データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第12回(臨時会)
[演説者] 池田勇人大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1951/10/19
[参議院演説年月日] 1951/10/19
[全文]

[全文]

 昭和二十六年度補正予算案の説明を中心といたしまして、当面の財政金融政策に関する所信の一端を申し述べたいと存じます。

 過般、平和条約の調印を了し、いよいよわが国が主権を回復して国際社会に復帰し得る運びとなりましたことは、まことに御同慶にたえない次第であります。わが国が諸外国からこのような好意をかち得るに至りましたゆえんの一つは、過去六年間にわたりわが国民が経済再建のために盡しました非常なる努力に対し各国が信頼の念を抱いたことによるものであると信ずるのであります。

 わが国経済の前途には、国際情勢の変動に伴う各種の困難な問題が予想されまするほかに、新たに幾多の負担が加わることを予期しなければならないのであります。しかしながら、他面、米国を初め友好諸国との経済協力ないしは東南アジア地域の開発への参加等を通じまして、広く世界の経済の安定と向上に寄與しながら、わが国経済をさらに発展せしめ得る機会が開けておるのであります。この意味で、私は国民諸君とともに、今後一層国際的な視野において経済全体の問題を考え、祖国再建のためにさらに一段の努力をいたすことを誓いたいと存じます。

 今後における経済運営の基本方針として、私は安定と能率と発展という三つをあげたいと思います。第一は経済の安定を維持することであります。すなわち秩序ある健全な経済を営むということでありまして、この意味で、インフレーションは極力これを抑圧しなければならないのであります。第二は、経済を能率化するということであります。すなわち経済の各分野におきまして、政府も民間も経済活動の合理化をはかり、国民経済全体として最大の効率を発揮するように努めなければなりません。政府は、直接的な統制はこれを極力排除し、主として財産金融等の資金面から経済全体の運営調整をはかるにとどめまして、経済原則に基く自主的な活動を期待しておりますのも、この趣旨に出たのにほかなりません。第三は経済の発展をはかるということであります。すなわち経済の基盤を充実し、生産を増大し、貿易を伸張して経済規模の拡大をはかり、これにより国民生活の向上と雇用の増加とを期さなければならないのであります。

 今後における財政金融の施策も以上の基本方針によつて貫かれるのでありまして、健全財政方針の維持、資本の蓄積、金融の適正化、国際収支の改善、現行為替レートの堅持等、これまでとつて参りました一連の政策は、さらに堅実に進めて行かなければならないのであります。

 今回提出いたしました補正予算案は、右のような基本方針に基いて編成されたものでありまして、当初予算において主眼といたしました財政収支の均衡、国民負担の調整軽減並びに産業の育成合理化のための政府資金の活用等の面において、さらに特段の意を用いておるのであります。講和後においては、賠償、外債の支拂い、対日援助費の処理、安全保障條約に基く経費の分担、その他新たに財政上の負担となるべき金額は相当多額に上るものと予想せられ、これらの経費は、具体的には明年度以降において問題となつて参るものと考えられまするが、今回の補正予算案は、明年度以降におきまするこれらの事情をも考慮に入れて編成いたした次第であります。

 今回の補正によりまして、昭和二十六年度一般会計予算は、当初予算に比して一千三百六十二億円を増加し、総額七千九百三十七億円となり、相当増額されることとなつたのであります。しかしながら、わが国経済の伸張に伴う国民所得の増加によつて租税収入等の著しい増加が見込まれます結果、税氏絵において相当な調整軽減の措置を講じましても、財政収支の均衡は完全に保持されているのであります。予算総額の国民所得に対します割合も、米、英、仏等に比較いたしまして、むしろ、低位にとどまつておるのであります。なお明年度におきましては、平和條約等に基きまする新たな財政負担を考慮いたしましても、財政の規模は本年度と大差のない程度にとどめ得る見込みであります。

