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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第6回(臨時会)
[演説者] 池田勇人大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1949/11/15
[参議院演説年月日] 1949/11/15
[全文]

 昭和二十四年度補正予算案の国会提出に際し、その概略を御説明し、あわせて政府の財政金融政策の一端を申述べる機会を得ましたことは、私の最も光栄に存ずるところであります。

 先に昭和二十四年度当初予算の編成にあたり、政府は終戰以来のインフレーションを終息せしめて経済の安定を回復することに全力を傾注いたし、真に総合的な予算の均衡を実現いたしましたことは、各位の御承知の通りであります。その後政府は、この予算の適実なる執行を中心として、各般の施策の目標をすべてインフレの終息、経済安定の線に集中して参つたのでありまするが、この間の経済情勢の推移を見まするに、政府の施策は、国民各位の絶大なる御協力によりまして着々所期の成果を収め、久しきにわたるインフレーションもおおむね終息を見、わが国の経済がようやく安定の軌道に乗ることができましたことは、まことに慶賀にたえないところでございます。もつとも、右のごとき施策の実行の過程におきまして、過度的ではありまするが、経済界の一部に若干の困難な事態を生じ、さらに国際経済情勢の変化による影響等も加わつて参つたことは事実でございます。政府は、これらの事態に対しまして適宜調整の方途を講じつつも、施策の大本はこれをあくまで推進することとし、経済安定への大道を邁進して参つた次第であります。

 今後における施策の方向は、わが国民の努力によつて、せつかくかち得ましたる、この経済の安定をさらに強化し、その基盤の上に、国際経済との関連において経済の復興と発展とをはかることにあると信ずるのであります。ここに提出いたしました昭和二十四年度補正予算も、この基本的な考え方のもとに編成したものでありまして、歳入歳出の真の均衡を確保するという当初の原則を堅持するとともに、現下喫緊の政策を積極的に織り込むことに努めた次第でございます。その結果、本年度第四・四半期以降、一降の減税も可能となり、他面、当面最も緊要な事項について相当の経費を増加計上することができたのであります。なお本補正予算案の編成にあたつては、来年度にわたるわが国の経済情勢の見通しを立て、これに基いて、来年度予算案と一貫した構想のもとに編成いたしたのであります。

 補正予算案は、一般会計歳入において増加額七百七十八億円余、減少額四百十四億円余、差引増加額三百六十三億円余、歳出において増加額六百八十七億円余、減少額三百二十三億円余、差引増加額三百六十三億円余となつておりまして、その主眼とするところは、シャウプ勧告の趣旨にのつとつた国民負担の軽減の一部を本年度内において実現すること、次に懸案の価格調整費を大幅に削減すること、第三に公共事業費、失業対策費、地方配付税配布金、その他この際必要やむを得ない使途に充てるため所要の経費を計上することでありまして、その財源の主なるものは、右に申し述べた価格調整費の削減による不用額のほか、前年度剰余金及び租税の自然増収であります。

 しかして、今回の補正によりまして、昭和二十四年度一般会計予算総額は、歳入七千四百十三億円余、歳出七千四百十億円余、うち租税収入は五千百五十九億円余となります。これに対し、来年度におきましては歳出を大幅に圧縮いたしまして、総額約六千六百億円程度とし、歳入面においては、租税収入を四千四百五十億円程度に減少し得る見込みであります。本年度租税収入が、後に述べる減税額二百億円を差引いたものであることを考慮すれば、来年度減税額は九百億円程度に達し、相当な負担軽減となつております。

 次に補正予算の内容のおもなるものについて説明いたします。

 まず歳出は、価格調整費において二百三十億円を減少することといたしました。価格調整費については、内外経済の推移にも照し、国民経済に対する国の干與を極力排除し、企業の自主性を尊重し、あわせて政府の歳出を節減いたしますため、鉄鋼、肥料、輸入食糧等真にやむを得ないものについて最小限度の必要額を存続するにとどめ、その他の物資についてはこの際大幅に整理することとしたのでありまして、その結果、安定帯物資百二十八億円余、輸入物資百一億円余の減額となつております。なお来年度においては、価格調整費の総額は九百億円程度にとどまる見込みであります。

 次に、公共事業費は百六億円余を増加することといたしました。これは本年度における台風その他による被害が莫大な額に上りましたため、当初予算に計上した金額に不足を生じましたのと、六・三制による新制中学校校舎の建築、引揚者住宅の補修及び増築を行う必要に基くものであります。政府は、わが國経済の現段階において公共事業費を相当増加することが非常に重要な意味を持つものである点にかんがみ、特に考慮を拂つた次第でありまして、引続き来年度予算においては重い切つて一千億円程度を計上し、国土資源の保全、経済復興基盤の造成をはかりたいと考えている次第であります。今後、公共事業費の積極的活用によつて、相当数の失業者を吸収できると考えるのでありますが、失業対策については、さらに万全を期するため、別途八億円余を応急的な失業対策費として計上するとともに、失業保険特別会計への繰入れ約九億円を増加計上いたしております。なお引揚者対策については、当初予算においても相当額を計上していたのでありますが、今回の補正にあたつては、右に述べた公共事業費による引揚者住宅建築費の増加のほか、別途引揚者に対する生業資金を増加計上しております。

