[内閣名] 第47代芦田(昭和23.3.10〜23.10.15)
[国会回次] 第2回(常会)
[演説者] 北村徳太郎大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1948/6/4
[参議院演説年月日] 1948/6/4
[全文]
われわれは漠然と希望し、明確に恐怖していると、ある戰勝國の詩人が申しましたが、今まで私どもは、明確な恐怖はあつても、安定への希望はきわめて漠然としたものでしかあり得なかつたのであります。しかし、今や耐乏と苦鬪のうちにようやく生存から生活へ、危機感から安全感への十字路にたどりつこうといたしているのであります。この重大な時期に際会いたしまして、昭和二十三年度予算案の編成にあたりまして、まず第一の努力は、予算と物價との相互均衡をとるという一点に注がれたのであります。このことたるや、重大にして、しかもまたきわめて困難な問題でありますため、これに相当時日を要し、遂に暫定予算の御審議を煩わすこと数回に及び、このほどようやく成案を得るに至りましたが、なお事務上の都合で、正式な予算案としての提出は若干遅れる見込みでありますから、この際大綱について御説明申し上げるとともに、現下の財政金融改策につきまして所信を申し述べたいと存ずる次第であります。
まず、予算編成の基礎となつております重要な点の二、三について申し述べたいのであります。
まず第一に、物價及び賃金と予算との関係であります。昨年七月の物價改訂後、賃金と実効價格との上昇線は相当弱まつたものの、なお継続いたしております。このため、特に官業と基礎産業とは今なお採算割れを來し、これがため、鉄道、通信両特別会計の運営収支における赤字、石炭・鉄鋼・肥料等いわゆる安定帶物資に対する價格調整補給金等実質上の財政負担と見られるものは、最近月額百億円に達する状況となつたのであります。かかる財政及び金融上の負担を引続き持続いたしますことは、インフレーシヨンの前途に重大な暗影を投ずるのみならず、企業の見地から見ましても、かかる重要産業の基礎を不健全なまま放置することはできないので、ここにこれらの價格の改訂を行い、企業の運営を正常化することが必要となつたのであります。しかしながら、賃金・物價の循環的高騰を遮断するためには、この際價格補正の程度をできる限り低位に止める必要があるわけでございます。從つて政府は、困難な際ではありますが、財政負担において物價騰貴の波及を抑制し、健全財政を堅持しつつ物價と賃金との安定をはかり、生産の正常化へも効果あらしめようと努力いたした次第であります。すなわち一般会計においては、五百十五億円の價格調整補給金を支出いたしまして、公定價格の著しい上昇を緩和することとし、鉄道、通信両特別会計に対しましては、一般会計から百三十億円の運営収支不足金の繰入を行い、かくいたしまして、鉄道運賃の値上りは通行税を含めて現行料率の三・五倍、通信料金の値上りは現行料率の四倍に止めることとしたのであります。賃金については、右の價格補正を斟酌して、現在における一般勤労者の実質賃金を確保せしめることとし、これがため、所得税について相当大幅の軽減を行う等の措置を講じたのであります。
第二の点は、健全財政の原則を一般会計、特別会計及び地方財政を通じて貫徹したことであります。財政の健全性とは、申すまでもなく、一般会計のみならず、特別会計、地方財政を通じた財政全体として、その収支の均衡適合をはかるということであるべきはもちろんであるからであります。このことは、物價と賃金との騰貴を抑制しつつ、しかもこれによる國民負担の増大をできるだけ避けねばならない情勢のもとにおいてはきわめて困難であり、予算の編成にあたり最も苦心いたしたところでございます。結局、各特別会計においても、地方財政においても、運営上の収支についておおむね赤字を出さずに済ます見透しがつきましたことは、財政健全化のために喜びとするところであります。もつとも資本的支出に属するものにつきましては、経費の性質上公債または借入金によることとしたものもありますが、これは資本勘定として当然の措置と考えているのであります。
