[内閣名] 第45代第1次吉田(昭和21.5.22〜22.5.24)
[国会回次](帝国)第92回(臨時会)
[演説者] 石橋湛山大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1947/02/14
[参議院演説年月日] 1947/3/18
[全文]
昭和二十二年度一般會計歳入歳出豫算の御審議を煩わすにあたりまして、こゝに其の豫算の大要と、併せて政府の財政經濟政策の大體の方針を申し上げて、御諒解を得たいと思います。
まず昭和二十二年度の豫算の形式について一言いたします。政府は新憲法の施行に伴いまして、財政制度の民主化を徹底せしめるために、別途今議會に財政法案を提出いたしまして、御審議を願うことに相なつております。そこで昭和二十二年度豫算におきましても、この財政法案に基きまして、その形式に根本的改正を加えました。これによりまして、從來はなはだわかりにくいと非難されてまいりました豫算の面目が、一新したと考えます。かねて議會及び一般國民からも強き要求のあつたところでありますから、政府はこの要望に從いまして、なお今後とも豫算の形式につきましては、一層の研究を重ね、その民主化の徹底をはかる覺悟でございます。
次に昭和二十二年度からは、初めから一年間の完全の豫算を議會に提出いたしまして、續いて追加豫算の御審議を煩わす從來の弊害を一掃することにいたしました。将來あるいは豫期せざる事情、あるいは特別重大の理由等の發生によりまして、次期議會もしくはその後に追加豫算の必要を生じないとは、もちろん限りませんが、しかし少なくも今期議會に昭和二十二年度追加豫算の現われることはないのであります。また将來といえども、些少の支出でありますれば、予備金をもつてこれを賄い得る建前といたしました。それがため昭和二十二年度豫算においては、前年度の八億圓に對しまして、一擧豫備金を三十億圓に増加いたしました。同時に從來の第一及び第二予備金の區別を撤廢いたしまして、その運營の圓滑をはかろうといたすのであります。かように追加豫算を一掃する方式を採用いたしましたことも、從來はなはだ理解しがたいといわれました財政を明瞭にいたし、その民主化を徹底するのは大いに役立つと考える次第であります。
しかし以上のごとく豫算の形式を改めること等のために、その編成が意外に手間どりまして、政府としては非常の努力をいたしましたにかゝわらず、議會提出時期がはなはだ遲延いたしましたことは、まことに遺憾至極でございます。これについては、さきに會計法第七條第一項の特例に關する法律案の御審議を願いました際に、一應御諒承を得たところでありますが、こゝに重ねて御寛恕を請う次第であります。
さて昭和二十二年度一般會計豫算は、以上の如く形式に改良を加えますとともに、その内容については、また一つの根本方針を立てまして、その貫徹をはかりました。と申すのは、昭和二十二年度財政におきましては、嚴に収支の均衡を保つということであります。私は昨年七月、昭和二十一年度改訂豫算を本院に提出するにあたりまして、その収支の關係は決して十分に満足し得るものでないということを率直に認めますと同時に、しかし来年度以降遠からざる将来において、収支の均衡を回復し得る確信があると申し上げました。私はその確信によりまして、以上の方針を、昭和二十二年度豫算の編成に当たつて立てた次第であります。
もとより財政の目的は、単に財政だけの収支を均衡せしめる、狭い意味の、いわゆる健全財政を押し通してのみ満足し得るのではありません。財政の第一の要義は、國の経済の均衡を得せしめることであります。殊に現在のわが國のごとく、人と設備とを通じ、多量の生産要素が遊休化しておりまして、しかも物質の著しき不足を示しておる場合におきましては、特に特にこの用意が肝要であると考えます。しかしわが國の現状は、これもまた昨年の財政演説において明らかに申し上げましたごとく、単に購買力を経済界に注入することのみによつて直ちに産業の活動を増進し、経済の均衡を回復し得るがごとき簡単なものではありません。政府はかような觀點から、昭和二十一年度の財政の処理にあたりましても、一面においては極力財政収支の均衡をはかりますとともに、經濟界の整理を促進し、もつてインフレの防止に努め、他面においてはまた極力産業活動の回復を助長する方策をとりました。しこうしてこれは今日においても、われわれの堅持するところの政策でございます。
