三月には、仙台で第三回国連防災世界会議を開催し、防災の主流化と被災地の復興の発信に取り組みます。
新たな開発協力大綱のもと、ODAを戦略的に活用することにより、国際社会の平和と安定及び繁栄に一層積極的に寄与してまいります。特に、ODAを通じた官民連携を一層推進します。
成長著しいアフリカとのパートナーシップを、TICADプロセスを中心に一層強化します。エボラ出血熱の流行に対し、引き続き、切れ目なき支援を実施します。
海洋、宇宙空間、サイバー空間を含む国際公共財における法の支配の実現や強化に尽力します。海における法の支配の三原則に基づき、開かれ安定した海洋の維持発展に、主要国、関係国と連携し、取り組んでまいります。
主要国並みの外交実施体制の実現を目指し、総合的な外交力を引き続き強化してまいります。国際社会での存在感を一層高めるよう、予算を効果的に活用し、日本の正しい姿や多様な魅力を戦略的に対外発信するとともに、親日派、知日派の発掘、育成を強力に推進します。主要国における広報文化外交拠点、ジャパン・ハウスの創設を推進します。また、日系人との協力の強化にも注力します。
この二年間のさまざまな外交成果は、オール・ジャパンで取り組み、世界各国との信頼関係を一つ一つ積み重ねてきたからこそ得られたものです。そして、国と国との関係である外交を支えるのは、結局のところ、人と人とのきずなです。今後も精力的に各国外相等との意思疎通を図り、きずなを大切にしながら、この二年間培った信頼関係をもとに外交を進め、一つ一つ外交課題で着実に結果を出してまいります。
議員各位、そして国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。(拍手)