第三は、國民経済との関連でございます。財政の健全化のためには、財政収支が均衡を得るのみならず、さらに財政の規模が國民経済全体に適應することが必要でございます。國民経済力の総合的指標たる國民所得を見まするに、昭和二十三年度は大よそ一兆九千億程度と概算せられるのでありまして、これに対し、一般会計の歳出三千九百九十三億円余は二一%にあたり、前年度の一八%に比し多少増率となつております。本年度の國民所得は、実質的に見て昨年度に比し相当増加することは期待できますが、わが國経済の実力が未だきわめて貧困であることに顧みますれば、この負担は相当の重圧と思われます。しかし、経済の安定、國の復興その他のためには、わが國のなすべきところはきわめて多いのでありますから、われわれは、この際新しい日本建設のためには、この負担をもあえて甘受しなければならないと思うのであり、國民各位におかれましても、この点については今しばらく御辛抱を願わねばならぬと思うのであります。
第四に、行政整理に関する点でございます。國内経済態勢を整備して外資の導入を容易ならしめ、わが國経済を復興するためには、経済部門と密接な関係を有する行政部門をまず能率化する必要があることは、申すまでもありません。この目的を達するため、政府は行政事務の整理再編成と機構の簡素合理化を行うこととし、目下着々具体案を検討作成中でありますが、この際まず、予算上においてもとりあえず一般会計の人件費の一割五分に相当する額を節約することとし、もつて行政整理の実施を財政の面からも促進することといたした次第であります。
以上の観点に立つて作成されました予算の概要は、大体歳入歳出ともに三千九百九十三億円余でありまして、歳入は、租税及び印紙収入二千六百三十二億円余、專賣益金九百四十三億円余、その他の官業及び官有財産収入七十二億円余、雜収入三百三十六億円余、前年度剰余金八億円余であり、歳出は、終戰処理費及び賠償施設処理費千六億円、價格調整費五百十五億円、鉄道通信行政監督費繰入二十億円余、鉄道業務収支差額繰入九十億円、通信業務収支差額繰入四十億円、船舶運営会補助四十億円、地方分與税分與金四百四十九億円余、公共事業費四百二十五億円、政府出資百八十九億円余、その他千二百十八億円余であります。
この内容については、近く予算案を提出する際詳細に御説明申し上げることといたしたいのでありますが、概要について簡単に申し述べますれば、歳出のうち人件費については三千七百円ベース、物件費については、公定價格はおおむね七割程度の騰貴を前提として積算いたしたのでございます。
次に終戰処理費及び賠償施設処理費については、最近の実情に今後の見透しを加え、物價の騰貴率を勘案して計上したのでありますが、事業量としては、前年度に比し若干減少するものと考えております。
價格調整費については、今回の價格補正以前にかかる分七十五億円、今後における石炭・鉄・肥料その他重要物資の販賣價格の急騰を抑制するために必要な調整費四百四十億円を計上したのであります。
鉄道、通信両特別会計の業務勘定に対する赤字の補填及び船舶運営会への補助は、いずれもさきに申し述べた價格補正の方針に則り、現行料率に比し、鉄道運賃は通行税を含めて三・五倍、通信料金は四倍、海上運賃は三倍の線にこれを抑制し、現状において実行可能な合理化を断行して、なお不足する分を一般会計から繰入れることといたしたのであります。
鉄道通信の行政監督費繰入は、両特別会計に属していた行政または監督の性質を有する経費をこの際一般会計の負担に移し、これら企業特別会計の独立採算性を徹底せしめることとした次第であります。
地方分與税分與金は、地方財政の状況に顧み、赤字借入を避けるため必要な金額を地方公共團体に分與することといたしたのであります。
公共事業費については、昨年における災害その他の事情を勘案し、前年度に比し若干事業量の増加を見込み、これに價格補正による單價の増嵩を加えて計上いたしました。
政府出資については、復興金融金庫に対し、本年度において民間保有に属する復興金融債劵の償還に必要な金額を目途として出資することとし、その金額百八十億円と、その他に対する政府出資とを合わせ、合計百八十九億円余を計上いたしたのであります。
