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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第51代第5次吉田(昭和28.5.21〜29.12.10)
[国会回次] 第17回(臨時会)
[演説者] 小笠原三九郎大蔵大臣
[演説種別] 昭和二十八年度の補正予算に関する演説
[衆議院演説年月日] 1953/10/29
[参議院演説年月日] 1953/10/29
[全文]

 政府は、今回災害対策費等現下緊要と認められる需要に応ずるため、昭和二十八年度補正予算を国会に提出し、御審議を煩わすことと相なりましたので、ここにその大綱を御説明いたしたいと存じます。

 去る六月の西日本水害を初め、本年度の累次にわたる風水害は、広範かつ大規模のものであり、それに加えて異常なる冷害等に伴い近年にない農作物の不作となつておりますことは、わが国としてまことに不幸なことであり、罹災者に対しましては深甚の御同情を申し上げる次第でございます。

 今回補正予算を提出いたしまするのは、これらの災害に対する復旧、冷害に対する救済等のため急速に支出を要する事態に対処するものであります。

 ひるがえつて今日わが国の経済情勢を観察いたしまするに、世界経済の基調と比較いたしまして、多少インフレ的な傾向を示しておるものと判断せざるを得ないと存じます。すなわち、輸出は、わが国賞品の価額が割高であるがために阻害せられている面があり、他方、国内需要の増大に伴い、輸入は増加している状態であります。このような関係から、本年度の国際収支は、特需等の外貨収入を含めましても、なお相当の赤字が予想される実情にあります。現在世界各国が通貨価値維持のために懸命に努力しているのにかかわらず、ひとりわが国が安易なる経済を営み、国際収支の赤字を続けることは、経済自立の達成が不可能とならざるを得ないのであります。すなわち、この際通貨価値の安定を確保することは、ただに物価騰貴による実質的な国民生活の低下を防ぎまするのみならず、わが国独立の経済基礎を確立するがためにもきわめて重要であり、これをもつて政府諸政策の中核とすべきものであります。この意味からも、財政の健全性を強化することは、現下のわが国の経済にとつて根本的な要請であると確信している次第であります。

 今回の補正予算は、とりあえず緊急に支出を要する災害対策費等に限定し提出いたしたのものでありまするが、政府は、本年度補正予算及び明年度予算の編成につきましては、右の基本的な考え方を貫き、既定の経費の節約をはかつて、財政規模の圧縮に努める所存であります。

 次に、今回の補正予算の内容について概略説明いたします。

 一般会計の歳入の増加額は三百四十四億円であり、これに対し歳出の追加額は五百十億円でありまして、その差額百六十六億円は歳出の節減によりまかなつたのであります。これにより、昭和二十八年度一般会計予算総額は九千九百九十九億円と相なるのであります。

 まず歳出につきましては、第一は風水害対策であります。当初予算におきましては、当年発生災害のための予備費として百億円を計上いたしておつたのでありまするが、災害が相次いで発生した上、特別措置法による国費負担分増加の関係もあり、今回さらに三百億円を追加計上することといたしました。なお、その実施にあたりましては、工事の種類、緊急度合い等により、極力重点的に工事を取上げるよう措置することといたしております。

 第二は冷害等対策費であります。異例の気象条件による冷害等によりまして、凶作地帯の実情は深刻なものがありまするので、この際特に土地改良その他の救農土木事業の実施等各般の臨時救済措置を講ずるため七十億円を計上いたしました。

 第三は農業保険費であります。今春の麦及び蚕繭の被害に加えて、その後の災害による水稲の被害も相当な額に達する見込みでありまするので、この際一般会計に百三十億円を計上し、基金二十五億円筒と合わせて、再保険金の急速かつ円滑な支払いを期することといたしました。

 以上、今回の災害対策として合計五百億円を計上いたしておりまするが、このほか奄美群島の復帰も近く実現することと相なりましたので、これがため奄美群島復帰善後処理費十億円を計上いたしまして、受入れ措置の万全を期しておる次第であります。

 次に、これらの歳出に対する財源について説明いたします。さきに申し述べました健全財政確保の基本方針に基き、財源調達の面におきましても、公債の発行、前年度剰余金の使用等に依存することなく、極力既定経費の節約と租税等の自然増収によることといたしたのであります。

 既定経費の節約について申し述べますると、公共事業費、食糧増産対策費につき、新規事業の抑制、既定計画の重点化等により、当初予算額より五十九億円の歳出の節約を実施するほか、平和回復善後処理費において七十億円、特定道路整備事業特別会計への繰入れにおいて十五億円、住宅金融公庫の出資において二十二億円の減額を実施いたしております。なお住宅につきましては、もとより既定の建設計画には何ら支障を来さしめない所存であります。以上により、合計百六十六億円の節約をはかつた次第であります。

 歳入の増加について申し述べますと、まず租税収入におきましては、最近までの収入実績等を勘案いたしますると、所得税、法人税、消費税等の増収により、当初の見積りに比し三百億円の増加が見込まれるのであります。これと雑収入の増収を合せ、今回の補正予算におきましては、歳入において三百四十四億円の増加と相なるのであります。

 以上、昭和二十八年度補正予算の大綱について説明いたしたのでありますが、政府といたしましては、今後も財政面からのインフレ要因を厳に排除することはもちろん、金融の面においても、すでに日本銀行効率適用制度の改定、国庫指定預金の操作、輸入金融面の方策、生活必需物資、重要原材料等の輸入確保等の措置を実施いたしており、今後ともインフレの傾向を抑制するため万全の配慮を加えて参る考えであります。

 何とぞ政府の方針を了とせられ、本補正予算案に対し、すみやかに御賛成あらんことをお願いいたします。