昭和二十二年度の一般会計豫算を編成するにあたりまして、嚴に収支の均衡を得せしめる方針をとりましたのは、すなわち財政に關する以上の政策の實現を一層完全にするためであります。昭和二十二年度一般會計豫算は、かようにいたしまして、歳入歳出とも千百四十五億三百豫萬圓という數字に相なりました。しこうしてそのうち國債發行に財源を求めましたものは、四十八億七千三百萬圓に止まります。もつとも以上の歳入の中には、財産税等収入金特別會計からの繰入金が七十五億四千三百萬圓ほどございます。しこうしてその繰入金中約六十五億圓は、物納財産を見返りにして右特別會計が公債を發行し、これを一般會計に繰入れる豫定でありますから、この分までを加えますと、國債發行額は百十三億七千三百萬圓に上る勘定であります。しかしその一面歳出におきましては、第一封鎖預金等の支拂確保のため金融機關に交付いたしまするところの金融再建補償金が百億圓、また復興金融金庫等に對する政府出資金が七十一億圓含んでおります。しこうしてこれらは必ずしも普通歳入をもつて支辨しなければならない歳出ではありません。しかるに國債發行額は、さきに申し上げましたごとく百十四億圓足らずでありますから、以上の補償金及び出資金の合計百七十一億圓にも未だ遥かに及ばないのであります。從つて昭和に十二年度の國債發行は、いわゆる赤字財政の意味を全く含まないものであります。
歳出入の款項等につきましては。ここに一々申し上げません。たゞ大體の費目について、たゞいままでに成立しました昭和二十一年度豫算と比較して、概略申し上げたいと存じます。第一、民生安定費でありますが、これは昭和二十一年度におきましては、百二十二億五百萬圓でありました。二十二年度は、今日の實情に鑑みまして、これを三十四億四千八百萬圓増加し、百五十六億五千三百萬圓といたしました。
第二に經濟再建費でございますが、昭和二十一年度のこの經濟再建費は、百六十六億八千五百萬圓でありましたが、これに對して二十二年度は、三百三十六億四千九百萬圓でありまして、すなわち百六十九億六千四百萬圓を増加いたしました。但しこの中に、前に申しました金融再建補償金百億圓が含まれます。またこの中にありますところの公共事業費は二十一年度の六十七億六千八百萬圓に對し、二十二年度は九十五億圓に増額いたしました。
第三は教育文化費でありますが、昭和二十一年度の教育文化費は十七億三千七百萬でありましたが、二十二年度は三十八億七千萬圓を計上いたしました。すなわち二十一億五千三百萬圓の増加であります。ほかの費目に比しまして、總額は未だ少い憾みがございますが、しかしその前年度に對しての増加率は、著しく大きいのであります。この中にいわゆる六・三制の實施費約四億五千八百萬圓、私學復興費約一億一千七百萬圓等が含まれております。但し六三制實施費は、このほかに地方分與税分與金中にも約三億五千萬圓を計上してありますので、總額は八億八百萬圓に上る計算であります。なお五箇所の官立醫學専門學校を大學に昇格するの件につきましては、別に豫備費より経費を支出いたしまして、これを實行することにいたしました。
第四に、同胞引揚費は、二十一年度豫算におきましては七十九億八千九百萬圓の巨額を要しましたが、當時豫想しました通り、本年度は四十三億六千六百萬圓を減少いたしまして、三十六億二千三百萬圓にこれを止めることができました。
第五に、終戰處理費が、昭和二十一年度におきましては、追加豫算を加え三百八十三億円に上りました。ほかに朝鮮及び沖縄における特別住宅建設資材費十三億圓をこれに加えますと、約四百億円の巨額を算しましたが、二十二年度においては、百二十六億円を激減し、二百七十億円を計上することに止めました。しばしば申上げますごとく、これは連合國司令部の絶大の好意と、支出に對する政府の監督が漸次行き届くに至りました結果でごさいます。第九十一議會においては、政府の契約の特例に關する法律案の御協贊を得ましたが、政府はこの法律を今後一層活用いたしまして、いやしくも放漫なる支出が工事等について行われることを極力防止する覺悟であります。