以上歳出を概観いたしまするに、終戰処理費、実質上の價格調整費及び地方分與税分與金のみで、すでに歳出総額の五三%を占め、爾余の経費をもつて戰災復旧、教育文化、保健衛生、産業経済等々施策の万端を実行せねばならぬことは、物價騰貴の点を考え合わせ、財政の困難を如実に示しておるものであり、この大きな國民的苦悩について十分の御理解を願いたいと存ずるのであります。
次に、歳入について説明を申し上げます。
以上に述べた巨額の経費をいかにして賄うかにつきましては、健全財政の原則から、財源のすべてを普通歳入によることとし、その大宗たる租税と專賣収入につきそれぞれ所要の措置を講ずるとともに、その他の収入についても、物價等の状況に顧みて、できる限りの努力を盡すことといたしました。專賣収入については、すでに法律案を提出しましたが、租税についても、数日中にそれぞれ法律案をもつて御審議を煩わすつもりでありますが、その大要は次の通りであります。
まず租税につきましては、最近における賃金、物價等経済諸情勢の推移に即應して、國民の租税負担を調整、合理化するとともに、財政需要に対應して収入を確保することを目標として、税制の全般にわたり改正を加えることといたしました。すなわち、租税の中枢たる所得税について、所得の変動、課税の実情等に照らして財政事情の許す限り負担を軽減するため、基礎控除、扶養控除及び勤労控除を相当程度引上げるとともに、税率を大幅に引下げることとしたのでありまして、價格の補正の改訂が勤労所得者に加える重圧に対し、税の軽減によつてこれを緩和しようと努めた次第であります。また法人税については、産業の振興、外資の導入等に資する見地から、超過所得の税率を引下げ、外國法人を本邦法人並に取扱う等法人負担の軽減をはかり、勤労者の税負担軽減と相まつて、生産活動の促進に対して期待できるような方途を講じたのであります。次に、物價の変動に即應して、間接税中從量課税の酒税等につき相当の増徴を行うことといたしております。さらに経済情勢の変動に即應し、所得税及び法人税の減収の一部を補填して租税収入を確保し、財政の基礎を堅実ならしめるため、今回新たに取引高税を創設し、各取引段階に対し百分の一程度の課税を行うことといたしました。
今次の予算に計上した租税及び印紙収入の総額は二千六百余億円に上り、租税は総歳入の三分の二を占め、決定的に重要となつているのであります。しかも、すでに國民生活が一般に相当窮迫している実情に顧みるならば、中央地方を通ずる國民の租税負担は決して軽くはないのでありますが、租税収入の確保が財政収入の均衡を得るために不可欠の前提でありますから、この際全國民各位に対し、租税の完納につき一段の忍苦協力のほどを切望する次第であります。政府といたしましても、國民所得の分布状況の変動が激しい現状において、租税負担の公正をはかりつつ租税収入を確保するため、徴税機構を整備強化し、税務の運営方法を刷新改善し、特に大口利得者の課税の充実の努力し、負担の適正をはかるとともに、國民の納税に対する認識の普及徹底に一層の努力を拂う所存であります。
次に、專賣益金は九百四十三億円余でありまして、タバコ專賣においては、國民生活との調和をはかりつつ財政需要の増大に即應するよう、新たに自由販賣品を発賣するとともに、生産数量を増加することとし、また從来の定價を、最近の物價情勢に應じて引上げた次第であります。
以上、租税及び專賣益金のほか、價格補正に伴う價格差益納付金百八十八億円余と、官有財産収入、財産税等収入金特別会計受入金等その他の普通歳入合計二百二十一億円余を計上いたしております。
以上、昭和二十三年度財政の大要につき説明いたしましたが、この機会に、最近における財政経済情勢につき政府の所信を申し述べたいと存じます。