 次に地方配付税配布金については、地方財政の現状にかんがみ、九十億円を増加することといたしました。

 次に、食糧管理特別会計繰入れの増加として百七十億円余を計上いたしました。本会計においては、輸入食糧の数量の増加と米価の改定により運賃資金の増加が見込まれますので、これを一般会計から繰入れることといたしたのであります。なお米価につきましては、生産者価格を二十四年度産米石当り四千四百五円、消費者価格は、来年度にわたる本会計の収支、減税に伴う国民の生計の緩和等をも考慮して、来年一月から約一一%値上げを行うこととしたのであります。

 その他薪炭需給調整特別会計廃止に伴う赤字五十四億円余のほか、若干の公団の手持資産の増加に伴う運転資金の増加による公団出資金四十二億円余、日本国有鉄道への貸付金三十億円余、船舶運営会補助増加二十八億円余を計上いたしました。なお、明年一月一日から鉄道貨物運賃八割、海上貨物運賃九割三分の引上げを予定しておるのであります。

 先般以来しばしば論義{前1字ママ}の対象となつた国家公務員の給與ベースにつきましては、政府は、今回の補正予算編成の前提となつた経済諸情勢にかんがみ、改訂を行わないこととしたのであります。この際としては、むしろ物価の安定をはかることに全力を挙げ、さらに物価を低落の趨勢に導くことといたしました。減税とも相まつて、実質賃金の充実をはかることに最も重点を置くべきであると信ずるのであります。

 次に歳入について説明いたします。今回の補正予算に見込みました歳入のおもなるものは、前年度剰余金二百六億円余及び本年度において予定される租税の自然増収二百十三億円余でありまして、これに減税案を織り込んで歳入を予定いたしております。政府は、近くシャウプ使節団の勧告の基本原則を尊重し、現下のわが国経済の実情に即した、国税及び地方税を通ずる税制の全面的な改正を行わんといたしておるのであります。先にも一言いたしましたように、国税の総収入を、来年度におきましては約四千四百五十億円程度にとどめるという見通しのもとに、目下来年度予算の編成と関連して慎重に検討中でありますが、今回の補正予算の編成に際しましては、そのうち、とりあえず早急に実施を要しまするところの所得税及び物品税について、来年一月一日から若干の減税を行うことといたし、取引高税、織物消費税及び清涼飲料税については、シャウプ勧告に示された期日以前に、すなわち来年一月一日から廃止することといたしたのであります。これらの措置による本年度の減税額は約二百億円余に上るのでありまして、来年度におきまする全面的な税制改正と相まつて、国民の租税負担はかなり軽減され、先に述べました食糧価格や貨物運賃等の引上げによる影響は、おおむね吸収し得ると確信いたしておるのであります。

 なお、この機会に税務行政について一言いたします。従来政府は税法の適実な執行に鋭意努めて参り、国民各位の御協力を得て、逐次納税成績を向上して来たのでありますが、遺憾ながら、現状ではいまだ十分とは言いがたいのであります。今後政府といたしましても一層税務行政の刷新に努力する所存でありますが、国民各位におかれましても、今年度及び来年度の減税が税法の忠実な執行を前提とするものであることに特に思いをいたされまして、納税に一層御協力あらんことを切望してやまない次第であります。

 以上、補正予算案の概略を説明いたしましたが、この機会に金融政策について申述べたいと思います。去る六月、日本銀行政策委員会の発足以来、日本銀行のマーケット・オペレーションの活発化、融資あつせん制度の積極的活用等によりまして、緊要なる方面への資金供給は相当円滑となつて参つたのであります。しかしながら、市中銀行はその主たる使命が短期の運転資金の供給にあります関係上、市中銀行のみをもつてしては、長期融資の供給に万全を期することは困難でありますので、政府は特に対日援助見返資金をなるべくすみやかに、かつ有効に運用することに努力いたしますることとともに、恒久的な長期金融機構の確立をはかることとし、日本興業銀行をこの種金融機関の中核として育成するとともに、農林中金及び商工中金に債券発行を認め、農林水産及び中小企業に対しまする長期資金の供給をはかり、また不動産金融機関が自主的に設立されることを積極的に推進いたしたい所存でございます。

 なお金融機関については、検査を励行して経営の合理化と健全化とを促進し、もつて金利の引下げをはかるとともに、既存の金融機関をもつてしては庶民大衆の信用需要をまかなうに不十分であると認められる地域等につきましては、真に健全なる企画のもとに適正な規模の銀行の設立が計画せられる場合におきましては、いたずらに従来の一県一行主義を墨守することなく、適当と認めるものはこれが営業を免許することといたしまして、もつて各種産業はもちろんのこと、中央地方を通じ金融の円滑をはかりたいと存じておるのでございます。

 最後に国際収支の問題について一言いたします。先に申し述べましたように、国内経済はようやくその安定を見るに至つたのでありますが、今後に課せられた最大の課題は、国際経済の一環として、わが国経済の自立復興をはかることにあるのでありまして、米国の援助が今後漸次減少することが必至であることを考慮いたしまするなら、一日も早く国際収支の均衡を回復することが強く要請せられるのであります。従いまして、輸出の振興がわが国の経済再建に重要なる役割を持つことはもちろんであります。しかしながら、わが国の産業の国際的な競争力は決して十分とは申しがたい実情であります。よつて政府は、すでにしばしば言明したように、あくまでも現在の為替レートをかえないという根本的な方針のもとに、産業の合理化を積極的に推進するとともに、各種の貿易條件の改善に努め、もつて公正な競争力の培養をはかることが当面最も必要なことであると信ずる次第でございます。

 以上、今回の補正予算案について御説明申し上げたのでありますが、何とぞ御審議の上すみやかにご賛成あらんことをお願いいたします。