第六に、地方分與税分與金は、昭和二十一年度の二十五億五千九百萬圓に對しまして、二十二年度は八十五億四百万円を激増し、百十億六千三百萬圓を計上いたしました。地方分權の方針によりまして、國務の多くを地方に委讓いたしますとともに、その經費を交付いたしましたこと、及び地方職員の待遇改善に伴う經費の相當部分を、この分與金による財源で支辨することにいたしたためであります。なお六・三制實施の費用の一部が、地方分與金の中にはいつておりますことは、さきに申述べた通りであります。
第七に、國債費は、昭和二十一年度の五十三億七千六百萬圓に對しまして、二十七億八千二百萬圓を増加し、八十一億五千八百萬圓を計上いたしました。これは主として昭和二十一年度の公債發行によるものであります。なおしばしば問題になります戰時國債の利子が、この中に幾ばく含まれておるかと申しますに、もし昭和六年度以來の滿州及び支那事變公債及び臨時軍事費會計所屬分の國債だけにこれを限るといたしますならば、その利拂いは約三十八億圓であります。又昭和六年度より同二十年度に至る國債の増加額總額に對する利拂いといたしますれば、約四十九億圓でございます。
第八に、國庫豫備金は、前に申し述べました通りの理由によりまして、二十一年度の八億圓を三十億円に増額いたしました。
最後に、以上のほかの諸支出は、給與の増額その他によりまして、二十一年度の六十億七千六百萬圓に對し、二十三億八千九百萬圓を増加いたしまして、八十四億六千五百萬圓に上ります。以上が歳出についての極く大體の數字であります。
次に歳入につきましては、別に御審議を願う税制改正によりまして。一面負擔の公正をはかると共に、極力増収に努め、また煙草の價格につきましても、他の物價との均衡を考えつつ、これを適當に引き上げる計畫であります。すなわち租税は、この結果二十一年度の二百十四億八千八百萬圓に對し、四百七十三億一千萬圓を増加いたしまして、六百八十七億九千九百萬圓を計上いたしました。
第二に、印紙収入は、昭和二十一年度の三億三千四百万円に對し、七億一千五百萬圓を計上いたしました。
第三に、官業及び官有財産収入は、昭和二十一年度の九十億九千三百萬圓に對し、百六十七億七千四百萬圓を増加いたしまして、二百五十八億六千七百萬圓を計上いたしました。しかうしてこのうち專賣益金の繰入れは、二百二十六億五千八百萬圓でありまして、二十一年度の七十六億六千三百万円に比し、百四十九億九千四百萬圓の増加であります。
第四に、雜収入も、二十一年度に比し三億三千八百萬圓を増しまして、六十七億六百萬圓に上る豫定であります。
第五に、財産税等収入は、さきに述べましたごとく、二十二年度におきましても七十五億四千三百萬圓を計上いたしましたが、これは前年度の繰入額三百十億九千七百萬圓に比しますれば、二百三十五億五千四百萬圓の減少であります。
第六に、公債金収入は、これまた前に述べましたごとく、四十八億七千三百萬圓でありまして、二十一年度の二百三十五億圓に比し、百八十六億二千七百萬圓の減少であります。
なお二十一年度におきましたは、第九十一議會の追加豫算によりまして、前年度剩余金繰入れ十一億四千七百萬圓を計上いたしましたが、二十二年度の豫算にはその計上をいたしません。
以上のごとく、昭和に十二年度の歳入は、租税及び專賣収入において著しき増額であります。國民の貨幣所得も増加していると申しながら、これが前年度に比し相當重き國民負擔となることは、やむを得ない次第であります。しかし政府は、税制調査會の答申等を參酌いたしまして、租税においては、所得税等において相當思ひ切つた減税も行うのであります。前にも申し述べましたごとく、この際の財政的措置として、豫算の収支の均衡をはかることは、國民經濟再建のための至上命令と申もすべく、國民各位がこの負擔をよく忍び、もつて祖國復興に協力せられんことを衷心より念願する次第であります。