悪性インフレーシヨンの根源が財政収支の不均衡に端を発することは周知の通りでありまして、健全財政はインフレーシヨン克服のための第一の要請であります。この意味において、昭和二十二年度予算も収支の均衡を標榜して編成され、昨秋における予算補正に際しても、財政需要の著しい増嵩をすべて租税と專賣益金とを中心とする普通歳入で賄つたのであります。しかるに、支出済額と収入済額との間に生ずる時間的なずれのため、昨年末においては、支出は千八百十五億円余で、予算額の五五%に当るに反し、収入は五百七億円余で、予算額の二三・八%に止まり、収入は支出の約半分を満たすにすぎぬ状況で、このため財政収支の破綻が深刻に憂慮されたのであります。その後さいわいにして、國会を中心とする納税國民運動と、税務職員のひたむきな努力とは、國民の深い理解と相まつて、一月以降顯著な成績をあげ、四月末日までに、予算額千三百五十億円余を若干上回る程度の税収を確保し得たのでありまして、昭和二十二年度は辛くも収支の均衡を保持することができ、融資規制と相まつて通貨の増勢は著しく抑制され、インフレーシヨンの進行を阻止することに多大の寄與をなし得たのであります。すなわち、昨年二千百九十億円を超えた日本銀行券発行高は、その後今日に至るまで二千二百億円を上下し、物價の騰勢も鈍化を示しております。しかしながら、年度の途中における収入と支出との時間的ずれは通貨増発の原因となりますので、本年度は、予算の実行上その時期的調整をはかり、通貨の増発を結果することのないよう万全を期する覚悟であります。
次に、地方財政について一言いたします。健全財政の必要は、地方財政においても、中央の財政と何ら異なるところはないのであります。しかも地方財政の窮状は、國の財政における以上のものがあるのであります。これは六・三制の経費や災害土木費あるいは自治警察の費用等々のため歳出がいよいよ増大し、本年度は大よそ二千億円になんなんとするにかかわりませず、その財源は大部分を地方分與税分與金等國の歳出に依存しており、独立財源が貧弱なことによるのでありますが、政府はかねてから、國の財政と地方財政の吻合調整の方途につき鋭意研究を重ね、國費と地方費との負担区分を明確適正にするとともに、実情に即した地方税制の確立、たとえば事業税の創設、あるいは入場税を地方に委譲する等の方途を講じておるのであります。別途、地方財政法及び地方税法の一部を改正する法律案を近く提出いたすつもりでございます。
次に、当面の金融問題について政府の施策の大要を申し述べたいと存じます。
元來、通貨増発の原因の一半は産業の資金の需要の増大にあるのでありますから、通貨面からするインフレーシヨン対策は、財政面と金融面との双方にわたつて行わなければなりません。政府は、財政面における健全財政主義と相照應いたしまして、金融面においては健全金融主義の原則を堅持しているのであります。このために、昨年三月以來金融機関資金融通準則が施行され、金融機関からの貸出は、原則としてその蓄積資金をもつて賄い、またいわゆる赤字金融をなさしめない方針をとり、信用面からする通貨膨脹を極力抑制してまいつたのであります。しかして融資については、経済の安定、産業の復興、生産の増強等の見地から見まして、産業各般にわたつて緊急度に應ずる順位を決定し、資金が当面必要な方面に重点的に融資せらるるよう規制してあるのであります。かくて過去一年余の実績は、通貨増発抑制上相当の効果を立証しているものと考えられます。
しかしながら、最近における徴税成績の著しい向上、政府支拂の引締め等のため、一部の産業において事業資金の逼迫が訴えられ、近く行われる價格の補正によつて、この傾向はますますその度を加えるのではないかと懸念されているようであります。わが國経済再建上必要な事業に対し、價格補正等に伴い運轉資金や設備資金の正常な需要の増加による適正な資金を供給することは、生産を続行し、経済の正常な循環を確保するゆえんであると考えられますので、政府はインフレーシヨン防遏のため、建全財政と相並んで健全金融の原則はあくまで堅持しつつ、しかもその運用にあたつては、実情に即してでき得る限り生産を増強するため効果的な施策をとる所存であります。すでに正規の配給物資、貿易物資等の生産配給に必要な資金の供給を円滑ならしめるため、公團認証手形、配給手形、貿易手形制度を創設し、また農村金融対策といたしましては、肥料、農機具、農藥等の購入代金等の農業生産資金を供給する手段として農業手形制度を創設し、その効果をあげている等が、その実例でございます。
なお、資金需要の根本的な原因が企業自体に内在する不健全性に由來するものであるならば、企業自体に立ち入つて健全化を行わない限り、実質的な健全金融は成り立たないのでございまして、國の企業や行政面における行政整理に並行いたしまして、民間企業についても整理合理化をはからなければならないと考えております。