 次に、今回の補正予算案の主なる内容について説明いたします。

 歳出におきましては、まず平和回復に関連する補正について申し上げますと、終戰処理経費は、去る七月一日以降、その所要経費のほぼ半ばを米国が負担することになりましたために、百七十五億円の減少が見込まれるのでありますが、一方、連合軍に提供する物資、役務等の調達のため設けられました特別調達資金に七十五億円を繰入れることといたしました。また平和の回復に伴いまして、これが善後措置のため年度内に支出を必要とする事項が発生することも予想されまするので、平和回復善後処理費として百億円を計上いたしておるのであります。なお国際経済参加のための積極的経費として、すでに正式に加入の申請をしておりまする国際通貨基金及び国際復興開発銀行に対する出資二百億円を予定いたしております。

 次に、今後の治安の維持確保をはかるため、警察予備隊の装備充実等のための経費といたしまして百五十億円を、また国家地方警察の増員及び給與の改善等のための経費として三十六億円を計上いたすことといたしました。

 次に政府出資及び投資関係におきましては、当初予算の七百七十八億円に対し、前述の国際通貨基金等への出資を含めまして八百億円という大幅な増額を行うことといたしました。このうち外国為替資金特別会計への繰入れ三百億円は、最近におきまする同会計の円不足に対処するためのものであり、また食糧管理特別会計への繰入れ百億円は、食糧価格改定等によつて生ずる同会計の資金不足を補填するためのものであります。このほか生糸の価格の安定を図るため新たに糸価安定特別会計を設け、三十億円を繰入れることといたしました。また産業資金供給のための出資といたしましては、農林漁業資金融通特別会計及び輸出信用保險特別会計への繰入れ並びに日本開発銀行、日本輸出銀行、国民金融公庫及び住宅金融公庫への追加支出を計上しておるのでありますが、これらにつきましては後ほど申し述べたいと思います。

 次に、地方財政は近年膨脹の一途をたどつておるの状態でありまして、今後経費の徹底的節減と税収の確保にさらに一段の努力をいたすことが何よりの急務と感ぜられるのであります。しかしながら、ただちにその成果を期待することも困難でありますので、当面の地方財政の状況にかんがみまして、今回の補正において地方財政平衡交付金を百億円増額することといたしました。なお別途地方起債の限度につきましても百億円の増額を予定し、五百億円といたすつもりでおります。

 公共事業費は、單作地帶対策の強化のために二十億円を、また奥地林道事業の促進のために七億五千万円を計上いたしますとともに、六・三制校舎整備のため、文教施設費として九億五千万円を追加いたしました。

 次に、公務員の給與改善について申し上げます。公務員の給與は、民間に比して相当低位に置かれており、最近の生計費の増加に伴い、特にその引上げの必要が認められるのでありまして、政府は、先般の人事院勧告の主旨を尊重しつつ、一方財源の関係及び今回実施いたします所得税の軽減をも考慮に入れまして、十月一日以降、公務員給與を月額平均千五百円引上げることといたし、このための経費として七十三億円を計上いたしました。これによりまして、一般公務員の給與は月額平均一万六十二円となります。また年末手当につきましては、当初予算において〇・五箇月分を計上したのでありまするが、これを〇・八箇月分に増額することといたしております。

 なお行政事務の簡素化をはかり、財政上の負担の軽減に資しますために、この際行政整理を断行し、政府関係機関を含めて約十二万余の定員を減少することとしております。この結果、平年度におきましては、一般会計で八十五億円、特別会計で七十五億円、その他四十七億円、合計二百七億円に上る経費の節約をはかることといたしておるのであります。

 次に、歳入のおもなるものは租税の自然増収であります。当初予算においては租税収入を四千四百四十五億円と見込んだのでありまするが、主として朝鮮動乱後の法人企業の収益の飛躍的な増大に伴つて、租税収入は当初の見積もりに比し著しい増加が見込まれることとなりました。すなわち本年九月末までに、法人税収入はすでに当初見込み額を超過し、また源泉徴収所得税におきましても相当の収入実績をあげており、租税の自然増収見込みは、法人税の八百五十五億円を初めとし、総額千五百六十八億円に達しております。このほか專売益金その他の増加を加えますると、歳入は千七百六十七億円の増加となり、これにより先ほど来申し述べました新たな歳出の増加をまかなうとともに、政府のかねての方針に基く租税の調整軽減を実施し得ることとなつたのであります。