以上は、昭和二十二年度一般會計歳入歳出豫算の大要でありますが、この機會に、わが國經濟の現状と前途につきまして、少しく私の見るところを申し述べたいと考えます。まず各種の物資の生産は、終戰直後における極端なる混亂と疲弊とから脱却いたしまして、昨年中相當顕著の回復を示しました。また昨年夏期における未曾有の食糧危機も、聯合國當局の絶大なる協力によりまして、さいわいにこれを突破し、かつ昨年秋は近年にない豊年を迎うることができました。通貨はこの間顕著なる増加を示しましたが、しかし市中の實際物價は、昨年二月ころより騰勢が衰え、食糧その他の生活用品におきましては、かえつて下落の傾向をさえ示したのであります。しかるに不幸にして、この傾向は昨年十一月から變化いたしまして、爾来物價は相當顕著な騰貴を示しております。生産もまた昨年十二月までは引續いて増加の足とりを示しましたが、本年一月は、全體において生産指數の低下を現わしました。これはまことに容易ならざる状態であります。昨年以來、世の中にはしきりに三月危機を唱える向きがありますが、以上の現象は、あるいわ{前1字ママ}この説を裏書きするものではないかとの疑いも起るかと考えます。しかし、私の見るところによりますれば、これはまつたくの杞憂であります。
まず物價について申し上げまするに、元來はげしいインフレーションは、政府の財政が引續いて赤字を示し、それが紙幣の發行によつて賄われる場合に起るものであります。しかるにわが國の財政は、以上申し述べましたごとく、また昭和二十二年度においてまつたく赤字は克服され、インフレが起る源泉は、こゝに斷絶されるのであります。また昭和二十一年度において計畫された財産税の徴収、及び戰時補償の打切りも、種々やむを得ざる事情で遲れておりましたが、最近ようやく實施の運びに相なりました。これまたインフレ防止の見地からみましても、はなはだ強力な作用をなすと考えます。
さらに最近政府は、日本銀行を初め全國の金融機關の協力を得まして、産業資金の供給を規制し、この方面からインフレの發生する懸念をも一掃しました。財政及び金融方面からするインフレ防止策は、こゝにまつたく完璧の域に達したと考えるのであります。殘る問題は物資の生産及び流通であります。元來終戰後の日本經濟の最大の惱みが、物資の供給不足にありますことは、私の早くから指摘したところでありまして、これが對策として、政府はまず石炭の増産をはかることが、工業生産回復の最大の急務であることを認めまして、昨年以來不斷に努力を續けてまいりました。しかうして昭和二十二年度におきましては、三千萬トンの生産確保を目途として、目下著々これが準備を進めておる次第であります。さいわいにして、炭鑛經營者及び勞務者諸君におきましても、また一般國民諸君におきましても、石炭の増産の成否が國民經濟の死命を制する重大事であることを認識され、ために炭鑛における生産意欲が、近時著しく増進するに至つたと聞きますことは、國家のため眞に慶賀の至りであります。
最近經濟安定本部におきまして、かりに昭和二十二年度中、年間二千八百五十萬トンの石炭が配給される場合、どんな影響を工業生産物に及ぼすかということを計算いたしましたところ、二十一年度に比し、たとえば鐵鋼は二倍以上、板ガラスは五割増、硫安は七割増で、反當四、五貫目見當の配給ができ、ガスも約二倍、電力もずつと樂になるという結論を得ました。しかもそれだけの石炭を供給するのには、現在よりも毎月三、四十萬トンの増産をすればよいのでありまして、まつたくもう一歩のがんばりというところであります。私は、政府が只今著手しております坑木その他の炭鑛用資材の補給及び住宅その他の炭鑛勞務者の生活品の供給が、漸次軌道に乘りますとともに、必ず年産三千萬トンの目標は達し得ると信ずるのであります。
昨年十一月以來の物價經費には、いろいろの原因がありますが、その最も大いなる一つは、生食物の遲配が、意外にも東京等において起るに至つたことであります。これはまつたく政府として申譯ない次第であります。去る二月二十日現在の政府買入れ米の状況を見まするに、もちろん前年度よりもはるかに良好ではありまするが、割當數量二千八百六萬三千四百石に對しまして、買入數量は二千百三十萬二千七百七十四石で、進捗率は七五%九であります。しこうしてこれを地方別に見ますると、割當に對し供出が一〇〇%を超しましたのは、埼玉、神奈川、静岡の三縣だけでありました。最も成績の惡いのが、北海道、廣島、青森、岡山で、これらはいずれも供出率が六〇%以下であります。