金融について特に注目すべきことは、いわゆる復金金融であります。復興金融金庫は、わが國産業の復興再建に必要な資金で、一般金融機関から融資することが困難な資金の融通に当たつているのでありますが、その額は昭和二十二年中の金融機関の貸出総額中約三分の一を占め、かつ融資先の性質上、相当の赤字金融をも行つております。しかし、その必要とする資金は復興金融債券によつて賄われ、かつその大部分が日本銀行の引受によつておりますので、一部にはいわゆる復金インフレの非難さえ聞くのであります。石炭、鉄鋼、肥料、電力等緊急産業への資金供給は一刻もゆるがせにできない現況に鑑みまして、やむを得ぬことと存じます。政府は、復興金融債劵についてはでき得るだけ市場消化に努めるとともに、融資の回収及び使途の監査につき一段のくふうを重ねたい所存でございます。なお、復興金融金庫は第五回の増資を計画中でありまして、近く必要な法律案を提出するはずでございます。
なお、從來企業は、その必要とする事業資金の大部分を金融機関からの融資に求めてきたのでありますが、通貨の膨脹を避け、健全な民主的経済を確立するためには、今後所要資金は極力これを増資、拂込み等の安定した自己資本に求めるよう、漸次切りかえていく必要がございます。このためには、申すまでもなく國民の証券投資に対する関心を高め、廣く國民の間に有價証券の分布をはかることが必要であり、さきに施行されました証券取引法の適切な運用等により、証券の民主化のため一層の努力を傾けたいと考えております。
以上、財政資金と産業資金とにわたり、資金の需要面について申し述べたのでございますが、かくして放出されたところの通貨がただちに環流し、これらの資金の需要を満たすことができれば、通貨の増発は起らないはずでありますから、從つて、資金需要に対應する貯蓄が不足な点にも通貨増発の一因が存するわけでございます。
貯蓄増強については、すでに一昨年秋以來の救國貯蓄運動が末端まで滲透して、相当顯著な成果をあげ、徴税成績の急上昇にもかかわりませず、本年一月は百七十九億円、二月は九十五億円、三月は二百一億円と、順調に進展してきたのでございますが、四月には約四十億円と著しい減少を見ました点に鑑みまして、インフレーシヨン抑制のためには一層この國民貯蓄の増強が要請されますので、本年は貯蓄目標額を三千億円とし、これが達成のために、さらに一段の努力をいたしたいと存じております。貯蓄増強の方策といたしましては、まず第一に通貨への信頼感を増すことが必要である。しかるにもかかわりませず、ちまたにおいては新円再封鎖等の説をなすものがありますけれども、政府は、新円再封鎖のごとき、一切さような措置はいたしませんことはもちろんであります。なお進んで貯蓄組合の結成を促進し、貯蓄慣習を喚起し、郵便貯金を初め貯蓄成績による資金の地方還元をはかる等諸般の施策を実施いたす所存でございますから、一層の御協力を切望する次第であります。
なお、外資導入の点から見ましても、特に必要なことは信用組織の確立でございます。御承知の通り銀行、信託会社、保險会社等の金融機関は、一昨年來再建整備に努め、三月末日をもつて最終処理を完了し、新旧勘定を合併いたしまして、いわゆる戰時補償の打切等に伴い生じました不良資産を清算いたしたのでありますが、さらに近くそれぞれ大増資を行いまして、諸外國に劣らぬ資本構成を有する金融機関として再出発することになつているのであります。
財政金融当面の情勢は以上の通りでありますが、終戰後第四年目の今年に入つてからの諸般の情勢は、全般的に見て次第に好轉しつつあるものと言えましょう。すなわち、納税成績の目ざましい向上を主軸として、通貨はほとんど安定的状態にあり、また物資面においても、供米は昨年に比しはるかに早く完遂され各方面における國民各位のひたむきな経済復興への努力は、今やようやく歩一歩とその実を結び始めたのであります。
