データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第57代第2次岸(昭和33.6.12〜35.7.19)
[国会回次] 第30回(臨時会)
[演説者] 佐藤栄作大蔵大臣
[演説種別] 昭和三十三年度補正予算に関する演説
[衆議院演説年月日] 1958/10/28
[参議院演説年月日] 1958/10/31
[全文]

 ここに、昭和三十三年度補正予算を提出するに当り、わが国当面の経済情勢と、これに対処すべき財政金融政策の大要を申し述べるとともに、補正予算の概要を御説明いたします。

 私は、先般、国際通貨基金及び国際復興開発銀行の総会に出席いたしました。その際、わが国経済に対する国際的な評価がきわめて高いことを強く感じて参った次第であります。すなわち、国民各位の御努力により、国際収支は昨年十月以来引き続き黒字基調を続け、本年度上半期における外国為替収支の受取超過は実に二億五千万ドルに及んでおります。このような情勢におきまして、昨年夏外貨減少に備えて国際通貨基金から借り入れました一億二千五百万ドルも、本年中に返済の運びに至りました。私は、このようにわが国経済が信を海外に博し得ましたことを、国民各位とともに心から喜びたいと存じます。

 今日までのわが国経済の情勢は、一部の産業において、過去の投資活動の行き過ぎの反動として、なお若干の問題が残ってはおりますが、大勢としては生産面、雇用面等さしたる困難もなく推移しているのでありまして、昨年来のわが国経済の調整過程は、今日ようやくその仕上げの段階に入りつつあるものと考えます。

 私は、大蔵大臣に就任以来、鋭意経済活動の円滑な調整に努めて参りました。すなわち、日本銀行公定歩合の再度にわたる引き下げにより、金利水準の異常高は是正され、金融は正常化の方向に進んで参りました。また、財政面におきましても、公共事業を繰り上げ実施して雇用の推進に資する等、各般の情勢に応じ臨機の措置をとって参ったのであります。今後におきましても、中小企業に対する金融措置を拡充し、重要部門の資金を確保する等、財政投融資の弾力的運用を中心といたしまして、経済の調整過程より起る諸問題には慎重に対処して参る考えであります。

 他面、世界の経済及び貿易の状況は、ただいまのところ、なお停滞を続けておりますものの、アメリカ経済はすでに立ち直りの様相を示し、また各国も、国際通貨基金及び国際復興開発銀行の増資の方向に踏み切るなど、互いに協力して世界貿易の拡大をはかろうとする機運にあるのでありまして、わが国経済をとりまく国際環境にも、ようやく好転のきざしが見えつつあるやに思われます。

 私は、このような内外の情勢に際して、いわゆる不況対策等、目先の有効需要の動向のみを問題として、一時的に刺激を与えるような対策を講ずることは適当ではないと考えるのであります。今後における財政金融の諸施策は、通貨価値の安定を中核としつつ、長い目で見て経済の健全な成長をはかることにその基本を置くべきであり、今日のわが国経済が来年度以降にわたって着実に伸び続け、しかも、その間に経済の体質をより強いものに仕上げていくことが重要であると考えます。明年度予算の編成につきましても、国民各位に公約いたしております中央・地方を通ずる減税、国民年金制度の創設、経済基盤の強化充実等の諸施策を実行いたすことはもとよりでありますが、その考え方につきましては、以上申し述べましたところを基本といたしたいと存じます。

 次に、昭和三十三年度補正予算について御説明いたします。

 先般来の台風により各地に災害が発生いたしましたことは、まことに遺憾に存じます。災害を受けられた方々に深く御同情申し上げるとともに、被災者各位の復興の御努力に対し、深甚の敬意を表するものであります。政府といたしましては、すでに関係法令及び予備費の範囲内において応急の対策を講じて参ったのでありますが、今回さらに一般会計予算を補正してこれが対策に万全を期することといたした次第であります。また、特に被害の激甚な地域につきましては、農地、公立義務教育学校の災害復旧のための補助率の引き上げ、起債ワクの拡大その他特段の配意を加えることとし、近く関係法律案を提出して御審議を願うことといたしております。

 今回の予算補正による一般会計の歳入歳出の追加額は九十億九千費八百万円でありまして、歳出追加の内訳は、風水害、旱害、凍霜害等の被害対策として八十億九千八百万円、災害対策に充てるための予備費として十億円となっております。

 以上の歳出の追加に必要な財源は、日本銀行納付金の増加等、いわゆる税外収入の増加によって全額これを支弁することといたしておりまして、そのうち貴金属特別会計からの受け入れの計上に関連して、同会計の予算補正を行うことといたしております。

 また、政府は、かねてより電源開発事業等の推進をはかるため、国際復興開発銀行からの借款につき努力を重ねて参りましたが、今後この借款計画とあわせて、産業投資特別会計の貸付財源の一部に充てるため、百八億円に相当する外貨債を募集いたしたい考えであります。これがため、別途、産業投資特別会計の貸付の財源に充てるための外貨債の発行に関する法律案を提出するとともに、産業投資特別会計及び国債整理基金特別会計の予算について、所要の補正を行うことといたしております。

 なお、この際、中小企業金融対策について一言申し述べたいと存じます。政府といたしましては、従来とも中小企業対策に意を用いて参ったのでありますが、今回さらに、年末資金及び災害復旧資金需要等を考慮して、百億円の資金を手当することといたしました。すなわち、国民金融公庫、中小企業金融公庫及び商工組合中央金庫に対しそれぞれ二十億円、日本不動産銀行に対し十億円、計七十億円の政府資金を追加するとともに、必要に応じて三十億円の繰り上げ使用を認めることといたした次第であります。

 以上、当面の経済情勢と、これに対処すべき財政金融施策についての考え方を明らかにし、補正予算の大要について御説明いたしました。

 国民経済の望ましい姿は、その安定的な発展であることは申すまでもありません。国民の創意と工夫とを十分に生かしつつ、国民経済の規模を着実に拡大し、国民生活の向上と雇用の増大をはかることが私の念願であります。国民各位も、政府の意のあるところを了とせられ、一そうの御協力を賜わるよう切望いたす次第であります。