データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第50代第4次吉田(昭和27.10.30〜28.5.21)
[国会回次] 第15回(特別会)
[演説者] 向井忠晴大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1952/11/24
[参議院演説年月日] 1952/11/24
[全文]

 昭和二十七年度補正予算案の提出にあたりまして、政府の財政金融政策に関し、所信の一端を申し述べたいと存じます。

 わが国の経済は、過去七年間にわたる国民諸君の努力により、すでに相当の回復と安定を見たのでありまして、今や国際経済に伍して名実ともに独立国たるにふさわしい発展を遂げ得るよう、一段と経済の基盤を充実強化すべき時期に当面いたしておるのであります。私は、今後における財政金融政策の基調は、健全財政及び通貨安定の方針を堅持しつつ、財政及び金融を通じて経済施策の弾力ある運用をはかり、もつてわが国経済の充実発展を期することにあると信ずるものであります。

 今回提出いたしました補正予算案は、右の基本的な考えに基いて、当初予算編成後の諸般の事情の変化に即応するため編成いたしたものであります。すなわち、財政収支の均衡をはかりつつ、租税負担の軽減、公務員給与の改訂、地方財政平衡交付金の増額、米価の引上げに伴う措置並びに財政投資及び公共事業費の増額等に特に意を用いた次第であります。

 今回の補正によりまして、昭和二十七年度一般会計予算総額は、歳入歳出ともに約九千三百二十五億円となり、当初予算に比し約七百九十八億円を増加することになつたのであります。他面、わが国経済の伸張発展による国民の所得及び消費の増加に伴い、租税収入等において相当の増収が見込まれる結果、後に申し述べるごとき減税を実施いたしましても、一般会計の収支の均衡は完全に保持されているのであります。

 次に、今回の補正予算案の主たる内容について説明いたします。

 まず歳出におきましては、第一は公務員給与の改善であります。公務員の現行給与水準は、昨年十月に定められましたものでありますが、その後民間給与及び家計費の増加等に伴い、その引上げの必要が認められるのであります。政府は、先般の人事院の勧告の趣旨を尊重しつつ、一方財源の関係等をも考慮いたしまして、本年十一月から平均二割程度を引上げることといたしたのであります。また、今回さらに勤勉手当等として〇・五箇月分を追加計上することとし、これらの給与改定のための経費として約百二十八億円を計上いたしました。

 なお、日本国有鉄道につきましては、本年十一月から仲裁裁定のベースを実施し、別に〇・五箇月分の手当を支給するに足る財源を計上いたしましたが、これがため、明年一月から旅客運賃を、二月から貨物運賃をそれぞれ一割程度引上げることといたしております。

 第二は、地方財政平衡交付金の増額であります。今回の国家公務員の給与改善と関連して、地方公務員の給与についても改訂を行う必要があること等を考慮して、この際地方財政平衡交付金を二百億円増額することといたしました。また地方起債の限度につきましても、地方財政の現状にかんがみ、百二十億円の増額を予定しているのであります。なお入場税等の地方税の減税は、明年一月から実施する予定であります。地方財政につきましては、その健全化をはかるため、根本的に検討を要する問題がありますので、この点につき今後一層の努力をいたす所存であります。

 第三は、米価の引上げに伴う措置であります。米の生産者価格は、先般石当り七千五百円に決定を見、これに伴い、消費者価格につきましては、内地米現行十キロ当り六百二十円を六百八十円に引上げることといたしました。引上げの時期につきましては、生計費への影響をも考慮し、減税の時期とにらみ合わせて、明年一月といたしたのであります。しかして、米の生産者価格と消費者価格の引上げの時期が異なること等による食糧管理特別会計の赤字を補填するため、百十五億円を一般会計から同会計に繰入れることとしたのであります。なお輸入食糧につきましては、輸入価格の値上がり等のため、輸入食糧補給金を百十億円増額いたしました。

 第四は、経済力の充実と国民生活の向上をはかるための措置であります。これがため、政財資金による投融資として、国民金融公庫に対し三十億円、住宅金融公庫に対し三十億円を一般会計から追加出資するとともに、資金運用部から国民金融公庫に二十億円、一般会計から商工組合中央金庫に二十億円を貸し付けることとし、中小企業方面に対する財政投資の充実に特に意を用いたのであります。また、農林漁業資金融通特別会計に対する出資を五億円増加するとともに、中小漁業への資金の融通を一層円滑にするため、新たに中小漁業融資保証保険特別会計を設置し、これに五億円を出資することといたしました。