かように供米が振いませんことは、もちろんいろいろの原因があると考えます。しかしいかなる原因によるにいたしましても、これは政府のとうてい黙過し得ないところであります。わが國の現状は、いうまでもなく連合軍の占領下にあり、しこうして連合國の絶大の支援がなければ、とうてい祖國再建の途はないのであります。しかるに今その日本において、萬一にも農家が米の完全なる供出に應ぜず、かつその米がやみ市場に流れるごとき現象を呈しましたら、聯合國はどうして日本を援助してくれるでありましょうか。わが國の食糧は、さいわいに昨年豊作に恵まれましたとはいえ、なおその絶對量は著しく不足であります。これはぜひとも連合國の好意にすがつて、輸入するほかないのであります。萬一にもその輸入が許されない場合には、それこそ日本國民は餓死せざるを得ないのでありましよう。政府はこゝにおいて、一昨三月一日發表いたしました通り、三月末日までに一〇〇%の供出を完遂した農家には、その二〇%に對し、石當り百五十圓の報奨金を呈して、その誠意を謝し、また四月末日までに一〇〇%以上の供出を行つた農家には、二種類にわかつて、それぞれ超過分に對して、石當り三百圓及び六百五十圓の報奨金を出すことにいたしました。
政府はかようにして農民諸君の協力により、一〇〇%を超え、少くも一一〇%の供出を完遂せんとするものであります。われわれは聯合國の好意に對して、これだけの誠意を示さなければなりません。この一一〇%の供出は、今日の場合、まさに日本再建の絶對の條件であります。しこうして政府は、これと同時に、現在既に米の移出縣において買入れられました米を急速に搬出し、消費地における主食の遲配を一掃する決意を固めました。これまた實に日本再建のための至上命令であります。何とぞ米の生産縣においてはこの事情を深く認識し、政府のこの決意に絶大の協力を與えられんことを切望する次第であります。
かようにして、主食の配給が計畫通りに完全に行われるに至りまするならば、私は最近の物價騰貴の一大原因は拂拭されると考えます。最近の物價騰貴のもう一つの重大な原因は、各種の統制が完全に行われず、やみ取引の取締りが、かえつて物資を地下に追いこむに至つたことにあると考えます。政府はこれに對して、先日の總理大臣の施政方針演説中にも述べられたごとく、統制を要するものにつきましては、政府の責任において思い切つた處置を講じますとともに、また既に不要に歸し、あるいは弊害を伴うごとき統制は、これをこの際整理したいと考えまして、目下鋭意研究を進めております。しこうしてその中において立法を要しますものは、近く法案を議會に提出する豫定であります。
先日ラジオでも申したことでありますが、バイブルの中に、「まことになんじらに告ぐ、人もしこの山に移りて、海に入れと言うとも、その言うところ必ずなるべしと信じて心に疑わずば、そのごとくなるべし」というキリストの言葉があります。われわれもまたこのキリストの信念をもつてすれば、必ず今日の危局を突破し、民主日本の興隆期して待つべきものありと考えるのであります。いわんや今われわれに與えられました課題は、山を海に入れるがごとき困難なことではありません。以上に述ぶるごとく、財政及び金融等については、既に方途は明らかに示さるゝに至つたのであります。物資の生産流通についてもまた同様であります。残る問題は、ただわれわれの心であります。必ずなるべしと固く信じて邁進するかどうかであります。
さきに一一〇%の米の供出及び移出縣よりの米の急速なる搬出は、今日の日本に對する至上命令だと申し上げましたが、石炭等の増産についてもまた同様であります。この際萬一にもこれらの生産が豫期のごとく進まず、すなわち人も物も日本の國力一ぱいの働きをしていないことが示された場合に、われわれは連合國の援助をとうてい期待することができません。かようにしてそれは内から外からとの二重の打撃をわが國に與えるのであります。でありますから、政府ももちろん全努力を傾注して施策の誤りなきを期さねばなりませんが、同時に全國民、特に農家及び鑛工等の重要産業に従事する經營者及び勞務者諸君は、深く思いをここにいたしていたゞきたいのであります。
敗戰後の經濟再建は、もちろん苦難の業であります。極度の窮乏生活はこれを忍ばねばなりません。しかし前途は決して暗黒ではありません。今日の難局突破と日本再建とは、必ずなるべしと信じ得る合理的根據があります。
以上、昭和二十二年度一般會計豫算の審議を煩わすにあたりまして、いささか所懐の一端を述べ、特に各位の御協力を願う次第であります。何とぞ政府の意の存するところを諒察され、本豫算に對し、速やかに協贊を與えられんことを切望いたします。