 政府は、すでに昨年来二度にわたつて租税の軽減を実行して参つたのでありまするが、最近における租税負担の状況にかんがみまして、今回さらにその合理的調整をはかることとし、これに必要な法律案を本国会に提出する予定であります。

 まず所得税におきましては、主食、電気料金、鉄道料金、郵便料等の値上げによる生計費の上昇をも考慮し、今年八月にさかのぼつて基礎控除額及び扶養控除額を引上げるとともに税率を緩和し、これにより所得税の負担、特に低額所得者の負担を軽減し、もつて国民生活の安定をはかることといたしておるのであります。このほか退職所得につきましても、その課税を大幅に軽減合理化し、勤労意欲の高揚に資することといたしたのであります。

 次に法人税につきましては、最近の法人企業の収益状況等にかんがみまして、この際税率を若干引上げ、その増徴をはかることといたしたのであります。

 これらの措置によりまして、本年度における減税額は四百五億円となり、これを明年度について平年計算いたしますと、所得税は約千億円の減税となり、法人税の増徴等を差引いても八百億円程度の減税が実現せられる見込みであります。

 次に、金融に関する政府の施策について申し上げます。金融面の施策につきましては、今後インフレーションの抑制に特段の配意を加えながら、産業の発展に必要な資金を確保し、生産及び貿易の拡大をはかり、わが国経済の健全な発展と国民生活水準の向上を期することが主眼でございます。従つて、貯蓄の増強、その他資本の蓄積をさらに積極的に推進するとともに、重要産業に対して重点的に賃金の供給を確保し、不急不要な方面への融資はこの際極力これを抑制することが最も必要であります。このような趣旨によりまして、政府は次のような措置を講ずる所存であります。

 まず政府資金の活用であります。重要産業に対しまする長期資金及び農林漁業資金、中小企業資金、住宅建築資金等の確保のため、政府はかねて政府資金の活用について特に意を用いて参つたのでありまして、さきに日本開発銀行及び日本輸出銀行を設立し、その運営もすでに軌道に乗つて参つたのでありまするが、今回の補正予算案におきましては、さらに開発銀行に対し七十億円、輸出銀行に対し二十億円の追加出資をいたすことといたしました。また一般会計からの出資増加と資金運用部資金の追加運用とを合せまして、農林漁業資金融通特別会計に六十億円、国民金融公庫に三十億円、住宅金融公庫に六十億円の資金増加を予定いたしております。このほか見返り資金につきましても、電力及び造船に対してさらに百三十五億円の追加融資を行うことといたしております。以上を合計いたしますと三百七十五億円に上る大幅の増加となるのでありまして、産業資金の円滑な供給に寄與するところ少くないと存ずるのであります。

 次に、貯蓄の増強その他資本の蓄積をさらに強力に推進することが日本経済再建のため欠くべからざる要請であることは、すでにしばしば申し上げたところであります。政府は、特に本年初頭以来、資本蓄積のための諸施策を積極的に実施し、その成果は相当見るべきものがあり、株価のごときも逐次上昇を示して、企業の自己資本充実を容易ならしめ、株式発行高は、本年上半期には、前年の同期に比較いたしまして倍額に近い増加を示しております。また投資信託も引続き好成績を収めておるのであります。また一般預金の増加は上半期二千五百億円に達し、前年の同期に比し八割の増加を示すに至つております。しかしながら、現状をもつていたしましては決して十分とは認めがたいのでありまして、今後とも資本の蓄積についてはさらに特段の努力をいたすことが肝要と考えます。これがため先般金融機関の預金利子引上げが行われたのでありまするが、さらに政府は郵便貯金の利子及び預入限度の引上げ、国民貯蓄組合の免税限度の引上げ並びに新たな貯蓄手段としての貯蓄債劵の発行等を考慮いたしております。今後の資本蓄積の成果は国民各自の積極的な努力にまつところが大でありまして、極力生活の健全合理化をはかり、貯蓄の増進に協力せられんことを期待してやまないのであります。