しかしながら、このような國民の努力にもかかわりませず、脚下の現実を顧みますとき、戰争の惨禍はあまりにも大きく、鉱工業生産は未だ昭和五年ないし九年の四三%に止まり、食糧その他の生活必需物資の生産は、七千八百万の國民の最低必要量をとうてい満たし得ないのであります。この基本的な欠陥が解決されない限り、経済の終局的な安定は期し得られません。そしてこの解決は、脆弱となつた國内経済の基盤だけではとうてい望み得べくもなく、國際経済との関連において、すなわち外資の援助と貿易の振興によつて初めて可能となつてまいるのであります。事実、今日までのわが國経済は、いわゆる緊急援助費等米國政府の予算支出による外資の援助によつて崩壊を免れてきたのであります。しかしながら、今後進んで経済の復興をはかるためには、政府による援助のみならず、いわゆる民間外資の導入をもはかる必要があることは言うまでもありません。
しかるに、わが國経済の現状は、インフレーシヨン下にあつて労働不安は去らず、企業の基礎は未だ整備されておらぬ等、民間投資にとつて採算の見透しが困難であり、その安全性と利潤性とを確保するには、なおはなはだ未だいしのであります。また経済が不安定なため、爲替レートも未だ決定せられず、國内價格は國際價格水準と遊離した、でこぼこのままに放任されております。しかも、相当非能率な経営が行われておる國内経済の状態が、貿易の振興に対して重大な妨げとなつているのであります。しかしさいわいにして、緊急援助費を初め相当巨額に上る米國政府の外資援助が傳えられ、ドレーパー使節團の報告書を通じて賠償の緩和、外資援助その他日本の経済的自立に対する深い関心が明らかとなり、また食糧事情が世界的に好轉しつつあること等を考え合わせますとき、われわれの前途に大きな光明がさしそめてきたことを認めることができると思うのであります。
政府としては、この機会をとらえ、國内的にもこれに即應して再建のための施策を総合的に実施し、まずインフレーシヨンの進行速度をできる限り緩慢化して、外資の援助を支柱とする一應の中期的安定を実現し、これを本格的安定への踏み台として、非能率なわが國経済を漸次國際水準に近づけ、もつて爲替レートの決定、民間外資の本格的導入、貿易の振興を実現いたしたいと考えておる次第であります。
ドレーパー使節團の報告書にも明らかな通り、この場合、総合対策のうち最も重要なことは、健全財政の確立であります。それは單に形式的な収支均衡に止まらず、収支の時期的調整をはかり、また中央地方を通じて一貫した健全財政でなければならず、さらに金融面における健全金融と相表裏し、財政の赤字を金融面に轉嫁するごときことのない、実質的な収支の均衡を目途としなければなりません。これと同時に、主食その他生活必需物資の供給確保を裏づけとする実質賃金の安定により、家計の赤字を克服し、また企業については、金融、資材の両方面から経営の合理化、能率化をはかることによりまして、その赤字を解消せしめるよう不断の努力が続けられなければならないのであります。
さきに述べましたように、終戰以来の國民の貴い努力は、今やようやく効果を現わし始め、しかも國際情勢の好轉が期待されるこのときこそ、わが國経済再建にまたとない好機であり、今こそわれわれは、経済安定の目標に向つて昂然と頭をもたげつつ、國内の協力態勢を整えて起ち上がらねばならぬのであります。
昔、イスラエルの詩人は、「われ山に向いて目をあぐ、わが助けはいずこより來るや」と叫びました。たれに頼るよりも、まず私どもは目を上げて、世界的視野に立ちつつ、みずからを助けねばなりません。申すまでもなく、わが國民経済の再建はわが國民自身の努力によつて初めて実現されるのでありまして、外國の援助のみに依存して、みずから最善を盡さないような安易なる態度では、國民経済の再建のため絶対に必要な外資の導入すら期待し得なくなり、遂にはわが國民経済を再び不安のどん底に陥らしめ、民族自立の希望は遂に達成することもできずに終るでありましょう。連合國、殊に米國の好意にこたえる意味におきましても、われわれ國民は、この機会に昂然として起ち上がり、一致協力して、苦しきに耐えつつ経済再建の一途に努力を傾注いたさねばならぬと思うのであります。かくて國民各位の再建への意欲と、不拔の勇氣と、たゆまざる努力とによりまして、不安と恐怖は一掃され、明確に前途を望みつつ、歩一歩経済安定がもたらされることの決して遠くはないことを私は信じて疑わない次第であります。