 第五は、公共事業費の増額であります。すなわち、災害対策費としまして三十五億円、一般公共事業費として十六億円、合計五十一億円を追加計上いたしました。

 以上が歳出増加のおもなるものでありますが、他方、人件費及び物件費を通じて、でき得る限り経費の節減を行うこととし、約三十五億円の節約を予定いたしております。

 次に、歳入について説明いたします。歳入の主たるものは、租税の自然増収であります。当初予算におきましては、租税収入を六千三百八十一億円と見込んでいたのでありますが、主として源泉徴収所得税及び消費税の増収により、当初の見積りに比し総額七百一億円に達する増加が見込まれるのであります。このほか専売益金その他の増収を加えますと、歳入は千二十八億円の増加となるのであります。これにより、さきに申し述べました歳出の増加に充てるとともに、租税負担の軽減を実施し得ることになつたのであります。

 政府は、税制の一般的改正を昭和二十八年度において実施する予定でありますが、さしあたり所得税につきましては、本年一月以降の所得について新たに社会保険料の控除を認めますとともに、明年一月からの給与所得及び退職所得に対する源泉徴収について基礎控除額、扶養控除額等の引上げ、低額所得に対する税率の引下げ等の改正を行い、その負担の軽減をはかることとし、これに必要な法律案を本国会に提出することといたしております。これらの措置によりまして、本年度における減税額は約二百三十億円となるのであります。なお、現在予定されております米価引上げ等の生計費への影響は、この減税によりまして吸収し得る見込みであります。

 補正予算案の説明に関連しまして、この機会に、当面の金融上の施策について一言申し述べたいと存じます。

 当面の金融政策運営上重要な課題は、物価の安定を図りつつ、緊要な部面への資金の疏通を確保して、民間産業の自由な活動を助長することであります。こうした考え方のもとに、政府は今後民間資本の蓄積、財政による産業投資等について特段の配意を加えて参りたいと存じますが、さしあたり今回の補正予算案におきまして、一般会計及び資金運用部を通じ、総額百十億円に達する財政投資を行うことといたしております。また、過去に蓄積されました財政資金を、最近の経済情勢を勘案して、この際放出活用することとし、資金運用部資金につきましては、本年度内に三百六十億円に上る金融債の引受を行うことといたしたのであります。これらの措置は、長期信用銀行の発足と相まつて、産業投資の充実に寄与するところ少なくないと信じます。

 この際特に一言いたしたいことは、中小企業金融の積極化であります。政府は、中小企業のわが国産業に占める地位の重要性にかんがみ、引続き中小企業金融の円滑化に資するため、国民金融公庫、商工組合中央金庫等を通ずる資金供給の増加をはかるほか、中小企業信用保険制度の改善、信用保証協会の育成強化等、各般の施策を推進して行く所存であります。

 次に、国際経済に目を転じますと、わが国は、さきに国際通貨基金及び国債復興開発銀行に加入し、また過般外貨債処理に関する協定を締結する等、国際経済との関係はますます緊密の度を加えて参つたのでありまして、外貨導入につきましても、今後は一層期待し得る機運になつて来ております。わが国といたしましては、今後も現行為替レートを維持しつつ、一層友好諸国との経済関係を増進し、国際金融及び為替取引の正常化、貿易の振興に努めることにより、経済の充実発展をはかつて行かなければならないと存じます。政府は、これがため蓄積外貨資金の積極的な活用をはかる施策を進め、産業の合理化、特に設備技術の近代化を促進し、これにより将来の発展への基礎を固め、わが国経済の国際的な地位を充実強化して参りたい所存であります。私は、国民諸君がこの際技術の改善、能率の向上に特に留意せられ、品質、価格において国際的に優秀低廉な商品を生産して、貿易の振興、国際収支の改善に努められることを切望してやみません。

 以上、昭和二十七年度補正予算案を中心といたしまして、当面の財政金融政策について申し述べた次第であります。

 今後の日本経済の運営に深く思いをいたしますならば、その前途には各種の困難が予想されるのでありますが、われわれ国民の努力は必ずやこれを克服し、内、日本経済を充実強化し、外、世界経済の向上に寄与することを確信する次第であります。