 次に金融機関に対しましては、資金の効率的な運用についてさらに格段の努力を要望いたしたいのでありまして、特に設備資金の融資については、わが国経済の現状に照し、限られた資金を最も有効に活用するため、電力、石炭、鉄鋼、船舶等、真に緊要なもののみに限定し、その他の設備資金は融資の抑制をはかりたいと存ずるのであります。

 また、経済の復興に伴い、金融の正常化につきまして今後一段と意を用いて参る方針であります。先般来行われました日本銀行の公定歩合の引上げ、開発銀行の市中小企業銀行長期融資の肩がわり、金融機関における大口信用の集中傾向の是正等は、いずれもこの趣旨に出ずるものであります。今後ともこの線に沿つて諸般の施策を進める所存であります、また必要に応じて銀行法の改正等の措置も講ずることを考慮しておるのであります。金融機関におきましても、その公共的使命に徹しまして、適正堅実な運営にさらに一段の努力を拂われんことを期待する次第であります。

 最後に、国際収支等の問題について一言いたします。終戰以来、わが国の国際収支は逐年その規模の拡大と改善の跡をたどつて参りまして、今日約六億ドルに達する外貨を保有するに至りました。本年度におきましては一億七千四百万ドルの受取り超過の見込みであります。ガリオアによる対日援助がなかつたといたしましても、一億二百万ドルの黒字となる見込みであるのであります。

 国際収支がかくのごとく改善して参りましたことにつきましては、米国の対日援助に負うところが少くないことはいうまでもありません。しかし、国際収支の大宗をなす輸出が著しく伸張いたしましたことは見のがし得ない要因であります。しかして、引続き国際収支の規模を拡大するとともに、外貨保有高を増加することは、わが国経済基盤の充実拡大をはかり、生産を堅実に復興せしめ、国民生活の維持向上を期するためには不可欠なことであります。従つて、今後とも企業の健全合理化等によつてますます貿易の伸張をはかり、外貨の獲得に一層の努力をすることが肝要であります。のみならず、わが国の経済発展の速度を一層早めるため外貨の導入に心がけ、そのための態勢を積極的につくり出して行かなければならないと存ずる次第であります。

 国際収支につきましては、平和條約発効後における諸種の対外債務の履行並びに賠償の問題を考慮しなければなりません。わが国が誠意を持つてその履行に当らなければならないことは申すまでもありません。これに関連して、あるいは国民生活水準の低下を来すのではないかと危惧する向きもあるようでありますが、今回の條約に示された基本精神は、関係各国の間に和解と信頼に基く友好関係を確立し、相互の提携協力によつて共存共栄の実をあげるにあると考えるのであります。従つて、これらの問題の処理いかんが、わが国経済の自立復興を阻害し、国民生活の安定を脅かすようなことがあれば、條約の精神に沿わないのみならず、かえつてわが国の対外債務の支拂い自体が困難になるものと言えましょう。政府は、この見地から、多種対外債務及び賠償の問題の処理に当る所存でありまして、関係各国もまたわが国経済の存立を可能ならしめる前提に立つてこれに臨むものと信ずるものであります。

 なお巷間、為替レート切下げの議論を聞くのでありますが、ただいま申しましたように、わが国の国際趣旨が改善の歩を進めつつあるときにあたつて、為替レートを引下げるがごときことは考慮の余地のないことであります。すでに経済は現行為替レートに基いて運営せられておるのでありまして、これを軽々しく変更することは、いたずらに経済界に混乱を與えることが明白でありまして、私のとらざるところであります。

 以上、昭和二十六年度補正予算案を中心といたしまして、当面の財政金融政策の大綱について申し上げたのでありますが、いよいよわが国が真に独立国として国際経済に復帰し、さらに国力を発展すべき時期にあたり、国民各位がこの際自覚を新たにし、終戰以来今日まで経済の再建復興のために盡されました努力をさらに一層力強く続けられることを期待してやみません。しかして、これによつてのみ今後わが国の経済力の充実発展、国民生活水準の向上が期し得られるものと確信いたす次第であります。