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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第51代第5次吉田(昭和28.5.21〜29.12.10)
[国会回次] 第17回(臨時会)
[演説者] 小笠原三九郎大蔵大臣
[演説種別] 昭和二十八年度の補正予算(第二号)に関する演説
[衆議院演説年月日] 1953/11/30
[参議院演説年月日] 1953/11/30
[全文]

 政府は今回昭和二十八年度第二次補正予算を国会に提出し、御審議を願うことと相なりましたので、ここにその大綱を御説明いたします。

 さきに前国会において成立を見た昭和二十八年度第一次補正予算は、御承知の通り、とりあえず緊急に支出を要する災害対策費等に限定したものでありまして、今回提出いたしました補正予算は、右以外において、当初予算編成後の諸般の事情の変化に対処するため編成したものであります。今回の補正予算の編成にあたりましては、前国会における補正予算提出の際も申し述べたごとく、健全財政を確保し、通貨の価値維持による経済の安定をはかることが現下のわが国財政経済運営の基本方針であるのにかんがみ、明年度予算との関連をも考慮し、米価の改定、公務員給与の改善等、真に計上を必要とする経費のみにとどめ、かつ既定経費の節約をはかり、極力財政規模の縮減に努めたのであります。これにより、昭和二十八年度一般会計予算総額は歳入歳出ともに、一兆二百七十二億円と相なるのであります。

 次に、今回の補正予算の内容について概略説明いたします。

 まず歳出におきましては、第一は米価改訂に伴う措置であります。本年産米につきましては、供出完遂奨励金石当り八百円の半額を一般会計の負担といたしまして、五十六億円を食糧管理特別会計に繰入れることとしたのであります。米の消費者価格は、先般決定を見た生産者価格及び最近の供出状況に基いて算出いたしますれば、相当の値上げを必要とするのでありますが、消費者負担の急激な増加を緩和して家計費の増嵩を防ぐとともに、財政負担の増大を避けるため、右の一般会計からの繰入れのほか、所要経費の一部を食糧管理特別会計における繰越し利益で負担することとし、さしあたり明年一月から内地米十キロ当り七百六十五円に改訂する考えをとつております。

 第二は、公務員給与の改善であります。公務員の現行給与水準は、昨年十一月に定められたのでありますが、最近における民間給与の状況等にかんがみ、政府は、先般の人事院勧告を尊重し、現行勤務地手当の一部本棒組入れ及び棒給表のいわゆる中だるみ是正を考慮しつつ、明年一月以降一万五千四百八十円ベースを実施することとしたのであります。また、本年末の手当につきましても、夏季に繰上げた期末手当〇・二五箇月分を補填するほか、勤勉手当〇・二五箇月分を追加計上することといたしました。地方公務員につきましては、地方税の自然増収等により、所要経費の一部をまかない得ますので、以上これらの給与改善のための経費として百六十八億円を計上いたしております。次に、公共企業体等の職員につきましても、明年一月以降仲裁裁定のベースを実施するとともに、夏季に繰上げた期末手当〇・二五箇月分を補填する措置を講ずることといたしました。

 第三は、義務教育費国庫負担金であります。義務教育費国庫負担金につきましては、財政の現状にかんがみ、義務教育費国庫負担法の臨時特例に関する法律案を別途提出することとし、十一月までの所要額約二十五億円を計上いたしたのであります。

 以上が歳出増加の主たるものでありまして、右のほか租税払いもどし金その他必要やむを得ざるものに限定いたしたのであります。

 次に、これらの歳出に対する財源につきましては、第一は歳入の増加であります。すなわち、租税収入におきましては、公務員給与の改善に伴う所得税の増収等により百三十三億円の増加が見込まれ、これに最近の実績に基く専売益金及び雑収入の増加を加えますと、歳入において二百七十三億円の増加と相なるのであります。第二は、既定経費の節約であります。すなわち、前回の公共事業費等の節約に引続き、補助金その他の既定経費において三十二億円の節約をはかつた次第であります。

 今回の補正予算の説明に関連いたしまして、この機会に当面の金融上の施策について一言申し述べたいと存じます。健全財政確保の基本方針に対応して、金融面の施策においてもインフレの抑制に万全を期する方針は、これを今後も堅持する所存であります。すなわち、すでに実施している日本銀行高率適用制度の強化、国庫指定預金の計画的操作、輸入金融面の措置等の諸方策は、現在の経済情勢に照し、なお相当の期間継続することが適当であると考えておるのであります。しかしながら、他面正常な年末金融の疎通については十分な配慮を加えて参りたい所存であり、特に中小企業者等に対する金融につきましては、新たに商工組合中央金庫等に五十五億円の国庫指定預金を行うほか、国民金融公庫及び中小企業金融公庫の資金源を充実する措置その他適切な対策を講ずる方針であります。

 今日、世界各国は、通貨の健全性維持のために懸命の努力を続け、堅実な経済施策の基調を保持しておるのであります。この際、わが国としては、このような世界経済の情勢に即応して、経済の自立を達成するため、財政経済政策においても、いやしくも放漫に流れることなく、安易な考え方を排し、一層堅実な運営をはかつて行くべきものと存じます。従つて、明年度予算の編成にあたりましては、財政面からのインフレ要因を厳に排除し、総合的均衡財政の方針にのつとることが必要であります。私としては、中央及び地方を通ずる行財政の整理刷新、支出の重点化、効率化等に努めて、歳出の削減を断行し、極力財政規模の縮減をはかるよう努力を傾けたい所存であります。国民諸君におかれましても、この政府の施策に呼応して、政府の補助救済にのみ依頼することなく、一層勤勉に励むとともに、浪費を排し、経済自立の達成に努められたいのであります。

 何とぞ政府の方針を了とせられ、本補正予算案に対しすみやかにご賛成あらんことをお願いいたします。